財産分与による不動産の所有権移転登記

離婚に伴う財産分与で、不動産(特に自宅)の所有権が移転することは良くあります。これは、主な夫婦の財産分与対象資産が、自宅となるケースが多いからです。

不動産の財産分与そのものは双方の合意で有効に成立しますが、法務局で登記しておかないと第三者に所有権を主張できません。

第三者に所有権を主張?

不動産の知識がないと、いきなり意味がわからないかもしれませんね。登記とは、不動産の権利関係を法務局で記録・公示する手続のことです。

この記事は財産分与請求調停カテゴリですが、協議離婚による財産分与、離婚調停等における財産分与も想定しています。

また、説明が夫婦の単独名義を前提としているので、共有名義の場合は所有権移転登記が持分移転登記となることに注意してください。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

登記をすることで不動産の所有者が変わる

厳密にいうと、不動産の真の所有者と登記の有無は別問題です。

例えば、離婚時に夫名義の不動産を妻に分与するという約束があれば、それだけで離婚後は元妻が新たな所有者となります。

ところが、登記簿上の所有者は登記しなければ元夫で変わりません。

世間一般には(登記簿という公的記録では)所有者が元夫であるため、元夫に悪意があれば売買等の不動産取引ができてしまいます。

これは困るので、元妻を所有者とする所有権移転登記が必要になり、冒頭での「第三者に所有権を主張」とはこの事を意味します。

つまり、事情を知っている元夫婦以外の第三者に対しても、登記簿という公的な情報によって、所有者は私だ! と主張できるようになるということです。

妻からすると、自分の所有権を守るためですから、必ず登記しなければならないと思いましょう。

司法書士に依頼するのが一般的

登記はなかなか面倒な手続で、司法書士へ依頼することになるかもしれません。しかし、お金を節約したいなど何らかの理由があるときは、自分でチャレンジしてみるのも良いのではないでしょうか。

一般に、他人同士の売買による所有権移転では、信用問題や融資の関係から司法書士の介在が不可欠なのですが、財産分与による所有権移転なら、詐欺のようなトラブルは起きにくいからです。

また、後述するように調停等の家庭裁判所手続を経由した財産分与では、分与される側が登記を単独申請できるケースがあるため、なおさら司法書士へ依頼する理由は薄れます。

財産分与による登記は離婚前にできない

権利に関する登記には、その原因となる事実または法律行為(登記原因といいます)が存在します。例えば、売買・贈与・相続は、いずれも権利移転の原因となる何かが起こっていますよね。

同じように、財産分与もひとつの登記原因となるのですが、財産分与を登記原因とする所有権移転登記は離婚前にできません。

その理由は、財産分与請求権が離婚によって発生する権利だからです。

離婚前=財産分与前ですから、たとえ近い将来に財産分与の予定があるとしても、財産分与が発生する前には財産分与を登記原因として登記できないということです。

したがって、離婚前に所有権移転登記をするとしたら、登記原因は単に夫婦間の贈与となります(贈与税の対象)。ここは重要なので間違えないようにしましょう。

所有権移転登記に必要な書類など

協議離婚と調停離婚等では若干の違いがあります。書類が不足すると登記申請を受け付けてもらえないので、確実に用意してください。

※登記手続の詳細は当サイトの範囲外となりますので説明しません。

協議離婚による財産分与の場合

協議離婚では、不動産を分与する側と分与される側、つまり元夫婦による共同申請で登記することになります。

そのため、スムーズに登記を進めるためには、離婚届を出す前に可能な限り書類を揃えておきたいところです。

共同で用意するもの

登記原因証明情報となる書類
離婚協議書(財産分与を含むもの)、財産分与協議書、それらを基にした公正証書などが該当します(原本還付の手続を取れば返還してもらえます)。

これらの書類を作っていない場合や、作っていても登記に関係ない部分を見られたくない場合、記載事項が登記申請に不足している場合など、登記原因証明情報を別途作成しても構いません(こちらは原本還付できません)。

記載例が法務局にあるので紹介しておきます。

財産分与による登記申請書の記載例(法務局)

財産分与する側が用意するもの

登記済証または登記識別情報
不動産の所有者なら持っているはずで、以前は登記済証(いわゆる権利証)でしたが、現在は登記識別情報という12桁の英数字で通知されています。

実印とその印鑑登録証明書
印鑑登録証明書は、登記申請の時点で交付から3か月以内でなくてはなりません。

固定資産評価証明書
不動産の評価額に応じた登録免許税計算に使われます。

財産分与される側が用意するもの

住民票の写しと印鑑
マイナンバーの記載がない住民票を用意します(登記申請書に住民票コードを記載する場合は不要)。印鑑は認印で構いません。

その他

離婚の記載がある戸籍謄本等
離婚届の受理後でなければ、戸籍に離婚の記載はされませんから、必然的に登記申請も離婚届を出した後になります。離婚の事実とその日付を確認するために必要です。

離婚届を出していても戸籍への記載が遅れている場合は、届け出た役所に離婚届受理証明書を交付してもらってください。

委任状
財産分与する側が、財産分与される側へ登記申請を委任する場合と、一方または双方が司法書士へ依頼する場合に必要です。

財産分与する側が委任する場合は前述の法務局の記載例を参考に、司法書士へ依頼する場合は司法書士が用意してくれます。

調停等による場合

離婚後の財産分与請求調停、もしくは調停離婚・審判離婚・裁判離婚(和解・判決)の場合には、いずれの場合にも離婚が既に成立しています(財産分与を含むと認諾離婚はできません)。

参考:離婚は6種類~全種類の解説と離婚するまでの流れ

そして、調停調書・審判書・和解調書・判決書が作られていることから、それらに財産分与を原因として対象不動産の所有権移転登記手続をする旨の記載があれば、財産分与される側の単独申請が可能です。

財産分与される側が用意するもの

登記原因証明情報となる書類
調停調書・審判書・和解調書・判決書が該当し、これらは「正本」でなくてはなりません。また、審判書・判決書は確定証明書も必要です。

なお、所有権移転登記手続をさせる記載に、何か条件があるときは、家庭裁判所書記官に執行文を付与してもらわなくてはなりません。その際は、条件が満たされたことを証明する書類の提出が必要です。

例えば、BがAに1,000万円を支払う条件で、Aに所有権移転登記手続をさせる記載なら、BがAに1,000万円支払った領収書等を提出して、執行文を付与してもらいます。

固定資産評価証明書
不動産の所有者本人または委任された代理人への交付が原則ですが、そもそも家庭裁判所手続によって財産分与が決まったのであれば、必ず提出しているので入手できるはずです。

住民票の写しと印鑑
マイナンバーの記載がない住民票を用意します(登記申請書に住民票コードを記載する場合は不要)。印鑑は認印で構いません。

その他

委任状
司法書士へ依頼する場合に必要です。

住所が異なっている場合は住所変更登記も必要

所有権移転登記は、分与する側(所有者)の登記簿上の住所と、現住所である印鑑登録証明書での住所が一致していなければ申請却下されます。

自宅の財産分与では起こりにくいですが、離婚前から別居していたり、離婚時の別居で分与する側が家を出て行ったケースでは、現住所が登記簿上の住所と違いますよね。

その場合、所有権移転登記の前に住所変更登記をしなくてはなりません。

DV等支援措置を受けているDV等被害者は、登記簿上の住所と現住所が異なっていても住所変更登記が不要になります。

※詳しくは別記事を用意する予定です。

住所変更登記には、住民票の写しや戸籍の附票といった、登記簿上の住所から現住所までの繋がりを証明する書類を用意する必要があります。

参考までに、他のサイトですが住所変更登記についてわかりやすく書かれているので、少しでも費用を節約したいときには確認してみてください。

住所変更登記は自分で!簡単で費用も安い登記です – 不動産ガイダンス

また、分与する側が離婚で苗字が変わっていると、氏名変更登記も併せて必要なことに注意が必要です(住所と氏名の変更登記は一緒にできます)。

まとめ

  • 不動産の財産分与では所有権移転登記(または持分移転登記)が必要
  • 所有権移転登記は分与される側の所有権を確実にする目的
  • 所有権移転登記は離婚前にできない
  • 協議離婚は共同申請、調停等の離婚は単独申請(絶対ではない)
  • 現住所と登記簿上の住所が異なると住所変更登記も必要

登記申請の書類を揃えるのは面倒ですが、せっかく財産分与で得た不動産を、登記しないでおくリスクは相当大きいです。

何度もする手続ではないのですから頑張ってやってみましょう。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
  • 0
  • 0
  • 0
  • 0
タイトルとURLをコピーしました