氏について基本的な理解を深めよう

氏(うじ・し)は生まれてから死ぬまで持っており、名と組み合わせて個人を特定するために使われます。また、氏は一般に名字(姓)として使われますし、夫婦と未婚の子を一単位として、戸籍を形成する単位でもあります。

日本では、よほど親しい間柄でなければ、○○さんのように名字を使って呼び合うのが普通で、名字は知っていても名前は知らない関係性も存在します。

また、婚姻や離婚で変わったり変わらなかったり、事情があって変更したりと、人生において氏は変わる可能性もあって、婚姻で夫の名字を使う事例が多いため、主に女性にとって氏は一時的なものでしょう。

氏は戸籍と深く関わり合いを持ちますが、ここでは戸籍について詳しくは説明せず、氏についての基本的な説明に留めます。

生まれたときに氏は決められる

実に当たり前のことを書いているようでも、出生のときに両親が婚姻していないときなど、子の出生では次のような状況が考えられます。

  • 婚姻している父母(夫婦)から生まれた
  • 婚姻していない父母から生まれた
  • 父母の両方が不明である

婚姻している父母(夫婦)から生まれた場合

婚姻中の父母から生まれた子(嫡出子、嫡出の子とも呼ばれます)は父母の氏、つまり夫婦の氏を称します(民法第790条第1項本文)。

夫婦の氏とは、婚姻時に夫婦が定めた夫または妻の氏で、父母の氏を称する子は夫婦の戸籍に入ります(戸籍法第18条第1項)。

民法で定めがあるように、夫婦から生まれた子は、自動的に夫婦の氏を称するのであって、夫婦が子の氏を自由に決めることはできません。仮に夫婦が決められても、何の意味もないように思うでしょうか?

ところが、夫以外の子を妻が生むケースも存在しますので、自動的に子の氏が決められてしまうこの規定は、時に障害となってしまいます。

さらに、妻が婚姻中に懐胎した子は、真の父が誰であろうと、夫の子として推定されます(民法第772条第1項)。つまり、夫以外の子も夫の子として戸籍に入り、夫婦の氏を称することになって、これは血縁上の父子関係とは異なる状況です。

婚姻していない父母から生まれた場合

婚姻していない父母から子が生まれるケースとしては、単に婚姻関係がない場合と、婚姻中に懐胎して離婚後に生まれた場合に分かれます。

まず、単に婚姻関係がない父母から生まれた子(非嫡出子、嫡出ではない子とも呼ばれます)は、母の氏を称します(民法第790条第2項)。父母の婚姻関係だけで判断され、交際中、事実婚、父親不明なども関係しません。

母が現在の戸籍筆頭者なら子は母の戸籍に入り、両親の戸籍など、母が筆頭者ではない戸籍にいるときは、母を筆頭者とする新戸籍を作って、その戸籍に子が入るので、いずれにしても母を筆頭者とする戸籍です。

次に、婚姻中に懐胎して離婚後に生まれた場合は、離婚時の父母の氏を称します(民法第790条第1項ただし書き)。離婚時の父母の氏ということは、婚姻中の父母の氏を称することになって、子は婚姻中の戸籍に入ります。

婚姻中の戸籍が母を筆頭者としていたなら何も問題はありませんが、多くの場合に婚姻中は父を筆頭者とするので、子は父の戸籍に入って母とは別戸籍になります。

父母の両方が不明である場合

子の父が不明なことは、事情によって考えられますが、母は分娩があるので、不明になることは無いように思えます。ですから、父母の両方が不明である場合とは、残念なことに子が捨てられたケースです(棄児や棄子と呼ばれます)。

捨て子という表現は差別的だとする声があるので、法律上の表現である棄児としますが、棄児の発見者または発見を受けた警察官は、24時間以内に市町村長に申出をしなくてはなりません(戸籍法第57条第1項)。

父母が不明であれば、当然にいずれの氏を称することもできないので、この場合は、例外的に市町村長が氏名を付けます(戸籍法第57条第2項)。

氏は身分が変わると変動する

身分とは、尊卑を意味するのでも、社会的な地位を意味するのでもなく、親族上の地位(夫や妻、親や子など)のことです。人生においては、身分が変わることで、氏が変わることも少なくありません。

また、身分が変わって氏が変動しても、さらに身分が変わることで氏が元に戻る(復氏といいます)ケースもあります。

典型例は婚姻と離婚

氏が変動する典型例は、婚姻と離婚(婚姻の取消しも同様)で氏が変わるケースです。婚姻の際、夫婦はどちらかの氏に定めると決まっています(民法第750条)。

名字が一緒でも氏は異なるため、夫か妻のどちらかは婚姻で氏を改めます。夫婦が選んだ氏を持つ側を筆頭者として新しい戸籍が作られ、夫婦はその戸籍に入ります。

ただし、夫婦が選んだ氏を持つ側が既に筆頭者なら、新戸籍を作る必要がないので、氏を改める側が、氏を改めなかった筆頭者の戸籍に入るだけです。

このとき、慣習的に夫の氏を選ぶことが多くなっていますが、妻の氏を選ぶことに制限はありません。いずれにしても、夫婦は同じ戸籍に入らなくてはならず、同じ戸籍は同じ氏になるので、夫と妻の氏は必ず一緒です。

その後、この夫婦が離婚したとすると、婚姻時に氏を改めた側は、復氏によって婚姻前の氏に戻ります(民法第767条第1項)。例外はありますが、復氏は婚姻直前の氏に戻るのであって、それ以前の氏には戻ることができません。

復氏すると氏が変動してしまうので、同じ戸籍に在籍することはできず、復氏する側は当然に夫婦の戸籍から抜け出ます。復氏するのは婚姻時に氏を改めた側ですから、主に女性が復氏することになるでしょう。

養子縁組と離縁でも氏は変動する

養子縁組と離縁(縁組の取消しも同様)は、婚姻と離婚のような関係性を持っており、縁組をすると養子は養親の氏を称します(民法第810条本文)。また、離縁によって復氏します(民法第816条本文)。

養子が未婚であれば動きはわかりやすく、縁組で養親の戸籍に入って養親の氏を称し、離縁すると復氏するので、養親の戸籍から抜け出て縁組前の氏を称します。

では、婚姻している夫または妻が養子縁組するとどうなるのでしょうか?

養子が婚姻している場合、婚姻で氏を改めなかった戸籍の筆頭者が縁組するのか、婚姻で氏を改めたその配偶者が縁組するのかで氏は異なります。

戸籍の筆頭者による縁組

戸籍の筆頭者が縁組すると、養親の戸籍に入るのではなく、養親の氏で新しい戸籍が作られ夫婦が入ります。ですから、筆頭者の縁組によって、その配偶者も養親の氏を称することになります。

離縁のときは、復氏によって縁組前の氏で新しい戸籍が作られ夫婦が入ります。このように、筆頭者の養子縁組では、夫婦で氏の変動が起こります。

筆頭者の配偶者による縁組

婚姻で氏を改めた配偶者による縁組でも、養親の氏にはなるのですが、養親の氏と婚氏(婚姻中の氏)では婚氏が優先されます(民法第810条ただし書き)。したがって、縁組の事実が戸籍に記載されるだけで婚氏のままです。

離縁をすると、復氏で縁組前の氏に戻るのは同じでも、縁組時にそもそも婚氏から動いておらず、離縁しても婚氏なので、結局婚氏から変わりません。

氏は自ら変更することもできる

身分が変わることによる氏の変動以外にも、氏を変更することは許されています。ただし、氏の変更を自由に認めてしまうと、社会的な混乱も大きいため、家庭裁判所の許可を要するのが原則です。

それでも特定の状況下では、家庭裁判所の許可なしに、当事者の任意で氏の変更を許している特例も存在しますので解説していきます。

外国人との婚姻と氏の変更

外国人には戸籍がないので、外国人と婚姻した場合は、日本人を筆頭者とする戸籍が作られ氏も変わりません。つまり、いわゆる夫婦別姓の状態が保たれます。

外国人配偶者の氏(ラストネーム)にしたい場合には、「外国人との婚姻による氏の変更届」を届け出ることで、婚姻から6ヶ月以内に限り氏の変更が可能です。

また、外国人配偶者の氏に変更した後で、離婚、婚姻の取消し、外国人配偶者の死亡によって婚姻関係が解消された場合には、3ヶ月以内に「外国人との離婚による氏の変更届」を届け出ると、元の氏に再変更することができます。

「外国人との離婚による氏の変更届」で元の氏に再変更できるのは、「外国人との婚姻による氏の変更届」によって氏を変更した場合に限られます。

「外国人との離婚による氏の変更届」には、婚姻関係が解消された原因を記載する欄があるので、1つの届書が3つの原因を兼用します。

婚氏続称と縁氏続称

婚姻や縁組で氏の変動があって、離婚や離縁で復氏すると、婚姻前や縁組前の戸籍に戻り、戻った戸籍の氏になります(良く言われる旧姓に戻るという動きです)。

しかし、日常生活において、氏は自身を特定するために使われる重要な位置付けであることから、離婚や離縁で復氏する側は、氏の変動で不便を強いられていました。

そこで考えられたのが、「離婚の際に称していた氏を称する届」または「離縁の際に称していた氏を称する届」により、婚姻中や縁組中と同じ呼称の氏を使わせる制度です。

離婚時は婚氏続称、離縁時は縁氏続称とも言われ、この届出による氏の変更は、離婚または離縁から3ヶ月以内に限られています(縁氏続称には縁組期間が7年必要)。

生活上においては、同じ字を使い読み方が同じなら、同じ名字として扱われ不便が生じないので、婚姻中や縁組中と同じ呼称の氏を称することで、あたかも外見上は氏が変わっていないようにできます。

勘違いしやすいですが、復氏する側は離婚や離縁しているのですから、もはや婚姻中や縁組中の氏を称することはできず、同じ呼称の異なる氏を称するだけです。

婚氏続称や縁氏続称によって、婚姻中や縁組中の氏から複製された別の氏を作ると思えば、何となくイメージが湧きやすいのではないでしょうか。

少しも基本的ではなく難しい話なのですが、離婚や離縁による復氏は民法に定められた強制的な効果で、婚氏続称や縁氏続称とは無関係に起こります。

ところが実際には、婚氏続称や縁氏続称により、復氏して称するはずの氏ではなく、婚姻中や縁組中と呼称が同じ氏を称している状態です。

つまり、民法の定めに従って概念上は復氏しているはずなのに、現実には異なる氏を称していることになり、これはそれほど珍しいことではありません。

民法の定めによって取得・変動する氏を「民法上の氏」、現実の戸籍に紐付けられ実際に称している氏を「呼称上の氏」と呼んで区別されるのですが、普通は呼称上の氏(戸籍上の氏)だけ意識しておけば問題ないでしょう。

私たちが使っている氏(うじ)は、ある程度の範囲で個人を識別するためにも使われます。いわゆる苗字として「○○さん」のように呼ばれるので、社会生活と切り離すことができないほど、日常的に浸透していますよね...

配偶者死亡による復氏

離婚や婚姻取消し、離縁や縁組取消しでは復氏しますが、婚姻中に配偶者が死亡して婚姻関係が解消された場合には、復氏はしないことになっています。

しかし、生存配偶者の中には復氏を希望する人もいるので、「復氏届」を届け出ることで、復氏が可能になっています(民法第751条第1項)。復氏届に期間の制限はなく、届け出るまでは効果が発生しません。

やむを得ない事由による氏の変更

これまで説明してきた特定の状況以外では、氏の変更に家庭裁判所の許可(氏の変更許可審判)を必要とします。許可を受ける要件は、やむを得ない事由としか規定されていない(戸籍法第107条第1項)ので、事情に照らし合わせて判断されます。

具体的には珍奇・難読などであれば許可され、社会通念に照らし合わせて当事者が生活に支障を生じている事情を必要とします。単に特定の氏が使いたいという理由で申し立てても許可されません。

生活に支障を生じるとは、恥ずかしい・笑われる、読みが難しくて誤解を生じる、紛らわしい、同じ氏を使い続けることで精神的に苦痛を免れない事情があるなど考えられ、基準は特になく客観的に裁判所が判断します。

氏の変更は筆頭者とその配偶者から申立てで行われ、変更が許可されると同籍している子にも適用されます。したがって、成年の子が氏の変更を望まないときは、分籍して氏が変更されないように対処しなくてはなりません。

また、離婚時に婚氏続称を選択しても、婚姻前の氏にしたい場合にも、家庭裁判所の許可によって氏を変更するのですが、このときは他の理由と違って、氏の変更に対する許可要件が緩和されています。

これは、婚氏続称自体が例外的に許可を不要とした氏の変更であり、婚姻前の氏への変更は、離婚で戻るべき本来の氏への変更に該当するからです。

ただし、婚姻前の氏には変更できたとしても、婚姻前の戸籍に戻ることは否定されています。離婚時に婚氏続称せず、婚姻前の氏で新戸籍を作った場合も、婚姻前の戸籍に戻ることは許されていないので、どちらも同じ扱いと言えます。

子の氏の変更

父または母と子の氏が異なる場合、子は家庭裁判所の許可(子の氏の変更許可審判)によって、父または母の氏に変更が可能です(民法第791条第1項)。

父または母と子の氏が異なる場合とは、父母の戸籍が異なる場合に該当しますから、主に考えられるのは次のようなケースです。

  • 父母が離婚した(子が出生前の離婚も含む)
  • 父母が婚姻中に一方が亡くなり生存配偶者が復氏した
  • 非嫡出子が父に認知された

いずれの場合でも、子が父または母と氏を同じにしたいのは、親と共同生活をしていく上で自然の考えなので、子の氏の変更許可は比較的容易です。子が15歳未満のときは、法定代理人(親権者)による申立てになります。

ただし、非嫡出子が父に認知された場合、父が独身であれば同じ戸籍になっても問題ないですが、父が母以外と婚姻中の場合には、その配偶者や嫡出子にとって、非嫡出子の入籍が歓迎できる状況とは限りません。

そのため、父と非嫡出子の同籍について、双方の事情や利益を考慮した上で、家庭裁判所が許可の当否を判断します。

許可を得られたら、審判書を添付した届出(入籍届:父または母の氏を称する入籍)により、父または母の戸籍に入ることで子の氏は変更されます。

家庭裁判所の許可が不要なケースもある

父または母が氏を改めたことによって、父母と子の氏が異なるとき、父母が婚姻中なら子は届出(入籍届:父母の氏を称する入籍)だけで氏を変更することができます(民法第791条第2項)。

ポイントは「父母」と子の氏が異なる点と、父母が婚姻中に限られる点で、この状況は、父母が子を残して別戸籍に存在する次のようなケースです。

  • 父母(または戸籍の筆頭者)が養子縁組して養親の氏になった
  • 父母(または戸籍の筆頭者)が離縁して復氏した
  • 非嫡出子が父に認知され父母が夫の氏を称して婚姻した
  • 外国人と婚姻した父また母が外国人の氏を称する届出をした

また、戸籍先例で認められたケースとして、父または母と「民法上の氏」が同一である子は、届出(入籍届:父または母と同籍する入籍)によって家庭裁判所の許可なしに父または母の戸籍に入り、氏を変更することができます。

  • 父または母が離婚または離縁で復氏して新戸籍が編製され、婚姻前または縁組前の戸籍にある同氏の子が新戸籍に入籍する場合
  • 「外国人との婚姻による氏の変更届」による氏の変更で新戸籍が編成され、氏の変更前に同籍していた子が新戸籍に入籍する場合
  • 「外国人との婚姻による氏の変更届」によって氏を変更した日本人配偶者が、「外国人との離婚による氏の変更届」による氏の変更で新戸籍が編製され、氏の変更前に同籍していた子が新戸籍に入籍する場合
  • 筆頭者が死亡後に生存配偶者が自己の氏を称する婚姻をしたことで新戸籍が編成され、婚姻前に同籍していた子が新戸籍へ入籍する場合
  • 父または母が性同一性障害により性別の取扱いの変更審判を受けて新戸籍が編製され、新戸籍編成前の戸籍に在籍する成年に達した子が新戸籍に入籍する場合

子は成人から1年間復氏できる

未成年の子が氏の変更をしても、子が成人に達してから1年以内は、届出(入籍届:従前の氏を称する入籍)だけで復氏することができます(民法第791条第4項)。

子の氏の変更は、15歳未満なら親権者が代理して行うのですが、特に子が幼いとき、子の意思よりも親権者の意思で行われる事情を持っていますから、成人した子には、自らの意思で復氏の機会を与えるというわけです。

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