呼称上の氏による選択的夫婦別姓と戸籍制度

夫婦の氏を夫または妻の氏と定める民法第750条の規定(夫婦同姓規定)が、憲法第24条に違反するとした訴訟では、2015年に最高裁が合憲(反対意見あり)としたことで選択的夫婦別姓(別氏)は一歩後退した感があります。

ところが、婚氏続称など現行法制でも認められている、呼称上の氏を変更する制度に不備があるとして、呼称上の氏を用いた選択的夫婦別姓を実現しようとする新たな訴訟が提起されました。

その結果については判決を待つしかないのですが、違憲判決が出て原告の望む通りに進めば、形式的ながらも選択式夫婦別姓が実現されるのは確かです。

原告が望んでいるのは、民法上の氏を夫婦同姓のまま、呼称上の氏は旧姓選択できる制度であり、本質的な選択的夫婦別姓制度とは異なるものですが、旧姓使用に法的保護を与える点で、当事者(別姓を希望する夫婦)の便益としては同じです。

ただし、氏と密接に結びついた現行の戸籍制度を維持したまま、原告の望む状況を実現するのは難しく、解決が容易な問題ではありません。

呼称上の氏を用いた選択的夫婦別姓と、戸籍制度について確認してみます。

民法上の氏と呼称上の氏

最初に、どうしても「民法上の氏」と「呼称上の氏」を説明しなければならないので触れておきます。

私たちが普段使っている(呼称している)氏は、戸籍謄本で確認できる氏と同じです。そして、戸籍謄本には1つの氏しか記載されていませんよね。

ですから、呼称上の氏は戸籍上の氏とも呼ばれます。呼称上の氏は戸籍と一致するので、戸籍は常に呼称上の氏で作られます。この点は重要なので覚えておいてください。

一方で、民法上の氏とは民法で定められたとおりに変動する氏のことです。民法上の氏の変動例は、婚姻による改氏と離婚による復氏がわかりやすいでしょう。

民法上の氏と呼称上の氏は、一致することも一致しないこともあり、一致しない場合でも戸籍に記載されているのは呼称上の氏だけです。

このように、氏には二重の概念があって難しいのですが、別記事もありますので紹介しておきます。

参考:民法上の氏と呼称上の氏って知っていますか?

民法上の氏と呼称上の氏が一致しない例

婚姻と離婚に限定すれば、民法上の氏と呼称上の氏が一致しないケースは3つです(婚姻と離婚以外にも一致しないケースはあります)。

  1. 日本人同士の離婚で婚姻中の氏を名乗る
  2. 外国人との婚姻で外国姓を名乗る
  3. 外国人との離婚で日本姓に戻す(2が前提)

今回は「夫婦」別姓がテーマなのに、なぜ夫婦ではなくなった離婚後の話が出てくるの? と思うかもしれません。

そう思うのも無理はなく、離婚した元夫婦の氏を取り上げて、婚姻中の夫婦の氏を論じるのは的外れでナンセンスです。

しかし、夫婦であるかどうかに関係なく、氏は法令に定められた方法でしか変わらない・変えられないので、「氏の制度」という大きな枠組みでは、離婚後の元夫婦も婚姻中の夫婦も同じ法令の影響を受ける立場です。

ここでは、氏の制度を説明するために離婚も取り上げています。

1.日本人同士の離婚で婚姻中の氏を名乗る

民法上は、日本人同士が婚姻すると夫婦の氏を定めなくてはならず、婚姻で改氏した配偶者(以下、単に改氏配偶者)は、離婚すると婚姻前の氏に復氏します。この氏の動きが民法上の氏です。

例:佐藤花子が婚姻で鈴木姓に変わり離婚で旧姓の佐藤姓に戻る

しかしながら、離婚で旧姓に変わる改氏配偶者(主に女性)は、社会生活において不便なばかりか、離婚を知られる要因となります。さらに、養育中の子と氏が異なる状況は好ましくないと考える人にとっても不都合です。

そこで、離婚から3ヶ月に限っては、「離婚の際に称していた氏を称する届」によって婚姻中の氏と同じ呼称・表記の氏を名乗ること(婚氏続称)ができるようになりました(民法第767条第2項、戸籍法第77条の2)。

本来は、戸籍法第107条第1項に基づき、家庭裁判所の許可(氏の変更許可審判)が必要になるところ、婚氏続称のニーズが高まった時勢を踏まえ、手続きを簡便化して届出による氏の変更を可能にしたものです。

婚氏続称制度を利用しても、民法上の氏(復氏により旧姓)は変わりませんが、呼称上の氏は婚姻中と同じ呼称・表記の氏に変わります。

民法上の氏(佐藤):佐藤花子が婚姻で鈴木姓に変わり離婚で旧姓の佐藤姓に戻る
呼称上の氏(鈴木):届出により離婚後も鈴木姓を名乗る

2.外国人との婚姻で外国姓を名乗る

外国人には戸籍がないので、日本人と外国人が婚姻しても、夫婦の新戸籍が作られたり、外国人が日本人配偶者の戸籍に入籍したりすることはありません。

したがって、夫婦同姓が強制されないどころか、氏の変動を伴わず、夫婦別姓となるのが外国人との婚姻における原則です。

例:佐藤花子がビル・スミスと婚姻しても佐藤姓

この状況は、夫婦別姓を望んでいる夫婦に歓迎されますが、夫婦同姓が浸透している日本社会においては、同姓になりたいと思う夫婦がいるのも当然でしょう。

この場合でも、戸籍法第107条第1項に基づく家庭裁判所の許可(氏の変更許可審判)が必要になるところを、婚姻から6ヶ月に限っては、「外国人との婚姻による氏の変更届」により、呼称上の氏を外国姓に変更できます(戸籍法第107条第2項)。

民法上の氏は婚姻前と変わらず、呼称上の氏が外国姓となります。

民法上の氏(佐藤):佐藤花子がビル・スミスと婚姻しても佐藤姓
呼称上の氏(スミス):届出により婚姻後はスミス姓を名乗る

3.外国人との離婚で日本姓に戻す(2が前提)

外国人と婚姻して、呼称上の氏を外国姓に変更すると、離婚をしても呼称上の氏が日本姓へ戻ることはありません。

民法上の氏は日本姓、呼称上の氏は外国姓のままです。

民法上の氏(佐藤):佐藤花子がビル・スミスと婚姻・離婚しても佐藤姓
呼称上の氏(スミス):スミス花子がビル・スミスと離婚後もスミス姓

つまり、日本人同士の離婚では必要だった婚氏続称の手続は不要となり、逆に婚氏続称状態で離婚してしまうわけです。しかし、離婚しても外国姓という状況に、違和感を感じる人がいるのは理解できるでしょう。

ここで、日本姓に戻したい場合は、やはり戸籍法第107条第1項に基づく家庭裁判所の許可(氏の変更許可審判)を必要としますが、離婚から3ヶ月に限り、「外国人との離婚による氏の変更届」によって、呼称上の氏を日本姓に変更できます(戸籍法第107条第3項)。

元から日本姓だった民法上の氏は変わらず、呼称上の氏が日本姓に戻ります。

民法上の氏(佐藤):佐藤花子がビル・スミスと婚姻・離婚しても佐藤姓
呼称上の氏(佐藤):届出によりビル・スミスと離婚後は佐藤姓

日本人夫婦における氏の変更

さて、日本人と外国人、婚姻と離婚の組み合わせを考えると、前述の3ケースに含まれないのが日本人同士の婚姻です。日本人同士の婚姻では、婚姻時に夫または妻の氏を夫婦の氏と定めますよね。

この夫婦の氏は、いかなる場合にも変更できないのでしょうか?(一旦離婚して再婚時に変える方法は除きます)

訴訟の担当弁護士は、改氏配偶者の旧姓使用が戸籍法上で許されていないと主張しますが不正確です。氏の変更を規定した戸籍法第107条第1項は、対象に日本人夫婦(戸籍筆頭者及びその配偶者)も想定しています。

戸籍法 第百七条第一項

やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

つまり、やむを得ない事由と氏の変更許可審判が必要ながらも、婚姻時に定めた夫婦の氏を、改氏配偶者の旧姓に変更することは手続上可能です。

他の3ケースに届出という簡易な手続が用意されているのは、状況から「やむを得ない事由」の審査を省いたのですが、事の本質はそこではありません。

日本人夫婦における氏の変更は、夫婦の氏が変更される(相手配偶者の氏も変更される)ので、相手配偶者の同意を必要とし、改氏配偶者だけでは氏の変更ができなくなっています。

この違いは、個人で氏を変更可能な他の3ケースと比べ、明らかに均衡を欠いています。

そして、氏の変更制度が不均衡であることは、日本国憲法第24条(家庭内での個人の尊厳と両性の本質的平等)に違反しているというのが訴訟の争点です。

もちろん、その判断は裁判所に委ねられるのですが、氏の変更制度が不均衡な理由は、氏と戸籍制度が密接な関係を持つことにあります。

戸籍制度と夫婦同籍・同氏同籍の原則

戸籍法第6条は、「夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに」戸籍を編成するとしています。夫婦は同籍し、夫婦と同氏で未婚の子も同籍します。

戸籍法 第六条

戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。ただし、日本人でない者(以下「外国人」という。)と婚姻をした者又は配偶者がない者について新たに戸籍を編製するときは、その者及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。

ここで、「夫婦及びこれと氏を同じくする子」の「これ」とは夫婦のことですが、単一表現であることに注意してください。日本人夫婦において子が同籍する基準は、「夫又は妻の氏」ではなく「夫婦の氏」と同じ氏です。

条文を素直に解釈する限り、戸籍法第6条は日本人夫婦が同氏であることを予定しています。無論、その背景にあるのは民法第750条(夫婦同姓規定)です。

訴訟の担当弁護士は、戸籍法第6条が夫と妻との間では同氏であることを必要としていないと主張していますが、当サイト管理人にはその根拠が条文のどこにあるのかわかりませんでした。

同一戸籍内は、夫婦および夫婦と同氏の子で構成され、夫婦同籍と(民法上の氏も呼称上の氏も)同氏同籍を保っているのが現行の戸籍制度です。

もし、改氏配偶者だけに氏の変更を認めると、同氏同籍の原則から改氏配偶者は別戸籍にしなくてはなりませんが、これは夫婦同籍の原則からできないので、日本人夫婦には夫婦の氏を変更する手続だけが用意されているのです。

一方で、他の3ケース(日本人同士の離婚、外国人との婚姻、外国人との離婚)は、いずれも戸籍法第6条ただし書きに該当します。共通するのは「夫婦の戸籍がない」ことです。

離婚した人たちは当然に夫婦ではなく、外国人と婚姻した人も夫婦の戸籍は作られない(外国人配偶者に戸籍はない)ので、夫婦同籍の原則に縛られることなく個人で氏の変更ができます。

原告勝訴となった場合の戸籍制度

原告が勝訴して、改氏配偶者に呼称上の氏の変更が認められた場合、戸籍はどのようになるのでしょうか?

【原告の希望する制度】

  • 民法上の氏は夫婦同姓
  • 呼称上の氏は改氏配偶者の任意で旧姓を選択できる

現行の戸籍は呼称上の氏で作られるため、夫婦で呼称上の氏が異なる前提では、夫婦同籍と同氏同籍を両立させることができません。

したがって、次のような解決方法が考えられます。

  • 夫婦同籍を維持して呼称上の別氏同籍
  • 夫婦同籍を維持して民法上の別氏同籍
  • 同氏同籍を維持して夫婦別籍
  • 個人籍の導入
  • 第3の氏(通称制度)の導入

A.夫婦同籍を維持して呼称上の別氏同籍

民法上の氏が同じでも、呼称上の氏が異なると別戸籍になる現行制度に例外を設け、夫婦同籍を維持します。

ただし、呼称上の氏が異なる=別戸籍になるというルールは、これまで画一的に運用されてきたので、例外を認めると他の戸籍とは不整合が生じます。

例えば、日本人夫婦の離婚において、改氏配偶者が復氏して親の戸籍に戻ったとします。その後、婚氏続称すると呼称上の氏が親と異なるため、従来は新戸籍編製となるのですが、呼称上の氏が異なっても同籍できるのであればその必要はありません。

この事例は、親子で呼称上の氏が異なるケースですが、呼称上の氏が異なる夫婦にも関係してきます。

なぜなら、夫婦のみ呼称上の別氏同籍を認め、親子では呼称上の別氏同籍を認めないとすると、呼称上の氏が異なる夫婦の子は、必ず夫婦の一方と呼称上の氏が異なり、夫婦と同籍できないからです。

ということは、夫婦間でも親子間でも呼称上の別氏同籍を認めなくてはならず、選択的夫婦別姓の範囲にとどまらない戸籍制度の大きな変更をもたらします。

B.夫婦同籍を維持して民法上の別氏同籍

婚姻での改氏に選択肢を与え、改氏しなくても婚姻できるようにします。つまり、夫婦で民法上の氏が異なることを許容する本質的な選択的夫婦別姓です。

必然的に、民法第750条などの改正を必要としますが、平成8年に法制審議会が答申した民法改正案も、民法上の同氏と別氏を夫婦で選択する方法でした。当然ながら、戸籍制度も大きく変わります。

民法上の別氏夫婦における戸籍の取扱いは、同時期に民事行政審議会で話し合われています。答申されたのは、夫婦同籍を維持した民法上の別氏同籍です。

原告の望む制度と異なるとはいえ、本質的な選択的夫婦別姓(民法第750条の改正)が実現されないからこそ、今回の訴訟を提起したものと推測されるので、この方法でも原告に異論はないでしょう。

最大の障害は、立法府である国会が消極的なことでしょうか。国会が消極的ということは、自民党内に反対勢力がある以外の理由はありません。

かつて、民主党政権時代に法改正の機運は高まりましたが、結局は実現しませんでした(背景に連立与党だった国民新党の反対があったと言われています)。

C.同氏同籍を維持して夫婦別籍

同氏同籍の原則を崩すのは影響が大きいことを考慮し、呼称上の氏が異なる夫婦は、それぞれを筆頭者とする別戸籍にします。

夫婦同籍を前提としてきた戸籍制度は、どうしても変更を余儀なくされますが、呼称上の氏を変更した配偶者だけ別戸籍にするのであれば、別氏同籍よりも影響は少ないと考えられます。

この方法では、夫婦と未婚の子で構成されていた戸籍の一体感が失われるとはいえ、身分事項欄などを使い、呼称上の氏が異なる夫婦・親子の戸籍を結び付けることは可能でしょう。

また、戸籍の構成が事実婚の夫婦と同じになり(事実婚夫婦は民法上の氏も異なる)、外国人と婚姻した日本人配偶者とも戸籍が類似するので、他との整合性は取りやすいはずです。

ただし、呼称上の同氏夫婦は同戸籍、呼称上の別氏夫婦は別戸籍であることが、同じ法律上の夫婦でありながら不平等だとする声が上がらないとも限りません。

加えて、これまでは別戸籍=事実婚、同戸籍=法律婚という認識があったので、別戸籍なのに法律婚という状況が社会に浸透するのにも時間がかかりそうです。

なお、同氏の親子を同籍させる点が、個人籍とは異なります。

D.個人籍の導入

氏と戸籍を切り離し、戸籍を個人単位とする大改革ですが、これまでの戸籍の変遷を考えると、戸籍が持つ「家」という概念からの脱却は難しいのかもしれません。

しかし、個人籍になっただけで生活が変わらなければ、これまでの家族観が希薄になるとは思えず、全員が個人籍になることで不平等もなくなります。

現在でも、婚姻して戸籍から抜けた子を、子と思わない親はいませんし、戸籍が違うだけの理由で親と思わない子もいません。兄弟姉妹は、お互いに婚姻で氏と戸籍が変わっても兄弟姉妹です。

つまり、戸籍が同じだから家族なのではなく、共同生活や血縁上の関係で生まれる家族の絆は、戸籍の異同よりもはるかに強いでしょう。

身分事項欄などを使い、各個人籍を夫婦・親子で結び付ければ、誰と誰が夫婦で誰と誰が親子か不明になることもないはずです。

E.第3の氏(通称制度)の導入

既に説明してきたように、夫婦同籍と同氏同籍の原則は、原告の希望する呼称上の氏を用いた選択的夫婦別姓と共存できません。

そこで、改氏配偶者に旧姓を第3の氏(氏ではなくあくまで通称)として使用する法的保護を与えます。

この方法のメリットは、従来の戸籍制度に大きく変更を加えることなく、改氏配偶者が受けている不利益を解消できる点です。通称制度があれば、婚氏続称などで呼称上の氏を変更する必要もなくなります。

ところが、今でも民法上の氏と呼称上の氏という二重概念で複雑化しているのに、さらに通称制度を導入すると混乱は必至です。改氏配偶者以外にも、通称制度を適用すべきか否かという問題も出てきます。

しかも、改氏配偶者の通称使用に法的保護を与えたところで、戸籍上は夫婦で同じ呼称上の氏(=民法上の氏)ですから、真の意味では選択的夫婦別姓となりません。

平成8年に法制審議会が民法改正案を答申するにあたり、民法部会で話し合われた際には、この通称制度案も出ていましたが、ごく少数にしか支持されませんでした。

今回の訴訟に対する当サイト管理人の考え

最後になります。完全に私見なので読み飛ばしてもらって構いません。

この記事を書くことになったきっかけは、今回の訴訟を起こした原告本人が書いた(と思われる)次の記事です。

選択的夫婦別姓訴訟で実現したいことへのご理解とご支援のお願い

個人的には、選択的夫婦別姓に賛成の立場なので、ぜひとも違憲判決を勝ち取って欲しいのですが、以下のような原告の主張に違和感を感じました。

  • 戸籍法に一文を追加するだけ
  • 社会が負担するコストが低い
  • 戸籍管理システムの改修はほとんどいらないはず

果たして、本当に原告の主張のように簡単なのでしょうか?

原告の思い描く戸籍制度とは……

当サイト管理人の印象では、原告が呼称上の氏と戸籍の関係を、正しく理解しているとは思えませんでした。くどいようですが、呼称上の氏が異なる夫婦は、夫婦同籍と同氏同籍が同時に成り立たないからです。

原告の思い描く新しい戸籍制度が、容易な方法でどのように実現されるのか皆目見当が付かず、原告勝訴における戸籍制度の形態は、A案~E案しか当サイト管理人には思い浮かびません(他にもあったらゴメンナサイ)。

このうち、呼称上の氏を用いた選択的夫婦別姓は、夫婦同籍ならA案、夫婦別籍ならC案です。

しかし、どちらを採用するとしても、戸籍編製の基準がこれまでと変わりますので、法律や戸籍制度が変わり、もしかしたら戸籍の改製(戸籍制度の改正に伴い、現在の戸籍を改正後の基準で作り直すこと)すら起こり得ます。

その影響度は正確に予想できませんが、いずれにせよ原資は税金であって、社会的コストは決して小さくないでしょう(大小の基準は人それぞれなので、原告には小さいと思える金額なのかもしれません)。

しかも、戸籍法に一文追加するだけというのが、当サイト管理人には全く理解不能です。この記事を書くにあたり、いくら考えてもわからないのがこの点でした。

唯一、コストが小さいと思われるE案は、もはや呼称上の氏と無関係な通称制度なので、原告の主張とは全く異質な方法論だと付け加えておきます。

懸念は情報不足で世論形成を促していること

選択的夫婦別姓の実現に向けて、機運を高めるべく世論を形成したい心情は理解できますし、原告の社会的地位から発言の影響度が大きいのも想像に難しくありません。

であるならば、なおのこと法律や戸籍制度の改正が与える影響を十分に検証し、社会的コストが大きくとも隠さずに伝えた上で、選択的夫婦別姓を実現したいと訴えるのが正しい道筋ではないでしょうか。

もちろん、「法律や戸籍がどうなるとか、コストがどうだとか、そんなことは法務省や専門家が考えることだ」という意見もあるでしょう。当サイト管理人もそう思います。

しかし、原告はコストが低いと主張して賛同を呼び掛けています。当たり前の話、コストがどのくらいか知っている、もしくは推測できなければ、その大小には言及できないはずです。

同じく、戸籍法に一文追加という主張も、法制度を熟知していなければ断言できませんから、原告は法制度と社会的コストの両面を、かなり高いレベルで知っているということです。

恣意的な印象操作だったら最悪

戸籍制度はとても難解で、運用ルールは多くの先例に支えられてきました。業務上で戸籍を扱う職種や研究者以外に、知識のある人は多くありません。

そもそも、呼称上の氏からして一般常識ではないどころか、いわゆる「士業」でも知らない人が珍しくないほどです。

最高裁の壁を超えられなかった選択的夫婦別姓が、原告の方法なら容易だと主張すれば、賛同の声が増えていくのも当然でしょう。賛同する前に、本当にそうなのか? と考える人は少数派です。

その少数派ですら、これまで戸籍や氏の制度に理解のなかった人は、原告の主張を検証しようとしても、あまりの難解さに投げ出してしまうと思います。

原告が、いかにも簡単に実現できそうだと思わせる恣意的な印象操作を行い、知識に乏しい人を巻き込んで世論形成するつもりなら悪質ですよね(そうではないことを切に願います)。

それでも原告を応援したい

批判も含め長々と書いてきましたが、それでも当サイト管理人は、原告の手法に違和感を感じつつも応援したい気持ちです。

より正確には、原告個人を応援したいのではなく、今回の選択的夫婦別姓訴訟が原告勝訴になることを期待しています。たとえ多くの税金が使われようと、選択的夫婦別姓は実現されるべきだと考えるからです。

氏の変更許可審判は、氏の変更にやむを得ない事由があり、なおかつ戸籍筆頭者であれば、申立てに婚姻・離婚は関係ありません。

戸籍筆頭者ではない子(戸籍筆頭者の親と同籍する子)でも、成人なら分籍して戸籍筆頭者になることで、氏の変更許可審判を利用できます。

見方を変えると、戸籍筆頭者の配偶者は分籍できないので(戸籍法第21条第1項)、個人では氏の変更許可審判を利用できないとも言えます。

例外的に、日本人同士の離婚、外国人との婚姻、外国人との離婚においては、氏の変更に対するニーズが高く、審判から届出に手続緩和されました(届出で済むことが重要なのではありません)。

そう考えると、氏の変更手続は広く成人(婚姻での成人擬制を含む)に用意されているにもかかわらず、日本人夫婦の場合だけ、夫婦同籍・同氏同籍の戸籍制度により、個人での氏の変更を妨げられることに合理性はないでしょう。

法制度が特定の人たち(今回は改氏配偶者や事実婚を選ばざるを得ない夫婦)に不利益を与えているのであれば、それは是正されてしかるべきで、すべて国民は、法の下に平等でなければならないのです(日本国憲法第14条)。

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