年金分割までの手続は3ステップ

年金分割を請求するには、所定の手続きを踏まなくてはならず意外と面倒です。もっとも、年金はお金に関係する公的な制度だけに、誰でも簡単にできるものではないのは仕方がないでしょう。

年金分割には合意分割3号分割がありますが、ここでは合意分割(同時に一部の3号分割対象期間を3号分割する場合を含む)の手続を説明します。

合意分割の流れ

ステップ1:年金分割のための情報通知書を入手
ステップ2:年金分割の按分割合(分割割合)を決定
ステップ3:標準報酬の改定を請求

※以下の説明では、夫婦・元夫婦、事実婚関係の夫婦・事実婚関係の元夫婦をまとめて、「当事者」としています。

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ステップ1:年金分割のための情報通知書を入手

最初に行うべきは、婚姻期間中における当事者の標準報酬総額(大まかには厚生年金・共済年金加入時の総給与・総賞与)を確認することです。

情報通知書の入手は、年金分割のための情報提供請求書を、年金事務所または共済組合に提出しなければなりません。

当事者のいずれかが、婚姻中に加入していた年金制度の実施機関(厚生年金なら年金事務所、共済年金なら共済組合)に提出します。

情報提供請求は、当事者の一方からでも双方からでも可能ですが、婚姻・事実婚の継続中は請求した人(一方の請求なら一方、双方の請求なら双方)に、婚姻・事実婚の解消後は必ず当事者双方に情報通知書が郵送されます。

1-1.年金分割のための情報提供請求書を提出

用紙と記入方法は、年金事務所や共済組合に用意されているので入手してください。参考までに、日本年金機構のホームページで公開されている用紙を紹介しておきます。

年金分割のための情報提供請求書 – 日本年金機構(PDF)
※別ウィンドウまたは別タブで開きます。

情報提供請求書に添付するものは以下の通りです。

  • マイナンバーで請求する場合はマイナンバーカード
  • 基礎年金番号で請求する場合は年金手帳または基礎年金番号通知書
  • 戸籍謄本(戸籍抄本ならそれぞれの分)
  • 事実婚の場合は事実婚を証明できる書類

事実婚を証明する書類って何?

一般には、同一世帯で夫(未届)または妻(未届)と記載のある住民票の写しが、事実婚の証明に最も有力とされるのは確かです。

ただし、事実婚の年金分割では、国民年金第3号被保険者の期間がなければ分割できないことから、第3号被保険者であった期間さえ証明できれば、大抵は同居の事実を確認できる住民票や郵便物でも大丈夫でしょう。

扶養対象として勤務先に届け出た事実は、単なる同棲ではなく夫婦の認識で共同生活していると推測できるからです。

厚生年金(共済年金)の加入者が、配偶者を社会保険上の扶養にする手続をすると、被扶養配偶者は国民年金第3号被保険者になります。通常、この手続は勤務先に届け出ることで行われます。

逆に、同一世帯で住民票に未届の夫または妻と記載があっても、第3号被保険者(被扶養配偶者)の期間がなければ年金分割はできません。

1-2.年金分割のための情報通知書を確認

年金分割のための情報通知書には、当事者それぞれにおける厚生年金(共済年金)の標準報酬総額が記載されています。

そして、標準報酬総額の多い側が第1号改定者、少ない側が第2号改定者となりますが、ここを必ず確認してください。

年金分割では、第1号改定者から第2号改定者に標準報酬が分割されるので、自分が第1号改定者なら年金分割を考え直す必要があります。自分が第2号改定者なら迷わず年金分割するべきです。

ステップ2:年金分割の按分割合を決定

年金分割のための情報通知書には、3号分割があればその期間は3号分割をした結果に基づいて、年金分割の按分割合(分割割合)の範囲が記載されています。

この按分割合の範囲は、下限が当事者の合計標準報酬総額における第2号改定者(分割を受ける側)の割合を示し、上限は50%です(均等に分割)。

按分割合の範囲内から、実際に分割する割合を決めるのですが、現在は男女平等の考えと、夫婦の分担はそれぞれの収入に関わらず等しいという考えから、最大の50%で按分する傾向があります。

家庭裁判所においても、基本的に年金分割の按分割合は50%です。

しかし、按分割合の範囲内であれば、絶対に50%で年金分割する必要はありません。離婚時には、他にも財産分与や慰謝料などがありますから、財産分与を多めにして年金分割の按分割合を下げるような交渉もあり得るでしょう。

按分割合を当事者で決めたとき

按分割合について夫婦で合意が得られたときは、年金分割(標準報酬の改定請求をすること)及び按分割合に合意した旨が記載され、当事者自ら署名した合意書を作成します。

参考:年金分割の合意書の書き方

この合意書は、標準報酬の改定請求を誰が行うかによって、取扱いが異なるので注意してください。

当事者双方または代理人の2人が窓口で請求する場合

「当事者双方または代理人の2人」とは、

  • 当事者双方
  • 当事者一方と他方の代理人
  • 当事者双方それぞれの代理人

のいずれかです。当事者双方の代理人を一人が兼任することはできません。

これらの2人が、年金事務所や共済組合の窓口で標準報酬改定請求をする場合は、合意書をそのまま持参することができます。

なお、当事者双方が窓口で標準報酬改定請求する場合は、窓口備え付けの合意書に記入することもできますので、事前の合意書作成が必須ではありません。

それ以外の場合

作成された合意書を、公正証書にして謄本を提出するか、公証人の認証を受けた私署証書として提出する必要があります。

そうしないと、相手の自署を偽造して合意書を作成し、勝手に標準報酬改定請求がされてしまうのを防止できないからです。

公正証書または公証人の認証は、いずれも公証役場で行います。

按分割合を当事者で決められないとき

按分割合が決まらないときは、家庭裁判所の手続で按分割合を決めます。

離婚前なら離婚調停の付随申立てまたは離婚訴訟の附帯処分処分申立てになり、離婚後では年金分割調停または審判です。

家庭裁判所の手続で得られる結果は次のいずれかで、いずれにしても家庭裁判所が交付する何らかの文書を標準報酬改定請求時に添付します。

  • 調停が成立した:調停調書の謄本または抄本
  • 審判が確定した:審判書の謄本または抄本、確定証明書
  • 和解が成立した:和解調書の謄本または抄本
  • 判決が確定した:判決の謄本または抄本、確定証明書

離婚調停の場合

離婚調停が成立すれば調停調書、調停が成立しなくても調停に代わる審判で決まれば審判書、調停不成立で離婚訴訟になれば判決、判決前に和解なら和解調書を得られます。

これらの文書の謄本では、年金分割以外の事柄も複合して定められているので、年金分割に関する部分を抜き出した抄本でも認められます。

抄本は、年金分割請求用として家庭裁判所に交付申請することで得られますが、もちろん謄本を添付しても問題ありません。

年金分割調停または審判の場合

調停成立で調停調書を、審判で決めたときは審判書を得られます。

離婚調停と異なり、年金分割調停や審判で得られる調停調書や審判書は、年金分割の按分割合を定めた文書なので、謄本をそのまま添付して提出します。

3.標準報酬の改定請求

按分割合が夫婦の合意または家庭裁判所で決められると、標準報酬改定請求書を年金事務所または共済組合に提出して、現在の夫婦の標準報酬額を改定(変更)します。

標準報酬改定請求書 – 日本年金機構(PDF)
※別ウィンドウまたは別タブで開きます。

これが年金分割の実質的な効果で、年金分割とは年金額の計算に使われる夫婦の標準報酬を、記録上で改定してもらうことに他なりません。

標準報酬改定請求書に添付するものは以下の通りで、情報提供請求書の添付書類に按分割合を定めた書類を追加します。

  • マイナンバーで請求する場合はマイナンバーカード
  • 基礎年金番号で請求する場合は年金手帳または基礎年金番号通知書
  • 戸籍謄本(戸籍抄本ならそれぞれの分)
  • 事実婚の場合は事実婚を証明できる書類
  • 按分割合を定めた書類(合意書、公正証書、認証を受けた私署証書、家庭裁判所が交付した書面)

その他、当事者の生存を確認できる書類(死亡による請求の場合は死亡を確認できる書類)も必要とされますが、戸籍謄本か戸籍抄本で確認できれば不要です。

なお、離婚から2年の時効を過ぎており、家庭裁判所が交付した書面を添付するときは、時効前の申立てを確認する家庭裁判所発行の証明書を求められます。

標準報酬の改定後は通知される

標準報酬の改定が行われると、結果が当事者それぞれに通知されます。

按分割合にしたがって改定された標準報酬は、年金額の計算に使われますから、改定された標準報酬の増減がそのまま年金額の増減に繋がるわけです。

長生きすればするほど、年金分割による年金額の増減は大きな差になるので、離婚・事実婚解消から2年以内の時効に注意しましょう。

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