年金分割のための情報通知書

離婚または婚姻の取消し、もしくは事実婚の関係解消による年金分割の争いを、家庭裁判所手続で解決するときは、「年金分割のための情報通知書」の提出が求められます。

年金分割のための情報通知書を必要とする理由は、年金分割を可能な範囲(按分割合の範囲)が記載されているからです。

また、年金分割のための情報通知書を見れば、どちらからどちらに年金が分割されるか容易にわかるので、その意味でも重要でしょう。

まずは見方を説明して、後半で取得方法や有効期限にも触れます。

年金分割のための情報通知書の見方

年金分割制度が始まってから、年金分割のための情報通知書の様式はほとんど変わっていませんが、良いサンプルを見つけられなかったので見本を作ってみました。

年金分割のための情報通知書

チェックしたいポイントを4つ解説していきます。

①氏名と第1号改定者・第2号改定者

もちろん、氏名そのものが重要なのではありません。

氏名欄には、第1号改定者と第2号改定者という記載があり、これはとても重要なので、自分がどちらに書いてあるか必ず確認しましょう。

【第1号改定者】
年金分割で年金が減る側(婚姻・事実婚期間中における標準報酬総額の多い側)

【第2号改定者】
年金分割で年金が増える側(婚姻・事実婚期間中における標準報酬総額の少ない側)

あくまでも金銭的なことだけを考えると、自分が第1号改定者(年金が減る側)の場合は年金分割しないほうが良く、自分が第2号改定者(年金が減る側)の場合は必ず年金分割するべきです。

②対象期間

下のほうに飛んで、先に対象期間を説明します。

対象期間とは、一言で表すと年金分割の対象になる期間のことです。ただし、対象期間は当事者の関係によって次のように異なります。

  • 離婚:婚姻から離婚までの期間
  • 婚姻の取消し:婚姻から婚姻取消しまでの期間
  • 事実婚の関係解消:事実婚関係にあった期間のうち、一方が国民年金の第3号被保険者だった期間

※事実婚が法律婚によって解消された場合は、事実婚期間における一方が国民年金の第3号被保険者だった期間と、婚姻期間が通算されます。

また、年金分割のための情報通知書を、対象期間末日の到来前(例えば離婚前)に請求した場合、対象期間末日がわからないので、情報提供請求日を末日とみなした対象期間になります。

③対象期間標準報酬総額

厚生年金や共済年金の加入者は、毎月の給与を段階的に区切った概算額(標準報酬月額)と、賞与の千円未満を切り捨てた額(標準賞与額)が記録されていきます。

標準報酬月額と標準賞与額は、保険料や年金額を決める基礎となる額です。

対象期間標準報酬総額とは、対象期間における標準報酬月額と標準賞与額の合計ですが、貨幣価値は徐々に変化しているので、当事者の生年月日に応じた再評価率を用いて現在価値に換算された額が記載されています。

第1号改定者と第2号改定者を比べると、第1号改定者の対象期間標準報酬総額のほうが、第2号改定者よりも多いとわかるはずです。

また、第2号改定者に厚生年金や共済年金への加入歴がなければ、対象期間標準報酬総額は当然に0円と記載されます。

④按分割合の範囲

年金を分割する割合のことを按分(あんぶん)割合といい、必ず「○○%を超え、50%以下」と記載されています。

これは、第2号改定者から見て現在が○○%、最高50%まで年金分割できるという意味です。年金分割は、按分割合の範囲内で按分割合を決めなくてはなりません。

年金が増える第2号改定者にしてみれば、できるだけ50%に近いほど良く、年金が減る第1号改定者にとっては、下限の○○%に近いほど良いわけですね。

そこで、当事者が話し合って(按分割合の範囲内で)按分割合を決めるのですが、お金が絡む問題だけに決まらないこともあるでしょう。

当事者で按分割合を決められないときに、家庭裁判所へ申し立てるのが年金分割調停・審判です(離婚前なら離婚調停・訴訟、事実婚解消前なら内縁関係調整調停)。

なお、按分割合の範囲は、対象期間中に3号分割の期間がある場合、3号分割した後の標準報酬総額に基づいているので注意してください。

参考:合意分割の期間に3号分割が含まれるときは?

按分割合の範囲は法律に定められています(厚生年金保険法第78条の3第1項)。

【按分割合の下限】当事者双方の対象期間標準報酬総額の合計額に対する第2号改定者の対象期間標準報酬総額を超える値
【按分割合の上限】1/2以下

したがって、按分割合の範囲の下限は、

第2号改定者の対象期間標準報酬総額÷(第1号改定者の対象期間標準報酬総額+第2号改定者の対象期間標準報酬総額)

の計算結果を超える値です(計算結果と同じ按分割合では年金分割しないのと同じで意味がないため、計算結果を超える値でなければならない)。

※按分割合は小数ですが、年金分割のための情報通知書ではパーセント表記です。

年金分割のための情報通知書の取得方法

年金分割のための情報通知書を取得するには、年金事務所または各共済組合に、年金分割のための情報提供請求書を提出します。

平成27年10月から年金が一元化されたことで、当事者が加入していた年金制度の実施機関(年金事務所や各共済組合)のいずれかに請求すれば済むようになりました。

例えば、会社員と公務員の夫婦なら、年金事務所と共済組合のどちらに情報提供請求しても構いません。

ただ、年金分割のための情報提供請求書は、書くのがとても面倒です。

年金分割のための情報提供請求書 – 日本年金機構(PDF)

ですから、窓口に行って説明を受けながら書くのが無難ですが、記入方法も書かれているので、事前にダウンロードしておき後日不明なところだけ窓口で聞くと良いかもしれません。

情報提供請求の添付書類

  • マイナンバーで請求する場合はマイナンバーカード
  • 基礎年金番号で請求する場合は年金手帳または基礎年金番号通知書
  • 戸籍謄本(戸籍抄本ならそれぞれの分)
  • 事実婚の場合は事実婚を証明できる書類

事実婚では、一方が国民年金の第3号被保険者だった期間を対象とするため、その期間と事実婚の期間が重なっていなければなりません。

したがって、

  • 事実婚継続中なら、国民年金の第3号被保険者となった初日から情報提供請求日まで事実婚であることの証明
  • 事実婚解消後なら、国民年金の第3号被保険者となった初日から事実婚関係解消日まで事実婚であったことの証明

を必要とします。

参考:事実婚の証明について

事実婚の証明で容易なのは、同住所で同一世帯、なおかつ「夫(未届)」または「妻(未届)」の記載がある住民票の写しの提出でしょうか。

同住所なら、別世帯でもその理由を書き(他にも書類提出を求められるかもしれませんが)、住民票の写しに添付することで、事実婚だと認めてもらえると考えます。

問題は、住民票上で別住所なのに事実婚を証明したい場合です。別居せざるを得ない事情があり、その事情がなければ同居して、家計を一つにしていると認められなくてはなりませんよね。

いくつか考えられる項目を挙げてみますので参考にしてください。できるだけ多くを用意できると良いですが、年金事務所や共済組合に相談してみるのが確実なのは言うまでもありません。

別居についてやむを得ない事情がある
別居している事情を書き、可能であれば二人で署名押印して提出しましょう。
その事情を証明できる(例えば、人事異動なら辞令の写し、入院なら入院証明書のような)書面があるとなお良いです。

経済的な協力扶助が行われている
年金分割できるとすれば、一方は国民年金の第3号被保険者(被扶養配偶者)なのですから、家計が一つなら他方からの送金がないと生活できないはずです。
預金通帳に定期的な記録が残っていれば、その写しで何とかなりそうです。

健康保険や給与上で扶養と扱われている
健康保険の被扶養者なら健康保険証の写し、給与で扶養手当の対象なら給与明細など、こちらは該当すれば用意しやすいものです。

第三者が事実婚関係にあると証明してくれる
第三者が事実婚の証明をしてくれると、より信憑性は高まります。
この場合の第三者とは、血縁関係にある親族よりも他人のほうが良く、とりわけ民生委員のような一定の地位がある人だとベターです。
ただし、地域の民生委員が事実婚に理解を示すかどうかはまた別です。

結婚式・披露宴をしている
結婚式や披露宴は、夫婦であることを誓い出席者に公言するため行うので、第三者による証明と同じく信憑性が高いです。
証明になるとすれば、会場の領収書や日付のある記念写真などでしょうか。
※過去の出来事なので、現在も関係継続中である証明には弱いと考えられます。

お互いに連絡や訪問がある
別居していて全く音信不通なのに、事実婚だと主張しても難しいです。
電話の受発信履歴、メール、LINE、手紙など残っていれば利用しましょう。
連絡や訪問は、単なる交際でも当たり前にありますので、事実婚の証明に直結するものではないですが、証明の材料が乏しい場合には補完的にあったほうが良いです。

情報提供請求者と年金分割のための情報通知書の送付

情報提供請求は、当事者の一方でも双方でも可能ですが、一方からの請求か双方での請求か、婚姻関係・事実婚関係が継続中か解消後かによって、年金分割のための情報通知書が誰に送付されるか変わります。

請求者関係継続中の場合関係解消後の場合
当事者の一方が請求請求者だけに送付請求者と他方当事者に送付
当事者の双方が請求請求者双方に送付請求者双方に送付

当事者の双方から請求時に、双方へ情報通知書が送付されるのは当然として、注目したいのは、当事者一方からの請求時は、関係継続中なら請求者にしか情報通知書が送付されない点です。

これを利用して、婚姻関係・事実婚関係の解消前に、こっそり自分だけ情報通知書を手に入れられます。

このようなルールになっているのは、関係解消後でなければ行われない年金分割に必要な情報を、請求者以外の他方当事者にも知らせることが、その後の当事者関係に影響を与えるかもしれないからです。

別の言い方をするなら、情報提供請求の請求者が関係解消を前提にしていると、他方当事者に知られないよう配慮しているわけですね。

また、年金分割のための情報通知書は、窓口での受取りと郵便での送付を選ぶことができます(年金分割のための情報提供請求書にて選択)。

相手と同居中で郵便が届くと困る場合は、窓口で受け取るか、送付先を実家など別の場所にしておくと良いでしょう。

年金分割のための情報通知書の有効期限

離婚等(離婚・婚姻取消し・事実婚の関係解消、以下同じ)では、年金分割の対象期間や標準報酬総額が(過去の事として)確定しているので、特別な事情がない限り、按分割合の範囲は変わりません。

したがって、離婚等の後に請求した年金分割のための情報通知書には、有効期限という考え方がなく、あえて言うなら年金分割の請求期限(離婚等から2年)が有効期限でしょうか。

それに対して、離婚等の前に請求した年金分割のための情報通知書では、按分割合の範囲が「情報提供請求日までの対象期間や標準報酬総額」を基に計算されています。

そうなると、実際に離婚等をした後日の時点では、情報通知書に記載されている按分割合の範囲とは異なる可能性が出てきますよね。

その場合はどうなるのでしょうか?

離婚等の前に入手した情報通知書の有効期限は1年

離婚等の前に、年金分割のための情報通知書で情報提供された按分割合の範囲は、情報提供を受けた日から離婚等をした日までが1年を超えなければ、そのまま年金分割に使うことができます(厚生年金保険法第78条の3第2項)。

例えば、離婚を考えるようになって情報通知書を入手したとします。

すぐに離婚して年金分割するつもりが、なかなか話合いが進まず半年後の離婚になったとしても、半年前の情報通知書に記載の按分割合の範囲内で、按分割合を決めて年金分割できるということです。

例外的に、情報提供を受けた日から1年を超えてしまっても、1年を超えた日が按分割合に関する調停等の係属中であれば、係属中の調停等で按分割合が定められた場合は有効です(厚生年金保険法施行規則第78条の5第2号・第3号)。

もっとも、前回の情報提供から3か月経過していれば、年金分割のための情報通知書を再請求できます。なるべく直近の情報に基づいた按分割合で年金分割すれば良いだけの話で、そこまで有効期限を意識する必要はないでしょう。

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