親権は他の人から制限することもできる

親権者の指定や変更が申し立てられるのは、主に自分が親権者になりたい場合ですが、それ以前に、親権者である相手が子供のためにならない監護を続けていて、子供の保護を目的とした親権者の変更が申し立てられる場合もあるでしょう。

親権者の変更は、子供の環境を大きく変えてしまい、現状維持の優先もあって認められにくい傾向があるのは確かです。しかし、明らかに問題のある監護状況が前提なら、親権者を変更する十分な理由になって認められるはずです。

また、一般に親権者の変更は、親権者ではない親から申し立てられますが、申立ては親に制限されるものではなく、子の親族なら請求が可能です(民法第819条第6項)。

ところが、親権者を変更するためには、新たな親権者が必要ですから、親権者ではない親が亡くなっていると変更先がなくなりますよね。

子と養子縁組することで、養親の親権にはなるのですが(15歳未満は親権者の代諾が必要)、他の方法として、親権者の親権行使を制限することはできます。

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親権の制限には3種類ある

親権の制限には、親権の喪失(民法第834条)、親権の停止(民法第834条の2第1項)、管理権の喪失(民法第835条)の3種類あります。これらは別表第1事件で、審判によって処理されるため、調停の利用はできません。

親権の喪失とは、親権者の親権を剥奪することで、審判が取り消されるまでは無期限に有効です。親権の喪失は非常に重い処分であるため、「子の利益を著しく害するとき」に限って認められます。

親権の停止は、親権の喪失と同じ効果を持ちますが、2年以内と期間が限定される点で異なります。要件も「子の利益を害するとき」と、喪失の要件になる「著しく」が抜けているので、ハードルとしては低くなります。

管理権の喪失は、子の財産管理において子の利益を害するときに、親権者の管理権だけを喪失させるもので、つまり子の財産管理は他者に委ねられます。

親権の喪失と停止は独立している

親権喪失の審判と親権停止の審判は、それぞれが独立しており、ひとつの申立てに対し、家庭裁判所が親権喪失と親権停止を判断して審判するものではありません。

親権喪失と親権停止の違いは、申立ての原因が継続的であるか、2年以内の一過性に過ぎないかの違いで、申し立てる側が状況に応じて判断します。ただし、他に適切な方法があれば、申立ての取下げと違う方法の申立てを勧められるでしょう。

例えば、親権喪失を申し立てても、親権者変更が本当の目的の場合や、親権全体ではなく管理権喪失が目的である場合、親権喪失の申立てを取り下げて、親権者変更や管理権喪失に切り替えることになります。

なお、親権停止に対し継続の申立ては存在しないことから、継続するためには、親権停止期間が満了する前に親権停止を申し立てるか、なおのこと親子関係が悪化していれば、親権喪失を申し立てて対処します。

親権の制限後は未成年後見人が選任される

婚姻中の共同親権においては、夫婦の一方の親権が制限されても、他方の親権者によって親権を行使する状態、つまり単独親権行使になります。

しかし、夫婦の両方が親権を制限された場合や単独親権で親権が制限されると、親権を行う者がいなくなるため、親権を制限された父または母は、未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなくてはなりません(民法第841条)。

もっとも、意に反して親権を制限された父または母が、素直に遅滞なく未成年後見人の選任を請求するとは限らず、その場合は民法840条の規定により、子の親族などが請求することになるのでしょう。

その後、選任された未成年後見人によって親権が行使(代行)されます。

親権者の親権を制限しても、非親権者の親が親権者になるわけではありません。

また、管理権喪失の申立てが認容された場合においても、管理権を行使できる親権者が他にいなければ、同様に管理権だけを代行する未成年後見人が必要です。この場合、監護権は親権者が、管理権は未成年後見人が行います。

親権の制限は親族からでも申し立てられる

親権の喪失、停止、管理権の喪失は、子、子の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官に申立権があります。また、児童相談所長にも申立てが認められ(児童福祉法第33条の7)、実際に児童相談所長から申し立てられたケースもあります。

子自身が、親の虐待や遺棄を理由として申し立てることも考えられますが、子の親族からも申立てができるので、他方の親だけではなく、祖父母等からの申立ても十分考えられます。

親権の制限の申立ては良く考えてから

親権の制限は、あくまでも親権者の親権を制限するに過ぎず、非親権者に親権を与えるものではありません。親権者による監護が不適切でも、親権者の変更、子の監護者の指定がありますし、不当な拘束には子の引渡し請求など他の手段が存在します。

したがって、子の親族ではない児童相談所長や未成年後見人等が申し立てるケースを除くと、純粋に親権者の親権を制限する目的の事案は少なく、取下げの割合も高い申立てです。申し立てる際には、親権の制限による効果をよく吟味しましょう。

具体的な審判手続については、親権喪失・親権停止・管理権喪失審判で解説しているので参考にしてください。

あとがき

親権の制限は、法律上、子に申立権があるとはいえ、子が幼ければ幼いほど申立てに現実性がありません。

また、親権の制限を理解できる年齢だとしても、虐待や遺棄を仕方なく受け入れていたり、親に対する遠慮や葛藤があったりと、なかなか申立てまで進まないのが実態ではないでしょうか。

ですから、子を見守る立場の大人が、子を不利益から守るために動かなければなりません。それが大人の責務です。

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