財産分与の対象になる財産の中で、不動産は特に評価が難しく、それは定価のない不動産だけに売却してみないと本当の価値がわからないからです。
また、売却すれば現金で簡単に分割できても、離婚後もそのまま住み続けたい、住宅ローンの残債が多い(オーバーローン)などの事情から、売るに売れないケースもありますよね。
どのような不動産でも、評価方法によって金額(評価額)が変わります。
金額が変わるということは、財産分与全体に影響を与えますので、財産分与をする側・される側のどちらにも影響が大きく、財産分与する側は高く評価されたほうが得、財産分与される側は安く評価されたほうが得です。
例えば、時価1,000万円の住宅が1,200万円で財産分与されると、財産分与される側は、1,000万円の価値しかない住宅を1,200万円分として取得したことになります(200万円分の損)。
逆に、時価1,000万円の住宅が800万円で財産分与されると、財産分与される側は、1,000万円の価値がある住宅を800万円分で取得したことになります(200万円分の得)。
不動産を公平に時価で評価するのか、自分にメリットがある評価額を選ぶのかは人それぞれの考え方ですが、いずれにしても評価方法の違いについては知っておくべきでしょう。
固定資産税評価額から不動産を評価する
不動産の所有者には、毎年5月頃に市町村(東京23区は東京都)から固定資産税納税通知書・課税明細書が送られてきます。
固定資産税課税明細書を見ると、土地と建物に分かれてどこかに「評価額」が記載されています。見覚えのある人も多いのではないでしょうか(価格と記載されていることもあります)。
この評価額(または価格)を「固定資産税評価額」といいますが、固定資産税評価額には、いくつか重要な注意点があるので説明しておきます。
固定資産税評価額は時価よりも低い
固定資産税評価額は、実勢価格と呼ばれる市場相場よりも低く設定されており、なおかつ土地と建物で異なる次のような評価水準です。
- 土地:地価公示価格の7割を目途とした価額
- 建物:新築価格の5割~7割程度に経年劣化を考慮した価額
土地の評価で基準にされる地価公示価格とは、毎年国土交通省から公示される全国の地価で、市場取引でも参考にされる重要な指標です。土地の固定資産税評価額は、地価公示価格の7割を目途とすることが、固定資産評価基準に定められています。
建物の場合、同等の建物を再建築したと想定した場合の価格(再建築価格といいます)を使うのですが、施工業者等の利益が含まれないので、一般的には新築価格の5割~7割程度の水準とされ、築年数に応じて減価されます。
これらを踏まえると、財産分与する不動産に固定資産税評価額を使う場合には、土地なら0.7で割った金額、建物なら0.6で割った金額を使うことで、比較的妥当な評価になります。
離婚調停や財産分与請求調停では、固定資産税評価額を資料として提出することも多いのですが、固定資産税評価額をそのまま使うと一般的に時価よりも低く、財産分与される側に有利です(本当は価値の高い不動産を低い価値で受け取るため)。
ただし、必ず時価より低くなるかというと、そうでもないのが固定資産税評価額の面倒なところで、個人的には財産分与に固定資産税評価額はおすすめできません。
固定資産税評価額は3年度に1回しか変わらない
固定資産税評価額は、毎年全ての土地・建物ごとに算定すると、役所の事務処理が膨大になることから、原則として3年度に1回変わります(評価替えといいます)。
3年度に1回ということは、財産分与が行われるタイミングによって、最長で3年前の評価額になってしまい、時価を反映していない可能性があります。
地価が下落すると、評価替えがない年度でも時点修正という仕組みで固定資産税評価額を下方修正することがある一方、地価の上昇に時点修正は適用されません。
それでも、3年間にどれほど資産価値の変動があるか考えると、あまり気にする必要はないともいえますが、新しい建物の場合には築年数が3年違うと売買価格は結構変わるので、固定資産税評価額を信頼しすぎるのはよくないでしょう。
また、直近の数年で地価上昇があった場合には、土地の固定資産税評価額が適正ではない可能性を考えておきたいところです。
古い建物でも固定資産税評価額はゼロにならない
建物の固定資産税評価額は、同等の建物を再建築したと想定した再建築価格(時価の5割~7割水準)を使い、築年数に応じて減価される説明しました。
課税時点での再建築価格に対して、築年数に応じた経年減点補正率という数値を乗じることで減価していくのですが、どんなに古い建物でも再建築価格の2割を下限とします。
再建築価格の2割に達する築年数は、再建築価格が高いほど遅くなり、一般的な木造住宅で20年~25年、RC造・SRC造マンションでは60年に設定されています(鉄骨造はその中間付近)。
そうすると、木造で建てられる多くの戸建て住宅は、20年~25年で固定資産税評価額が下がらなくなり、売却価格が付かなくなるほど古くても固定資産税評価額は一定の額で維持されます。
その結果、古すぎる家を固定資産税評価額で評価すると、逆に時価よりも高くなってしまうのです(これは財産分与する側に有利です)。
大都市圏のマンションは固定資産税評価額があてにならない
大都市圏のマンション、特にブランドマンションと呼ばれる高価格帯マンションは、築年数の経過で価値が下がるどころか、築10年を過ぎても新築時より値上がりしているケースすらあります。
ところが、固定資産税評価額に使われる前述の経年減点補正率は、単純に築年数で減価していきますから、常に値下がりする前提です。
したがって、ほとんど値下がりしていないマンション、または値上がりしている人気のマンションは、固定資産税評価額を0.6で割り戻しても、時価には全く届かない評価になってしまいます。
マンションは、一部屋あたりの土地がほとんどないので、建物同様に0.6で割り戻すとしましたが、土地を考慮してもそれほど変わらないでしょう(共有敷地の広いマンションや一等地を除く)。
よって、資産価値の高いマンションについては、財産分与に固定資産税評価額を使って評価するのは危険です(財産分与される側にかなり有利)。
実勢価格を調べて不動産を評価する
実勢価格とは実際に売買されている価格のことですが、類似の物件について取引情報を集めていくと、大体の価格帯(相場)までは調べることができます。
ただし、取引情報はあまり公開されておらず、利用できるとしたら国土交通省の不動産情報ライブラリか、レインズの不動産取引情報提供サイトでしょうか。
不動産価格(取引価格・成約価格)情報の検索・ダウンロード
不動産取引情報提供サイト(レインズ)
いずれも地域を絞り込んで過去の取引情報を検索できます。
取引情報はあくまでも参考価格
例えば、全く同じ間取りで隣り合ったマンションの部屋でも、どちらかがエレベーターに近いなどの理由で、同じ価格にはならないでしょう。同じ道路に並んでいる広さが同じ土地でも、僅かな立地の違いから異なる価格になってもおかしくありません。
このように、どの不動産も異なる条件を持っており、過去に取引された情報は、全て「別の不動産の売買価格」でしかありません。隣の家がいくらで売れたから、自分の家も同じ価格で売れるというものではないのです。
したがって、取引情報をできるだけ多く集めた上で、実勢価格として不動産を評価する場合は、価格ではなく「価格帯」として参考にすべきです。
また、公表されている取引情報は全ての不動産取引を網羅したものではなく、そもそも地方なら取引の絶対数が多くありません。
不動産相場は常に変動しますから、あまり古い情報をアテにしてしまうと時価を見誤ってしまいます。情報が古い・数が少ない場合には注意しましょう。
例えば、取引情報を増やすために、数年分をピックアップして平均したところで、直近の時価相場にならない可能性があるということです。
周辺の売り物件を調べてみる方法もある
過去の取引情報で不足する場合は、不動産のポータルサイトで、近隣・類似の売り物件を調べてみるのもよいかもしれません。
財産分与での不動産評価は、夫婦が納得できる価格なら正確な時価である必要はなく、現在売り出されている物件の価格は、それなりに時価を反映しているからです。
その代わり、売り物件の価格は市場相場よりも少し高いことが多いです。要するに、誰でも高く売りたいので高い価格で売り出しますよね。
ですから、売り物件から判断する場合、1割くらいは割り引いて価格を考えましょう。
実勢価格は家庭裁判所に資料として提出しにくい
夫婦の協議段階において、実勢価格をベースとした財産分与の交渉はもちろん自由ですが、離婚調停や財産分与請求調停で提出する資料としては弱いです。
もし、過去取引や売り物件を調べて、妥当と思われる価格帯を得られたとしても、自分で売買情報を調べたらこのくらいの金額だったという主張では、客観性があるとはいえないですよね。
相手方が実勢価格での評価に納得しない場合、結局は他の評価方法を使わなくてはならず、あくまでも参考価格だとしたのは、こうした理由もあります。
不動産鑑定士に鑑定して不動産を評価してもらう
不動産鑑定士という国家資格を聞いたことがあるでしょうか?
不動産鑑定士は、不動産鑑定を業として行うことができる唯一の資格で、不動産の時価を調べるとしたら、不動産鑑定士の鑑定評価額が最も正確だと思われます。
国土交通省が行う地価公示でも、基礎となる価格は不動産鑑定士の鑑定評価額を使いますし、この分野で不動産鑑定士の右に出る者はいません。
とりわけ、財産分与の対象不動産が高額であればあるほど、固定資産税評価額や実勢価格では時価の差が大きくなりがちで、不動産鑑定士に依頼するメリットは大きいと考えられます。
デメリットはお金がかかること
不動産鑑定士は不動産の鑑定が商売なので、当然にタダで鑑定してくれず、どんなに安くても10万円以上はかかると思って間違いないです。
しかも、不動産の価格に応じて、不動産鑑定士の報酬も高くなる料金体系になっており、一般的な住宅なら数十万円はかかるでしょう。そのため、鑑定評価額を出してまで不動産を正確に評価したい人は少数派です。
もっとも、夫婦の主張が数千万円も異なるようなケースでは、無理に争って弁護士費用をかけるより、不動産鑑定士に鑑定評価額を出してもらったほうが、紛争の解決には実効性があってなおかつ安く済むのかもしれませんね。
家庭裁判所へ提出する資料としては最も信頼できる
不動産の評価額が争点の際には、裁判所が不動産鑑定士に依頼することもあります。
つまり、裁判所から依頼されるほど、不動産鑑定士の鑑定評価額は信頼性・客観性があると考えられているのですが、複数人の不動産鑑定士から同じ鑑定評価額が出てくることは多くありません。
したがって、夫婦の一方が不動産鑑定士に依頼して鑑定評価額を主張してきても、それは依頼者の意向が反映されている可能性を意識しておきましょう(もちろんあり得ない鑑定評価額にはならないですが)。
売却査定価格で不動産を評価する
不動産会社は、営業の一環として無料で売却査定を受け付けており、査定価格にはリアルな取引相場を把握している不動産会社ならではの強みがあります。
売却査定は、本来であれば売却予定の人が利用するのですが、無料で査定依頼したからといって何かを契約する必要はないですし、むしろ価格相場を知りたいときこそ利用したいサービスです。
もっとも、売却査定の結果を見て、思ったより高ければ売却して現金の財産分与を検討すればよく、思ったより安ければ売らずに不動産で財産分与をしてもいいのではないでしょうか。
最大のメリットは相場に近い客観的な評価を得られること
これまで、固定資産税評価額、実勢価格、鑑定評価額と説明してきましたが、それぞれに特有のメリットとデメリットがあって一長一短です。
- 固定資産税評価額:簡単に調べられるが時価と乖離しやすく信頼性に欠ける
- 実勢価格:類似物件を数多く調べるのが大変で客観性に乏しい
- 鑑定評価額:信頼性・客観性ともに高いとはいえ費用が発生する
不動産会社の売却査定を利用する最大のメリットは、相場観のある査定価格を得られること、なおかつ第三者による客観的な評価を同時に得られることです。
実際、離婚調停や財産分与請求調停において、査定価格が主張されるケースは珍しくありません。
ただし、売却査定も1社だけの評価では信頼性がいまひとつなので、いえカツやマンションに特化した
マンションナビのような一括査定サービスを使うと、複数の査定価格を比較できて利便性と精度が格段に高まります。
売却査定価格には不動産会社の意向が出やすい
査定価格は、時価相場を反映しそうに思えるところ、必ずしもそうとは限らず、不動産会社の意向が査定価格に反映してしまうことがあります。
というのも、不動産会社が無料で売却査定をしている目的は、査定の依頼者に、査定価格の提示だけではなく売却の依頼(媒介契約)もしてもらいたいからです。
そのため、依頼者に「高く売れそうだ」と思わせることも大切な一方、相場から外れた高い価格で査定してしまうと、逆に信用を落としますよね。
ですから、相場に近い範囲で高めの査定価格を出してくる不動産会社が多いのですが、時価相場という視点では明らかに余計な要素でしょう。
不動産会社の売却査定を利用するときは、最高価格と最低価格をできるだけ外し、平均的な査定価格を参考にしたほうがよさそうです。
夫婦双方が売却査定すると価格差が開きやすい
財産分与の対象不動産で、評価額に争いがあるときは、夫婦の双方がお互いに売却査定価格を主張しあうことも少なくありません。
何度か説明しているように、財産分与する側とされる側では、不動産の評価額が与える影響(利益・損失)が正反対ですから、財産分与する側は高い査定価格を選び、財産分与される側は安い査定価格を選びがちです。
しかし、結局のところは、夫婦双方が主張している査定価格の中間が落としどころとなり、実際にもそのくらいの価格が時価に近いことも多いでしょう。
はっきり言えるのは、ダメ元で一番高い(安い)査定価格を主張するのはいいですが、自分は売却査定を利用せず、相手が主張する査定価格を鵜呑みするのだけはよくないということです。
まとめ
不動産の評価方法4種類を比較できるようにまとめました。
情報元 | 時価に近いか | 客観性 | 費用 | |
---|---|---|---|---|
固定資産税評価額 | 市町村 | △ | ○ | 無料 |
実勢価格 | 公私のWebサイト | 情報量しだい | △ | 無料 |
鑑定評価額 | 不動産鑑定士 | ◎ | ◎(場合によって○) | 10万円~ |
売却査定価格 | 不動産会社 | ○ | ○ | 無料 |