離婚届を勝手に出された場合に知っておくべきこと

最終更新日:2022/12/2

協議離婚においては、夫婦双方の離婚意思が前提であることから、夫婦の一方が他方の離婚意思を無視して、勝手に離婚届を出しても離婚は無効です

しかし、勝手に出された離婚届でも、役所が受理すると戸籍上は離婚が成立しています

真実ではない離婚が、成立したかのように戸籍へ記載されている状態なので、戸籍が間違っていると役所にいえばすぐに解決しそうですが、そのような簡単な話ではありません。

最終的には、訴訟での解決になるかもしれないほど大きな問題なので、離婚届を勝手に出されたらどのように対処すべきかよく考えましょう。

この記事が前提にしているのは、協議離婚での離婚届です。

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勝手に出された離婚届でも取り下げることはできない

離婚届を受け付けた役所は、離婚届が真正か(夫婦に離婚意思があるか、偽造されていないか)厳密には確認できず、そもそも離婚届は郵送や使者による届出が認められています。

流れとして、①離婚届の受付 ⇒ ②審査 ⇒ ③受理決定 ⇒ ④戸籍の記載なので、③受理決定の前に取り下げることは理論上可能ですが、平日の受付では受理までの時間が短く、一度受理された離婚届は取り下げることができません

勝手に出されるくらいですから、仮に知らされるとしても出した後になると思われますし、届出時に本人確認できなかった人には、離婚届が受理された後で「受理通知書」が送られます。

そのため、受理前に取り下げることは現実的に難しく、受理通知書が届いてから離婚届を勝手に出されたと知るケースが多いでしょう。

したがって、離婚届を勝手に出されたとわかって役所に無効だと詰め寄っても、役所が受理日にさかのぼって不受理とすることはなく、戸籍上で成立した離婚は変わらないのです。

偽造された離婚届が勝手に出された場合

配偶者が離婚届を偽造して役所に出すと、その犯罪行為は明らかですから、警察に相談するのはひとつの方法としてあるでしょう。

参考:離婚届を勝手に出すと犯罪です

実際に逮捕されたケースはありますし、逮捕されないとしても送検されるところまでは考えられます。ただし、検察官が起訴するかどうかまでは不確実です。

戸籍法上は、検察官から本籍地の市町村長に通知する規定がありますので、最終的に刑が確定して戸籍が訂正される可能性はあるとしても、離婚を無効にする方法としてはおすすめできません。

戸籍法 第二十四条第四項
④ 裁判所その他の官庁、検察官又は吏員がその職務上戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを知つたときは、遅滞なく届出事件の本人の本籍地の市町村長にその旨を通知しなければならない。

重要なのは離婚を無効にすることですから、離婚を無効にしたうえで、配偶者への処罰感情が強ければ刑事告訴を検討すべきです。優先順位が大事ということですね。

自分で直筆した離婚届が勝手に出された場合

自分で書いた離婚届が出されて困るとしたら、書いた後で離婚を思いとどまった、本当に出されるとは思わなかったなどでしょうか。

有効な離婚の成立には、離婚意思が離婚届の「届出時」に存在しなければならないため、書いたときには離婚意思があっても、届出時に離婚意思がなかったとの主張は考えられるところです。

こじつけのように思えますが、役所では当事者の離婚意思を確認できませんし、ましてや離婚届を勝手に出した配偶者は、出す前に離婚意思を再確認などしないでしょうから、届出時の離婚意思は本人にしかわかりません。

しかし、詐欺や強迫による場合を除き、離婚届を直筆している時点で、離婚届が出されたら離婚になることは認識していたはずです。

離婚届が出される前に、離婚意思がないことを配偶者に伝えていたなど、届出時には離婚意思がなかったことを自ら立証できないと、離婚を無効にするのは相当難しくなります

無効な離婚に時効など存在しない

離婚意思がない離婚届による離婚は、当然に無効となります。最初から無効な離婚なので、時間が経っても有効になることはなく、離婚を無効とする訴えはいつでも起こすことができます。

無効な離婚でも、当事者が離婚を認めれば(追認といいます)有効に変わります。有効になった離婚の無効を訴えることはできません。

前述のとおり、勝手に離婚届を出されるパターンには、離婚届を偽造されたケースと、直筆の離婚届を無断で出されるケースに分かれますが、偽造されたケースの証明は容易でしょう。

離婚届は、原本が役所か法務局で保管されており、戸籍届書記載事項証明書を請求して、偽造された部分の筆跡や記載を確認できるからです。

対して、直筆の離婚届を無断で出されたケースでは、離婚届そのものは真正なので、届出時に離婚意思がなかったことを訴えなくてはなりません。

戸籍の訂正には確定判決が必要

勝手に出された離婚届で成立した離婚を、無効として戸籍を訂正してもらうには、戸籍法上、確定判決による方法が必要となります(戸籍訂正許可審判は利用できない)。

戸籍法 第百十六条第一項
確定判決によつて戸籍の訂正をすべきときは、訴を提起した者は、判決が確定した日から一箇月以内に、判決の謄本を添附して、戸籍の訂正を申請しなければならない。

具体的には、協議離婚の無効確認を訴えて確定判決を得ることになるのですが、調停前置主義により、先に協議離婚無効確認調停を申し立てます

調停で離婚の無効を当事者が合意すると、合意に相当する審判がされますので、確定後に役所へ戸籍訂正の申請ができます。

合意に相当する審判には、確定判決と同一の効力があります(家事事件手続法第281条)。

勝手に離婚届を出された側にとっては実に迷惑な話で、成立してしまった協議離婚を無効とするには、協議離婚無効確認の訴え以外によい方法がありません。

配偶者が調停に応じない、離婚の無効に合意しないときは、合意に相当する審判ができないので調停は不成立(もしくは取下げ)に終わり、協議離婚無効確認訴訟を起こして、今度こそ確定判決を得る流れとなります。

勝手に離婚届を出されて再婚までされている場合

再婚を目的に離婚届が偽造されるケースでは、再婚の婚姻届まで時間が短いと想定されます。

民法は重婚を認めていませんが(民法第732条)、勝手に出された離婚届でも戸籍上は離婚が成立している以上、再婚の婚姻届は問題なく受理されます。

説明しているのは、離婚届を勝手に出した配偶者の再婚ですが、離婚が無効となる前に自分が再婚してしまうと、無効な離婚を自分で認めたことになるのはいうまでもありません。

つまり、離婚が無効にならなければ重婚にはならないわけで、重婚を理由に再婚を取り消すためには、前提となる離婚の無効が不可欠です。

順番としては、再婚を取り消すより先に、離婚の無効をはっきりさせる必要があり、なるべく早く協議離婚無効確認調停を申し立てましょう。

参考:協議離婚が無効になる前の再婚は取消しが必要

考えるべきは離婚の是非と親権者の指定

最後になりますが、離婚届が勝手に出されてしまう夫婦関係では、離婚を無効にできたところで良好な夫婦関係を維持できず、結局は離婚に向かうかもしれない問題が残ります。

  • 理由を問わず離婚したくない・今は離婚したくない(子供が大きくなるまでなど)
  • 離婚はしかたないが離婚届の親権者指定が希望と違う
  • 離婚はしかたないが財産分与や養育費など金銭面が決まっていない

このように分類したとき、離婚を無効にするのが絶対的な正解とは限りません

理由問わず離婚したくない場合

これまで説明してきたように、離婚したくない場合は協議離婚の無効確認を訴える(協議離婚無効確認調停を申し立てる)方向で対処します。

離婚届の親権者指定が希望と違う

離婚を無効にする以外には、離婚を受け入れたうえで親権者の指定協議に無効確認を訴えるか、親権者の指定も受け入れたうえで親権者の変更を訴える(親権者変更調停を申し立てる)ことができます。

財産分与や養育費など金銭面が決まっていない

離婚を無効にする以外には、離婚を受け入れたうえで財産分与請求調停、養育費請求調停、年金分割調停など、個別に対応した手続を利用することができます。

なお、無効な離婚が成立したことを知ったにもかかわらず、何も行動を起こさないと、離婚を認めたとみなされる可能性があるので注意してください。

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