調停委員の選考と任命

調停委員の任命にあたっては、「民事調停委員及び家事調停委員規則」に定められています。任命の基準については後述しますが、それよりもどうやって選ばれているのか知りたいのではないでしょうか?

調停委員の任命は、最高裁判所がすることになっており、各裁判所(家庭裁判所、簡易裁判所または地方裁判所)か適格者を選び、高等裁判所を経由して最高裁判所へ任命の上申がされます

ということは、実際に調停委員の選考をしているのは各裁判所になります。

法令の任命基準があるので、選考基準も任命基準に則したものになりますが、細かい点は選考する裁判所の裁量で、実にいろいろな調停委員が存在します。

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調停委員の任命基準

民事調停委員及び家事調停委員規則第1条で定められているのは次のような任命基準で、いずれかに該当する人材であれば任命される可能性があります。

  • 弁護士の資格を有する者
  • 民事か家事の紛争に対して有用な専門知識を有する者
  • 社会生活の上で豊富な知識経験を有する者

これらの中で、人格見識の高い40歳以上70歳未満の者(例外あり)とされており、弁護士資格以外は実に抽象的な規定になっているのがわかります。

「紛争に対して専門知識を有する」とは、「士」の付く資格者(士業)や、医療関係、建築関係、鑑定関係、IT関係など特殊な職能を持っている人達です。

これらの人達は、調停で専門知識が必要なときに意見を求められる存在でもあり、人材確保が特に難しいでしょう。また、裁判所職員も有用ですから、裁判所職員が退職して調停委員になるケースもあります。

こうした任命基準があるとしても、調停委員になる弁護士等の専門家は少数です。

なぜなら、本業の報酬に比べて調停委員の報酬などスズメの涙で、弁護士に至っては調停委員よりも調停の当事者を代理したほうが圧倒的に稼げるからです。

専門家が調停委員になるのは使命感

稼ぐ弁護士にとって、調停委員はボランティアと変わりなく、とても時間を割いて引き受けるような報酬ではないため、よほど頼まれなければ引き受けません。

したがって、調停委員をしている弁護士は、社会貢献に対して非常に前向きな人、リタイヤ組のアルバイト、近しい人に頼まれて断れなかったなど、現役バリバリの敏腕弁護士が調停委員になることは考えられないです。

同じような理由から、専門知識を持つ人は本業で一生懸命働いているわけで、自分の知識を生かして紛争の解決に協力しようと考える人は少数でしょう。

結局のところ、専門家と呼ばれる人達は、その知識や経験を社会のために生かす使命感で調停委員になるのであって、ここに人材確保の難しさがあります。

そこで、豊富な知識経験や人格見識の高さが事実上の任命基準として、一般人から多く任命されていくことになるわけですね。

調停委員の欠格事由

次の欠格事由に該当するときは、調停委員に任命することができません。

  • 禁固以上の刑に処せられた
  • 公務員として懲戒免職になってから2年以内
  • 裁判官として弾劾裁判所の罷免を受けた
  • 士業の一部で重い処分を受け当該処分の欠格事由に該当
  • 医師で免許を取り消され再免許を受けていない

調停委員の任期

調停委員の任期は、4月1日または10月1日から始まる2年ですが、再任は可能で再任される調停委員が多数です。10年や20年のベテラン調停委員も存在します。

調停委員という特殊な職務には経験が重要で、頻繁に調停委員が入れ替わると、ベテランが持つ紛争の解決力・調整力が受け継がれていきません。

実際問題として、再任がなければ事件が未解決のまま調停委員が変わるケースも増え、これは当事者にとっても良くないでしょう。

明文の規定はないが外国籍は排除されている

民事調停委員及び家事調停委員規則上、国籍について制限は設けられていませんが、事実上、日本国籍がない人は調停委員に任命されません(任命以前に各裁判所から任命上申されない)。

約70年前の1953年に、内閣法制局が「公権力の行使又は国家意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍が必要とするものと解すべき」と示した見解を、最高裁判所事務総局でも運用に取り入れており、任命上申する各裁判所も同様です。

この点は、賛否両論あると思いますが、在留外国人の増加によって、調停の当事者が外国人であることは特段珍しいとはいえない社会情勢ですから、もう少し柔軟でも良いのではないかと個人的には思います。

調停委員は基本的に推薦制

調停委員は特別な資格を必要としませんが、一般に公募されておらず推薦による選考が用いられています。ただし、ほとんどが自薦の裁判所もあるくらいで、自薦が排除されているわけではありません。

推薦するのは、専門家の団体か着任中の調停委員で、団体とは弁護士会、司法書士会、行政書士会、税理士会などの有資格系の団体、大学等の公的・準公的機関、商工会議所や民生委員児童委員協議会など多岐にわたります。

もっとも、調停委員が扱う事件は幅広く、それだけ幅広い人材が必要になるので、特定の分野に縛られずに幅広く人選をしなければならない事情もあるのですが、特に地方では人材確保に相当苦労しているようです。

また、着任中の調停委員が、地域の中で社会活動を行っている人や学識の高い人を、退任時に(欠員が出るので)推薦していくケースも多いと聞きます。

選考には委員会が開かれる

調停委員の選考については、裁判所長や裁判官等で構成される選考委員会が開かれ、候補者を絞り込みます。任命権は最高裁判所にあるため、選考委員会は候補者を選ぶに過ぎず、裁判所長が候補者の任命上申を最高裁判所に行います。

選考は二段階で、書類選考を経て面接選考です。欠員が出たからといって直ちに補充するとは限らず、予算と裁判所の規模(調停室の数)にも限界があることを踏まえると、調停委員を増やしただけで事件処理が円滑になるものでもありません。

したがって、調停委員の枠があるかどうかは各裁判所しだいです。調停委員になりたくても他薦のツテがないのなら、自薦について裁判所に聞いてみましょう。

調停委員の選考基準

調停委員の候補者を選考するにあたっては、特に留意すべき点が通達で示されています。

  • 公正を旨とする者であること
  • 豊富な社会常識と広い視野を有し、柔軟な思考力と的確な判断力を有すること
  • 人間関係を調整できる素養があること
  • 誠実で、協調性を有し、奉仕的精神に富むこと
  • 健康であること

さて、当サイト管理人がこの選考基準に思うのは、このような「ご立派」な人間が世の中にどれほどいるのか? という率直な疑問です。

もっとも、選考基準は望ましい調停委員の理想像に過ぎないのであって、選考基準が全てではないのは、民間企業における人事でも同様でしょう。

ですから、どのような選考基準でも、調停の当事者にとってプラスならそれで良いのですが、一点だけどうしても引っかかるのは協調性です(後述)。

調停委員は限りなく一般人に近い

弁護士や専門知識を持っている人達が、本業をおろそかにして調停委員をすることは少ないのですから、それだけでは調停委員の絶対数が足りず、どの裁判所も増え続ける調停に対応できなくなります。

不足する人材は、一般人から集める以外に方法はなく、調停委員の多くは法曹経験のない民間人です。むしろ調停委員は普通の人だと思ったほうが良いくらいです。

年齢は40歳以上となっていても、どの分野でもそうですが、40代なら働き盛りの世代で、非常勤とは言っても週に何日かの拘束だけでも実現し難いでしょう。

裁判員制度による裁判員等と調停委員では、現状で社会の理解度が大きく異なります。調停委員としての職務を、裁判員等と同じく特別な有給にするような風潮が根付かないと、現役世代の登用は今後も難しいと考えられます。

調停委員の存在が広く認知され、その社会貢献性が評価されるようになれば、現役世代の参加を後押しする企業が出てくるかもしれないですね。

それでも、業務の主力要員を調停委員で活動させてしまうと、企業活動に支障が出てしまうので、難しい側面があるのは否めません。

今は65歳まで働ける時代ですから、どうしても調停委員はリタイヤ組が多くなって高齢化しやすくなります。具体的には60歳以上が多いです。

誰でも年相応になれば、それなりに生きてきた中で多くの経験を積んでいるもので、調停委員を特別な存在だと意識するほど、一般人との隔たりはありません。

一般人の調停委員に求められる素養

豊富な知識経験や人格見識の高さといっても、簡単に語られるものでもなければ、選考で容易に見抜くことができるものでもないでしょう。だからこそ推薦制が用いられているのであり、他薦ならある程度の人材が期待できます。

とはいえ、調停委員に求められているのは、一点の曇りもなく公明正大な人格者ではありません。選考基準でわかるように、公平で良識があること、柔軟な思考と判断、誠実さと社会奉仕の精神など、大よそマトモな社会活動には不可欠な素養です。

そして、特に求められるのが人の話を聞く能力で、トラブルに見舞われ精神的に不安定な当事者から、根気強く事情を聞き出し、当事者の真意を汲み取って解決案を示していく重要な役割が調停委員にはあります。

誰でも経験すると思いますが、人の話を最後まで聞かず、遮って自分の意見を話すタイプは、話を勝手に先読みしてしまうか、聞いている途中でその人なりの評価を下してきます(どう思うか聞いてもいないのに意見してくるパターンが多い)。

いずれにせよ、人の話を最後まで聞かないので、話している側の真意が伝わりにくく、誤解したまま自分の意見を押し付けてくることも多いです。

これが調停委員では致命的で、人の話をじっくり聞くことができないタイプは調停委員に向きません。知識経験や人格見識以前に当事者の信頼を得られず衝突しやすいからです。

そうは言っても、担当の調停委員を変更してもらうことは、よほどの事情がなければできません。当事者の申立てにより、調停委員を事件から外すことを「忌避(きひ)」と呼びますが、調停委員には忌避の規定がないのです。

参考:調停委員に忌避が無い理由

こうした調停委員の素養は、先天的な部分だけではなく、研修や実務経験による後天的な部分もあるのですが、高齢になると後天的な部分はあまり期待できないのも、高齢者が多いことによる問題点のひとつです。

タチが悪い調停委員も少なからずいる

前述の通り、人材確保に苦労している地域では、弁護士や特殊な資格(例えば建築士や医者など)を有する人以外、顔が売れているだけの「名士」だったり、調停の実務とはかけ離れた経験の持ち主も存在します。

そして、調停委員というのは「名誉職」でもあって、現役をリタイヤした人が誇らしげに調停委員をしているというパターンも無きにしも非ずなのです。もちろん、調停委員になるからには、ただのオジさんオバさんではないのですが……。

そのような調停委員で良くあるのは、不自由な生活や不幸な境遇の経験が当然なく、調停の当事者に高圧的な態度を取ったり、当事者の言うことを理解しようともせず意見を押し付けたりすることです。

任命基準の「豊富な知識経験」とは良く言ったもので、調停の当事者が味わうような境遇を、調停委員が豊富に経験しているのではありません。例えば、離婚調停の調停委員が、離婚経験者というわけではないのです。

法曹界の専門家だけで構成してしまうと、一般的な考えや習慣から離れ過ぎてしまうことを懸念して、調停委員は民間から採用されているのですが、実は、このことが事件の当事者と時々衝突を起こす原因にもなっている? かもしれないですね。

選考基準における協調性とはいったい……

選考基準には「協調性を有し」とありますが、協調性とは、立場や考え方の違う人々が、互いの意見を取り入れ譲り合いながら、目標に向かって進んでいくために必要な性質をいいます。

一般社会においては、まわりの人と問題を起こさずうまく付き合っていく意味で使われています。

調停に当てはめた場合、トラブルを抱えた当事者の立場、調停委員の立場は違いますし、当事者同士は主張が対立しています。目指すべきは、もちろんトラブルの解決です。

そうすると、当事者の立場や考え方の違いを理解した上で、利害や人間関係を調整し、トラブル解決へと導くためには、調停委員に高度な協調性・折衝能力が求められるとわかります。

ただし、協調がいつのまにか同調の強要になってはいけません

多数に従うことを是とする同調意識が強い日本人は、協調を「まわりに同調する事」だと履き違え、協調のつもりで相手に同調を求めるケースがとても多いです。調停委員もまたしかり。

同調圧力の強さは、良くも悪くも日本の文化だと言えますので難しい問題ですが、できれば協調性に優れた調停委員を選考してもらいたいと願うのは無理筋なのでしょうか。

調停では、申立人の主張を基に相手方と折衝し、相手方の主張を基に申立人と折衝するという、誰が考えても高難度な役回り(双方向との折衝役)に調停委員が置かれます。

当事者双方へ同意を得られる妥協点が容易に見つかるのなら、そもそも調停に持ち込まれるほど争わないですよね。そのくらい、調停委員は難しいことをしなければなりません。

ありがちなのは、当事者の間接的な話し合いであるべき調停が、いつのまにか調停委員会(裁判所)の考える「こうあるべきだ」的な方向に進んでしまうことです。

このとき、調停委員の役割は、解決が見えない双方向への折衝から、裁判所の公権力を背景にした当事者双方への説得(単方向)に変わります。

当事者からすると、話し合いどころか調停委員からの同調圧を感じてしまう結果となりやすいのです。

知識がない調停委員には要注意

調停の当事者は法的な知識に乏しく、法的な話合いは調停委員が主導していきます。

調停委員会の意思決定は、裁判官を交えた評議で行われるため、調停委員の独断で調停が進むことはないのですが、裁判官はほとんど調停室に来ないので、当事者は調停委員の説明を鵜呑みにするしかないのです。

ところが、ほとんどの調停委員は、弁護士等の法曹有資格者ではないため、研修や実務などで得られた法的知識しか持っていません

弁護士なら、判例研究や学会・弁護士同士での意見交換、学説等の研究なども十分にするでしょう。しかし、一般人から任命されている調停委員は異なります。

この点が心配な人は、やはり専門家である弁護士に調停から依頼すべきで、調停委員の知識レベルには、相当なバラつきがあると思って注意すべきです。

当サイトは、調停から弁護士へ依頼するほどでもないとするスタンスですが、どうしても弁護士の助けが必要なときは、法律サポート(弁護士紹介)の利用を検討してみてください。

法律全般サポート(日本法規情報)

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