現金や預貯金の財産分与は意外と難しい

財産分与の対象で、最もわかりやすく、なおかつ最も正しく分けられないのが現金や預貯金です。その理由は、そもそも夫婦がお互いの現金や預貯金を全て明かし、きっちり分けることなど考えられないからです。

あなたは、離婚相手が持っている現金や預貯金を、全て把握しているでしょうか? 逆に、離婚相手から全て把握されているでしょうか?

夫婦が持つ全ての現金が、全てひとつ口座にプールされており、それ以外にないという事例は極めてまれでしょう。生活費ならそういうこともありますが、夫婦それぞれに個人口座を持っているのが普通です。

ましてや、夫婦間に秘密があるのは珍しいことではなく、現金や預貯金が隠されたまま離婚を迎えることも決して珍しくないのです。

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財産分与で口座名義は関係がない

財産分与の対象は、夫婦が婚姻中に協力して築き上げた財産なので、名義上で夫婦の一方になっている口座でも、婚姻中の収入から預貯金されたものは対象です。

独身時代からの口座を引き続き使用し、そこに個人的なお金を貯めておくのは不思議ではないため、対象になるとしたら婚姻中に増えた分だけです。

早い話が、夫婦が全ての預貯金通帳を提示して合計し、その中で結婚前のお互いの預貯金額を差し引き、残りを半分ずつ分ける(名義上の残高が多い方から少ない方へ分け与える)だけの簡単な理屈です。

ところが、離婚するほど夫婦が不仲になっているのに、それでもお互いが全ての預貯金を提示するなど、到底考えられないのではないでしょうか?

離婚を決心してから、相手の知らない口座にお金を移す、誰かに預ける、使ってしまうなど考えられるので、現金と預貯金を開示させるのはとても困難を極めます。

口座があると判明している場合

もし、相手がどの銀行のどの支店に口座を持っているかわかっているなら、弁護士から弁護士会を通じて銀行に照会をしてもらう方法はあります。

また、家事調停委員会の職権でも、必要なら銀行等に報告を求めることができます(家事事件手続法第260条第1項第6号による同法第62条に規定する調査の嘱託)。

金融機関の全支店を対象とするような照会は行われません。少なくとも、〇〇銀行××支店のように支店名まで特定した照会となります。

ところが、金融機関が応じてくれるかどうかはまた別で、守秘義務を盾に拒むこともあり、必ず明かされるとは限りません。

この場合でも、証拠もなく「隠し口座があるはずだ!」では調べようがないですし、ある程度、相手の口座を把握している必要があります。

子供名義の預貯金と財産分与

子供名義の預貯金は、子供の将来のためだったり、子供の収入を別に管理するためだったりしますが、財産分与の対象になるかどうかは個別に勘案されます。

子供が幼ければ、自分で管理できずに親が管理するため、実質的に夫婦の財産とも言えますが、全てが財産分与とは限らないのです。

判断のひとつの基準は、預貯金が誰のお金で貯められたかという点です。

多くの子供は、お年玉やお祝いなどで、親以外からお金を受け取ります。そのまま親に渡って、子供名義の口座に貯められたとすると、親の収入から支払われたものではないので明らかに子供の財産です。

親の収入から子供名義の口座に貯められた場合は、親子間の贈与に思えますが、贈与は受贈者(この場合は子供)が管理し自由に使える状態でしか成り立ちません。

ですから、名義が子供でも親が管理しているなら親の財産、子供が通帳やキャッシュカードを持って管理しているなら、子供の財産として扱われます。

原資管理状態帰属備考
親以外問わない子供親の原資ではないため
親の管理なら親に帰属
子供子供子供の管理なら子に帰属

ただし、判例では例外を認めており、障害のある子供の将来のために夫婦が子供名義の口座に貯めていた場合と、障害のある子供への手当を貯めていた場合に、預貯金を子供に帰属させるべきとしました。

このように、子供名義の財産は事情によって変わりますが、基本的にはその原資(どこからのお金か)と管理状態によって区別されます。

一番厄介なのはへそくり

へそくりというのは、元々が内緒で貯められるお金なので、財産分与の舞台にはまず出てきません。当然ながらへそくりであっても、夫婦の収入から貯められたお金は、共有財産として財産分与の対象です。

ただし、隠されているからへそくりなのであって、口座に記録が残る預貯金ならまだしも、いわゆるタンス預金は、財産分与されることなく離婚になるでしょう。

したがって、へそくりが発覚したときに、離婚から2年の請求時効を迎えていなければ請求もできますが、離婚後なら余計に発覚しないですよね。

へそくりでも事情を考慮する余地はある

離婚時にへそくりが発覚している場合でも、へそくりが夫婦で半分に分けられるべきかどうかは、へそくりが貯められた状況により変わってきます。

例えば、夫婦が同じ遊興費を毎月「小遣い」の名目で受け取っているとしましょう。遊興費以外の家計費で、余裕がある部分をへそくりに回していたら、もちろん夫婦の共有財産なので半分ずつに分けるべきです。

しかし、夫婦の一方が小遣いを毎月全て使い、もう一方はその半分をへそくりに回していたとしたら、へそくりは半分に分けるべきでしょうか。

このせちがらい世の中では、昼食代を削ってまで小遣いを貯めているサラリーマンが数多くいます。少ない給料で家計をやりくりしながら、自分の小遣いでへそくりを作っている専業主婦だって多いはずです。

こうした個人の懸命な努力で貯めたへそくりまで、離婚のときは開示して半分に分けるとしたら、貯めずに使ってしまえば良かった……となりかねませんよね。

財産分与というのは、夫婦の「一切の事情」を考慮して行われます。夫婦がお互いの管理下にある小遣いを、自らの節約によって貯めているとき、それは事情に該当するとして偏った配分でも妥当でしょう。

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