親権行使妨害排除請求による子の引渡し

親権を持つ親には、身上監護権に基づいて子を監護する権利と義務があり、親権を持たない者が、その行使を妨害しているときには、親権者は妨害排除請求ができます。

そして、身上監護権には居所指定権も含まれ、子の監護は子を手元に置いていないと行使ができない性質から、子を奪い抑留(とどめていること)している非権利者に対し、妨害排除請求権による子の引渡し請求ができると解されています。

なお、親権としていますが、監護権であっても権利者には当然に妨害排除請求権が認められるものであり、親権を監護権と読み替えて考えてください。

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親権行使妨害排除請求権の法的根拠と適用範囲

民法は親権を規定していても、親権が害された場合を規定していません。しかし、民法第198条に規定された、占有の妨害に対する停止請求の類推適用で、他者と排他的な性質を持つ親権行使の妨害に対して、妨害排除請求権を認めてきたとされています。

認められているのは妨害排除請求権に過ぎませんから、直接的な子の引渡し請求権ではなく、あくまでも親権行使の妨害排除請求権による間接的な請求権で、親権行使の妨害がなければ、子の引渡し請求権もありません。

妨害排除請求は常に適用されるわけではない

子が自由意思で第三者と居住するとき、第三者は親権を妨害していないとする見解が主流なので、妨害排除請求ができず子の引渡し請求権も失われることになります。

そうしないと、例えば、子が望んで祖父母と暮らしており、祖父母は子を抑留もしておらず、むしろ親元に帰りなさいと諭しているケースでも、親権者から祖父母に妨害排除請求権に基づく子の引渡し請求ができてしまい、妙な事態になってしまいます。

しかし、子の意思に反して祖父母が居住させているか、子が幼く意思能力がないときは、祖父母は親権の行使を妨害しており、子の引渡し請求ができます。

居所指定権はどうなるのか

祖父母が親権の行使を妨害していないときでも、親権者は親権に含まれる居所指定権によって、子を自らの居所に指定できますが、親権は子の利益のために行使される権利で、子が拒んだときでも無制限に強制できるものではありません。

また、居所指定権は子に行使できる権利ですから、親権者の居所指定に子が自発的に従い、戻ってくることを期待するしかないでしょう。

親権行使妨害排除請求は民事訴訟

親権行使妨害排除請求権による子の引渡し請求は、民事訴訟で地方裁判所が扱います。内容からして、何となく家庭裁判所で扱う事件のように思えますが民事訴訟です。

争いを端的に表すと、権利者の権利を無権利者である第三者が妨害し、権利者がその妨害の排除を請求する事件で、同様の事件も民事事件として扱われています。

ただし、争いの本質は「子の監護者を誰にするか」に等しく、家庭裁判所で扱うのが本筋だとする意見もあります。その意見の根底には、民事訴訟が弁論主義を採用していることも関係しています。

弁論主義と職権探知主義

弁論主義においては、当事者が主張していない事実を採用することができず、当事者に争いがない事実はそのまま採用しなければなりません。さらに、当事者が提出した証拠に限って証拠調べが認められます。

これだけでは良くわからないと思いますが、人事訴訟の職権探知主義では、当事者が主張しない事実や、提出されない証拠も、家庭裁判所の職権で調査することができます。

家庭裁判所が事件の背景にある事情を把握し、真実を知るために証拠を集め、後見的機能によって裁判をするためです。

先ほどの例では、親権者が祖父母を相手に、親権行使妨害排除請求権による子の引渡し請求の訴えを起こしたとして、親権者が親権者である事実、祖父母が子を抑留している事実が明らかなら、祖父母に子の引渡しを命ずる判決が言い渡されます。

判決の前に、祖父母が子は自由意思でとどまっていると主張し、立証のために子を証人として陳述させ、事実として認定されれば、親権の妨害がなく請求は退けられます。

しかし、祖父母が争わない限り、そのまま親権者が勝訴します。たとえ裁判所が子の自由意思であったと知っていても、祖父母から主張がなければ採用しません。

職権探知主義になると……

これが職権探知主義での裁判になると、祖父母が争わなくても、裁判所は真実を知るために子に陳述させ、もしくは家庭裁判所なら調査官が子の意見を聴き、子の自由意思であった事情を知って、親権者の請求を退けるでしょう。

子の引渡し請求の性質から、子の福祉に配慮する必要があり、家庭裁判所の家事事件に対する調査能力を使い、職権探知主義による裁判をするべきで、民事訴訟の弁論主義で裁かれることには反対意見も多いのですが、現在では民事訴訟になっています。

子の引渡し請求への保全処分

民事訴訟の判決を待っていては、子の引渡しが実現できないおそれがあるときは、民事保全法第23条の規定により、仮処分の申立てをすることで、子の引渡し請求権を保全してもらうこともできます。

子の引渡し請求の場合、被告が子を連れて逃亡するなど考えられ、原告勝訴なら著しい損害と言えますから、仮の地位を定める仮処分(仮に原告勝訴の状態にして子の引渡しをさせる仮処分)による子の引渡し命令になるでしょう。

子の引渡し請求の判決と強制執行

子の引渡し請求を認容する判決においては、「原告に子を引き渡せ」とする主文と、「原告が子を引き取ることを妨害してはならない」とする主文の2通り考えられます。

原告とすれば、どちらでも子の引渡しが実現するので、同じように思えますが、その効果は全く異なり、強制執行にも関係してきます。

子を引き渡せとする主文は、被告が原告に対して子を引き渡す債務(与える債務といいます)を負い、物の引渡しと同じように、引渡しがされなければ直接強制と間接強制のどちらも対象になります。

しかし、妨害してはならないとする主文では、妨害しない債務(不作為債務といいます)に過ぎないので、直接強制には馴染まず間接強制しかできません。

ただし、この2つの形式の主文は、厳密に区別して使われておらず、主文がどちらでも両方の趣旨が含まれるとする解釈がされているようです。

直接強制が許されるかどうかも見解が分かれる

子を引き渡せとする主文の判決でも、物とは同等に扱えない人に対して、直接強制を可能にするかどうかは見解が分かれるところです。しかも、直接強制に踏み切るほどの抵抗を被告が見せるときは、直接強制の成功率が決して高くありません。

強制執行の対象になるのは、ほとんどが子が幼く自由意思で行動できない年齢ですから、被告が乳幼児を抱きかかえたまま離さない、子が嫌がり泣き叫んで暴れる、無理に被告と子を引き離すと子の安全に関わるなどで執行不能になります。

元々、子の引渡しに対する強制執行は、法文上で規定がなく、傾向としては従来から間接強制しか認めない流れがあり、徐々に直接強制を認める流れに変わりつつあったのですが、ハーグ条約への批准で、再び間接強制の方向にシフトしています。

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