離婚は追認しても親権は認めないときの2つの方法

勝手に出された離婚届、あるいは無断で出された離婚届での離婚は無効でも、役所に受理されてしまえば離婚は成立して戸籍に記載されます。

離婚自体を無効とするには、協議離婚無効確認調停を申し立てるのですが、一方的に離婚届を出す相手とはやり直せないと考えるなら、離婚を後から認めてしまう追認もできます。

参考:無効な離婚でも追認すると有効な離婚になる

しかし、離婚届における親権者指定が、自分の望む親権者ではないときは、離婚は追認しても親権者を認められない場合もあるでしょう。そこで、親権だけを争うにはどうしたら良いか考えてみます。

※この記事全体で離婚届とは協議離婚届のことです。

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現在の親権者を確認する方法

親権者を確認するには、子の戸籍謄本を取るのが一番簡単です。戸籍届書記載事項証明書で離婚届を確認する方法もありますが、届書は原則非公開で、証明書を得るには正当な請求理由を必要とするので、親権者の確認だけなら戸籍謄本で十分です。

子の戸籍謄本とは、子が自分の戸籍に入っているなら自分の戸籍謄本、相手の戸籍に入っているなら相手の戸籍謄本です。離婚後でも親として子の戸籍謄本を取ることはできるので、子が相手の戸籍に入っていても問題ありません。

参考:離婚後に相手の戸籍を取るには?

子の戸籍謄本の身分事項欄には、親権者を定めた日と親権者が父か母で記載されています。戸籍がコンピュータ化されていない場合でも、日付と共に親権者を「父(または母)と定める旨父母届出」といった記載があるので確認できます。

必要な手続は戸籍訂正と親権者指定

離婚届の受理によって、親権者が現に戸籍へ記載されてしまっているので、戸籍の記載を抹消する訂正申請と、協議または家庭裁判所による適法な親権者指定が必要です。

つまり、親権者が決まっていない状態に戻して(ただし離婚は成立している)、改めて親権者を指定するということです。

その前に、現在の戸籍の記載が、はたして有効か無効かという議論は当然あるでしょう。この点については、親権者指定が協議未了のまま離婚届が出されると、親権者の指定は無効であるとした判例があります。

判例に従えば、親権者指定が無効なら共同親権ということになりますが、それを元夫婦の一方が役所の窓口で訴えたところで、容易に戸籍訂正されるとは到底思えません。

安易に戸籍訂正を認めてしまうと、無効ではない親権者指定も、元夫婦の一方からの訴えで自由に抹消できることになっておかしいですよね。

役所の立場では、離婚届による親権者指定が有効か無効かなど判断できず、結局は家庭裁判所の判断を求められます。

親権者の戸籍訂正は簡単ではない

戸籍法では、戸籍の訂正について次のように定めています。

戸籍法 第百十三条
戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを発見した場合には、利害関係人は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正を申請することができる。

戸籍法 第百十四条
届出によつて効力を生ずべき行為(第六十条、第六十一条、第六十六条、第六十八条、第七十条から第七十二条まで、第七十四条及び第七十六条の規定によりする届出に係る行為を除く。)について戸籍の記載をした後に、その行為が無効であることを発見したときは、届出人又は届出事件の本人は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正を申請することができる。

戸籍法 第百十六条第一項
確定判決によつて戸籍の訂正をすべきときは、訴を提起した者は、判決が確定した日から一箇月以内に、判決の謄本を添附して、戸籍の訂正を申請しなければならない。

戸籍法第113条と同法第114条は、家庭裁判所の許可で戸籍を訂正する方法、同法第116条第1項は確定判決で戸籍を訂正する方法が規定されています。この場合、前者の家庭裁判所の許可とは、戸籍訂正許可審判を意味します。

親権者の戸籍記載は、届出によって効力を生じる(創設的届出といいます)離婚届に起因しており、戸籍法第114条は離婚届を除外していることから、戸籍訂正許可審判ではなく戸籍法第116条の確定判決が必要になるでしょう。

したがって、離婚届で指定された親権者に、その協議が無かった又は協議が調っていないとして、親権者指定協議無効確認の訴えを起こします。

この訴えは、人事訴訟事項として法律上の規定はなくても、人事訴訟のひとつとして解釈上認められており、確定判決を得られれば戸籍を訂正できます。

協議離婚無効確認調停は使えない

協議離婚無効確認調停では、離婚自体が無効になるので必然的に共同親権に戻り、その後は離婚するとしても、改めて親権者を定めます。

しかし、無効な離婚を追認するのは、自ら有効な離婚としてしまうので、協議離婚無効確認調停とは矛盾していますよね。

自ら有効な離婚としながらも、親権者の協議が済んでいないことを理由に、離婚全体を無効にできるように思えるでしょうか。

裁判所では、協議離婚成立と親権者指定の有効性を分けて考えており、離婚届での親権者指定が無効でも、離婚は有効に成立するとしています。

これは民法第765条第2項が根拠で、法令違反がある離婚届でも、受理されると離婚の効力は妨げられないと規定されているからです。

民法 第七百六十五条
離婚の届出は、その離婚が前条において準用する第七百三十九条第二項の規定及び第八百十九条第一項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ、受理することができない。

2  離婚の届出が前項の規定に違反して受理されたときであっても、離婚は、そのためにその効力を妨げられない。

親権者を決めずに離婚はできませんが、協議離婚の手続上では、離婚届に親権者の記載を必要とするだけに過ぎません。

夫婦に離婚の意思があり、離婚届を出す意思もあったのなら、親権者が協議されないまま無断で指定された離婚届や、親権者の記載が改ざんされた離婚届でも離婚は成立します。

極端なことを言えば、離婚届に親権者の記載がなくても、役所が受理すれば離婚は成立します(普通は受理しませんが)。

一度有効に成立した離婚は、無効とは訴えられないことになりますので、追認して有効になった離婚も、親権者の協議未了を理由に無効は訴えられないと考えられます。

具体的に考えられる2つの方法

協議離婚届が受理された後に、離婚を追認しても親権者を無効だとして争う方法には、次のように2つ考えられます。

  1. 親権者指定協議無効確認訴訟の確定判決後に親権者指定
  2. 親権者変更調停・審判を利用

なお、再婚して共同親権に戻し、親権者を決めてから離婚する方法もありますが、相手が応じるはずもないので現実的ではなく、ここでは除外しています。

方法1:親権者指定協議無効確認訴訟の確定判決後に親権者指定

訴訟となりますが、親権者指定協議を無効とする確定判決によって戸籍を訂正できるので、暫定的な共同親権に戻ります。その上で、親権者を協議または調停・審判で定め、その親権者を届け出ます。

ただ、新たに指定する親権者が、訴訟前と変わらないのであれば、訴訟までして共同親権に戻した意味がないですよね?

ですから、親権者指定協議または調停・審判では、必ず自分の望んだ親権者にならないと、訴訟の労力が無駄になってしまいます。

方法2:親権者変更調停を利用

考えようによっては現実的なのが、親権者変更調停・審判によって、現在の戸籍の親権者を変更する方法です(親権者は協議で変更できない)。

唯一の懸念は、変更を前提としている=現在の親権者を追認したとみなされる点で、そのように説明しているサイトも多いですが、それほど重大視する必要はないかもしれません。

戸籍上の親権者は指定協議無効だと争い、一時的な共同親権に戻すのが理想でも、その後の親権者指定が紛糾すれば、結局は家庭裁判所に親権者を指定してもらわなくてはならず、これは事実上において親権者の変更を訴えるのとそれほど変わらないからです。

親権者の指定でも変更でも、親権者としての適性と、子供にとってより良い環境はどちらか家庭裁判所に判断を仰ぐ点は変わらないので、家庭裁判所の判断する親権者が、指定と変更で異なるとは思えません。

つまり、1とは手続上での違いと、現在の(指定協議がなかった)親権者の追認があるとしても、行き着く先は同じだということです。

時間が経てば経つほど、子供が現在の環境に馴染んでしまい、親権者の変更は難しくなっていくので、できるだけ早く手を打ちましょう。

まとめ:離婚を追認して親権を争う場合

  • 協議されていない親権者指定は無効を訴えられる
  • 親権者の戸籍訂正は確定判決で行う
  • 戸籍訂正して親権者指定するか、親権者も追認して親権者変更
  • 時間が経つほど親権者は変更されにくい

子供にとって親権者が決まらない状況は不安定で、親の都合で振り回されるのは良くありません。親権を絶対に譲らない覚悟でも、離婚をしたら必ず親権者を定めなくてはならないので、最後は家庭裁判所判断です。

特に、子供と離れて暮らしている側が離婚後に親権を得るのは難しく、離婚の追認によって親権で不利になりそうなら、離婚を追認することなく協議離婚の無効を訴えて、一旦は共同親権を目指した方が良いかもしれません。

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初めての調停
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