子の引渡しを求める5つの方法

子の連れ去りは、親でも未成年者略取として逮捕されたケースがあるように、違法性を問われる可能性もあります。しかし、子を連れ去った相手を罪に問うよりも、子を引き渡してもらうほうがはるかに重要でしょう。

ここでは、子の引渡しを求める方法を5つ解説しますが、最近では家庭裁判所手続によって解決するべき問題とする流れがあり、調停や審判の活用が期待されています。

とはいえ、どの方法が簡単にできるかよりも、どの方法が子を連れ戻すための迅速性・実効性を伴っているかを考えるべきです。仮に、裁判所命令が出たとして、それだけで観念して子を引き渡すとも限らないからです。

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方法1:人身保護請求

身体の自由を奪われ、自らの意思によらないで拘束されている子を救済するために、人身保護法に基づき高等裁判所または地方裁判所に保護を請求します。

人身保護請求の優れているところは、子を救済するためなら、誰でも請求が許されていることで、父母だけではなく祖父母でも親族以外の第三者でも許されます。また、請求の性質上、迅速性にも優れています。

元々は、主に公権力による不当な拘束を救済する目的でしたが、私人による拘束から救済するために多く使われてきました。とりわけ、子の引渡しを目的とする請求が多かった歴史的経緯があります。

ところが、請求が認められるための要件が厳格化され、特に別居中の夫婦間での人身保護請求が認められにくくなったことで、家事手続に移行が進んでいます。

また、人身保護請求は、不当な拘束から解放することが目的の手続であり、執行力のある子の引渡し命令ではないと解されているのが難点です。

方法2:家事調停または審判

子の監護に関する処分として、ダイレクトに子の引渡し調停や審判を申し立てることもできますが、一般には親権者の指定・変更や、子の監護者の指定を申し立てて、子の引渡しを求めていくのが通常です。

親権者ではない親なら親権者の指定・変更または子の監護者の指定を、親族等なら子の監護者の指定を、婚姻中の夫婦なら共同親権なので、子の監護者の指定を申し立てます。

このように、順序として親権者の指定・変更、または子の監護者の指定が先立つのは、子の引渡しを請求する人に、引渡しを求める根拠(親権や監護権)がないと、引渡し請求の正当性が希薄になるためです。

したがって、離婚後の親権者(監護者)であれば子の引渡し調停・審判を、それ以外では、子の引渡しを求める根拠を得るために、上記の手順を踏むことになるでしょう。

家庭裁判所は、子の監護に関する処分の審判と、親権者の指定・変更の審判では、子の引渡しを命ずることができ(家事事件手続法第154条第3項、同法第171条)、監護者や親権者を決めることで、子の引渡し後の安定を図ります。

調停が不成立でも審判がある

子の引渡しを求めるような状況で、調停が簡単に成立するとは思えませんが、審判ではなく調停から申し立てても、調停が成立しないときに調停に代わる審判がされれば、調停に代わる審判で子の引渡しを命ずることも可能です(家事事件手続法第284条第3項)。

調停に代わる審判がされない、または調停に代わる審判に適法な異議が申し立てられた場合、子の監護に関する処分や親権者の指定または変更は、いずれも別表第2事件であるため、調停の不成立で自動的に審判へ移行します。

審判移行の結果、申立てが認められれば、前述の通り子の引渡しを命じることができるのですが、不安が残るのは、実際に子の引渡しがスムーズに行われるかどうかでしょう。

さらに、調停または審判を申し立てる際に審判前の保全処分も申し立て、子を仮に引き渡せとする仮処分(仮の地位を定める仮処分)を命じてもらうこともできます。

ただし、仮処分には執行力があるため、認められるには子の「急迫の危険を防止するため」という要件があり、ハードルが高くなっています。

方法3:離婚訴訟の附帯処分

離婚訴訟(婚姻の取消しを含む)では、附帯処分に子の監護に関する処分を申し立てることが可能です(人事訴訟法第32条第1項)。そして、離婚請求を認める判決では、子の引渡しを命じることもできます(人事訴訟法第32条第2項、同条第3項)。

離婚訴訟は一般に長期化するため、判決を待っていては子の引渡しが迅速にされません。そこで、保全処分の申立ても考えられますが、子の引渡しを請求するほどの状況は、離婚訴訟においてもレアケースなのか、附帯処分での申立ては僅かです。

実数で言えば、令和元年に終局した人事訴訟8,828件(離婚以外を含むが大半は離婚訴訟)において、附帯処分の申立てに子の引渡し請求が含まれていたのは40件しかありませんでした(最高裁判所事務総局家庭局公表データ)。

方法4:親権(監護権)行使妨害排除請求権による子の引渡し請求訴訟

民法で親権や監護権の妨害について規定はありませんが、不当な子の拘束が親権や監護権の行使を妨害しているとして、妨害排除請求権に基づいた、子の引渡し請求の民事訴訟を起こすことができると解されています。

必然的に、妨害排除請求権は権利者である親権者または監護権を有する監護者でなければ持たず、非親権者または非監護権者を被告として訴えが提起されます。

このとき、子の福祉の観点から、子が自らの意思で親権者や非親権者から離れている場合はもちろん、子が意思を示せないときでも、非親権者や非監護権者による子の監護に特別な事情があれば、子の引渡し請求は認められません。

また、判決を待っていることで、子の安全が脅かされるなど急迫の事情があるときは、仮処分によって子の引渡しを求めることも可能です。

方法5:警察への被害届または刑事告訴

冒頭で述べたように、親であっても子を実力行使で連れ去ると、罪に問われることがあります。ということは、容疑がある前提なら、警察へ被害届を出して拘束者の逮捕、子の捜索・保護をしてもらうか、刑事事件として告訴も可能です。

刑事司法の介入で、迅速性も実効性も優れているように思えますが、ひとつ問題があって、最初に子を連れ去った側(子を連れて別居した側)に対しては、なかなか警察が動かないため、連れ去りに対する連れ戻しにしか使えません。

父母が別居するとしても、子の処遇については自由意思を尊重し、子が意思を示せなければ、父母が協議して監護者を決めるのが本筋です。子を連れた一方的な別居は、ある意味で拉致にも該当する行為ですが、先に連れ去った側が有利な現状です。

どの方法を選ぶべきかは状況次第

子の引渡しに関する5つの方法を説明してきましたが、いずれの方法も何らかの障害が残されているので、状況次第で最適な方法を選ぶべきでしょう。それぞれの方法で、障害となる理由は次の通りです。

人身保護請求
夫婦間では請求が認められにくく顕著な違法性が必要。

家事調停または審判
子の引渡しの強制執行が実現可能とは限らない。

離婚訴訟の附帯処分
そもそも離婚前しか対応できず訴訟手続も面倒。

親権(監護権)行使妨害排除請求権による子の引渡し請求訴訟
自分が親権者や監護権者でなくてはならない。

警察への被害届または刑事告訴
一般に最初の連れ去りでは対応してもらえない。

いずれかの方法で子を取り返したとしても、子の奪い合いは親子や親族間の問題ですから、家庭裁判所の調停や審判によって、親権や監護権、面会交流や金銭的な調整などを含め、本質的に解決されるべきです。

実力行使で奪い返される危険を伴うようでは、子にも害を与えかねません。子を養育する親や監護者としては、可能な限り解決に向けて努力しましょう。

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