親権喪失・親権停止・管理権喪失

親権者による親権または管理権が不適切で、子の利益を害しているときは、家庭裁判所に親権喪失の審判、親権停止の審判、管理権喪失の審判を申し立て、親権を制限することができます。

親権は、親権者の義務であると同時に権利でもありますが、子のために行使されるべき性質であることから、子の利益が尊重された上で審判されます。

  • 親権喪失:父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき(民法第834条)
  • 親権停止:父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき(民法第834条の2第1項)
  • 管理権喪失:父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき(民法第835条)

親権喪失の審判は、請求の原因が2年を超えて継続する見込みがあるとき、親権停止の審判は、請求の原因が2年以内に消滅する見込みがあるときに申し立てます。

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親権喪失・親権停止・管理権喪失審判の手続

申立てができる人

子、子の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官、児童相談所長(児童福祉法第33条の7)です。

子の申立てによる手続代理

子が幼くても、概ね10歳程度であれば意思能力はあると解されているため、法定代理人によらず自ら手続行為ができます(家事事件手続法第168条第3項による同法第118条の準用)。

ただし、実際に幼い子が不備なく手続をすることは期待できず、必要であると認めるときは、裁判長は申立てにより弁護士を手続代理人に選任できます(家事事件手続法第23条第1項)。また、申立てが無いときでも、職権で弁護士を手続代理人に選任できます(同法同条第2項)。

管轄の家庭裁判所

子の住所地を管轄する家庭裁判所です。

手数料・切手代

子1人につき収入印紙で800円を審判申立書に貼り付けます。その他に、数百円分の切手(家庭裁判所によって異なる)が必要になります。

必要書類等

  • 子の戸籍謄本
  • 審判を受ける親権者の戸籍謄本(子と同籍ではないとき)
  • 申立人の戸籍謄本等(必要な場合)
  • 申立ての理由を示す資料(必要な場合)

申立人の戸籍謄本等が必要になるのは、申立人に申立権があることを証明するためです。申立ての理由を示す資料とは、親権の行使が不適切であることを示す資料です。

親権喪失・親権停止では子の利益を著しく害していること、管理権喪失なら子の財産の管理状況を示す資料ですが、親権喪失と親権停止は、証拠としての資料提出が難しく、陳述によるところが大きいでしょう。

即時抗告

申立てを認容する審判に対しては、審判を受けた者(審判によって親権が制限される者)とその親族から即時抗告できます。申立てを却下する審判に対しては、申立人、子、子の親族、未成年後見人、未成年後見監督人から即時抗告できます。

親権喪失・親権停止・管理権喪失審判申立書

申立書は裁判所のホームページからダウンロード可能です。

家事審判申立書 – 裁判所(PDF)
当事者目録 – 横浜家庭裁判所(PDF)
手続代理人等目録 – 横浜家庭裁判所(PDF)
※特定の書式が使われない家事審判事件に共通の申立書です。
※別ウィンドウまたは別タブで開きます。

共通申立書には、子の記入欄がありません。そのため、当事者目録を別途ダウンロードして子について記入します。もし、申し立てる家庭裁判所に専用の書式がある場合にはしたがってください。

手続代理人等目録は、子が申し立てるときに、手続代理人として弁護士の選任を申し立てる場合に必要で、通常は必要ありません。

申立書の書き方

事件名・裁判所名・記入日

事件名には親権喪失、親権停止、管理権喪失のいずれかを記入します。下に移って太枠内に管轄の家庭裁判所名を書きますが、支部名や出張所名は、「御中」の左に書きます。記入日は特に問題ないでしょう。

申立人の記名押印

申立人が氏名を署名押印します。押印は認印で構いません。弁護士に手続代理人を頼むときは、手続代理人である旨と弁護士の氏名も記入し職印を押します。

添付書類

添付書類とその通数を記入します。例えば「子の戸籍謄本1通 申立人の戸籍謄本1通」などですが、添付書類の内容と通数がわかれば特に決まりはありません。

申立人

申立人の本籍(戸籍謄本を添付する場合、外国人は国籍)、住所、電話番号、氏名(フリガナ)、生年月日、年齢、職業をそれぞれ記入欄にしたがって書きます。問題のある欄ではないはずですが、児童相談所長が申し立てるなら、当然に住所は児童相談所の住所になります。

審判を受ける者(親権者)

申立人欄の下に、何も書かれていない空欄があるので、左に「審判を受ける者」または「親権者」と書きます。他の欄は申立人欄と同じ内容なので問題ないでしょう。

申立ての趣旨

定型文がありますので参考にしてください。同じである必要はありません。

  • 「親権者の未成年者に対する親権を喪失させる」との審判を求める。
  • 「親権者の未成年者に対する親権を○年の間停止させる」との審判を求める。
  • 「親権者の未成年者に対する親権を○年○月○日までの間停止させる」との審判を求める。
  • 「親権者の未成年者に対する管理権を喪失させる」との審判を求める。

申立ての理由

親権喪失、親権停止、管理権喪失を求める経緯を説明します。つまり、親権者が子の監護や財産管理をどのようにしているか、なぜ審判を求めるのか書くのですが、事情によってケースバイケースです。

文の先頭に1から数字を付け、参考形式としては次のように書きます。

  1. 申立人と親権者ならびに子との関係(子の親族が申し立てる場合)
  2. 親権者の子の監護や財産管理の状況(具体例など複数あれば良いが簡潔に)
  3. 現状では未成年の不利益になる旨と、結びとして「申立ての趣旨のとおりの審判を求めます。」

※今後記入例を追記する予定です。

当事者目録と手続代理人等目録の書き方

当事者目録の左側には「未成年者」または「子」と書きます。子の本籍、住所、氏名、生年月日、年齢を書きますが、本籍や住所は、審判を受ける者(親権者)と同じなら、「親権者に同じ」として問題ありません。

手続代理人等目録は弁護士に書いてもらうので、気にする必要はないでしょう。

審判前の保全処分

親権喪失・親権停止・管理権喪失審判を本案として、申立人から審判前の保全処分を申し立てることができます。保全処分では、親権者の職務の執行を停止し、または親権を代行する職務代行者を選任することが可能です(家事事件手続法第174条第1項)。

ただし、申立人が職務代行者に選任されるとは限らず(事情からふさわしい場合は多いですが)、あくまでも家庭裁判所の判断で選任されるものです。

職務代行者は、親権者と同一の権限で親権を代行することが可能で、本案審判までの間、親権者の親権を制限することができます。また、職務執行停止や、職務代行者による親権の代行は、第三者に対しても効力があります(対世的効力といいます)。

審判前の保全処分への即時抗告

申立人は、申立てを却下する審判に対して即時抗告でき、本案審判(親権喪失・親権停止・管理権喪失審判)に即時抗告できる者は、保全処分に対して即時抗告ができます。

つまり、本案審判で親権を制限されるかもしれない親権者は、保全処分にも即時抗告できるのですが、保全処分というのは必要性があるからこそ命ぜられるものであって、そもそも即時抗告が認められにくい上に、即時抗告があっても、ただちに保全処分の執行は停止しません。

子の心身に危険のおそれがあるなど、特に緊急性が高い事案においては、審判と同時に審判前の保全処分も申し立てて、子の保護を優先するべきでしょう。

保全処分の執行を停止させるには、保全処分の取消原因となることが明らかな事情か、保全処分の執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることを疎明しなければなりません(家事事件手続法第111条第1項)。

また、保全処分が執行停止しなくても、本案審判に即時抗告できる者(審判を受ける親権者やその親族)から、保全処分の確定後に取消しを求める審判を申し立てることは可能です(家事事件手続法第112条第1項)。その場合は、保全処分を求める事由の消滅その他の事情の変更を必要とします。

審理手続

家庭裁判所は、申立人から事情を聴取し、親権者の親権行使状況を把握します。また、家庭裁判所調査官によって、緊急性の確認や子の状況を把握し、審判の申立てに相当する事情の有無を調査します。

その際、親権喪失、親権停止、管理権喪失が妥当で、他に望ましい解決方法が存在しないか、親権停止なら期間は妥当であるかなども検討されます。

なお、子が15歳以上であれば直接陳述を聴き、子が15歳未満であれば、必要に応じて陳述を聴きます。審判を受ける親権者については、審問期日により陳述を聴取しなければならないと定められており(家事事件手続法第169条第1項第1号)、陳述聴取のための審問期日が指定されます。

審理期間と終局状況

最高裁判所事務総局家庭局の公表データによると、親権喪失・親権停止の審理期間と終局状況は次の通りです。

【審理期間】

1か月以内~3か月~6か月6か月超
親権喪失13.1%26.9%27.7%32.4%
親権停止13.0%30.1%33.5%23.3%
※最高裁判所事務総局家庭局「親権制限事件及び児童福祉法28条事件の概況」から平成27年~令和元年を合計
※親権喪失513件、親権停止1112件

親権喪失は7割弱、親権停止は8割弱が、6か月以内の終局となっており、親権喪失は親権停止に比べて審理期間が長くなる傾向にあります。

【終局状況】

認容却下取下げその他
親権喪失24.4%14.5%57.1%4.0%
親権停止35.6%13.8%48.4%2.3%
※最高裁判所事務総局家庭局「親権制限事件及び児童福祉法28条事件の概況」から平成27年~令和元年を合計
※親権喪失524件、親権停止1094件

認容審判は3割程度、全体の約半数が取下げとなっており、取下げ理由は定かではありませんが、子の監護に改善が見られた場合や、親権者変更など他の解決方法への移行が考えられます。

審理期間と終局状況のデータからは、親権喪失よりも処分が軽い親権停止のほうが、短い審理期間で申立てが認容されやすい傾向です。

審判確定後の手続

審判が確定すると、戸籍の記載を申立人が届け出る必要はなく、家庭裁判所書記官が子の本籍地の市区町村長に嘱託します(家事事件手続規則第76条第1項第1号)。

また、審判の確定で子の親権を行う者が不在になったとき、未成年後見人が親権を行いますが、この未成年後見人の選任は、審判を受けた父または母によって家庭裁判所に請求されます(民法第841条)。

なお、審判を受けた父または母の請求によって、既に未成年後見人が選任されていても、必要があれば更に選任することは可能なため、子の親族等が自らを候補者として未成年後見人の選任請求をすることは可能です。

親権喪失・親権停止・管理権喪失審判申立ての注意点

親権・管理権は、子の利益のために行使される前提があるので、その親権・管理権を制限する審判の申立ては、動機が子の利益にかなっていなくてはなりません。

そして、認容審判で親権が制限されても、未成年後見人により親権・管理権が行使されるだけです。つまり、親権の制限で親権者は変更されず、親権を制限された本人や親族の請求で審判が取り消されると、制限されていた親権は回復します。

注意したいのは、親権行使が不適切な親に対し、親権を制限したいのか、親権を剥奪したいのか良く考えることです。

要件が厳密ではない親権停止は、データが示すとおり、短い審理期間と認容されやすい傾向があるとはいえ、親権停止期間で子の監護が改善することを期待して作られた制度ですから、いわば「更生期間」を与える趣旨です。

親権者の人間性を信じられず、一時しのぎではない根本的な解決を図りたければ、親なら親権者の変更、親族なら養子縁組など、現在の親権者から完全に親権を移行させる方法を検討するべきでしょう。

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