婚姻費用の清算と財産分与

婚姻費用というのは、婚姻中に発生する夫婦の生活維持費のことを言います。夫婦には協力扶助義務がありますから、同居・別居に関係なく、お互いの生活を維持するための費用を分担しなくてはなりません。

ところが、夫婦関係が悪化すると、婚姻費用の分担を拒否する(いわゆる生活費を渡さない)事態が起こってきます。それでも義務は義務ですから、収入が少なくて生活に困っているのなら、夫婦の一方は他方に対し婚姻費用の分担請求が可能です。

したがって、婚姻費用が財産分与に関係してくるのは、婚姻中に婚姻費用を請求しても分担されず、未払い状態にあるときです。ここでは、婚姻費用を受け取る側として説明していきます。

財産分与で未払い金の清算をする

離婚時の財産分与では、清算的財産分与は離婚時の夫婦の財産について相互の持分を明確にするため、扶養的財産分与は離婚後の生活を一定期間保証するため、慰謝料的財産分与は離婚に責任のある側が精神的苦痛を賠償するためという目的を持ちます。

これらから、過去に支払われるべきだった婚姻費用の清算は、3つの財産分与のいずれにも含まれていません。

婚姻費用は、婚姻中の扶助に要する費用で扶養的要素を持っていますから、扶養的財産分与に含めて清算する考えもありますが、過去に生じた婚姻費用を将来の扶養的財産分与に含めるのもまた違う話でしょう。

また、婚姻費用を支払わなかったことで、支払うべきだった配偶者は財産を減らさずに済んだとも考えられ、相当額を清算的財産分与に含めるべきとする考え方もあるでしょう。

この点には意見が分かれるところですが、一切の事情を考慮する財産分与の性質上、婚姻費用の未払いを含めて財産分与することには制限もなく、婚姻費用相当額として財産分与で増減できます。

ただし、婚姻費用の取り扱いは微妙な問題を含んでおり、財産分与での清算がうまくいかないケースも多くあります。

過去の婚姻費用を請求することはできる?

婚姻費用とは婚姻中の生活費で、現在や(例えば来月分とするような)近い将来に対する請求となるのが通常の認識です。そのため、過去の婚姻費用については、性質から請求根拠が希薄だとする主張があります。

なぜなら、真に過去の婚姻費用が不足していれば生活ができなかったはずで、現に請求の時点まで生活できていれば、過去に生活できていたという実績を同時に積み上げていることに他ならないからです。

もちろん、生活を切り詰めたり借金をしたりと、苦しい生活は疑いようもないとはいえ、過去に必要だった生活維持資金を現在請求できるかどうかの疑問は消えません。

しかし、過去の婚姻費用を認めないとするなら、配偶者が困窮することを知りながら支払いを拒否し続けた結果、離婚時に全て免責されてあまりに不公平です。

夫婦には同等の生活水準を維持する扶助義務があり、義務を怠って何も制裁がないのは道義的にも問題があります。

そこで、過去の婚姻費用も認めるべきと解されているのですが、いつから請求できるのかという点でも意見が分かれています。

過去に請求された婚姻費用は認められる

財産分与を協議する時点で、以前に婚姻費用の給付を約束した公正証書、または婚姻費用分担請求調停で婚姻費用の給付に合意した調停調書があって、その支払いがされてこなかった場合は、当然清算しなくてはなりません。

また、内容証明郵便やメール等で請求された証拠がある場合は、容易に婚姻費用が必要だったと訴えることができますし、過去に婚姻費用分担請求調停を申し立てていれば、申立てのあった時点からは認められる可能性が高いでしょう。

このように、明確に請求の証拠がある過去の婚姻費用は支払うべきとするのですが、請求してこなかった場合と、口頭で請求してきたが支払われなかったという場合は、婚姻費用が持つ特性から、清算に応じない可能性も考えられます。

家庭裁判所としても、過去の婚姻費用は請求があったときからとする運用でほぼ統一されていて、請求がなかった又は請求の事実認定ができない過去の婚姻費用を、全て認めてもらうのは極めて困難です。

財産分与の「一切の事情」で清算する

財産分与請求での「一切の事情」とは、夫婦が婚姻中に生じたあらゆる事情を対象し、当然に婚姻費用が分担されてこなかったことも事情です。

過去に請求してきた証拠がなければ家庭裁判所も直接の請求を認めにくいので、財産分与で考慮して欲しいと調停委員に訴えてみましょう。

ただし、調停は相互に譲歩して交渉しなければ話がまとまらないので、本当に必要だったはずの婚姻費用から減額するなど、了承されやすい条件にすることで、財産分与での清算まで持っていくのも方法論としては有効です。

それ以前に、婚姻費用が支払われず生活に困っていた経緯は説明しなくてはなりませんから、当時の生活(収入や支出)を証明できる資料などを用意して、調停委員に訴え続けることが大切です。

また、請求がなかった過去の婚姻費用については、どのくらいの期間を認めるといった基準は全く存在せず、家庭裁判所の判断で変わってしまうようです。

請求してこなかった側も本当に必要だったのか疑われるところですから、意地を張って争い続けてもメリットはあまりありません。

頑なに過去の婚姻費用を認めないとき

財産分与請求調停は離婚後の調停で、婚姻中なら離婚調停の付随申立てとして財産分与が話し合われます。婚姻中は、婚姻費用の請求権が確実にありますから、離婚調停とは別に婚姻費用分担請求調停を申し立てる方法もあります。

あえて婚姻費用分担請求調停を申し立てるのは、過去の婚姻費用が認められないとしても、将来に渡って婚姻費用を支払わせ、経済的に追い込む戦略です。

したがって、婚姻をできるだけ長く継続させるため、自分が離婚調停を申し立てた側なら取り下げ、離婚調停を申し立てられた側なら離婚に合意せず長引かせます。

調停は1ヶ月に1回程度ですし、離婚裁判も相当に時間がかかります。

離婚までが長引けば長引くほど、婚姻費用の支払いは累積されていくので、相手としては将来の婚姻費用を長期間支払うなら、過去の婚姻費用をある程度認めて清算した方が合理的との判断に行き着きます。

相手が離婚をしたくない側だったとすると、離婚調停の取下げは相手の希望通りになってしまいますが、夫婦が元に戻るはずもなく別居状態は続き、加えて婚姻費用の支払いはかなりの負担です。

過去の婚姻費用を認めない人は、お金には細かい性格が予想され、経済的損失には敏感に反応するでしょう。

離婚後でも婚姻費用分担請求調停は申し立てられる?

離婚後の財産分与請求調停で、過去の婚姻費用を相手が認めずに調停が終了したとして、別に婚姻費用分担請求調停を申し立てられるのでしょうか?

婚姻費用が婚姻中に生じる費用であることから、婚姻費用分担請求調停は婚姻中の調停なので、離婚後は原則として申し立てられません。

しかし、先の財産分与請求調停で過去の婚姻費用に合意せず、請求権が明らかに存在するならば、申立てが却下される理由はないでしょう(離婚後の紛争調整調停で扱うことも考えられます)。

もっとも、財産分与請求調停の時点で、過去の婚姻費用を相手が認めなければ、調停を成立させずに審判で家庭裁判所の判断を仰げば良く、財産分与請求調停を成立させた場合は、過去の婚姻費用が含まれていないことを、調停調書に残しておくべきです。

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