離婚をすると、元夫婦は別の戸籍になってしまうことから、他人と同じ扱いを受けます。そのため、離婚によって元夫・元妻の戸籍謄本を取れないように思えますが、実際は多くのケースで取ることができます。
また、離婚相手の戸籍にあなたの子が残っているなら、ほぼ確実に戸籍謄本は手に入れられるのですが、この点はひとつのキーポイントになり、子がどの戸籍にいるのかによって難易度はずいぶん変わります。
戸籍の取得について、前提から説明していますので、いきなり役所に行って断られることのないように、念のため目を通しておくようにしてください。
前提1:無条件で戸籍謄本を請求できる人
まず、次に該当する人は無条件に戸籍を取得できます。
- 戸籍に記載された本人
- 本人の配偶者
- 本人の直系尊属(親や祖父母など上の世代)
- 本人の直系卑属(子や孫など下の世代)
戸籍に記載された本人が、自分の戸籍を取得できるのは当然として、本人の配偶者(元配偶者ではない点に注意)と直系親族にも戸籍の取得は認められます。
離婚後の元夫婦は他人同士ですが、戸籍に記載が残っていれば本人として請求でき、戸籍に記載がなくても子との親子関係(親は子の直系尊属、子は親の直系卑属)から請求できます。
なお、戸籍法第10条第2項の規定により、市町村長は不当な目的によることが明らかな請求を拒むことはできますが、不正利用を目的とする人が、その目的を明かすようなことはないので、事実上は無条件と変わりません。
前提2:他人の戸籍謄本を取るには正当な理由が必要
言うまでもなく、戸籍謄本には重要な個人情報が含まれているため、第三者からの取得請求には法律上の制限があります。
例外的に、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士が、職務遂行に戸籍謄本を必要とする場合は請求が認められます(職務上請求といいます)。
残念ながら、単に別れた相手の現状が知りたいからという安易な理由では認めらず、次のいずれかに該当しなくてはなりません。
- 自分の権利を行使または義務を履行するため
- 公的な機関に提出を要するため
- その他正当な理由がある場合
自分の権利行使または義務履行というのは、例えば、債権回収・保険金支払い・遺産分割協議のために相続人の特定が必要など、戸籍謄本を確認する必要性が認められるケースです。
公的機関への提出については、調停もそうであるように、手続上で必要であることが明白ですから、何に使うか説明の付く資料(疎明資料)の提出は可能でしょう。
その他正当な理由については、事案に応じて役所に相談となります。
元夫の戸籍謄本を取る場合
妻の氏を夫婦の氏と定めて婚姻していた場合は、次に説明している「元妻の戸籍謄本を取る場合」を元夫に読み替えてください。
本題に入りますが、日本では夫の氏を夫婦の氏と定めて婚姻するケースが多く、その場合、夫を筆頭者として新戸籍を編製する、または既に筆頭者である夫の戸籍に妻が入ります。
したがって、離婚すると元妻のあなたは戸籍から出ていく形になりますよね。
例として、鈴木太郎さんと佐藤花子さんが夫婦の氏を鈴木と定めて婚姻し、離婚して花子さんが戸籍から抜け出た状態は以下のようになります。
離婚直後の元夫の戸籍 | |
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本籍 氏名 | ○○県○○市○○町○○番 鈴木 太郎 |
戸籍に記載されている者 | 【名】太郎 |
戸籍に記載されている者 除籍 | 【名】花子 |
このように、元妻である花子さんが戸籍から抜け出ても、元夫である太郎さんの戸籍には花子さんの除籍記載が残ります。
つまり、花子さんは、太郎さんが筆頭者の戸籍を、自身の過去の戸籍に記載された本人として問題なく取得できるのです(前提1)。
元夫が転籍すると無条件に戸籍は取れない
元夫が離婚後に転籍してしまうと、他に在籍者がいないため、婚姻中の戸籍そのものが除籍という扱いになります。
戸籍の本籍地を移すことを転籍といいます。
戸籍に記載されている本籍は、現住所と一致している必要がなく、自由に決めることはできるのですが、現住所の市区町村と異なる場合、戸籍謄本を取得するのに手間がかかることから、引っ越しなどのタイミングで本籍も移すケースが多いです。
そして、転籍先の本籍地で新たな戸籍が作られるのですが、転籍前の戸籍で除籍になった元妻の記載は、転籍先の戸籍に引き継がれません。
転籍後の元夫の戸籍 | |
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本籍 氏名 | △△県△△市△△町△△番 鈴木 太郎 |
戸籍事項 転籍 | 【従前本籍】○○県○○市○○町○○番 |
戸籍に記載されている者 | 【名】太郎 |
この転籍した元夫の戸籍には、元妻の記載がないことから、元妻は戸籍に記載された本人として無条件には請求ができないことになります。
離婚後の転籍は、戸籍から離婚歴を消す(現在の戸籍だけですが)方法として良く用いられています。また、別れた元配偶者から、無条件に戸籍謄本を取られないようにする方法としても使われます。
それでも、転籍先の本籍地の役所に正当な理由(調停で使うなど)を伝え、その証明が可能なら、元夫の戸籍謄本を手に入れられるはずです(前提2)。
なお、転籍先の本籍は、転籍前の戸籍(除籍された婚姻中の戸籍)で確認できます。
転籍先の市区町村で、事前登録型または登録不要型の本人通知制度が導入されていると、戸籍謄本が交付されたことを元夫に通知する場合があります。
元妻の戸籍謄本を取る場合
妻の氏を夫婦の氏と定めて婚姻していた場合は、前で説明している「元夫の戸籍謄本を取る場合」を元妻に読み替えてください。
夫の氏を夫婦の氏と定めた婚姻では、離婚によって元妻はあなたの戸籍から抜け、次のような別の戸籍に存在します(他にも可能性はあります)。
- 離婚時に新たに作った戸籍
- 離婚前から作られていた戸籍
- 親の戸籍
- 親の戸籍から分籍した戸籍
- 再婚相手の戸籍
時間の経過や事情により元妻の戸籍は異なりますが、いずれにしても、元妻が現在いる戸籍には元夫の記載がないので、無条件に元妻の戸籍謄本を取ることができません。
したがって、戸籍謄本を請求する正当な理由を必要とします(前提2)。
正当な理由がある前提で、元妻の戸籍謄本を追いかけるには、自分の戸籍謄本に記載されている元妻の離婚直後の異動先(本籍)を確認しましょう。
続いて、異動先の本籍地の役所から、元妻の戸籍謄本(除籍になっていたら除籍謄本)を取得し、その戸籍でも異動していたら、さらに次の異動先(本籍)を確認して、元妻が現在いる戸籍まで辿っていきます。
もちろん、その過程においては、戸籍謄本を請求する正当な理由の提示が必要です。
異動先の市区町村で、事前登録型または登録不要型の本人通知制度が導入されていると、戸籍謄本が交付されたことを元妻に通知する場合があります。
相手の戸籍に自分の子がいれば大丈夫
これまで説明してきた通り、元夫の戸籍にせよ、元妻の戸籍にせよ、無条件に相手の戸籍を取ることができるのは、その戸籍に自分が記載されている場合(自分の過去の戸籍)だけです。
ところが、もうひとつ無条件に戸籍を取ることができるケースがあって、それは相手の戸籍に自分の子が入っている場合です。
子の戸籍は、どちらの親からも子の戸籍を取ることに制限はありません(前提1)。そして、未婚の子はほとんどが親の戸籍に入っています。
子の戸籍を取るということは、筆頭者である親の戸籍を取ることになるので、相手が子と同じ戸籍にいる限り、子の戸籍を辿っていけば必ず相手の戸籍を取ることができます。
参考までに、子が親と同じ戸籍にいないとしたら次のような状況です。
- 子が婚姻または養子縁組して親の戸籍から抜けた
- 何らかの理由で子が分籍して親の戸籍から抜けた
- 親が再婚相手の氏を称して再婚した(子が再婚相手と養子縁組していない)
これらに該当するときは、やはり正当な理由を役所に提示して、相手の戸籍を本籍から辿っていくしかありません。
相手の兄弟姉妹に頼むことはできる?
戸籍を無条件に取ることができる前提1は、本人・配偶者・直系親族に限られているため、戸籍の違う兄弟姉妹・親族は、本人からの委任状か正当な理由を必要とします。
ですから、別れた相手と戸籍が異なる兄弟姉妹に頼んで、こっそり戸籍謄本を取ってきてもらうことはできません。
それ以前の問題として、相手の兄弟姉妹に頼めるような関係性なら、戸籍謄本を取ってきてもらうまでもなく、相手の状況を聞き出せるのではないでしょうか?
どうしても戸籍謄本が必要なら別の理由があるはずで、それが取得請求の正当な理由にならないか考えてみましょう。
兄弟姉妹経由で取得できる可能性があるとすれば、離婚で夫婦の戸籍から抜けた相手(主に元妻)が親の戸籍に戻り、その親の戸籍に未婚の兄弟姉妹が入っている場合です(兄弟姉妹にとって自分の戸籍なので簡単に取れる)。
正当な理由の証明を求められたら?
個人情報に厳しくなった現在では、役所によっては請求理由を伝えても応じてくれず、正当な理由の証明を、書面で求められる可能性も十分にあります。
このサイトは、調停について説明しているので、個人の事情で変わる請求理由には触れませんが、調停を理由として戸籍謄本を請求する場合、調停中なら家庭裁判所に事件係属証明書を交付してもらえば、役所側もノーとは言えないはずです。
もしくは、受理された調停申立書の写し、調停期日通知書にも申立人と相手方が記載されており、調停中であることはわかるので、それらの提出で足りるかもしれません。
相手の戸籍謄本取得に難航するようなら、何が必要なのか役所に確認してみてください。