財産分与の対象になるのは、婚姻中に夫婦の協力で形成された財物や権利などであって、特に品目を限定するものではありませんが、例えば食べ物や日常的に身につける衣服など、財産とは呼べないものは含まれません。
したがって、換価できない(金銭的な市場価値がない)ものを含める必要はなく、あくまでも常識的な範囲で「財産」とみなされる財物や権利などが対象です。
つまり、一般的に財産と呼べるものは、鑑定・査定ができることから、金銭的価値という同じ基準で比較されるのですが、その合計額を算出して、貢献度に応じた分与をしていくのが財産分与の考え方です。
また、夫婦の財産には、大きく分けて3つの特徴があります。
個人の特有財産
婚姻前から夫婦の一方が所有している財産と、婚姻中に夫婦の一方が相続や贈与によって手に入れた財産は、夫婦の協力がありませんので、特有財産として扱われます。
特有財産は、原則的に財産分与の対象にはなりません。
また、婚姻中に取得しても、専ら夫婦の一方しか使用しない物品で、著しく高価ではないものは特有財産として扱われます。
例えば、スマートフォンは中古でも金銭的価値を持っていますが、その価値は高額とは言えないですし、夫婦それぞれで専用に使われ、実質的には個人の所有物として認識されているのですから、特有財産と考えて良いでしょう。
同様に、夫婦の一方しか身に着けない服飾品は、他方には使い道がないので、特有財産としても問題ないと思われますが、売れば数百万円にもなる高級ブランドバッグなどは、資産価値を持っているため財産分与の対象になります。
ただし、その購入費用が個人の特有財産(婚姻前から保有する預貯金など)から捻出されたのであれば、夫婦の協力がないため特有財産として扱われます。
夫婦の共有財産
共有財産の典型例は、婚姻中に夫婦の共有名義で購入した住宅ではないでしょうか。
不動産の共有名義は、持分が出資比率に応じているはずなので、財産形成の貢献度を争うことは少ないでしょう。
また、夫婦のいずれにも帰属がはっきりしない財産は、民法の規定上、共有財産として推定されます(民法第762条第2項)。
したがって、夫婦の収入が原資で名義がないものは、共有財産として扱われ、共有財産は全て財産分与の対象です。財産形成において貢献度が著しく異ならない限り、夫婦で等しく分けることを原則とします。
なお、第三者名義であっても、夫婦が資金を拠出し、その第三者に贈与が行われていない場合(名義以外は事実上で夫婦の財産)も、財産分与の対象になります。
争われやすい例としては、子名義の預金に、夫婦が教育費等の目的で貯蓄しているケースです。
子名義の預金が、親族から贈与されたお年玉や祝い金なら、夫婦の財産とならないことは明白ですが、原資が夫婦の収入だと、子が自ら管理していない限り、夫婦の財産と扱われます。
ただ、仮に財産分与しても、結局は支出することになるでしょうし、子のために貯めた資金という性質から、財産分与の対象外とすることで合意する場合が多いでしょう。
名義上は特有財産でも実質的に共有財産
ほとんど夫婦では、このパターンに当てはまる財産が一番多いはずです。
名義上は夫婦の一方の単独名義であっても、婚姻中に夫婦の収入を基礎として得た財産は、実質的な共有財産として扱われます。
民法上、婚姻中に自己の名で得た財産は特有財産とされていますが(民法第762条第1項)、財産の名義が夫婦のどちらでも、その形成に双方の協力がある限り特有財産とはなりません。
日本では、夫を名義人としていることが多いため、夫名義の家に住み、夫名義の車を使って、夫名義の預金から住宅ローン・自動車ローン・生活費を使っている夫婦は少なくないでしょう。
家・車・預金のいずれも夫名義ではありますが、収入を得る役割を夫が担っているだけで、協力した夫婦生活がある限り、全て夫婦の実質的共有財産と扱われます。
財産分与の対象になる財産の例
離婚時に保有している財産と、将来得ることができる財産に分かれます。財産にはプラスの財産だけではなく、マイナスの財産も含まれることに注意しましょう。
なお、離婚時としていますが、離婚前に婚姻関係が破綻し、別居が先立っているときは別居時で判断されます。
- 現金や預貯金
- 不動産(土地、建物)
- 動産(車、家具、貴金属など不動産以外の物品)
- 有価証券、投資信託、会員権
- 営業上の財産(主に個人事業)
- 債権債務
- 退職金
- 私的年金(公的年金は年金分割で行う)
- 掛け捨て以外の保険商品
- 職業上で有益な資格による見込み収入(※)
※資格取得に他方配偶者の貢献がある場合
このような財産を財産分与の対象としますが、上記に限らず財産価値があって、婚姻中に形成されたと判断できるものは対象に含めることができます。
また、婚姻前から所有している財産でも、婚姻後に夫婦の収入からローン返済等をしていた場合には、婚姻中に相当する資産価値を求めて、財産分与額を決めることもあります。