離婚届を勝手に出すと犯罪です

協議離婚において、離婚届を勝手に出すと複数の罪を犯していることになります。どの罪に問われるのかは、離婚届を偽造しているかどうかで異なります。

例として、配偶者の名前を無断で使って離婚届を作成、さらに離婚届を勝手に出したケースで考えてみると次の通りです。

  • 離婚届を偽造した罪
  • 偽造した離婚届を使った罪
  • 離婚届で虚偽の申立てをして戸籍へ嘘を記載させた罪
  • 嘘の記載がされた戸籍が使われる状態にした罪

離婚届が夫婦の自署押印であるときは、偽造に関する罪は問えませんが、届出の意思(離婚の意思)がない相手を無視して勝手に届け出ると、役所に対する離婚の届出は虚偽の申立てですから、いずれにしても罪は免れません。

また、離婚届を偽造して提出する行為は、戸籍に嘘が記載されて使われる状態に置かれる結果を伴います。こちらも、刑法上の罪に該当します。

牽連犯

複数の罪に該当する場合は、牽連犯といって最も重い刑が適用されます(刑法第54条後段)。

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有印私文書偽造罪

私人が作成した文書を私文書といい、押印された協議離婚の離婚届は有印私文書に該当します。有印私文書を偽造すると刑法第159条第1項、変造すると第2項に抵触して、3ヶ月以上5年以下の懲役です。

刑法 第百五十九条
行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

2  他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。

3  前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

離婚届の偽造は、偽造しただけでは無意味ですから、役所に届け出ること(行使して離婚を成立させること)を目的としており、有印私文書偽造罪に該当します。

「有印」となっていますが、署名も含まれることに注意してください。離婚届に押印は必要なくなった現在でも、本人署名は必須なので有印私文書偽造罪が適用されます。

また、変造(変更を加えること)でも同じ刑なので、相手が自署した離婚届を受け取ってから、勝手に書き換えた場合も同じ扱いがされます。

偽造私文書行使罪

有印私文書偽造罪が偽造の罪なのに対し、偽造私文書行使罪は、偽造した離婚届を使ったことに対する罪です。たとえ未遂であっても刑法第161条に抵触して、偽造の罪と同じ3ヶ月以上5年以下の懲役です。

刑法 第百六十一条
前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。

2  前項の罪の未遂は、罰する。

未遂でも罰する規定があるので、偽造した離婚届を提出した、提出したが偽造と発覚した、提出しようとしたが役所が閉まっていたなど、全て同じ罪で罰せられます。

なお、離婚届を偽造した人と離婚届を届け出た人が、同じである必要はないのが偽造私文書行使罪の重要ポイントです。

偽造を知っていながら役所に提出すれば、偽造した人と同じく3ヶ月以上5年以下の懲役なので、偽造した離婚届の提出を頼まれても絶対に引き受けてはいけません

公正証書原本不実記載罪・電磁的公正証書原本不実記録罪

役所で保管されている戸籍簿は、公正証書原本(戸籍の電磁的記録は電磁的公正証書原本)に該当し、不実記載とは嘘の記載をさせることです。

偽造・変造された離婚届、つまり虚偽の内容を含む離婚届で戸籍に嘘の記載をさせると、刑法第157条に抵触して5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

刑法 第百五十七条
公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

2  公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札又は旅券に不実の記載をさせた者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

3  前二項の罪の未遂は、罰する。

虚偽の申立てとは、言うまでもなく勝手な離婚届の提出ですが、離婚届が偽造でも真正でも関係なく、申立てが虚偽であることが要件です。

つまり、離婚届における虚偽の申立てとは、夫婦の一方に離婚の意思がないのに、離婚の意思があるかのように離婚届を出したり、偽りの記載をした離婚届を真正であるかのように出したりすることです。

その結果、役所の戸籍担当者による戸籍簿への記載、または戸籍の電磁的記録への記録は不実となって、不実記載・不実記録の罪に問われます。

離婚届を受け付けた戸籍担当者が、不実だと知って戸籍に記載をすると、戸籍担当者が虚偽公文書作成罪(刑法第156条)に問われますので、絶対に(共謀していれば絶対とは言えませんが)離婚届を受理しません。

そして、刑法第157条は第3項で未遂を罰することから、勝手に出した離婚届が虚偽の届出だと窓口で見抜かれても適用されるというわけです。

もっとも、離婚届においては、夫婦に離婚の意思があるか、署名押印が本人の真正であるかなどを戸籍担当者は確認しませんから、勝手に出された離婚届が不実だと知りませんし、記載上の誤りについて不実にならないように訂正を求めるのみです。

偽造公文書行使罪・不実記録電磁的公正証書原本供用罪

離婚の意思や記載内容に虚偽がある離婚届で、戸籍簿に不実の記載または戸籍の電磁的記録に不実の記録がされ、その戸籍が行使または供用されると、刑法第158条に抵触して、不実の記載または記録をさせた場合と同じく、5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

刑法 第百五十八条
第百五十四条から前条までの文書若しくは図画を行使し、又は前条第一項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する。

2  前項の罪の未遂は、罰する。

偽造公文書には、不実記載がされた公正証書原本(戸籍簿)が含まれるので、戸籍簿を使っている役所なら偽造公文書行使罪、戸籍が電子化された役所なら不実記録電磁的公正証書原本供用罪となります。

  • 戸籍簿に不実の記載がされ行使される
  • 戸籍の電磁的記録に不実の記録がされ供用される

若干の違いはありますが、分けてしまうと理解できるのではないでしょうか。ただ、戸籍簿なら行使罪、戸籍の電磁的記録なら供用罪となるのは理解できても、行使や供用とはどのような状態を意味するのか疑問が残るでしょう。

行使とは、不実の記載がされた戸籍簿が、公文書として他人から認識できる状態にあれば、それだけでも成立するとされています。

戸籍簿の場合は、謄本や抄本で民間に記載内容を提供しますが、それ以前に公文書としてその内容を保証し、他者に提供できる状況なら戸籍の取得申請がなくても関係ありません。

供用の場合は、電磁的記録を文書のように提供する(行使する)ことがないとはいえ、戸籍の原本となる記録には違いなく、不実の記録が事務処理等で他者に照会可能な状況です。つまり、戸籍簿で言うところの行使と同じ意味が供用というわけです。

勝手に出した離婚届の公訴時効は5年

離婚届を勝手に出すことによる罪は、いずれであっても懲役5年が量刑の最高で、公訴(検察官が起訴すること)できる期間は、離婚届が出されてから5年間(刑事訴訟法第250条第2項第5号)です。いわゆる5年で時効を迎えます。

厳密に時効を捉えると、犯罪が終わったとき(刑事訴訟法第253条第1項)が開始となるため、離婚届の偽造が終わったとき、偽造された離婚届が提出されたときのように、時効は個別に進行しますが、一体として考えても差し支えないでしょう。

仮に、離婚届の偽造から十分に間を置いて提出したとして、有印私文書偽造罪の時効が成立してしまったとしても、偽造私文書行使罪の時効は離婚届が出されたときから進行しますし、有印私文書偽造罪と偽造私文書行使罪は刑が同じだからです。

虚偽の離婚届でも離婚は成立することに注意

虚偽の離婚届を役所が受理してしまうと、離婚そのものは成立します。

もちろん、一方の意思を欠いている無効な離婚なのですが、後から離婚届が虚偽だと発覚しても、それだけで役所は戸籍を離婚前に戻してくれないです。なぜ? と思うでしょうか。

一旦成立した離婚は、協議離婚無効の訴え(または調停)を起こし、家庭裁判所の離婚を無効とする確定判決(調停なら調停成立)がなければ、覆すことができないルールです。

勝手に離婚届を出された側には何とも迷惑な話で、防御策は離婚届不受理申出しかありません。

虚偽の離婚届で逮捕に至ったケースもある

離婚届を勝手に出しただけでは難しいようですが、他の目的(配偶者以外と結婚したいなど)があって悪質な場合は、虚偽の離婚届で逮捕されたケースが何件かあります

ただし、逮捕・送検されて起訴猶予になる可能性、起訴されても執行猶予付きの判決になる可能性から、確実に罪を問えるとは限りません。

ちなみに、離婚届を受理してしまった役所を責めても、何の成果も得られないばかりか、役所も戸籍に不実記載や記録をさせられた被害者です。どうしても罪に問いたければ、警察に相談して刑事告訴・告発することを検討してみましょう。

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