調停委員は、非常勤の裁判所職員(国家公務員)という立場となり、裁判所に関する法律はもちろん適用を免れません。そして、裁判所職員は国家公務員の中でも特別職と呼ばれる扱いで、本来は国家公務員法による規定の適用を受けないとされています。
しかしながら、実際は国家公務員法やその他の規則・政令の影響を受け、他の公務員と同様、公共の利益ために働き、職務を遂行する義務があります。
また、調停委員は裁判官(調停主任)と調停委員会を構成して、争いの当事者間で合意を形成するための調整役となり、時には調停案を提示して紛争解決を促すことも職務の一環です。
他には、調停委員会の持つ権限によって事実の調査(資料収集)を行い、専門的な知見を有する調停委員は、担当していない調停事件について意見を述べることがあるなど、紛争解決に幅広く寄与しています。
調停委員が受ける制限
国家公務員としての立場から、調停委員は一定の制限を受けます。
選挙活動の制限
公職に就いているという地位により、その地位を利用して選挙活動をすることはできません。
利益供与の制限
職務において当事者から利益供与を受けたときは、収賄の罪に問われます。
守秘義務の制限
職務で知り得た秘密を漏らしたときは、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。また、調停委員は調停委員会の評議内容についても守秘義務があり、こちらは30万円以下の罰金です。
調停委員が受けない制限
調停委員は非常勤なので、職務のために裁判所に来ている以外は民間人として生活しており、国家公務員として全ての制限は受けません。
経済的活動の制限
国家公務員は、民間企業への関与(民間の会社で他の仕事に就くなど)を禁止されていますが、調停委員は他に仕事を持つことができます。
政治的行為の制限
国家公務員が禁止されている政治的行為は、非常勤の裁判所職員に対する特例規則により禁止されていません。
調停委員が担う役割
冒頭で、調停委員は「争いの当事者間で合意を形成するための調整役」だと説明しました。
具体的には、当事者双方の話をよく聴き、調停の申立てに至った事情、争点、利害などを整理することや、調停委員会を指揮する裁判官と情報共有して、調停の運営に携わっていくことです。
つまり、当事者同士の間に入る役割と、裁判官と当事者の間に入る役割の両面があるので、職務をこなすだけの社会経験、公平性、洞察力、判断力など、調停委員には調整役としての総合的な能力が求められます。
法律に当てはめた場合の判断については、当然に裁判官から示されるものなので、調停委員は弁護士のように高度な法的知識は求められていません(あるに越したことはないですが)。
むしろ、専門家以外の調停委員は、一市民の立場で当事者の心情を把握し、経験則に基づいた市民感情と、遵守しなければならない法律のはざまにおいて、当事者双方が受け入れやすく、なおかつ法律にも抵触しない方向で当事者を合意形成まで導いていくことが責務です。
調停委員の報酬について
調停委員には規定された手当の支給があり、ボランティアではないですがボランティア性が強く、調停委員だけで生活できるような水準ではありません。
もっとも、午前中だけなら7,8千円程度、1日拘束されると1万5千円程度の支給があるので、報酬が高い思う人もいるでしょうか。
しかし、人のトラブルに関与するのが好きな人はいませんし(たまにいますが)、感情を逆なでしないように気を使いながら調停を進めていく調停委員のストレスは、経験した人でなければわかるものではなく、決して高い手当ではないはずです。
また、心の切り替えができず、日常に戻っても事件のことを考えてしまい、精神的に病んで辞めていく人もいます。当事者の中には、感情が高ぶって罵声を浴びせる人もいるでしょうから、心の傷も受けながら続けていくのです。
顧客対応で経験したことのある人ならわかると思いますが、クレーム案件を抱えたときは、解決するまで気が休まりません。
調停委員は、争いという「負の空間」で職務を遂行するので、メンタルが弱いと長く続かないのもわかりますよね。解決して当事者に感謝されるのが至上の喜びなのです。
なお、ひとつの事件は、1か月に1回程度しか調停が行われません。複数の事件を担当しても毎日多忙になることはなく、荷が重い職務を考えると、報酬目的の調停委員は考えられないでしょう。
もしかしたら、人のトラブルに首を突っ込むのが好きで、現役引退後に暇を持て余している調停委員は、いい小遣い稼ぎだと思っているかもしれませんけど……。