調停申立て時に相手方の住所がわからないとき

調停を申し立てる人を申立人、申し立てられる人(争いの相手)を相手方と呼びます。調停は相手方を指定して利用する裁判所手続なので、当事者である相手方を調停に参加させる都合上、相手方の住所を知らなくては申し立てられません。

この場合の住所とは、住民登録のある住所という意味ではなく、個人なら現に居所にしている居住地、法人なら営業所や事務所の所在地などになりますが、相手方が法人なら登記などで調べられるので、問題があるとすれば個人です。

自分の知っている相手方の住所に住んでいないとしても、裁判所は相手方がどこに住んでいるかなど調査はしてくれません。調停を申し立てる前に、自力で相手方の居所を調べる必要があります。

住所を知っていそうな勤務先・親族・友人・知人などに問い合わせて、素直に教えてくれれば助かりますが、勤務先は個人情報を理由に拒むでしょうし、他の人も口止めされていると難しそうです。

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公的な記録がないか調べる

役所に記録が残っていると、交付に手数料はかかりますが、誰にも気兼ねすることなく住所を調べることができます。可能性としては、住民票と戸籍の附票です。

住民異動届を出さなくても(いわゆる住民票を移さなくても)、引っ越すことは当然できますが、法令に定められた義務でもあり不便なことも多いため、転居するときは住民票を移すのが常識です。

住民票から調べる

相手方の住所を最初から知らない場合を除くと、現住所は知らなくても、過去の住所くらいは知っているでしょう。もし、相手方が住民異動届を出して転居していれば、住民票を取り寄せることで調べられます。

知っている過去の住所から、役所に住民票の写しを請求していくのですが、他人の住民票を取るには正当な理由を必要とするため、調停を理由にするしかありません。

なお、他の市区町村に転居していると、住民票は除かれて除票となるため、除票を請求していくことになります。除票には異動先が書いているので、今度は異動先の役所に住民票(除票)を請求して追っていきます。

ただし、相手方が住民異動届を出さずに転居したときは、住民票で調べることはできません。

戸籍の附票から調べる

住民票では、異動があるごとに異動先の住所がある役所に請求しなくてはならず、郵送請求していると思っているよりも時間がかかります。

その点、戸籍単位で管理される戸籍の附票では、同じ戸籍に在籍している限り、戸籍に記載された日からその戸籍で除籍されるまでの住所が入手できます。戸籍単位なので、転籍などで戸籍の異動があると、異動先の戸籍に附票は引き継がれません。

この場合の住所とは、住民票と同じく住民異動届をしている場合に限られるので、届出せずに転居していると追うことはできませんが、戸籍に移動がない限りは、一度の申請で住所歴がわかるので便利です。

その代わり、戸籍の筆頭者と本籍を知らないと取ることができず、そもそも戸籍の附票は本籍地の役所にしか請求できない書類です。他人が取るためには正当な理由を必要としますが、ここでも調停を理由にするしかないでしょう。

戸籍が除籍(全員が除かれた戸籍)になった場合は、戸籍の附票も除票になります(除附票といいます)。

相手方がDV等支援措置を受けている場合

相手方がDV等支援措置を受けていると、住民票や戸籍の附票は取得に制限がかかります。

参考:市区町村でのDV等支援措置(住民基本台帳等)

したがって、住民票や戸籍の附票を、申立人(DV等の加害者とされている人)が取得することはできないのですが、調停の申立ては、特別に必要がある場合と判断されて、裁判所の調査嘱託を利用できる可能性があります。

調査嘱託は万能ではなく、相手方がどの市区町村に住んでいるのか(住んでいたのか)も全くわからない状況で、全国の市区町村に調査嘱託で照会するようなことはできないので注意してください。

もちろん、調査嘱託を利用したところで、相手方へ調停が申し立てられたことを通知するために住所が必要なだけですから、調停の申立人が相手方の住所を知ることはできません。

それでも、調停の申立てができない状況よりは前に進みます。

※詳細については別記事を用意する予定です。

弁護士会照会を利用する

勤務先に住所変更を伝えないと、保険、税金、通勤手当等の関係で何かと面倒が起きやすいため、他には知らせていなくても勤務先には伝えるかもしれません。

また、住民票を異動せずに転居しても、これまで住所を登録して利用してきた社会インフラやサービスの全てに対し、住所変更を一切しないのは難しいと思われます。

そこで、勤務先や電話会社など何か手掛かりがあるなら、問い合わせると住所が判明する可能性はあるのですが、前述のとおり個人情報を理由に教えてくれないでしょう。

そのようなときは、弁護士が利用できる照会制度を使って問い合わせてもらいます。弁護士は、受任した紛争の解決に必要な範囲で、所属の弁護士会を通じて企業や団体に問い合わせすることができ、これを弁護士会照会といいます。

参考:弁護士会照会制度(23条照会)は何ができるのか

弁護士会照会を受けた企業や団体は、基本的に回答する義務がありますし、弁護士が相手なら個人の興味本位ではないので、回答する企業は多いです。

しかし、弁護士といえども依頼がない案件で弁護士会照会は利用できず、調停を弁護士に依頼しなくてはなりません。つまり、費用が必要ということです。

それでも、調停から訴訟まで代理人として動いてくれることから、手間が大幅に減りますし、法律の専門家を味方につけるメリットが大きいのではないでしょうか。

探偵や興信所に依頼する

いわゆる調査会社ということで、手がかりになる情報が何かあって、お金さえ用意できれば判明することが多いです。もっとも、調査会社はそれが仕事なのですが……。

仮にお金をかけて住所が判明しても、調停が成立するどころか出席するとも限らず、裁判所からの郵便で住所が知られたとわかれば、また転居も考えられます。

ですから、調停で探偵や興信所に住所を調べてもらい、わかったところで何も進まない上に転居されては意味がありません。訴訟なら訴状を送ることは重要ですが、調停での調査会社への依頼は、費用対効果を良く考えましょう。

それでも、行方が知れない相手は探しておかないと、調停以前の問題として泣き寝入りするしかないのですから、前に進むためには手を打ちたいですよね。

探偵や興信所の中には、浮気調査など特定の案件しか扱わない業者も多いので、人探しをしてくれる探偵や興信所を選ぶことが第一です。

住所不明では調停が始まらない

調停を始めるには、調停申立書に必要事項を記入して、相手方の住所地を管轄する裁判所に申し立てるという手続が必要になると「調停を始めるには裁判所への申立てから」で説明しました。

ということは、相手方の住所地(現住所)がわからない場合には、調停を申し立てることすらできない(申立書が受理されない)のでしょうか?

住所不明と申立書に記入しても当然に受け付けてもらえませんから、現住所と思われる住所や嘘の住所を記入して申し立てたとしましょう。

申立書の相手方の住所として書いてある住所には、裁判所から調停期日通知書(呼出状)などが送られますが、相手方がそこに住んでいなければ通知を見ないわけで、知りもしない調停に現われることはないですよね?

それ以前に、相手方が住んでいない住所に郵便を送っても、いい加減な住所では「あて所に尋ねあたりません」で郵便が裁判所に戻ってきますので、これは申立書の不備ですから、当然に不備の補正を求められるか調停を取り下げるか確認されます。

調停が始まっても何も進展がない

もし、相手方が郵便局に転居届を出しておらず、相手方の元住居に配達されてしまったとして、そのまま調停が開かれるとしましょう。

申立人だけの出席では、調停が不成立か取下げになるばかりか、無駄に裁判所に足を運んで、来るはずのない相手方を待つようなことは誰もしないはずです。

つまり、相手方の居所を知らずに調停を申し立てても、何の解決にもならず申立人にメリットはないのですが、訴訟を視野に入れて調停の不成立を狙うケースでは、調停が不成立になったこと自体は若干の意味を持ってきます。

住所不明を隠して調停を不成立にしても…

家庭内の争い(家事事件)では、調停前置主義といって訴訟の前に調停から始めなくてはならない争いが多いです。

調停前置になる事件で調停を無視して訴訟を起こしても、裁判所が職権で調停から始めさせる(付調停といいます)ので、調停を避けることは基本的にできません。

しかし、調停が相手方の出席拒否で不成立になっていれば(取下げであっても)、一応は調停を経由しているので、訴訟手続を進めることは可能です。

そこで、わざと調停を不成立にするために、住所不明を隠して調停を申し立てたとしても、そうは簡単に物事はうまくいきません。

訴訟では特別送達が使われる

調停では普通郵便で調停期日通知書(呼出状)が送られますが、訴訟では特別送達という特殊な郵便で訴状が送られます。特別送達では、受領者(受送達者)と送達の日時が記された、郵便送達報告書が裁判所に提出されます。

そのため、訴訟において被告の住所が不明では、裁判所が訴状を受理してくれませんし、嘘の住所で送達してもらっても、正常に送達がされず、被告が訴状を受け取れないので、手続がそれ以上進まないのです。

そして、どうしても住所が分からない場合に行われる「公示送達」という手段もありますが、公示送達を裁判所に認めてもらうのは大変です。

調停でもそうであるように、裁判所は相手方の住所を調べてくれないので、公示送達を許可してもらうためには、どうしても公示送達しか手段が無いということを、原告側で証明しなければなりません。

具体的には、住所をあらゆる手で調べ上げたが、どうしても判明しない経緯を証拠(調査報告書)として残し、裁判所に報告する必要があるということです。

公示送達を認めてもらうため、結局は相手方の住所を調べなければならないのですから、相手方の住所を突き止める努力をせずに、住所不明を隠した調停の申立ては、結果的に意味が無いことになります。

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