年金分割の合意書の書き方

年金分割を合意分割で行うときは、当事者が作成した合意書を、年金制度の実施機関に提出しなければなりません(3号分割に合意書は不要)。

合意分割は、将来の所得保障となる年金を(正確には老齢厚生年金の算定基礎となる標準報酬総額を)合意の上で分割するのですから、後のトラブルを防ぐ意味でも、書面での確認が求められているのです。

家庭裁判所手続(年金分割調停・審判、離婚調停・離婚訴訟)で合意分割の按分割合を決めたときは、家庭裁判所が作成した文書を使いますので、年金分割の合意書は、協議離婚かつ年金分割の話合いができたケースで使います。

離婚協議書に、年金分割の合意書と同内容が含まれているときは、年金分割の合意書を別途作成する必要はありません。

この記事では、年金分割の合意書の書き方と、合意書を公正証書(または公証人の認証を受けた私署証書)にする場合についても説明します。

年金分割の合意書(見本)

まずは、合意書の見本から見てください。法令上、年金分割の合意書には、次の5点を記載する必要があります(厚生年金保険法施行規則第78条の4)。

  1. 当事者が標準報酬改定請求をすることに合意している旨
  2. 請求すべき按分割合に合意している旨
  3. 第1号改定者及び第2号改定者の氏名
  4. 第1号改定者及び第2号改定者の生年月日
  5. 第1号改定者及び第2号改定者の基礎年金番号

したがって、上記5点を満たしていれば、合意書の書き方は問われません。

年金分割の合意書(見本)

年金分割の合意書での文例を解説

インターネットで検索すると、判で押したように同じ文例ばかり出てきますが、前記5点を満たしている合意書ならそのまま使えます。

ただ、あまりにもテンプレ的な文例に違和感を覚えたので、当サイトでは少し変更したのと、その理由についても説明しておきます。

※細かいことです。気にしない人は読み飛ばしてください。

甲と乙・第1号改定者と第2号改定者

当事者を甲と乙にして、氏名は別記していますが、離婚協議書に文言を流用できるよう、あえて甲と乙を採用しました(離婚協議書を公正証書にするときは甲と乙で書かれることが多い)。

第1号改定者が誰で、第2号改定者が誰なのか明確であれば、甲と乙を使わず氏名を直接書いても大丈夫です。

ただし、第1号改定者と第2号改定者を間違えないように注意しましょう。夫が第1号改定者、妻が第2号改定者とは限りません。

第1号改定者:標準報酬総額の多い側(年金分割で年金が減る側)
第2号改定者:標準報酬総額の少ない側(年金分割で年金が増える側)

第1号改定者と第2号改定者は、年金分割のための情報通知書で確認できます。

どこに対して年金分割を請求するのか

良くある文例としては、「厚生労働大臣に対し」との記載でしょうか。

厚生労働大臣でも通じるのですが、厚生年金保険法の条文上、標準報酬の改定請求は年金制度の実施機関に対して行うことになっています(厚生年金保険法第78条の2第1項)。

この実施機関とは、厚生労働大臣から権限に係る事務を委任されている日本年金機構や各共済組合等のことなので、条文に則して書くなら実施機関名を書かなくてはなりません。

ところが、加入してきた厚生年金・共済年金は当事者によって異なるため、請求先を指定せずに「厚生年金保険法第78条の2第1項の規定に基づき」と入れることで、誰でもどの実施機関でも使えるように変更しています。

ちなみに、公務員等の共済年金が厚生年金に一元化されて以降、二つ以上の請求先(加入していた厚生年金・共済年金の実施機関)があるときは、いずれかの実施機関に請求すれば、他の実施機関にも請求したことになる扱いです。

したがって、どこか一つの実施機関を請求先にした合意書も誤りではありません。

対象期間に係る被保険者期間とは?

こちらも多く見かけたのですが、「対象期間に係る被保険者期間の標準報酬の改定又は決定の請求をすること」という呪文のような文言があります。

これは、厚生年金保険法第78条の2第1項から一部引用したもので、対象期間とは婚姻期間(または事実婚期間中の第3号被保険者期間)のことです。

しかし、良く考えてみてください。

対象期間と入れるのであれば、その対象期間を明示しないと日本語がおかしいですよね? ですから、丁寧に作られている合意書には対象期間も別記されており、そのような合意書を掲載しているサイトは信頼度が高いでしょう。

見本では、「厚生年金保険法第78条の2第1項の規定に基づき」とだけ書き、対象期間を法令の規定に任せてしまいました。

離婚前(または事実婚関係解消前)に合意書を作成するとき、対象期間の末日を年金分割のための情報通知書における情報提供請求日にすると、実際の対象期間とは異なる期間になります(対象期間の末日が到来していないため)。

その場合であっても、後に到来する離婚日(または事実婚関係解消日)を末日とした対象期間と、合意に同一性があると考えられており、情報提供請求日を末日とする合意書でも有効と扱って運用されています。

したがって、情報提供請求日を対象期間の末日とした合意書も誤りではありません。

請求すべき按分割合

ここは迷わないと思います。

年金分割のための情報通知書に記載されている按分割合の範囲(%表記)から、%を小数に変換した値を書きます。

見本では小数点第5位までとしていますが、小数点第5位まで無いときは、そのままの数値で構いません(例えば0.42なら0.42000と書かなくても良い)。

公正証書の作成・私署証書の認証について

年金分割の合意書を、公正証書または公証人の認証を受けた私署証書(以下、公正証書等)にすると、第三者かつ公務員である公証人が関与しているので、文書としての信頼性が高まります。

私署証書とは、公務員以外の私人が作成した契約書や合意書のように、署名(または記名押印)のある私文書の総称です。

年金分割の合意書を公証人に認証してもらうことで、その署名が作成名義人のものである=合意書が真正だと推定できます。

ただ、年金分割の合意書は、標準報酬の改定請求を誰がどのように行うかによって、次のように扱いが異なります。

当事者(または代理人)の2人が窓口で手続する場合
合意書をそのまま窓口に持参することができます。
※当事者2人が窓口備え付けの合意書に記入することもできます。
※合意書を公正証書等にしても問題ありません。

それ以外の場合(1人での手続または郵送)
合意書を必ず公正証書等にして標準報酬改定請求書に添付します。

離婚後に当事者(または代理人)の2人が窓口で手続すれば、合意書を公正証書等にする必要はないので、相手を離婚後にも信頼できるかどうかによって、公正証書等にするか決めると良いでしょう。

公正証書等にしないメリットは、手間と費用を省けることですが、離婚後に相手の協力を得られない・連絡が付かないなど、年金分割がスムーズにできなくなるリスクを抱えることになります。

相手が離婚後に翻意する可能性、1人でも手続できる点を考えると、公正証書等が優れているのは間違いありません。

合意書を公正証書等にする方法

公正証書の作成・私署証書の認証は、当事者本人または代理人の2人が、公証人のいる公証役場で行います。

必要書類などは以下の通りです。

必ず用意するもの

  • 年金分割の合意書
  • 年金手帳(基礎年金番号がわかるコピーでも可)
  • 年金分割のための情報通知書

当事者本人の場合

  • 本人確認書類など(※)

代理人の場合

  • 代理人の本人確認書類など(※)
  • 当事者本人の実印が押された委任状
  • 当事者本人の印鑑登録証明書

※本人確認書類など(A~Cのいずれか)
A:印鑑登録証明書と実印
B:運転免許証、マイナンバーカード、顔写真付き住民基本台帳カード等と認印
C:パスポートと住民票の写しと認印

手数料は、公正証書の作成が11,000円、私署証書の認証が5,500円となり、私署証書の認証は負担が少ないです。

年金分割の合意書であれば、公証人の認証を受けた私署証書で十分でしょう(年金分割以外の支払い等を含む離婚協議書は、強制執行認諾文言を入れた公正証書にするべきです)。

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