財産分与する側に譲渡所得税が課税される?

財産分与を不動産や株式など現金以外で行うと、分与した側に譲渡所得税が発生する可能性があります。分与された側ではなく、分与した側であるのが非常に理解されにくいのですが、現行法制では確かに課税されてしまいます。

どうして分与した側に課税されてしまうのか?何を根拠にしているのか?

そのあたりを含めて、このページでは財産分与と譲渡所得税の関係を解説していきます。まずは、譲渡所得税が発生するかどうかの確認を必要とするので、譲渡所得税のおさらいから始めましょう。

譲渡所得税とは譲渡益に課税される税金

譲渡所得税という呼び方は通称で、譲渡所得に対する所得税と住民税を併せて譲渡所得税と呼ばれます。譲渡とは、有償無償問わず譲り渡す意味ですが、売買で考えるほうが譲渡所得の理解は進みやすいです。

資産を売買するとして、資産を手に入れた金額よりも売った金額が高ければ、儲かっていることになります。このとき、儲かった金額(譲渡所得)については、税金を支払いなさいとするのが譲渡所得税です。

もちろん、資産を手に入れた金額よりも売った金額が安ければ、何も儲けが出ていないので、譲渡所得は発生せず譲渡所得税もかかりません。譲渡所得税は、所得に対する課税なので、いくらで売ろうと儲けがなければ課税なしです。

また、譲渡所得の計算では、取得時にかかった費用と売却時にかかった費用も控除されるため、少しくらいの儲けであれば費用で相殺され、やはり課税されません。

そこで財産分与ですが、相手に売るわけでもなければ、儲かってお金が手に入るわけでもないのに譲渡として扱われ、譲渡所得があれば譲渡所得税が課税されるのです。ここまで全く腑に落ちませんよね。

資産の財産分与は分与義務の消滅

わかりやすくするために、財産分与が1,000万円必要だとします。この1,000万円を、1,000万円の価値を持つ住宅で分与したとき、分与した側は1,000万円の分与義務を、住宅を分与することで免れたという考え方がされます。

言い換えれば、分与した側は分与によって1,000万円の経済的利益を受けているとみなされるのです。売却のように現金で1,000万円を手にするわけではありませんが、1,000万円の分与義務がなくなるので、経済的利益は同じだということです。

ただし、譲渡所得税は説明の通り譲渡所得に課税される税金ですから、住宅を手に入れたとき2,000万円で、価値が下がって1,000万円で分与したなら、譲渡所得はなく課税されません。500万円で手に入れた住宅を1,000万円で分与すれば、譲渡所得は500万円になって課税されます(細かい金額は除きます)。

1,000万円で分与するときの1,000万円とは、その時点の価額(時価)です。

イメージとしては、相手に1,000万円の借金(分与義務)があって、返済の代わりに住宅を1,000万円で渡した状況に近いですが、事前に借金の1,000万円を受け取っておらず、良く考えるとやはり違います。

とにかく、財産分与に譲渡所得税を課税する根拠は、分与義務の消滅による経済的利益と、分与した資産の取得費との差益なのですが、この解釈には大いに争いがあって、分与する側には到底納得できるものではありません。

そもそも財産分与って譲渡なの?

財産分与は、夫婦の共有財産について、離婚を機にお互いの不公平を解消するものです。夫婦の協力(就労や家事の分担の結果)によって形成されていれば、対外的な名義が単独でも、全て財産分与の対象とされます。

ただし、財産分与が起こるのはあくまでも離婚があるからで、婚姻中は帰属が単独であるか共有であるかは問題にならず、離婚をした結果、財産の帰属が不公平であるとき、始めて分与の必要性が表面化する性質を持っています。

問題はここからで、財産分与で財産の所有権に移転があると、はたして譲渡になるかどうかです。譲渡でなければ、譲渡所得税に根拠がなくなるからです。

財産分与の解釈には2通りある

財産分与の解釈には、婚姻中に夫婦の協力で得た財産は、潜在的に夫婦に持分が生じているので離婚時に持分を確定させる(持分で分割する)という説と、民法に従い名義が単独なら特有財産で、離婚時の不公平を解消するため、財産の多い側から少ない側に分与するという説の2通りあります。

イマイチわかりにくいですが、何が違うかというと、例えば婚姻中に住宅を購入するとします。この住宅が夫名義であったとき、前者では潜在的に妻名義の持分が存在すると考え、後者では妻名義の持分は存在しないが、離婚時は不公平になるので、夫から妻に名義の一部を分与する考えです。

それでもわかりにくいので、前者を分割説、後者を分与説として例を使って説明してみましょう。婚姻中に夫名義で購入した住宅が、離婚時に1,000万円だとします。妻には財産がなく、財産分与の割合は2分の1です。

分割説では、1,000万円の住宅に妻の潜在的な持分が500万円あると考え、離婚時に顕在化した妻の持分500万円分を、夫名義から妻名義に変更します。

分与説では、1,000万円の住宅はあくまでも夫の特有財産で、離婚時に財産がない妻と公平にするため、夫には500万円の分与義務があり、夫名義の500万円分を妻名義に変更することで分与します。

どちらも同じ名義変更ですが、婚姻中の持分を認めているかどうか、分与義務が発生しているかどうかで異なります。

分割説に立てば譲渡にはならない

分割説では、夫婦の協力で婚姻中に得た財産は、名義に関係なく共有と考えてお互いの持分を認め、名義は形式的なものと考えます。財産分与は、お互いの持分を確定させるに過ぎないのであって、そこには譲渡という考え方がありません。譲渡ではないとすれば、譲渡所得税の課税根拠も失われます。

しかし、分割説の場合には、夫婦の協力で得た財産はお互いに持分があると考えるため、財産分与の対象になる財産の全てを持分に応じて分割しなければならず、財産分与は非常に煩雑な作業になります。

それでは合理性に欠けることから、お互いの持分を相殺して調整することで、資産移動を最小限にするのですが、その結果、一方の単独名義になっている財産が、他方の単独名義に変わる移動も起こるでしょう。

そのような資産移動でも譲渡にならないと考えられるかどうか、解釈次第となってしまう問題があるとはいえ、裁判所は財産分与を分割説で考えてはいません。

分与説では譲渡とみなされる

分与説の場合は夫婦別産制を貫き、婚姻中に夫婦の協力で得た財産であっても、それぞれの資産は名義どおりの特有財産として扱います。しかし、そのような特有財産も財産分与の対象にすることで、夫婦の協力で形成した財産総額は変わらず保たれます。

そして、財産総額からお互いに分けるべき財産の金額を決め、その金額と現に保有している財産が不均衡であれば、過分な側から不足している側に分与義務が発生します。

その結果、分与者から被分与者にされる分与は、分与義務の消滅を対価とする譲渡であるとみなし、当該財産の取得費と差益があれば、譲渡所得税が発生するわけです。

厳密に計算して財産を分与する人は少ない

財産分与では、現金以外の全ての財産の時価を求め、資産価値を分けていくのが本来の方法とはいえ、全ての財産の時価を求めるのは面倒なのでされないでしょう。

例えば、相手に住宅を渡して自分や現金や車を取るなど、お互いが必要としている資産を、それなりに相応しい分け方をすれば問題なく、財産目録を作って、何がいくらで誰に分与するか記録するのは少ないはずです。

しかし、財産分与での譲渡所得の計算では、分与された資産を時価で譲渡したとみなすので、財産分与の実状とは乖離しています。この点も問題が多いとされ、時価よりも低い価値で分与しているのに、時価判定で課税されてはたまらないからです。

もしこれが売却なら、時価より安く売却しても高く売却しても、時価で売却したとみなして譲渡所得税が課税されるのと同じで、そのような課税はあり得ません。

財産分与を課税対象としたのは最高裁

分与した側に収入もないのに、値上がりした資産で分与すると、譲渡所得税の課税対象になります。本当に理解し難いですが、昭和50年の最高裁で、分与義務の消滅を経済的利益とする判断がされてから、現在までこの解釈は変わりません。

違憲とする判決がされない限り今後も続いていくので、財産分与を現金以外でするときは、譲渡所得を意識しましょう。財産を分与した上に、税金まで納めることになっては、分与する側に大きな損失です。

可能であれば現金で分与し、現金以外だとしても値下がりしている資産で分与するといった対策も必要でしょう。なお、不動産には特定の条件を満たせば譲渡所得を控除できる特例があるため、特例を使っての節税も有効です。

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