一般には離婚調停と呼ばれる調停は、正しくは「夫婦関係調整調停」という名称です。名称の通り、夫婦関係を調整する調停であり、この調停は離婚を争っている場合に限定されず、夫婦の争い全般について利用できます。
夫婦関係調整調停は、離婚と円満に分かれていて、どちらも同じ調停として扱われますが、どちらを前提に調停を申し立てるかという点で異なります。
ちなみに、離婚調停と円満調停の申立書は同じで、記載事項として関係解消か円満調整を選ぶ欄があります(申立書2枚目上部、申立ての趣旨)。
裁判所:夫婦関係調整調停申立書
このような調停であるため、離婚したいと思って調停を申し立てても、調停の結果が離婚で終わる必要はないですし、円満に解決できて元通りの夫婦関係になれば、そのほうが恐らく良い結果でしょう。
家庭裁判所は、円満な家庭環境と子供の健全な育成環境を整える後見的な役割で存在し、無理に離婚を勧めて、早く事件を解決させようとする機関ではありません。
ですから、離婚調停という限定した調停は設けておらず、円満調停の結果が離婚になれば離婚調停で、離婚調停の結果が円満になれば円満調停です。
また、同じ調停になっていることで、円満調停を申し立てて話合いが離婚に向かったときでも、離婚調停を申し立てずに話合いを継続できます。
家庭裁判所は離婚相談所ではない
前述の通り夫婦関係調整調停は、申立ての趣旨を離婚に限定はしておらず、離婚をしたい人、離婚を迷っている人、離婚の条件が合わなくて決められない人など、結果が離婚であるかどうかに関係なく利用できます。
ただし、離婚調停というのは、相手方に対して何か(例えば離婚したい、離婚後に養育費が欲しいなど)請求があり、相手が応じない場合に利用する制度です。
離婚調停の存在は、夫婦間による自主的な解決を手助けするに過ぎず、相手方と話合いをせずに、家庭裁判所の判断を求めて相談する場ではありません。
ここは勘違いされやすいですが、調停は家庭裁判所に正しい判断を求める手続ではなく、当事者の話合いでは解決できない争いを、家庭裁判所が間に入って話し合うことで解決させようとする手続です。
もっとも、離婚調停を担当する調停委員は、当事者から話を聞いて、争いを解決するためのアドバイスをすることもあるでしょう。
その意味では、第三者の客観的なアドバイスを参考にできる、一種の相談所のような役割もあるのですが、あくまでも当事者に話合いをさせるのが調停の役割です。
したがって、離婚調停は相談目的ではなく、少なくとも申し立てる時点では、離婚の意思と請求する内容をはっきりさせて臨まなくてはなりません。
離婚調停は円満解決の道を閉ざすものではない
離婚調停で申し立てたとしても、家庭裁判所は最初から離婚ありきで調停を進めず、円満解決できないか模索します。
というのも、離婚調停の申立人は感情的で、ささいな行き違いから溝が深まっている場合や、配偶者の態度に腹を立てているだけに過ぎず、本音の部分では愛情まで失われていないことも多いからです。
つまり、離婚調停の初期には、本当にこの夫婦はやり直しできないのか? と考えながら、当事者の話を聞いていくわけですね。
そして、夫婦に復縁の見込みがなく、双方の離婚意思が固いようなら、離婚を前提とした離婚条件を話し合う方向で調停が進められていきます。この段階になってまで円満解決の可能性を探るのは、当事者の真意に背くため慎むべきとされています。
離婚訴訟のためには離婚調停の実態が大切
離婚を争う場合には、調停前置主義といって、訴訟の前に調停から始めなければならない法律上のルールがあります。
そのため、離婚訴訟を起こしたくても離婚調停を申し立てなければならず、調停が成立すれば離婚で終了、調停が不成立なら訴訟を起こします(調停に代わる審判という特殊な審判で離婚する場合もあります)。
しかし、形式的な調停不成立が訴訟の要件なのではなく、調停で離婚が話し合われており、合意に至らなかったという話合いの実態が重視されます。
ですから、離婚調停で始まっても円満調停に移行し、離婚がきちんと話し合われないまま、調停が不成立になっただけでは、建前として離婚訴訟へ進むことはできません。
逆に言えば、円満調停から始まっても離婚調停に移行し、離婚が話し合われた結果、調停が不成立なら離婚訴訟は可能です。
離婚調停から気が変わって円満調停になることはあっても、円満調停を申し立てた人が、離婚に気が変わることなどないと思うでしょうか?
しかし、調停は1ヶ月に1回程度と長いので、最初は円満調停から始めても、次回の調停ではもう離婚したくなっていることもありますし、円満調停の相手方が離婚調停を申し立てることもあります。
当事者が同じ調停を、別々に行うのは意味がないので、2つの調停(どちらも夫婦関係調整調停)を併合し、結果として離婚に話が向かえば離婚調停となるわけです。
さらに、離婚の話合いがまとまらず、申立人が諦めて調停を取り下げたとしても、話合いの実態はあったのですから離婚訴訟は可能になります。