離婚時の財産分与は、夫婦の財産を離婚で分け合うことを目的としていますが、それだけではなく他の性質も持っています。
これは、財産分与が「一切の事情」を考慮するものとして定められているからで、夫婦に特別な事情があれば、事情を考慮した財産分与が可能なことを意味します。
例えば、離婚原因を作った側が、その賠償責任として慰謝料と同じ性質の財産分与をすることも可能ですし、離婚後に生活が困窮する配偶者のために、当面の生活費として余分に財産分与することも可能です。
また、財産分与では婚姻費用の未払い分についても清算できると解されており、それも一切の事情として考慮されるためです。
このように、財産分与は夫婦の財産を分け合うだけに留まらず、婚姻関係解消の対価として利用されたり、一種の生活保障として利用されたりします。
財産分与の種類は3つある
財産分与を分類すると、次の3つに分かれます。それぞれの詳細は個別ページを用意しているので、ここでは概要にとどめます。
文字どおり、夫婦の共有財産をお互いの個人財産に清算します。財産分与といえば、ほとんどこの意味だと考えても間違いありません。
離婚後に生活苦に陥る配偶者のために、自立できるまでの期間を経済的に支える趣旨で行われます。互いに経済的自立している夫婦では起こりません。
慰謝料の代わりに、相当額を財産分与すると考えればわかりやすいはずです。名目が財産分与になるだけで、実質的には慰謝料です。
この他にも、婚姻費用の分担請求があり、未払いになっている場合において、財産分与の額を増減させて清算することもあります。
参考:婚姻費用の清算と財産分与
財産分与の方法に決まりはない
財産分与には3種類(婚姻費用の清算を含めると4種類)あるとしてきましたが、だからといって、その種類を意識する必要はほとんどありません。
本来は、夫婦の協議によって自由に決めるのであって、3種類(4種類)をまとめて財産分与としても良く、夫婦が合意できていれば問題ないからです。
仮に離婚協議書を作るとして、「~的財産分与として」のように明記も不要です。
事情があるなら種類を書いたほうが良い
一般的に、財産分与は清算的財産分与として行われます。そのため、清算的財産分与だけの財産分与なら、明記が不要なのは前述のとおりです。
ただし、それぞれの財産分与は異なる性質を持ちますから、どのような意図で財産分与が行われたのかはっきりさせておくことは、財産分与後のトラブルを未然に防ぐ意味で重要でしょう。
慰謝料的財産分与として分与したのに、その分与が慰謝料に相当することを明記しないと、後から慰謝料請求されたときに対抗できないですよね。
また、「一切の事情」とは夫婦しか知らないプライベートな事情も含まれ、他人からその事情を確認することは難しいです。偏った財産分与を指摘された場合は、理由を合理的に説明する必要性が出てきます。
例えば、本来は清算すべき財産が5:5の比率なのに、扶養的財産分与や慰謝料的財産分与を含んで7:3になったとします。
扶養の事情や慰謝料の事情があっての結果なら、間違いなく公平な財産分与です。しかし、この財産分与に対して税務署は疑うかもしれません。
そのとき、扶養的財産分与が1、慰謝料的財産分与が1に相当して財産分与が偏ったと説明するためには、やはり何か書面に残しておくのがベターです。
過大な財産分与は認められない
財産分与で分けられる財産は、婚姻中に築き上げたプラスの財産だけではなく、夫婦の生活で生じた負債も当然に含まれます。
ですから、わざと一方に借入金だけを残し、他方が無傷で財産を受け取るような財産分与は、公平性の面からも認められず、むしろ、財産分与で貸付金を回収できなくなった債権者から訴えられる可能性があります。
債務者が債権者を害する目的で、わざと財産を減少させる行為を「詐害行為」と呼びますが、詐害行為に対しては取消請求権が認められています(民法第424条)。正当な理由なく一方に偏った過大な財産分与は、債権者から詐害行為取消請求を受ける可能性があるということです。
また、財産分与が離婚による清算からかけ離れており、他に扶養の性質や慰謝料の性質もなければ、離婚を利用した贈与とみなされるかもしれません。
財産分与には贈与税が発生しないことを利用して、夫婦間での偏った財産移動を仮装離婚によって実現しようとしても、税務署から追及されるでしょう。
特に、不動産は名義変更に登記を伴うため、登記のタイミングで税務署は不当な贈与が行われていないか調査することができます。