離婚の際に称していた氏を称する届は、離婚時に夫婦の戸籍から抜ける側が、離婚後も婚姻中の氏(苗字)を使いたいときに提出する届書です。戸籍法第77条の2に規定されていることから、戸籍法77条の2の届とも呼ばれます。
他には、婚姻中の氏を離婚後も続けて称するという意味から、婚氏続称届とも呼ばれます。
離婚をすると、婚姻前の氏に戻る(復氏といいます)のが本来の氏の動きですが、離婚から3か月以内に限り、離婚の際に称していた氏を称する届によって、婚姻中の氏を称する(名乗る)ことが可能になります。
実際には、ほとんどが離婚届と一緒に出されるでしょう。
離婚の際に称していた氏を称する届を出すメリットは、離婚で氏が変わると生じてしまう日常生活での不便を回避できることです。
例えば、各種の名義変更や、職場で呼び方が変わるのを避けたいときに利用されるほか、子供を離婚後の自分の戸籍に入れる際に、苗字が変わらないよう配慮する目的でも利用されます。
氏を称するってどんな意味?
なぜ、離婚の際に称していた氏を称する届という面倒な名称になっているのか、不思議に思ったことはないでしょうか?
生活上で意識することは少ないと思いますが、離婚の際に称していた氏を称する届の「氏を称する」とは、婚姻中と同じ呼称・表記の氏を名乗るに過ぎません。
実は、離婚の際に称していた氏を称する届を出しても出さなくても、離婚で旧姓に戻る復氏の動きは、民法で定められた氏の変動なので避けられないのです。
しかし、それでは不便だとする声が大きかったため、民法上で旧姓に戻っても、戸籍上では婚姻中と同じ呼称・表記の氏を名乗ることができるようになっています。
つまり、本当は旧姓に戻っているのに、戸籍上で婚姻中と同じ呼称・表記の氏に変更するのが、離婚の際に称していた氏を称する届の役割です。
民法で定められた通りの動きをする氏を「民法上の氏」、戸籍に記載されている氏を「呼称上の氏(または戸籍上の氏)」といいます。
少し面倒な話ですが、詳しく知りたければ参考にしてください。
離婚の際に称していた氏を称する届は、呼称上の氏を婚姻中と同じ呼称・表記の氏に変更するための届出です(民法上の氏は変えられません)。
具体例で説明すると、佐藤さんが婚姻して鈴木さんになったとします。離婚で旧姓の佐藤に戻るところを、離婚の際に称していた氏を称する届により、鈴木を名乗ることが可能です。
婚姻前:佐藤(民法上は佐藤、戸籍上も佐藤)
婚姻中:鈴木(民法上は鈴木、戸籍上も鈴木)
【離婚後】
離婚の際に称していた氏を称する届なし:佐藤(民法上は佐藤、戸籍上も佐藤)
離婚の際に称していた氏を称する届あり:鈴木(民法上は佐藤、戸籍上は鈴木)
婚姻中の鈴木さんは、民法上の氏も鈴木ですが、離婚時に離婚の際に称していた氏を称する届で鈴木さんになっても、民法上の氏は旧姓の佐藤へ戻っていることに注意してください。
元配偶者の鈴木さんと同じ氏になるのは、元配偶者の鈴木さんと同じ戸籍にいる人だけなので、離婚で夫婦の戸籍から抜けた旧姓佐藤さんは、離婚後に鈴木姓を「称している」に過ぎないというわけです。
もちろん、離婚の際に称していた氏を称する届によって鈴木と戸籍に記載されるわけですから、届出以降は鈴木で生活していくことになります。
離婚の際に称していた氏を称する届の書き方
離婚の際に称していた氏を称する届(戸籍法77条の2の届)は、役所に行けば入手できますが、ダウンロードしてA4用紙に印刷しても大丈夫です。
北海道札幌市:離婚の際に称していた氏を称する届(PDF)
東京都江東区:離婚の際に称していた氏を称する届(戸籍法77条の2の届出)(PDF)
この届書は、離婚届と一緒に出す場合と、後から出す場合で書き方が違います。
- ①離婚届と一緒に出す
- ②離婚届で婚姻前の戸籍に戻った後に出す
- ③離婚届で新しい戸籍を作った後に出す
いずれの場合も説明していますので、各欄の詳細を確認してください。
欄外:届出日/届出先
窓口に持参して提出するなら提出日を、郵送では投函日です。離婚届と同時に出すなら、当然に離婚届の届出日と同じ日となります。
届出日の元号が古い用紙のときは、二重線で消して令和に書き換えます(訂正印等は不要)。
届出先は、実際に届け出る市区町村の首長(市区町村長)宛てです。
市区町村長が既に印刷等されている用紙を使う場合で、異なる市区町村に届け出るときは、横線で消して届け出る市区町村に訂正します(訂正印等は不要)。
右側の受理・発送・送付などの欄は、役所が使う部分なので記入しません。
(1) 離婚の際に称していた氏を称する人の氏名/生年月日
届出時点の氏名を記入します。離婚届と一緒に出す場合は離婚前なので婚姻中の氏名、離婚後に出す場合は現在の氏名です。
生年月日の年は、和暦(元号)で記入し、元号にアルファベット表記は認められません。
また、市区町村によっては元号が最初から記載され、選択できる用紙があるので、その場合は元号に○を付けます。
(2) 住所/世帯主の氏名
届出時点における住民登録上の住所と世帯主です。ただし、同日に転入届や転居届を出す場合には、転入先または転居先の住所と世帯主を記入します。
転居届(同じ市区町村内)は問題ないですが、転入届(他の市区町村から)を出す際には、転出届による転出証明書を添付する必要があるので注意しましょう。
記入内容は、方書(アパート名やマンション名)も含め、住民登録している住所と同じです。番地と番・号は、使わない方を横線で消すか、使う方を○で囲みます。
夜間・休日に出す場合は、同日に転入届や転居届が受け付けられないので、現在の住民登録上の住所・世帯主で記入し、開庁日に改めて転入届や転出届を出します。
(3) 本籍/筆頭者の氏名
届出時点の本籍と筆頭者を、戸籍の記載と同じ内容で記入します。番地と番は、使わない方を横線で消すか、使う方を○で囲みます。
この欄の記入は、事例によって次のように変わります。
①離婚届と一緒に出す場合
離婚前なので、相手配偶者を筆頭者とする戸籍に入っています。本籍は婚姻中の戸籍の本籍、筆頭者の氏名は相手配偶者です。
②離婚届で婚姻前の戸籍に戻った後に出す場合
離婚で戻った婚姻前の戸籍に入っています。考えられるのは、親を筆頭者とする戸籍や婚姻前に作った自分を筆頭者とする戸籍などです。いずれにしても、離婚で戻った(現在入っている)戸籍の本籍と筆頭者の氏名を記入します。
③離婚届で新しい戸籍を作った後に出す場合
現在は離婚で新しく作った戸籍に入っており、筆頭者は自分です。その本籍と筆頭者として現在の自分の氏名を記入します。
(4) 変更前の氏/変更後の氏
変更後の氏については、これから称したい婚姻中の氏です。
変更前の氏は、離婚届と一緒に出す場合は同じく婚姻中の氏、離婚後に出す場合は現在の氏を記入します。変更後の氏について「よみかた」を記入する用紙もあります。
(5) 離婚年月日
離婚年月日は、協議離婚と裁判離婚(調停、審判、和解、請求の認諾、判決)で異なります。
協議離婚の場合
協議離婚は、離婚届が受理された時点で離婚の効力が発生します。
したがって、離婚届の受理日が離婚年月日となりますが、通常は受理日=離婚届の届出日になるので、離婚届と一緒に出す場合は離婚届の届出日に合わせます。
離婚の際に称していた氏を称する届を離婚後に出す場合において、離婚届をいつ出したか忘れた場合は、戸籍謄本で離婚日を確認できます。
裁判離婚の場合
裁判離婚では、調停調書、審判の確定証明書、和解調書、認諾調書、判決の確定証明書に記載されている日付が離婚年月日です。
これら書面に記載されている日付は、離婚届にも記入したはずですが、離婚届の提出日よりも前の日付になることが多いので注意しましょう。
(6) 離婚の際に称していた氏を称した後の本籍/筆頭者の氏名
本籍も筆頭者の氏名も、記入方法は本籍欄の説明と同じですが、この欄は事例によって記入しない場合があるので、記入するべきか先に確認が必要です。
①離婚届と一緒に出す場合
新たに戸籍を作ることになるので、新しい本籍と筆頭者として自分の氏名を記入します。このとき、一緒に出す離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」は空欄にします。
②離婚届で婚姻前の戸籍に戻った後に出す場合
離婚で親の戸籍など自分が筆頭者ではない戸籍に戻っていれば、必ず新たに戸籍を作ることになるので、新しい本籍と筆頭者として自分の氏名を記入します。しかし、自分を筆頭者とする戸籍に戻っていると、2つのパターンに分かれます。
- 自分しか戸籍にいない ⇒ この欄は何も記入しません
- 自分以外が戸籍にいる ⇒ 新しい本籍と筆頭者として自分の氏名を記入します
この扱いの違いは、自分しか戸籍にいないと新たに戸籍は作られず、自分以外(未成年の子供)が戸籍にいると新たに戸籍が作られることを意味しています。
自分しか戸籍にいないと、新たに戸籍を作らず現在の戸籍上で氏を更正するので、この欄の記入は必要ありません。同籍者がいると、同籍者にも氏の変更が及んでしまうため、新たな戸籍を作って自分の氏だけが変更されます。
なお、この欄に「(3)欄の筆頭者が届出人と同一で同籍者がない場合には記載する必要はありません」と書かれていますが、「(3)の筆頭者が届出人と同一」とは自分が現在の戸籍の筆頭者であること、「同籍者がない」とは自分しか戸籍にいないことです。
③離婚届で新しい戸籍を作った後に出す場合
戸籍の筆頭者は自分なので、「離婚届で婚姻前の戸籍に戻った後に出す場合」の自分を筆頭者とする戸籍に戻っているパターンと同じです。
- 自分しか戸籍にいない ⇒ この欄は何も記入しません
- 自分以外が戸籍にいる ⇒ 新しい本籍と筆頭者として自分の氏名を記入します
(7) その他
その他欄は、届出人が自署できない場合など考えられますが調査中です。
(8) 届出人署名押印
届出人は「離婚の際に称していた氏を称する人」なので、(1)と同じ氏名です。必ず自署します。押印は任意ですが、押印する場合の印鑑にゴム印やスタンプ印は使用できません。
欄外:連絡先
役所が開いている平日の昼間に連絡の取れる電話番号を記入します。
欄外:捨印(または代わりの署名)
市区町村によっては、捨印欄が設けられています。
捨印(または代わりの署名)は、絶対に必要なものではないですが、役所側が捨印を使って訂正できるように、欄外に届出印で捨印しておく方が無難です。ただし、記載に不備がなければ捨印は何の意味も持たず、そのまま受理されます。
欄外:住所を定めた年月日
市区町村によっては、住所を定めた年月日(他には住定年月日など)欄が設けられています。この欄への記入は必要ありません。
離婚の際に称していた氏を称する届の提出
届出人の本籍地以外に、住所地や所在地でも届出が可能で、提出者は届出人以外でも構いません。持参するものは、どこに誰が届け出るかによって変わります。
戸籍謄本
本籍地以外に届け出る場合だけ必要です。離婚届と一緒に出すときは夫婦の戸籍謄本、離婚後に出すときは届出人の戸籍謄本になります。
※離婚届と一緒に出す場合は、離婚届に戸籍謄本を添付するので1通で足ります。
本人確認書類
本人が提出しても使者が提出しても、運転免許証、パスポート、住基カード、マイナンバーカード等で本人確認されます。郵送ならこれらのコピーを同封します。
離婚の際に称していた氏を称する届の注意点
離婚から3か月以内の届出であることは前述のとおりですが、3か月の起算は離婚日の翌日からで、3か月後の日が休庁日なら、翌開庁日が末日になります。
離婚から3か月を過ぎた場合は、家庭裁判所に氏の変更許可審判を申し立てて、許可を得なくてはならず、届け出るだけで済む3か月以内に決断しましょう。
離婚の際に称していた氏を称する届により、戸籍上で婚姻中と同じ呼称・表記の氏になった後、さらに婚姻前の氏(旧姓)へ戻したいときは、家庭裁判所の許可が必要です(許可されるとは限りません)。
ただし、離婚の際に称していた氏を称する届を出してしまうと、二度と親の戸籍に戻ることはできなくなります(自分が戸籍筆頭者になるため)。
この点がデメリットかどうかは人それぞれですが、早急にしなければならない届出ではないので、急ぐ事情がないなら3か月間で考えてみても良いのではないでしょうか。
なお、離婚の際に称していた氏を称する届は、婚姻中の氏と婚姻前の氏が同じ呼称・表記の場合、意味がないので受理されない扱いです。