財産分与請求では、相手方が保有する財産から請求する以上、相手方の財産(夫婦の収入から形成された財産で相手方の名義・管理下にあるもの)を合理的に証明しなくてはなりません。
もちろん、調停は話合いの場なので、当事者双方へ財産の状況を明らかにするよう促すでしょうが、お互い正直に全保有資産を公開するとは限らないですよね?
ですから、必要なら相手方の財産に関しても資料を揃えるのですが、財産の種類が多ければ、それだけ多くの証明書類(書証といいます)が必要になるでしょう。
財産分与請求調停の申立てに添付する書類は、
- 自分で用意する証明書類
- 家庭裁判所に備え付けの書類
に分けられますが、ここで説明しているのは、自分で用意する証明書類です。
金融機関から入手するもの
基本的には本人しか入手できないので、離婚後では相当難しいです。ただし、弁護士へ依頼しているときは弁護士会を通じた照会をしてもらったり、家庭裁判所の調査嘱託によって報告を求めたりすることは可能になっています。
預貯金通帳の写し
取引履歴や残高証明書で代用することは可能です。ただし、離婚前から別居していると、財産分与は別居時を基準とする扱いがされているので、別居時における預貯金残高の証明が必要になります。
そうなると、別居時が合計記帳に含まれてしまっている通帳の写しではダメで、取引履歴を取り寄せるか、過去の残高証明を取り寄せるしかありません。
ローン残高証明書
不動産や自動車のローンを証明しますが、返済予定表などでも対応できます。こちらも別居時の残高がわかる必要があります。
普通に考えて、財産分与を請求する側が、相手方の借入金を証明する意味はなく(マイナス財産なので財産総額が減ってしまう)、相手方から積極的に提出されるはずです。逆に、自分名義なら証明しておかないと損です。
有価証券残高証明書
株式等の有価証券が財産分与の対象になっているときは、証券会社に発行してもらいます。有価証券は、現在の価格で評価されます。
解約返戻金証明書
掛け捨て以外の保険に加入しているときは、解約返戻金が財産分与の対象になるため、保険会社に発行してもらいます。
対象になるのは、別居時に解約したと仮定される返戻金であって、満期で受け取る保険金ではないため、保険証券では証明できません。
市区町村・法務局で入手するもの
不動産が財産のときに必要です。また、不動産は現在の価格で評価されます。
ただし、固定資産評価証明書は、不動産の正当な評価として不適切だと思われますので、後述する「不動産を評価した書類」を参考にしてください。
固定資産評価証明書
市区町村が発行する書類で、不動産の固定資産税評価額(固定資産税を課税するために使う税務上の評価額)が記載されています。
固定資産税評価額が記載されていれば、納税通知書などでも代用は可能です。原則として本人申請または委任された代理人への交付ですが、調停で裁判所に提出するような、特別な事情がある場合には、本人以外からの請求も認められます。
しかし、特殊な事情を証明するには、受理された調停申立書の控えを必要とするでしょうから、調停申立て後のほうが良いかもしれません(市区町村の運用しだいです)。
登記簿謄本(登記事項証明書)
法務局から交付してもらう書類で、誰でも入手することが可能です。不動産の地番(土地の場合)と家屋番号(家の場合)を情報として必要とします。
地番と家屋番号は、不動産がある場所を意味しますが、一般に使われる住所ではなく法務局で調べることもできます。また、固定資産評価証明書や固定資産税納税通知書などにも記載されています。
法務局が電算化されているかどうかの違いで、電算化前なら登記簿謄本、電算化後なら登記事項証明書です。
その他の書類
何を必要とするかで発行先が違うので、その他としました。
自動車の価格査定書
財産分与の対象になるほど自動車の価値が高ければ、市場価格を証明する目的で、買取業者などの価格査定書を用意します。
退職金見込額証明書
会社によって名称は異なるとしても、要は別居時に自己退職したという仮定で、支払われるべき退職金額を証明するものです。ただし、相手方の勤務先に問い合わせても、本人でなければ間違いなく発行してくれないでしょう。
不動産を評価した書類について
固定資産評価証明書があれば不要ですが、不動産の時価を正しく評価してもらいたいときは、第三者が評価した書類を別途提出します。該当するのは不動産会社の価格査定書や、不動産鑑定士による鑑定評価書などです。
固定資産評価証明書に記載の金額は、概ね市場価格の7割程度でしかありません。つまり、不動産の評価証明に固定資産評価証明書を使うと、7割程度の評価で算定された財産となり、これは不動産を受け取る側にとって有利です(過小評価されているため)。
例えば、不動産が時価1,000万円、預貯金1,000万円の合計2,000万円だとして、公平に1/2で分けるとき、お互いに不動産と預貯金のどちらかです。
もし、固定資産評価証明書の評価額が700万円なら、合計は1,700万円にしかならず、1/2で分けるときは850万円ずつです。
不動産+150万円と預貯金850万円で分けるとするなら、不動産の分与を受ける側は実質的に1,150万円になります。
この決着を望むかどうかは立場しだいですが、より正確に評価したいのなら、不動産会社に査定依頼するか、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼します。
不動産会社の価格査定と不動産鑑定士の鑑定評価
不動産会社の査定価格は、その会社によって上下するので、精度を高めるためには、同時に複数社へ依頼できる無料の一括査定サービスを使うのが便利です。
- 不動産会社の価格査定書:市場で売れると予想される価格
- 不動産鑑定士の鑑定評価書:市場での正当な価格
両者は似たような性質で、どちらも市場で評価されるべき価格を示しますが、証明力としては圧倒的に鑑定評価による価格が優位です。したがって、裁判所へ提出する用途では、鑑定評価書が優れているのは言うまでもありません。
ところが、不動産会社の査定は無料でも、不動産鑑定士の鑑定評価は費用がかかります(安くても10万円以上)。現実的には、不動産会社の無料査定を使うことになるでしょう。
無料査定での価格に納得せず、当事者で争いがあるときは、正確を期すために不動産鑑定士へ依頼することも考えてみてください。
対象外の財産を証明する書類
財産分与は元夫婦の共有財産を対象としますから、婚姻前から保有する財産や婚姻中でも相続や贈与で手にした財産(特有財産)は対象外です。
しかし、不動産なら名義や登記原因が登記簿で確認できるため区別は容易でも、お金に色はなく、同じ口座で管理されていると全く区別ができませんよね。
特有財産である証明は、元夫婦の協力で形成されたことを否定すれば良いので、預貯金なら婚姻時の残高証明で証明できます。
不動産では、登記簿謄本で自分への所有権移転登記がされた日を証明、もしくは売買契約書、贈与契約書、遺産分割協議書などが該当するでしょう。
他には、婚姻前から生命保険に加入していた場合、解約返戻金のうち婚姻までの期間は特有財産を主張できるため、加入日を証明できるもので足ります。
なお、共有財産と特有財産については以下をご覧ください。
財産分与の対象になる財産とは証明書類がなくても調停の申立てはできる
財産が不明ということは当然あり得るため、証明書類が揃わなくても、財産分与請求調停の申立てができないというものではありません(離婚調停で財産分与の付随申立てをする場合も同じです)。
だからといって、何も調べず調停に臨むのは、対象財産が確定しないため時間を無駄にしますし、調停をしている最中に、財産が失われてしまう可能性を考えれば、できる範囲で証明書類を手にしておくべきでしょう。