年金分割って何を分割するの?

年金分割でとても多い勘違いは、年金が現金で配偶者に分割されると思ってしまうことです。年金分割の対象は、実際に受給する年金でも、配偶者が将来受給する年金への請求権でもありません。

また、離婚時に配偶者が将来受け取るべき年金の一部を、先に分割して給付するのでもありません。恐らくこの勘違いは、財産分与と年金分割を同じように考えてしまっていることが理由です。

ここでは、年金給付の仕組みと年金分割について説明していきます。

年金は保険料の納付記録で支給額が計算される

受給できる年金額は、受給年齢に達するまでに納付された年金保険料によって上下します。この点は容易に理解できるでしょう。

年金保険料を納めると、納めた実績は記録されていきますが、この納付記録は国民年金と厚生年金(共済年金)で別に管理されています。

厚生年金(共済年金)の加入状況は人によって異なるため、全員加入の国民年金とは別に管理されるのもわかりやすいですよね。

国民年金を受給できる年齢に達したとき、納付記録から年金額が計算されて給付されます。保険料は固定ですから、夫婦に不平等はなく納付期間に応じた年金額を受け取ります。

厚生年金(共済年金)の加入者は、保険料を納付することで国民年金の保険料を納付している(国民年金に加入している)ことになります。

国民年金は保険料が固定で、夫婦それぞれの納付期間に応じて年金が支給されるため、年金分割の対象ではありません。年金分割は、厚生年金(共済年金)の年金記録を対象に行われます。

厚生年金(共済年金)には標準報酬がある

厚生年金(共済年金)では収入によって保険料が変わり、給与を段階的に区切った概算額(標準報酬月額)と、賞与の千円未満を切り捨てた額(標準賞与額)が記録されていきます。

この標準報酬月額と標準賞与額とは、即ち「どのくらいの収入があってどのくらいの保険料を払ってきたか」を意味しており、標準報酬月額と標準賞与額の総額で、給付される年金額は上下します。

貨幣価値は時代によって変わるため、過去の標準報酬は年度ごとに決められた「再評価率」という値を乗じて現在価値に換算されます。

例えば、昭和50年頃の大卒初任給は10万円ほどでした。

現在の大卒初任給が20万円だとすると、昭和50年頃の標準報酬を2倍(再評価率2.0)に評価することで、現在の水準へ置き換えるのが再評価の考え方です。

例えば、月収50万円・賞与150万円で20年間勤務した夫と、月収20万円・賞与なしで10年間勤務した妻では、標準報酬総額(納付した保険料)が異なるので年金額も変わって当然ですよね。

年金分割とは、夫婦で異なる記録になっている厚生年金(共済年金)の標準報酬総額を、離婚時に分割することです。

年金分割では夫婦の標準報酬総額を合算

婚姻期間中に厚生年金(共済年金)へ加入していると、その記録は年金分割の対象になります。厚生年金(共済年金)の加入者が、夫婦の一方でも双方でも関係なく対象です。

つまり、婚姻期間における夫の標準報酬総額と妻の標準報酬総額を、合算して夫婦の標準報酬総額と考えるのです。

これは、婚姻中に夫婦で築いた財産を、夫婦の共有財産として離婚時に財産分与で分けるのと似ていて、財産が標準報酬総額に変わったと思えば、少しはわかりやすいでしょうか。

ただし、標準報酬総額というのは、単に保険料の納付実績ですから、受給する年金そのものではありません。ならば、夫婦の標準報酬総額を離婚時に分割するとはどういうことなのでしょうか?

年金分割とは保険料の納付実績を移すこと

先ほどの、月収50万円・賞与150万で20年間勤務した夫と、月収20万円・賞与なしで10年間勤務した妻の例を使って、年金分割をしてみましょう。

簡単にするため、全てを婚姻期間中の収入、収入はそのまま標準報酬月額・標準賞与額とし、年金分割の按分(あんぶん)割合を2分の1とします。再評価率も考慮しません。

年金分割では、分割する割合のことを「按分割合」と呼びます。この名称は良く出てくるので覚えておきましょう。

夫の標準報酬総額:(50万円×12か月+150万円)×20年=1億5,000万円
妻の標準報酬総額:20万円×12か月×10年=2,400万円

夫婦で合算すると、1億7,400万円の標準報酬総額です。

この合算した標準報酬総額を2分の1で分割すると、夫と妻の標準報酬総額は、いずれも1億7,400万円÷2=8,700万円になります。

具体的には、夫の標準報酬総額1億5,000万円から6,300万円を妻に移し、妻の標準報酬総額に加える手続(標準報酬の改定)をするということです。

標準報酬の改定は、按分割合(この例では0.5)を指定して年金事務所に請求します。

このように、標準報酬総額の多い側(保険料を多く納付した側)から少ない側に移すので、標準報酬総額が増えた側は、保険料を自分で納付したかのように扱われます(実際に納付していないので納付期間には含まれません)。

その結果、妻の年金は(標準報酬総額が増えたので)増えるというのが、年金分割の実質的な効果です。

年金分割の按分割合には上限・下限がある

年金分割では、夫婦が年金分割しなくても受け取るべき年金を、下回るような按分割合は選択できません。

また、按分割合の最大値は2分の1(0.5)で、年金分割前よりも不平等になる按分割合は選択できない決まりです。

先ほどの例なら、夫が1億5,000万円、妻が2,400万円の標準報酬総額を持っているとき、妻が2,400万円を下回るようにはできず、夫が8,700万円を下回るようにもできないということです。

年金分割をしても受け取るのは受給年齢から

年金分割を行っても、記録上の納付実績が増減するに過ぎませんので、その効果として(年金受給額の増減)が発生するには、年金を受給できる年齢まで待たなくてはなりません。

また、受給資格を得られるだけの保険料納付期間を満たす必要があります。

年金分割が標準報酬総額の分割で実現される仕組みを理解すれば、受給する年金そのものが分割されるのではなく、受給年齢まで待たなくてはならないのも理解できるでしょう。

注意点が1つあり、年金分割によって改定される標準報酬は、年金額を計算するときには使われますが、受給資格を満たすための納付期間には算入されない点です。

例えば、婚姻中は厚生年金(共済年金)に未加入であった人が、年金分割によりその期間の標準報酬を得ても、保険料納付があった期間には加えられません(この期間を離婚時みなし被保険者期間といいます)。

あくまでも、自分が保険料を納めた期間で受給資格を満たさなければ、そもそも年金自体が受け取れないことになります。

  • 0
  • 0
  • 0
  • 0