扶養的財産分与とは~夫婦の経済力格差と解釈論

最終更新日:2023/2/2

扶養的財産分与とは、夫婦の一方に自力で生活できるだけの能力・資力が欠けているとき、離婚後の生活を保護する趣旨で行われる例外的な財産分与です。

夫婦の実質的共有財産を清算する清算的財産分与や、損害賠償の性質がある慰謝料的財産分与は理解しやすくても、扶養的財産分与に疑問を持つ人は多いでしょう。

なぜなら、婚姻中と異なり、離婚で他人となればお互いに協力扶助する義務がないからです。

にもかかわらず、扶養的財産分与は実務上認められてきました。

扶養的財産分与をどのように解釈すべきか。この記事で少しでも理解が進めば幸いです。

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扶養的財産分与の理論的根拠

財産分与に扶養的要素が発生するからには、離婚後に夫婦の一方(財産分与される側)が扶養を必要とする経済状態でなければなりません。

不労所得や財産の費消を除くと、経済力(生活費を稼ぐ所得能力)は個人に専属しますから、離婚時における所得能力の違いは、そのまま離婚後の経済状態に直結しますよね。

では、所得能力の差は婚姻生活と無関係なのでしょうか?

ここが扶養的財産分与を理解していくうえでの重要なポイントです。

夫婦は合理的に役割分担をしている

夫婦生活を継続するために、夫婦の少なくとも一方は収入を得る必要があります。

夫婦共働きが増えたとはいえ、夫が就労を担当し、妻が家事を担当して支えていく形態はまだまだ多く、これからも無くならないでしょう。

なぜなら、男女平等にほど遠い日本では、同じ時間を就労に費やすとしたら、一般に男性のほうが多くの収入を得られるからです。しかも、夫が年長の夫婦ならその差は広がります。

また、妊娠・出産という女性にしか備わっていない身体的機能の違いや、家事に対する風習や熟練度の違いなど、総合的かつ合理的な選択として役割分担を決めているのではないでしょうか。

婚姻の目的と役割分担の影響

さて、婚姻は運命を共にして終生を誓う、といっては大げさかもしれませんが、単に共同生活が目的なら婚姻しなくてもよいのですから、婚姻は夫婦という共同体になることへの宣言や、社会からの承認が目的だと考えられます。

共同体なので、就労や家事をどのように分担し、その比率が100%だろうと50%だろうと、夫婦のトータルで家計を捉え、将来のための貯蓄など財産形成をしていくはずです。

このとき、就労を主とする側(多くは夫)は、キャリアを積みスキルを向上させ、より多くの収入を得るための基盤ができる一方、家事を主とする側(多くは妻)は、いくら家事にエネルギーを費やしても自らの所得能力にほとんど繋がりません。

家事に専念したことが幸いして、料理や掃除のアドバイザーや代行業務を請け負う人、書籍を出版する人などもいますが、まれなケースです。

そして、婚姻期間が長いほど大きい所得能力の減退(または会得する機会の損失、以下同じ)は、夫婦が共同体として終生を共にする想定があるからこそ受け入れられるものです。

例えば、婚姻を機に退職して専業主婦となる妻は、もし離婚するとわかっていたら、社会復帰しにくいリスクを背負ってまで退職したでしょうか?

離婚後に、退職時と同等以上で社会復帰できる人は少なく、家事に専念することで、婚姻中に生じるキャリア形成・スキルアップの機会損失は、将来にも影響する大きな経済的不利益となるのです。

この「婚姻中に生じた所得能力の減退」を鑑み、離婚後の生活が困窮する側に、一定の生活水準を維持できる所得能力の回復まで、扶養的要素を認めるのが扶養的財産分与の理論的根拠です。

つまり、婚姻関係は終了していても、扶養性の存続を余後効として解釈します。

したがって、共働き夫婦など互いに自活ができる場合、清算的財産分与や慰謝料的財産分与によって離婚後の生活が十分な場合には、財産分与に扶養的要素を考慮する余地がありません。

扶養的財産分与は「救済」なのか「補償」なのか

財産分与を規定した民法第768条1項は、「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」と簡潔な文言になっており(裁判上の離婚でも準用)、財産分与の実務は判例や学説によって支えられてきました。

しかも、法律上で扶養義務のない元夫婦の一方に、扶養的要素の財産分与請求権・分与義務を認めるのですから、その要件は限定的であるべきでしょう。

ところで、「婚姻中に生じた所得能力の減退」を根拠に、経済力の乏しい側の生活を扶養的財産分与がカバーするとして、それはどのような性質の義務なのでしょうか。

考え方には二通りあって、①離婚で生活に困窮する側を人道的見地から救済すべきとする立場と、②所得能力の減退を補償すべきとする立場です。

前者は、生計維持の不足分を補充して助ける性質ですが、後者は異なります。

補償の立場では他の解決方法も考えられる

所得能力の減退を補償すべきとする立場では、夫婦で決めた役割分担(就労・家事)が、所得能力の不均衡を生みだす主な原因だとして、財産分与にその対価を求めます。

したがって、婚姻中に生じた所得能力の不均衡を根拠とする必然の財産分与であり、扶養的財産分与も財産分与の中核です。

しかし、扶養的財産分与がそのような補償であるならば、扶養的要素というよりは、財産分与における「一切の事情」だともいえますし、逸失した(婚姻中に就労していれば会得するはずだった)所得能力への賠償のような意味合いも観念できるでしょう。

そうすると、清算的財産分与もしくは慰謝料的財産分与でも処理できますから、定義や根拠が難しい扶養的財産分与に解決を求めなくても良いように思えます。

扶養的財産分与には事情が必要

ここからは、扶養的財産分与を「生活の困窮に対する救済」として説明していきます。

前述のとおり、離婚後の元夫婦には扶養義務がないので、扶養的財産分与は、離婚後の生計維持が困難な事情が存在しなければ請求できません

生計維持が困難な事情とは、例えば次のようなものです。

  • 親族に扶養義務を果たせる者がいない
  • 清算的財産分与、慰謝料的財産分与が少なく離婚後に生活できない
  • 病気や身体機能の障害などで就労能力に欠け自活が難しい
  • 子が幼く監護を必要とするため就職できない
  • 年齢的に年金以外の収入を見込めず生活できない
  • 自活をしたくてもできない特別な事情がある

これらの事情は、時に複数該当しますが、やむを得ず離婚後に継続したとしても、次のように状況が変われば解消されます。

  • 就労して生活できる収入を得た
  • 生活保護を受けられるようになった
  • 再婚して新たな配偶者に扶養された
  • 本人が死亡した

扶養的財産分与が恒久的ではないのは、元より法的な義務でもなく救済の意味を持つからで、生活できるようになるか必要がなくなると当然に終了します。

しかし、怠慢がなく努力しても、生活に不十分な収入しか得られなければ、必要な生活費との差額は引き続き扶養的財産分与で補充されます。

なお、扶養的財産分与の大前提として、分与する側(経済力のある側)が資力の許す範囲で行うのであって、扶養的財産分与の支払いに困ってしまうような状況では成り立ちません。

扶養的財産分与はいくら支払う?いつまで支払う?

扶養的財産分与の支払いは、原則として定期金(例えば月額○万円)による方法で、一時金(一括払い)には馴染まないとされます。なぜなら、給付目的となる生活費は、必要な額が継続的に発生するものだからです。

ただし、扶養的財産分与を受ける側に、一時金で受け取ることによる利益があるときは、一時金の方法も差し支えないと考えられています。

扶養的財産分与の金額は、生計を維持できる程度の不足分とされ、過大な扶養的財産分与は贈与と扱われてもおかしくありません。生活保護の受給で扶養的財産分与が終了するのは、生計の維持が可能な水準に達することが理由です。

扶養的財産分与の金額を、婚姻中と同程度(婚姻費用ベース)とする考え方もあるのですが、婚姻費用は夫婦の生活保持義務が前提にあるので、生計維持が可能な程度とする見解が有力です。

また、支払い期間については実務でも定まっておらず事情しだいです。

もっとも、扶養的財産分与を受ける側が自立に向けて何の努力もせず、単に扶養されることを目的にするのは道義的に許されないので、自立まである程度の猶予を与える趣旨から、数年間というのが一般的なようです

離婚の有責配偶者と扶養的財産分与

これまで、扶養的財産分与の理論的根拠と、義務性を説明してきました。

では、離婚原因を作った有責配偶者が、離婚で生活に困窮すると予想されるとき、有責配偶者からの扶養的財産分与請求は認められるのでしょうか?

この点については、有責配偶者からの扶養的財産分与請求は認めないとするのが、おおむねの判例・通説です。清算的財産分与は、有責配偶者でも認められるのに対し、扶養的財産分与は認められにくいと考えてください。

理由を説明する必要はないと思いますが、離婚後の経済的危難は有責配偶者が自ら招いた結果であり、有責配偶者の扶養を離婚後まで無責配偶者に押し付けるのは、社会的感情に反するからです。

そもそも、親族(実家の親、独立した兄弟姉妹など)による私的扶助や社会保障制度があるので、扶養的財産分与に頼らなければ生きていけない状況は、極めて少ないと考えられます。

扶養的財産分与と養育費

扶養的財産分与と同様に、離婚後の扶養的な性質を持つものに養育費があります。

実際、扶養的財産分与を受ける側が、子の親権者(監護者)で同居していると、わざわざ扶養的財産分与と養育費を分けて支払う理由はなく、両方で「毎月○万円」とすることもあるでしょう。

しかしながら、養育費はあくまでも子の養育に必要な生活費を、父母が経済力に応じて分担する性質ですから、元配偶者に対する扶養的財産分与と養育費は根拠も位置づけも異なります

平たくいえば、扶養的財産分与は子の親のため、養育費は子のためです。

たとえ、元配偶者が困窮から抜け出して、扶養的財産分与が不要になったとしても、子の養育費が必要なうちは、養育費の支払いを続けなくてはなりません

もっとも、養育費については事情変更(受け取る側の収入増)を理由に、分担額を再設定できる可能性はあるでしょう。

まとめ

  • 扶養的財産分与は離婚後の生活に困窮する状況がなければ発生しない
  • 夫婦の役割分担により生じた所得能力の減退が理論的根拠
  • 有責配偶者には扶養的財産分与を認めないのが判例・通説の立場
  • 生計維持できる程度の金額との差額を補充
  • 一般的には自活できる(または他の扶助を受けられる)までの数年間
  • 扶養的財産分与と養育費は全く別物
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