マイホームの財産分与は離婚後のほうがお得?

一般的には、住宅以外の財産分与で全て清算できるほど蓄えのある家庭は少ないので、夫婦で住んでいたマイホームを分与対象財産とすることもあります。

その際、大抵は住宅が夫名義であることや、分与される側が妻であることも多いことから、夫から妻への名義変更によって分与される形になるでしょう。

このとき、夫から妻への名義変更は、対価が発生していないにもかかわらず、時価による不動産の譲渡とみなされて譲渡所得税の課税対象となります。

参考:財産分与で譲渡所得税が課税されるのはなぜ?

譲渡所得税の税率は非常に高く、譲渡所得の発生を避けられないのであれば、節税を考えなくてはなりません。

しかも、財産分与では分与する側が対価を受け取っていないのに課税されるので、離婚で財産を失い、さらに課税されてしまうという非情な税制度なのです。

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譲渡所得税について簡単に

節税の話をする前に、譲渡所得税って何? という人のため、簡単にですが譲渡所得の概要を説明しておきます。

譲渡所得税とは、通常は売却によって得られた代金(経費を控除)が、不動産の取得にかかった代金(経費を加算)よりも大きいとき、つまり不動産を売って利益(譲渡所得といいます)が出たときは、その利益に課税される税金です。

当然ですが、譲渡所得が発生しない場合は課税されません。

譲渡所得税は通称で、所得税と住民税なのですが、普段納付している所得税や住民税とは異なる税率で、合計が約20%~約40%と高いです。

税率はマイホームの所有期間(取得した日から財産分与した年の1月1日で判定)によっても異なり、所有期間が5年を超えると約20%(さらに10年を超えると軽減あり)、5年未満では約40%です。

したがって、地価が上がっているなど明らかに譲渡所得が発生しそうなら、少しでも譲渡所得が減るように工夫しないと、翌年の確定申告でひどい目に遭います。

マイホームには3,000万円控除できる特例がある

譲渡所得には、マイホームに限って認められる特別控除があり、最大で3,000万円まで譲渡所得から控除できます。

ということは、譲渡所得が3,000万円を超えなければ、マイホームを財産分与しても譲渡所得税は課税されないということですね。

3,000万円を超える譲渡所得が出るケースは、近年の不動産事情を考えるとまれで、ほとんどはマイホーム特例で課税なしになるでしょう。

マイホーム特例は離婚前だと適用できない

ところが、マイホーム特例には、近親者など特別な関係にある人への譲渡の場合、適用されないルールがあります。

配偶者は間違いなく特別な関係ですから、いずれ離婚するとはいえ、離婚前にマイホームの名義変更をすると、3,000万円の控除ができず節税できません。

回避するためには、分与する側が第三者に売却して、第三者から分与される側が買い戻すという面倒な手順を踏まなくてはならず、離婚後に財産分与することで、この問題は簡単に解決できます。

それだけ? と思うでしょうが、離婚後に財産分与の約束が守られるか不安な配偶者は、離婚前に名義変更を求めることもあるので要注意です。

ちなみに、財産分与を登記原因とした名義変更(所有権移転登記)は、離婚前にできない扱いとなっており、財産分与である限りは必ず離婚後の名義変更です。

参考:財産分与による不動産の所有権移転登記

離婚前には贈与税の特例を使う

婚姻期間が20年を超える夫婦では、マイホームを贈与しても、贈与額から2,000万円まで控除できる特例(配偶者控除)があります。

婚姻期間が20年超と条件は厳しいですが、マイホームを使った財産分与での譲渡所得が3,000万円を超えてしまう状況なら、積極的に活用するべきでしょう。

また、贈与税には年間110万円の基礎控除もあるため、合計すると2,110万円までは課税されずに贈与することが可能です。

こちらは逆に離婚してしまうと使えないので、離婚前にはマイホームの名義から2,110万円相当分を贈与で持分移転させ、離婚後に残りを財産分与して、譲渡所得税のマイホーム特例を適用させる節税が理想的です。

財産分与での損失にも特例がある

譲渡所得なんて出るはずないから自分には関係ない! そう思っている人なら、むしろこちらが関係してくるかもしれません。

住宅ローン残高よりも低い時価で財産分与が行われると、住宅ローン残高と分与額の差額は、分与した側の損失とみなされ、給与所得など他の所得と相殺できる(損益通算といいます)特例があります。

しかもこの特例では、損益通算しきれなかった損失を、3年まで繰り越すことができます。したがって、住宅ローン残高と分与額の差額を他の所得で取り戻すまで、損益通算した他の所得は課税されないということです。

この特例も、配偶者のような特別な関係にある人への譲渡では使えず、所有期間(取得した日から財産分与した年の1月1日で判定)が5年超など複数の要件があるので、税理士に相談するか国税庁のホームページ等で確認してください。

なお、この特例は平成27年12月31日までの時限措置だったのですが、平成29年12月31日まで延長されました。今後も延長される可能性はあるとはいえ、時限措置であることは頭の隅に入れておきたいところです。

※追記:令和3年12月31日まで延長

まとめ

譲渡所得なら3,000万円の特別控除が、譲渡損失になっても損益通算と繰越控除ができる点を踏まえると、マイホームは離婚後に分与するほうが節税面で有利です。

それ以前に、財産分与での時価は税務署が判断するのではなく、分与する側の申告に疑いがなければそれで通用します。マイホームの価値を適切に評価しておかないと、思わぬ譲渡所得や譲渡損失が出てしまうでしょう。

もしかしたら、譲渡損失は問題ないと考える人がいるかもしれませんが、時価を低く見積もって財産分与したということは、それだけ余計に財産分与しているのですから、結局は損をしていることになります。

というわけで、マイホームは正しく評価した上で、譲渡所得と譲渡損失も良く考えてから財産分与するのが正解ということです。

不動産の評価方法については、別記事があるので参考にしてください。

参考:離婚の財産分与を不動産で行うときは評価方法に注意

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