単独親権者の死亡と親権のゆくえ

父母が婚姻していない場合(離婚した場合を含む)、子の親権は父母の一方が親権者となって行使されます。

父母が婚姻しているときには、原則として共同親権になり(民法第818条第3項)、婚姻していない父母は、同居して子の監護を共同で行っていても法律上は単独親権です。

ここで、単独親権者が死亡して親権者が不在となったとき、親権はどこに行ってしまうのでしょうか?

直感的には、もう一方の親が生きているのであれば、生存親へ親権が自然移行するように思ってしまいますが(特に離婚で非親権者となった生存親はなおさら)、実際にはそうならないのです。

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親権を行う者がいなければ後見開始

単独親権者の死亡に限らず、親権者全員が親権を行使できなくなった場合は、後見が開始します(民法第838条第1号)。

後見開始後は、未成年後見人によって親権が行使され、生存親へ親権が自然移行することはありません。

疑問に思うのは、親権者として適任だと思われる生存親ではなく、未成年後見人に親権を行使をさせるよう民法が定めていることですよね。

法定代理人が不在では未成年者に不都合が多い

未成年者は、法定代理人の同意がなければ法律行為ができず(民法第5条第1項)、法定代理人たる単独親権者の死亡は、未成年者にとって法定代理人の喪失でもあります。

単独親権者の死亡で相続が開始され、子が相続人となる以上、何らかの法律行為が必要となるのは容易に想像できますし、身近な例を一つ挙げると、未成年者が携帯電話を契約したいときにも法定代理人の同意が必要です。

この法定代理人とは、親権者または未成年後見人であり、現に子と生活しているだけの監護者(保護者)では一般に要件を満たしません。

したがって、未成年者の生活面は監護者(保護者)でカバーできても、法律面で親権行使者(親権者または未成年後見人)を必要とします。

婚姻関係にない父母は親権を共同行使できない想定

民法では、婚姻関係の有無だけで単独親権・共同親権を定めており、婚姻関係にない父母は、円満に共同親権を行使できない想定で規定されています。

しかも、この場合の婚姻関係とは法律婚に限られ、多くの法令で「婚姻に準ずる」とされる内縁関係(事実婚)は、親権に限って言えば、少しも婚姻に準じた扱いではありません。

現実には、未婚の父母が子と共同生活をしている、離婚後も父母が別居せず子と共同生活している、離婚後に父母が別居していても子に関しては協力して意思疎通があるなど、共同親権と何ら変わらない状況下で子を養育している例は多々あります。

それらに対して、婚姻中でも夫婦の不仲で別居しており、別居親が子と交流を絶っている事実上の単独親権も決して少数ではないでしょう。

民法は必ずしも実態に即しておらず、選択的共同親権の検討もされてはいますが、この点は今回のテーマから外れるので触れないでおきます。

ただ、歩みは遅くとも、徐々に多様性を認めつつある日本において、親権だけは頑なに法律婚を前提にしているのはなぜなのでしょうか? 個人的には立法府の怠慢、もしくは事実婚を嫌悪する政治的な勢力があるのだと考えています。

そこで、単独親権者の死亡→他に親権者(法定代理人)がいない→未成年後見開始(未成年後見人選任)という流れになるわけですが、子が不安定な状況に置かれるのを、最小限に抑える意味で未成年後見制度は大切です。

その一方、協議離婚・離婚後の子の出生・認知における親権者指定協議が調わないときは、家庭裁判所が協議に代わる審判をできるとされており(民法第819条第5項)、子の利益のために必要があれば、家庭裁判所が親権者を変更できるとされています(同法同条第6項)。

どうやらこの辺りが、親権のゆくえを不透明にしているようです。

学説上でも争いがある

未成年者の親権を行使できる者がいなくなったとき、親権の扱いがどのようになるかは学説上の争いがあり、概ね次のように分かれます。

  1. 未成年後見は開始せず生存親へ当然に親権が移行する
  2. 未成年後見が開始して生存親への親権者指定・変更を認めない
  3. 未成年後見人の選任前なら生存親への親権者指定・変更が可能
  4. 未成年後見人の選任に関係なく生存親への親権者指定・変更が可能

絶対的なものではないのですが、実務上の主流は、未成年後見人の選任前後に関係なく、生存親からの親権者指定・変更審判申立てを認める4の立場です。

また、裁判所のHPで公開されている親権者変更審判の申立書には、申立ての理由欄(親権の変更を必要とする理由欄)に「親権者の死亡」があり、単独親権者の死亡後でも生存親への親権者変更が予定されています(単独親権者の生存時のみ対象ではない)。

参考:親権者変更申立書-裁判所(PDF)

本来、親権者の変更とは、離婚等で親権者指定された単独親権者の親権を喪失させ(指定を取り消し)、他方の親へ親権を付与する(新たに親権者指定する)性質を持っていますが、死亡した単独親権者の親権を喪失させる(指定を取り消す)ことは当然できません。

そうなると、もはや生存親へ親権者を変更できないように思えますが、子の福祉の観点から最適な親権行使者を選びやすいという点では、生存親へ親権者を変更できる余地を残したほうが優れていると感じます。

なお、親権者の変更を規定した民法第819条第6項は、生存している単独親権者に限定した規定になってはおらず、単独親権者の死亡後に親権者変更が可能であるかどうかは意見が分かれます。

ただし、注意したいのは審判の「申立て」が認められるのであって、親権者の指定・変更が認められるとは限りません。

親権が、子の利益のために行使される義務性の強い権利であることを踏まると、あくまでも子の監護養育に適していることが家庭裁判所の判断基準だからです。

親権制度と未成年後見制度の関係性

未成年後見は、「親権を行う者がないとき」に開始することから、未成年後見制度が親権制度の補充的役割であることは確かです。

そして、愛情をもって子を育てる親が、一次的な親権行使者であるべき(そうあって欲しい)ことにも異論はないでしょう。

親権者の親権が制限される(喪失・停止)、または辞任がない限り、未成年後見人が親権者に優先して親権を行使する制度にはなっていません(そもそも親権を行う者がいるので)。

また、未成年後見人は、定期的に家庭裁判所への報告を求められる(後見監督がある)点でも、親権者とは差異があります。

望んで単独親権になりたかったわけでは……

説明してきたように、婚姻関係にない父母は民法で単独親権と定められていますが、当事者の父母が単独親権を望んでいたかというと、決してそんなことはないのではないでしょうか(全てとは言いません)。

もし、選択的共同親権が認められていたら、婚姻関係になくても共同親権で子を育てたいと考える父母は少なくないと思われます。

つまり、生存親が親権者として不適任だから単独親権になったのではなく、父母の一方を親権者とする法律上の制限で、単独親権を強いられているケースが存在するということです。

この点を鑑みると、単独親権者の死亡後は、生存親が親としての愛情と責任から、子を育てたいと親権を望むのはある意味で当然ですし、健やかな子の成長にとっても望ましいでしょう。

特に、単独親権者の死亡前から生存親が子と共同生活していた、もしくは盛んに交流してきた経緯では、あえて未成年後見人を選任しなくても、生存親への親権者指定・変更でうまくいくはずです。

過去の審判では、未成年後見制度が親権制度の補充的役割であることを認め、生存親が親権者として適任であれば(監護環境に問題がなければ)、生存親への親権者指定・変更を認容した例が複数あります。

生存親と子の親族の対立

親権制度と未成年後見制度はこのような関係であるため、親権者と未成年後見人が対立する要因は無いように思えますが、単独親権者の死亡後では、未成年後見人の候補者間で対立が起こることもあります。

単独親権者が死亡すると、それまで単独親権者に監護協力してきた子の親族(祖父母や伯叔父母など)が、自らを候補者として未成年後見人選任請求を申し立てることは少なくありません。

そして、単独親権者の死亡を知った生存親も、親権者候補として名乗りを上げたいでしょう。

子の親族からの未成年後見人選任請求と、生存親からの親権者指定・変更請求が対立する場合、家庭裁判所の判断基準は子の福祉です。

参考:子の福祉とは何か~濫用されがちな大義名分

子の親族や生存親の監護意欲、監護態勢、健康状態、経済状況など当事者に関することの他、子の意向も確認されます。

要するに、これから子が健全に育っていくためには、一切の事情からどちらの環境が適しているか判断するわけです。

一切の事情には過去の経緯も含まれる

未成年後見人選任と親権者指定・変更のどちらも、これからの親権行使者を決める審判ですが、家庭裁判所は過去の経緯も重視します。

なぜなら、当事者がこれまでどのように子と関わってきたのかは、これからの子の生活にとって非常に重要だからです。

一次的には実親、二次的に未成年後見人という制度上の建前はあるにせよ、全ての生存親が適任とも限りませんよね。

とりわけ、生存親が離婚原因を作った有責配偶者、暴力的な言動、養育費の未払い、生存親からの面会交流拒絶など、子の成育に相応しくない行為が過去にあると、家庭裁判所の判断は厳しいです。

離婚は夫婦間の問題なので、子の監護とは関係ないように思われがちですが、離婚後に子が出生したならともかく、子が生まれてからの離婚であれば、自制できず家庭崩壊させた当事者として、厳しい目が向けられても仕方がありません。

また、生存親の子との関わりに問題が見られなくても、子が幼少期から死亡した単独親権者の親族と、同居して慣れ親しんでいる場合には、急激な環境変化を避ける目的から、子の親族を未成年後見人へ選任する可能性があります。

生存親と子の親族の選択肢

最後に、生存親・子の親族が、単独親権者の死亡後に親権を行使するには、それぞれ異なった選択肢がありますので解説しておきます。

共通:未成年後見人の指定・選任

未成年後見人は、死亡した単独親権者が遺言で指定することができ(民法第839条第1項)、遺言指定がなくても、子・親族・利害関係人の請求によって家庭裁判所が選任します(同法第840条第1項)。

単独親権者が不慮の事故等で突然亡くなった場合は、遺言を残していないでしょうから、早急に未成年後見人の選任請求を申し立てなくてはなりません。

また、家庭裁判所が必要と認めれば、未成年後見人は複数選任できます(民法第840条第2項)。したがって、単独親権者の遺言指定にかかわらず、生存親・子の親族のどちらも未成年後見人となる可能性は残されています。

それでも、未成年後見人を複数選任する必要がないのに、生存親や子の親族だからという理由だけで、家庭裁判所は追加選任しませんし、生存親にしてみれば、親なのに未成年後見人では違和感があるでしょう。

生存親からの親権者指定・変更

生存親には実親としての自負もあり、未成年後見人よりも親権者指定または変更審判(単独親権者が死亡しているので調停はできない)を申し立てて、親権者になりたいはずです。

ただし、未成年後見人の選任後に、生存親から親権者指定または変更審判を申し立てる場合は、できるだけ早く申し立てるように注意してください。

なぜなら、未成年後見人の保護下で子が安定した生活を送っている状況では、親権者変更審判の申立てが遅れれば遅れるほど、子の生活環境を変更することに家庭裁判所が消極的だからです。

親権者指定と親権者変更の区別は以下を参考にしてください。

単独親権者死亡までの経緯親権者指定/変更
父の認知前に単独親権者の母が死亡して死亡後に父が認知父からの親権者指定請求
父の認知後に親権者指定協議がないまま単独親権者の母が死亡父からの親権者指定請求
離婚後の子の出生で親権者指定協議がないまま単独親権者の母が死亡父からの親権者指定請求
父の認知後または離婚後の子の出生で親権者指定協議により単独親権者となった父が死亡母からの親権者変更請求
父母の離婚後に単独親権者の父または母が死亡他方からの親権者変更請求

子の親族からの養子縁組

養子は養親の親権に服する(民法第818条第2項)ので、子の親族は子と養子縁組することで親権者となります。

子の祖父母が子(孫)と養子縁組する場合は、直系卑属に該当するので家庭裁判所の許可は必要ありませんが(民法第798条ただし書き)、子が15歳未満のときは法定代理人の代諾を必要とします(同法第797条第1項)。

ところが、単独親権者の死亡後では法定代理人が存在しないため、代諾できる未成年後見人が選任されていなければなりませんよね。

ここで、子の祖父母が未成年後見人に選任されると、法定代理人となった未成年後見人(祖父母)は養子縁組の当事者であるため、利益相反になって代諾できません。

ですから、未成年後見人である祖父母と子(孫)の養子縁組では、特別代理人の選任を申し立てます(未成年後見監督人が選任されている場合を除く)。

あとがき

民法上、単独親権者の死亡後は未成年後見が開始されます。

しかし、親権制度が未成年後見制度よりも優先されている建前や、子の福祉を最優先とする方針から、未成年後見人選任が絶対ではなく、生存親への親権者指定・変更を可能としているのは、柔軟で良い運用ではないでしょうか。

生存親と子の親族は、互いに子を見守る存在として協力関係なのが理想で、そこは大人の事情もあってなかなか難しいですが、残された大人として子のために何が最適なのか、良く考えなくてはなりません。

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