親権の権利義務とその詳細

親権を大きく分けると、子の身上についての身上監護権、子の財産管理と代理をする管理権(財産管理権)に分かれます。親の権利と書いて親権ですから、親権を争うとは親同士の権利争いと思われていますが、親権は権利に義務を伴います。

しかし、親権争いにおいて義務が問題になることはほとんどなく、主に権利として争われるのはなぜでしょうか?

義務が問題にならない理由は、子に対して親の義務を果たすことが、親にとって望む結果でもあるからです。つまり、親権を欲する親は、他人から干渉されずに子を養育する権利を得て、自分の保護下で子を育てたいのです。

なお、養親がそうであるように、親権は血縁上の親以外も行うことができ、実親でも親権を失うことがあります。血縁上の親子関係は不変ですが、現行の民法は親権を実親の当然の権利として与えていません。

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親権が子のためにある点を忘れてはならない

多くの人が考える親権を端的に表しているのは、民法第820条の規定です。

民法 第八百二十条
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

条文では「子の利益のため」であることに気付いたでしょうか。大抵の親権を争う親は自分のために争っており、自分が子を育てたいがために争います。

ところが、民法の条文に則すると、子の利益のために親権者は自分であるべきとするのが、親権を争う理由でなくてはなりません。この条文と現実の親権争いが、いかに乖離したものであるか容易に想像が付くはずです。

親として親権を争うとき、自分よりも子にとってどちらが親権者として望ましいか良く考えるべきです。単独親権では、子に接する時間と十分な生活・教育水準のための資力が、両立しないことも多いからです。

父母の都合を子に押しつけるのではなく、子の意向も尊重しながら、どちらが子の将来にとって良い結果になるのか、よく話し合って正しい判断をしましょう。

親権は権利よりもむしろ義務である

親権の持つ権利性は、親が子を支配して意のままに操ることができる性質ではなく、親権による子の監護等に対して、第三者からの干渉を排斥できる程度の権利性しかないとするのが主流の考え方です。

むしろ、子への義務性が強く、子の福祉に反する親権行使は許されないどころか、幼くて権利行使ができない子に代わり、権利を行使するのが親だとする説すらあります。

また、親権に権利性があるとしても、子の利益のために限って行使が許されるので、もはや親自身の権利ではなく、利益を受ける子の権利であることが明白な以上、親権には義務しかないとする説もあります。

いずれの立場であるにせよ、親権は権利よりも義務が重んじられており、そして親が子を育てるのは、社会的にも果たすべき義務と考えられています。

以降で、親権の詳細を説明していきますが、言葉では○○権となって権利のように読めても、その背景には子供の幸福を目的として、親が果たすべき重い義務があることを、常に意識して読んでみてください。

身上監護権

一般的な意味での親権を指し、子を監護し成育するまで保護下に置きます。子の成長を見守り、時には子のために必要な懲戒(しつけ)をします。また、子を代理して一定の身分行為をする権利が与えられています。

子と一緒に生活することは条文で規定されていませんが、幼い子は生活を共にしなければ必要な監護に欠けてしまうので、身上監護権は子と暮らす(子を引き取る)権利のようにも理解されて浸透しています。

監護教育権

前述の民法第820条に規定されている通りで、子を監護し教育をする権利と義務です。

監護とは監督し保護することですが、監督には教育の要素が含まれ、教育には学校教育以外の人間的な教育も含まれるので、監護と教育は必ずしも明確に区別されておらず、子の健全な成育のために親が講じる措置全般と考えるべきです。

また、教育する義務の中には、子に教育を受けさせる義務もあり、学校教育法第16条に規定される9年の普通教育を受けさせる義務も当然に含まれます。いわゆる義務教育の義務とは、子の義務ではなく親権者が子に教育を受けさせる義務です。

学校教育法 第十六条
保護者(子に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)をいう。以下同じ。)は、次条に定めるところにより、子に九年の普通教育を受けさせる義務を負う。

居所指定権

民法第821条に規定されている、子の居所を指定する権利です。実質的には子と暮らす権利とも言えるでしょう。

民法 第八百二十一条
子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。

子の居所を指定できる権利が与えられているのは、居所が定まらないと親権者が身上監護を実践できないからです。したがって、第三者が親権者の指定する(もしくは承諾する)場所以外に子を留めようとすることは、居所指定権を侵害しています。

もっとも、居所の指定が身上監護をする上で不可欠であるため、居所指定権の侵害は、身上監護権全体の侵害に繋がりますから、居所指定権の侵害を主張することは少なく、親権(または監護権)を侵害されたと訴えることになるでしょう。

なお、意思能力を持つ子(規定はないですが10歳程度なら意思能力はあると考えられています)が、自らの意思で親権者の指定した居所を離れ、例えば、親権者ではない親と一緒に暮らし始めたとき、居所指定権による強制的な子の連れ戻しは、子の利益の観点から認められない方向で支持されています。

懲戒権

懲戒という言葉にあまり良いイメージを持ちませんが、親権者は子のために必要であれば、懲戒することができると規定されています。

民法 第八百二十二条
親権を行う者は、第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。

一般的な懲戒は、制裁の意味合いが強いのに対し、親権者ができる懲戒は、子のための監護教育における必要な範囲内です。その必要性は社会通念上で判断するしかなく、具体的に規定も設けられていません。

他方で「しつけ」は、監護教育の一環として考えられており、何がしつけで何が懲戒に相当するのかも解釈の分かれるところです。ですから、親権者の懲戒権は、特に規定されなくても(しつけの意味では)監護教育上に存在するものです。

また、しつけでも懲戒でも必要な範囲を超えて良いはずがなく、その判断は難しいですが、過剰であれば虐待や犯罪に該当するので、懲戒権がこうした行き過ぎた行為を許容するものでは到底ありません。

懲戒権については、しばしば体罰の口実となっていると批判されてきました。

児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律(2020年4月1日施行)では、

  • 親権者等がしつけに際して体罰を加えることを禁止(児童虐待防止法第14条第1項)
  • 施行から2年を目途に懲戒権の在り方を検討(民法第822条)

が盛り込まれ、必要な範囲を超えた懲戒権行使の制限はもとより、懲戒権そのものについても今後変わっていくと思われます。

職業許可権

民法第823条で、親権者による子の職業の制限が規定されています。

民法 第八百二十三条
子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。

2  親権を行う者は、第六条第二項の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。

民法第6条第2項の場合とは、営業に堪えることができない場合です。つまり、親権者は子の職業の営みを許可しても、子が堪えられないと認める事由があれば、その許可を取り消したり制限したりできます。

職業なら雇用形態を問うものではなく、例えば、アルバイトをするのにも親権者の許可が必要です。ただし、労働契約の当事者は子ですから、親権者は子に代わって労働契約を締結できません(労働基準法第58条第1項)。

その一方で、親権者の許可を得て子がした労働契約であっても、契約が不利だと認めれば、親権者は将来に向かって労働契約を解除することができるとされています(労働基準法第58条第2項)。

身分行為の代理権と同意権

身分行為は、その結果が当事者に与える影響を考えれば、本人の意思によるべきで代理には馴染まないものです。しかし、子が幼いと身分行為について判断能力を持っていないので、次の身分行為は法定代理人である親権者の代理を認めています。

  • 嫡出否認の訴えの被告になること
  • 認知の訴えの提起
  • 15歳未満の子がする子の氏の変更許可審判の申立て
  • 15歳未満の子がする縁組の承諾
  • 未成年が養親の場合の縁組の取消し
  • 15歳未満の子がする協議離縁(親権者になるべき者として)
  • 15歳未満の子がする離縁の訴えの提起
  • 相続の承認または放棄

また、民法第737条では、未成年の婚姻に「父母」の同意を得なければならない(一方の同意で足りる)と規定されていますが、この同意権は親権に含まれるとする説と、条文上は「父母」なので親権とは無関係だとする説で対立しています。

身分行為の代理は身上監護権?財産管理権?

このページでは、身分行為の代理を身上監護権に含めていますが、それは「身上」という言葉を重視したためです。

身分行為の代理が、身上監護権に含まれるか財産管理権に含まれる(もしくは独立して存在する)かは解釈の違いがあって、代理行為なので財産管理権に含まれるとする考えもあります。

しかし、財産管理権を規定する民法824条では、代理(代表)を財産に関する法律行為と限定しており、身分行為の代理を財産管理権に含めるのは違和感が強いです。

ところが、親権から身上監護権を分離して、父母が親権者と監護者に分かれたとき、監護者は親権者ではないので、法定代理人として子の身分行為を代理できません。

そうすると、身上監護権にも身分行為の代理が含まれてないことになり、結局どちらに含めてもスッキリしませんね。もちろん、身分行為の代理権が、身上監護権と財産管理権とは独立しているとする見解もあります。

管理権(財産管理権)

親権に服する子は、自らの財産を管理する能力に不足していると考えられることから、民法第824条は親権者による子の財産の管理と法律行為の代理を認めています。

未成年の子が財産を保有する例は少ないですが、祖父母からの遺贈や父または母の死亡による相続など全くないわけでもなく、財産がないとしても、子が法律行為をする上で、法定代理人としての親権者の存在は非常に重要です。

民法 第八百二十四条
親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

ただし書きでは、子の行為を目的とする債務に、本人の同意を必要としています。

これは、考えてみれば当たり前の話で、行為者が子であるのに、親権者が勝手に代理して債務契約を結ぶことが許されると、子は承諾もしていない債務のために、目的とされた行為をしなくてはならない義務を負うからです。

また、子が成年に達したときは、親権者は管理の計算(収益の計算)をしなければならず(民法第828条)、財産管理は子に移ることになります。

共同親権による代理または同意

婚姻中の父母は共同親権になるので、子の法律行為に対する代理や同意も共同でしなければなりません。

父母の一方が、親権者として単独名義で行った代理または同意は、他方親権者の同意を得ていなければ、共同行使にならないので無効(無効ではなく無権代理とする説もあります)です。

しかしながら、父母の一方が他方の意思に反して、「共同名義」で行った法律行為の代理は有効です(民法第825条本文)。

これは、父母の一方による代理であっても、法律行為の相手方にとっては、共同名義であれば父母の共同意思として信頼することが多く、無効としてしまうと相手方に不測の損失を与えてしまうからです。

ただし、法律行為が父母の共同意思ではないと知っている、即ち、悪意の相手方まで保護する理由はなく、相手方が悪意であれば無効とされます(民法第825条ただし書き)。

親権者と子の利益が相反する場合

親権者である父または母と子の利益が相反する場合、親権者は代理や同意ができず、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求して、特別代理人が子の代理や同意をします(民法第826条第1項)。

つまり、親権者であっても、財産管理権の濫用で子の利益を害することはできない規定になっています。

このとき、父母が共同親権者であると、子と利益が相反した親権者の代わりに選任された特別代理人と、他方の親権者が共同で代理や同意をするとした判例があります。

また、子が複数いるときに、子同士の利益が相反する場合でも、一方のために特別代理人の選任をしなければなりません(民法第826条第2項)。

結局のところ、父または母と子、子同士のいずれであっても、利益が相反すれば特別代理人の選任が必要です。特別代理人を選任せずに親権者が行った法律行為は無権代理となって、法律効果は子に帰属しないとされます。

もっとも、親権は子の利益のためにあるので、利益相反があっても、子の利益になっている場合まで特別代理人の選任は必要ありません。例えば、親が子に贈与をする場合は、親の損失ですが子の利益なので、特別代理人の選任は不要です。

財産管理権が及ばない財産

財産管理権による管理とは、財産の保存だけではなく必要であれば利用や処分も含まれ、親権者の濫用がしばしば問題になります。

親権者は、自己のためにするのと同一の注意で子の財産を管理しなければなりませんが(民法第827条)、そのような親権者だけではないということですね。

しかし、一部の財産については、親権者の財産管理権は及びません。

1.親権者が子に処分を認めた財産

民法第5条第3項の規定により、親権者が子に処分を認めた財産は、目的が定められていればその範囲内で、目的が定められていなければ子が自由に処分できます。

この規定は、意外にも日常的に用いられており、例えば、ノートを買うために親権者が子に渡したお金は、ノートを買うためなら子が自由に使うことができ、使途を定めずに渡したお小遣いは、子が自由に使うことができます。

2.子が親権者に許可を受けた営業による財産

身上監護権による職業の許可で子が営業を始めると、民法第6条第1項の規定により、子は成年者と同一の行為能力を有します。

したがって、営業に関する財産には親権者の財産管理権が及びません。

3.第三者が無償で子に与え親権者の管理を許さない財産

第三者が無償で子に与えた財産に対し、第三者が親権者に管理させない意思を示したときは、親権者の財産管理権は及ばず、第三者は管理者を指定できます(民法第830条第1項)。

また、第三者が管理者を指定しないときは、子や親族または検察官の請求により、家庭裁判所が管理者を選任します。

親権に服する子が行う親権

親権に服する子でも、子自身が親権者になり得る場合があります。それは、子自身に子が生まれたときです。民法833条では、未成年の子が行う親権を、子の親権者が代行する規定を設けています。

民法 第八百三十三条
親権を行う者は、その親権に服する子に代わって親権を行う。

紛らわしいので、未婚で未成年の子に生まれた子を孫としますが、子が成年するまでは、子の親権者が孫の親権を代行します。

ただし、子が未成年であっても、婚姻すると擬制といって成年と同等に扱われるため、婚姻した子は未成年でも孫(自身の子)の親権者となります。

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