協議離婚と調停離婚の違いはとても多い

誰もが知るように、協議離婚とは夫婦が離婚届に署名押印(令和3年9月1日以降の押印は任意)して、役所に提出することで離婚が成立する簡便な離婚方法です。

一方の調停離婚は、家庭裁判所手続の離婚調停を利用して離婚を成立させる離婚方法ですが、協議離婚と調停離婚は必ずしも任意に選べるものではありません

夫婦が話し合って離婚できるなら協議離婚、話し合いで離婚できないなら家庭裁判所に離婚調停を申し立て、その結果、調停が成立(調停で離婚に合意)すると調停離婚になります。

離婚は、①夫婦双方に離婚の意思がある、②未成年の子の親権者が決まっている、この2つで可能です。

逆に考えれば、離婚自体と親権者に争いがなく協議離婚できる状態でも、他の話し合いに何か意見の食い違いがあるときは、その争点を離婚調停に持ち込んで調停離婚することができます

このケースにおいては、協議離婚と調停離婚を選べることになるとはいえ、何か争いがあると離婚に合意しないのが通常ですし、争いを残したまま協議離婚するのはおすすめできません

協議離婚と調停離婚にはとても多くの違いがあり、人によってはどうでもいい違いかもしれませんが、できるだけ説明していきたいと思います。

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離婚までの流れとスピード感

離婚のおよそ9割を占める協議離婚は、夫婦が離婚を話し合い、合意できたら離婚届を出しますので、話がこじれなければ離婚までスムーズに進みます。

もっとも、夫婦喧嘩の勢いで離婚してしまったり、いつまでも話し合いがまとまらずに離婚できなかったりと、協議離婚だから一概に時間が短いとはいえません。

では、調停離婚はどうなのかというと、夫婦の間に家庭裁判所職員の調停委員が入るため、離婚調停では好きな時間に話し合うことはできず、家庭裁判所と都合を調整する必要があります

離婚調停では、夫婦の一方と調停委員が話した後、入れ替わって他方と調停委員が話すので、原則として夫婦が直接話し合わずに進みます。

もちろん、離婚調停中に調停外で夫婦が話し合うことに制約はありませんが、それでまとまるなら最初から離婚調停にしないはずなので……。

そして、多くの人が考えるよりも、離婚調停の進行はスローペースです

調停離婚は平均で半年ほどかかっている

まず、離婚調停を申し立ててから、初回の調停期日までだいたい1か月くらい待ちます。

その後、1か月~1か月半に1回程度のペースで、話し合いが決着するまで調停期日を繰り返すのですが、仮に4回目で合意できたとすると、調停離婚まで4か月から半年はかかるでしょう。

参考:家事調停の平均的な審理期間と期日回数

もちろん、平均的な期間なので、3か月で終わる場合もあれば1年以上かかる場合もあります。

マメ知識

協議離婚とは異なり、離婚調停が成立した時点で調停離婚は成立します。したがって、調停離婚の離婚届は、成立した離婚に合わせて戸籍を書き換えてもらう(役所に離婚を報告する)届出にすぎません。

離婚条件の決め方と強制力

協議離婚では、当事者が自由に離婚条件を決められます。自由といっても、親権者の指定が必要など、法律上の制限を受ける部分もありますが、契約行為としての自由度は保たれます。

【主な離婚条件】

  • 親権者の指定(未成年の子がいると必須、子を監護教育する人を決める)
  • 財産分与(夫婦の共有財産を分け合う)
  • 慰謝料(離婚の責任が重い人から他方にお金を支払う)
  • 養育費(子を養育するための費用分担を決める)
  • 面会交流(子と離れて暮らす親との面会)
  • 年金分割(夫婦の年金記録を分け合う)

言い換えれば、上記の離婚条件を当事者の裁量に任せている代わりに、不公平な条件で協議離婚したからといって、家庭裁判所へ訴え出ない限り誰も関与してきません

しかし、離婚調停では調停委員を通じて話し合いますので、夫婦が平等であることを前提として、事情を考慮しながら当事者の合意に基づいて離婚条件が決まっていきます。

当事者の合意により、社会通念上許される範囲で偏った離婚条件も可能だとはいえ、不公平な離婚条件だからこそ調停が申し立てられるのであって、それを調整して着地点を見いだすのが調停です。

また、夫婦に法的な知識がないと、協議離婚は離婚条件を決めないまま離婚届が出されてしまうことも多く、調停離婚ではその心配がありません

もっとも、離婚調停においては、一部だけを合意して成立させることが可能ですから、離婚条件を持ち越した調停離婚も可能です。しかし、争いを残したまま離婚するなら調停離婚する意味がないということです。

協議離婚は夫婦の力関係に影響されやすい

諸外国に比べて、あまりにも男女平等が遅れている日本では、賃金格差・性差別が依然として根強く、プライベートである夫婦間にも力関係に差があると考えられます。

本人の性格によっては、強引に押し切られて不利な条件で離婚するしかないケースや、どうしても離婚したいがために不利な条件を飲んでしまうケースは十分に想定できるでしょう。

この点は、当事者だけで決められる協議離婚の問題点だといえます。

調停離婚の調停調書には執行力がある

協議離婚での合意は、①書面に残さない、②離婚協議書等を作る、③離婚協議書等を公正証書にする、これらいずれかの方法ですが、①より②、②より③のほうが証明力は高くなります。

ただし、たとえ公正証書にしても、強制執行認諾文言が入っていなければ、離婚時の約束が破られたときに強制執行ができません。また、公正証書による強制執行は、金銭の支払いに関する約束に限られます。

一方で、離婚調停の成立で作られた調停調書は、家庭裁判所が調停での合意内容を書面に残したものですから、離婚時の約束が破られたときは調停調書で強制執行ができます

離婚相手を信じられるなら、書面に残さず協議離婚でもかまわないはずですが、離婚するほどの関係性でどこまで相手を信じられるのかは疑問です。

離婚時の約束が破られたときに備える意味では、調停離婚が明らかに優位でしょう。

離婚までの費用

協議離婚は、役所にある離婚届に記入して提出するだけなので、当たり前ですが無料です。

離婚調停の申立てには、数千円(収入印紙1,200円+切手代1,000円前後)かかり、費用面では協議離婚に分があるように思えます。

ちなみに、離婚訴訟(慰謝料請求を除く)では、2万円程度が目安です。

ただし、協議離婚の費用は、公正証書を作るかどうかで大きく変わります

協議離婚で公正証書を作ると調停離婚よりも高い

協議離婚で離婚時の約束が破られないように、離婚協議書から公正証書(強制執行認諾文言入り)を作るときは、その内容(支払い義務の金額)しだいで手数料が決まります。

目的の価額手数料
100万円以下5,000円
100万円を超え200万円以下7,000円
200万円を超え500万円以下11,000円
500万円を超え1,000万円以下17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下29,000円
5,000万円を超え1億円以下43,000円
※財産分与の額+慰謝料の額、養育費(最長10年間)の額、年金分割(算定不能として500万円)それぞれに別個の手数料がかかります。
※目的の価額が1億円を超える場合は公証役場へ問い合わせてください。

公正証書の手数料だけで、離婚調停の申立て費用よりも高いとわかりますが、問題は手数料よりも公正証書の原案となる離婚協議書にあり、契約書で良く見るような文言で作るのが通常です(離婚協議書も一種の契約書です)。

そうすると、契約書の作成に慣れていない一般の人は、公正証書の原案を作るのも大変ですから、弁護士・司法書士・行政書士に作ってもらうことになるでしょう。

司法書士・行政書士は、離婚に関する代理交渉などができないので注意してください。

当然ながら、専門家に頼むと報酬が発生し、数万円~10万円くらいは取られます。

結果として、協議離婚で公正証書を作ると、調停離婚よりもはるかにお金がかかりますので、決して協議離婚が安く済むわけではありません

離婚届と戸籍の記載

協議離婚の離婚届と調停離婚の離婚届では、離婚届の目的と記載内容などが異なります。

協議離婚調停離婚
離婚届の目的離婚を成立させるための届出成立した離婚を報告する届出
届出人の署名夫婦双方の署名届け出る人の署名
証人の署名成人二人の署名署名不要
添付書類戸籍謄本(本籍地以外での届出)戸籍謄本(本籍地以外での届出)、調停調書謄本
提出期限なし(任意のタイミング)離婚調停の成立から10日以内

また、協議離婚と調停離婚では、戸籍の身分事項欄の記載が若干変わります。

協議離婚の場合:【離婚日】〇年〇月〇日
調停離婚の場合:【離婚の調停成立日】〇年〇月〇日

だからどうした、と思う人には関係のない話ですが、離婚時に争ったことが戸籍でわかってしまうのが嫌な人は、なんとしても協議離婚で離婚すべきです。

離婚調停を使って協議離婚できるって知ってますか?

離婚調停で離婚に合意しても、調停離婚を避けて協議離婚にする方法があります。統計上、調停離婚の成立数に対し、毎年1~2%の割合で調停離婚せずに協議離婚する調停が成立しています。

参考:離婚調停を経由して協議離婚する方法もある

協議離婚と調停離婚は結局どっちがいいの?

協議離婚と調停離婚は、どちらが優れていると評価できるものではないですが、ここからは考え方のひとつとして参考にしてください。

協議離婚には、夫婦が自由に話し合える、離婚届を出すだけ、公正証書を作らなければお金がかからないなど、離婚までのメリットが多いです。

対する調停離婚は、何か月も時間がかかる面倒な離婚方法ですが、客観的に判断してもらえますし、調停調書が強力な武器になるので、離婚後のメリットは大きいです。

つまり、離婚までの「現在」にメリットを求めるのか、離婚後の「将来」にメリットを求めるのかで、協議離婚と調停離婚の評価は全く異なるでしょう。

答えになっていませんが、自分の人生なのですから、自分で選ぶしかないということです。

少なくとも、協議離婚を選ぶなら、必ず強制認諾文言入りの公正証書を作っておくことを強くおすすめします。もちろん、調停調書のほうがベターです。

安易に協議離婚を選び、離婚後にトラブルを起こして調停にならないよう注意してくださいね。

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