失踪宣告

不在者の生死が7年間明らかでないときは、失踪宣告の申立てにより、家庭裁判所が失踪宣告をすることができます(民法第30条第1項)。

また、戦争や船舶の沈没、山岳での遭難や震災など死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去って生死が1年間明らかでないときも同様です(民法第30条第2項)。

前者による失踪を普通失踪、後者による失踪を危難失踪と呼び、いずれの場合も失踪宣告がされると、不在者は死亡したものとみなされます(死亡の擬制)。

あくまでも「みなし死亡」なので、失踪宣告の後に不在者の生存が確認できると失踪宣告の取消しも可能なのですが、みなし死亡でも法律効果が発生する点は、不存在者と関係のある人にとって大きいはずです。

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失踪宣告の手続

申立てができる人

不在者と法律上の利害関係を有する利害関係人です。利害関係人として考えられるのは、不在者の配偶者、推定相続人・受遺者、財産管理人などです。

不在者が死亡とみなされることで、身分行為(婚姻関係解消)や財産上の権利(相続・遺贈・死亡保険金・遺族年金等)が発生するため、直接の利害関係がある人は、申立てが認められているというわけです。

管轄の家庭裁判所

不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法第148条第1項)。ところが、不在者なので従来の住所地や居所地がわからないことも多く、管轄の家庭裁判所は次のように決まります。

  • 不在者が生活の本拠としていた従来の住所地
  • 国内に住所がないか住所不明なら居所地
  • 国内に居所がないか居所不明なら最後の住所地
  • 最後の住所がないか住所不明なら財産の所在地または東京家庭裁判所

手数料・切手代

収入印紙で800円を審判申立書に貼り付けます。その他に、郵便切手(家庭裁判所によって金額は異なります)が必要になります。

また、失踪宣告では官報への掲載(公告)が2回行われます。詳しくは後述しますが、2回の官報公告料として合計4,298円を申立て後に納めます。

必要書類等

  • 不存在者の戸籍謄本
  • 不存在者の戸籍附票
  • 不在の証明資料(捜索願受理証明書、勤務先や親族・知人の陳述書など)
  • 申立人が不存在者の親族である場合は申立人の戸籍謄本
  • 申立人が不存在者の親族ではない場合は利害関係資料

※戸籍謄本・戸籍附票は3か月以内の交付に限られるので注意しましょう。

即時抗告

失踪宣告の審判に対して、不在者本人、申立人を除く利害関係人は即時抗告できます。失踪宣告の申立てを却下する審判に対しては、申立人が即時抗告できます。

失踪宣告申立書

申立書は裁判所のホームページからダウンロード可能です。

家事審判申立書 – 裁判所(PDF)
※特定の書式が使われない家事審判事件に共通の申立書です。
※別ウィンドウまたは別タブで開きます。

共通の申立書でも構わないのですが、各家庭裁判所が失踪宣告専用の申立書を用意していることが多く、そちらを使ったほうが楽に記入できる場合があります。

例えば、札幌家庭裁判所は、記入が少なくて済むように配慮された申立書を用意しています。記入の参考にもなるので、確認しておくことをおススメします。

失踪宣告申立書 – 札幌家庭裁判所(PDF)

申立書の書き方

事件名・裁判所名・記入日・申立人の記名押印

共通の申立書なら事件名は「失踪宣告」です。下に移って管轄の家庭裁判所名を書きます。その際、支部名や出張所名は、「御中」の左に書きます。記入日や申立人の記名・押印(認印可)は特に問題ないはずです。

添付書類

専用の申立書には、戸籍謄本や戸籍附票が最初から記載されており、通数を記入するだけで済むものもあります。共通の申立書を使う場合、添付書類の内容と通数が明らかになるように記入します。

記入例:「申立人の戸籍謄本1通」「不在者の戸籍謄本1通」「不在者の戸籍附票1通」「失踪を証する資料(捜索願受理証明書)1通」など

申立人

申立人が親族なら戸籍謄本を提出するので、本籍、住所、電話番号、氏名(フリガナ)、生年月日、年齢、職業をそれぞれ記入欄に従って書きます。申立人が親族以外なら本籍欄の記入は不要です。

住所欄のすぐ下に連絡先欄もありますが、住所欄に記入の住所・電話番号では連絡が確実ではないときに記入します。

不在者

共通の申立書では、申立人欄の下の空欄に縦書きで「不在者」と記入します。本籍は不在者の戸籍謄本に記載の本籍を書きますが、申立人の本籍と同じときは「申立人の本籍と同じ」と記入して問題ありません。

住所は最後の住所・居所を記入します。専用の申立書では住所欄が「最後の住所」となっているので、共通の申立書でも「最後の」を追記しておくとより良いです。

連絡先は生死不明ですから当然に空欄、不在者の氏名(フリガナ)、生年月日、年齢、職業をそれぞれ記入します。

申立ての趣旨

定型文がありますので参考にしてください。同じである必要はありません。「」は付けなくても良く、「求める」は「求めます」でも構いません。

  • 「不在者に対し失踪宣告する」との審判を求める。
  • 不在者に対し失踪の宣告を求める。

申立ての理由

紹介した札幌家庭裁判所の専用申立書では、申立ての実情として詳細な事情を選択式で記入できるようになっていますが、共通の申立書はもちろん、専用の申立書でも申立ての理由は空欄になっていることが多いです。

申立ての理由にはある程度決まった書き方があり、文の先頭には1から始まる数字を付け、次のような構成で書いていきます。

  1. 申立人と不在者の関係
  2. 不在者が失踪した年月日と失踪までの経緯
  3. 申立人が捜索した経緯
  4. 不在者に帰来する見込みがなく申立ての趣旨どおりの審判を求める旨

注意点としては、失踪宣告が失踪から一定期間経過後に宣告される制度であるため、必ず起算となる失踪した年月日を「日」まで明記しておくことです。

審理手続

失踪宣告は、不在者を死亡とみなす重要な審判であることから、特に慎重さが求められ、手続は次のように進んでいきます。

1.事前調査

提出された書証の照会、家庭裁判所調査官による調査、必要があれば申立人など関係者の審問が行われる場合もあります。

2.失踪に関する届出の催告

家事事件手続法第148条第3項の規定により、公告ならびに一定の期間経過後でなければ、家庭裁判所は失踪の宣告をすることができません。

よって事前調査終了後、家庭裁判所が「失踪に関する届出の催告(公示催告)」と呼ばれる公告を行います。

家事事件手続法 第百四十八条第三項
3  家庭裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号及び第四号の期間が経過しなければ、失踪の宣告の審判をすることができない。この場合において、第二号及び第四号の期間は、民法第三十条第一項の場合にあっては三月を、同条第二項の場合にあっては一月を下ってはならない。

一  不在者について失踪の宣告の申立てがあったこと。

二  不在者は、一定の期間までにその生存の届出をすべきこと。

三  前号の届出がないときは、失踪の宣告がされること。

四  不在者の生死を知る者は、一定の期間までにその届出をすべきこと。

公告内容は条文のとおりですが、この他にも申立人の氏名・住所、不在者の氏名・住所・生年月日が掲載されます。

公告は、裁判所の掲示場その他裁判所内の公衆の見やすい場所への掲示、ならびに官報への掲載によって行われ、官報公告料として2,725円かかります。

また、一定の期間とは、条文によると普通失踪3か月以上、危難失踪1か月以上となるところ、官報を発行するのは裁判所ではなく独立行政法人国立印刷局なので、掲載までの遅延を考慮して、プラス1か月程度の期間で設定されます。

失踪宣告または申立ての却下

審判は当事者に告知されるルールですが(家事事件手続法第74条第1項)、当事者である不在者への告知はできないことから要さず(家事事件手続法第148条第4項)、失踪宣告審判・申立ての却下審判のいずれであっても、申立人へ告知されます。

ただし、審判の告知があってもそれだけで確定とはなりません。2週間の即時抗告期間を経過して審判は確定し、審判に効力が生じます。

普通失踪なら失踪から7年間経過した日、危難失踪では危難が去った日(危難が去ってから1年間経過した日ではない)が、失踪者の死亡とみなされる日になります。

審判確定後の手続

失踪宣告審判に即時抗告がなく確定すると、家庭裁判所書記官によって公告され、その際にも、官報公告料として1,573円かかります。また、家庭裁判所書記官は、失踪者の本籍地に失踪宣告がされた旨を通知します。

家庭裁判所書記官から本籍地に通知されても、失踪宣告の申立人は、審判確定から10日以内に失踪届を出さなくてはなりません。

失踪届について

失踪届の届出先は、失踪者の本籍地または届出人(届出人とは失踪宣告の申立人)の所在地となる役所です。

失踪届には、審判書謄本と確定証明書を添付します。また、届出人の所在地で届け出るときは、失踪者の戸籍謄本も添付します。

届出人の所在地でも届出できることから、時間的には余裕があるように思いがちですが、家庭裁判所で確定証明書を交付してもらう都合上、審判確定から10日以内の期限はそれほど長くないので注意しましょう。

届出人の所在地で届け出る場合、添付する失踪者の戸籍謄本も遠隔地等の理由で取得に時間がかかる可能性はあります。

そのため、失踪宣告の申立て時に添付する不在者(後の失踪者)の戸籍謄本は、最初から2通用意しておくと便利です。

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