仮装(偽装)離婚の財産分与でも有効?

財産分与(清算的財産分与)は、夫婦の協力で形成された共有財産を、離婚の際に分けることで夫婦の経済的不均衡を是正する目的があります。

たとえ共有財産が一方の単独名義でも、夫婦で築かれた財産である以上、他方に相当分の請求権があることは疑いようもないでしょう。

ところで、財産分与請求権が離婚によって発生することは、要件である離婚さえすれば、同時に財産分与請求権はあることにもなります。

しかし、本当は離婚するつもりがないのに、財産分与を目的とした協議離婚(仮装離婚、一般的には偽装離婚)をしたとき、財産分与は有効になるのでしょうか?

今回はこの問題がテーマです。

仮装離婚でも離婚は有効とされる

離婚が成立するためには、夫婦に離婚の意思ならびに届出の意思が必要とされます。届出の時点で夫婦の一方に離婚意思がなく離婚届が提出された場合、役所は離婚意思を確認しないので受理されますが、離婚を無効とする訴えは可能です。

しかし、真意ではない離婚意思でも、離婚届が受理されることで離婚が成立することは周知の事実ですから、離婚届を出す意思がある=離婚の意思があるとして、形式的な離婚であっても、離婚を有効だとされます。

協議離婚での離婚届による有効な離婚は、夫婦の双方が離婚の意思と届出の意思を持っていることが前提になっています。そのため、離婚届が提出される時点で、少なくとも一方に離婚意思がないだけで、離婚は無効にな...

協議離婚に離婚理由は問われず、仮装離婚でも離婚自体は有効だと判断されるため、有効な離婚であれば財産分与にも正当性があることになってしまいます。

仮装離婚による財産分与の問題点

仮装離婚での離婚を認めない意見もありますが、判例が支持していますし、役所は離婚届について形式的な(離婚届の記載が法令に触れないか確認する)審査権しかしないので、仮装であることを見抜けず離婚は有効です。

ここで問題となるのは2つあり、財産分与には基本的に税金がかからない点と、財産分与の分与者に債務があると、財産分与で債権者が害されてしまう点です。

財産分与による脱税が可能になる

婚姻中に夫婦間で資産の移動があると、通常は贈与税を避けられないため、無税の財産分与を使うことで贈与税を免れることができます。

同じ理由から、相続税の発生が避けられない場合も、財産分与を使うことで配偶者に資産を移動し、相続財産を減らしておくことが可能です。

これらは、財産分与を利用した脱税行為なのですが、そもそもの離婚が仮装でも、それを誰も見抜けない状況下では指摘できないと思われます。

財産形成に夫婦の貢献度が大きく違わない限り、財産分与は平等な2分の1となりますから、1度仮装離婚をすると分与者の財産は半分になり、同じ相手とすぐに再婚しても、分与済みの財産はそのままです。

さらに2度目の仮装離婚で財産は当初の4分の1まで減ります。一気に半分まで(場合によってはそれ以上に)財産を減らすことができる財産分与は、資産家にとって魅力的な相続税対策になるでしょう。

何度も離婚・再婚を繰り返すと、さすがに税務署も黙ってはいないでしょうが、指摘されなければ相続財産を減らすことが可能だということです。

意図して債権者を害することができる

例えば、1,000万円の個人的な借金を持つ債務者が、夫婦では自分名義で1,000万円の共有財産を持っているとします。債権者が1,000万円を回収するためには、債務者名義の財産1,000万円を差し押さえる必要があります。

差押えを受ける前に夫婦が意図的に離婚し、財産1,000万円のうち500万円が清算的財産分与、500万円が慰謝料的財産分与で債務者の配偶者に渡ってしまいました。

債務者は1文無しとなり、債権者は差し押さえるべき財産がないので何も回収できなくなります。夫婦は債権者からの回収を妨害する目的で離婚したわけです。

このように、債務者が財産を意図的に減らして、債権者を害する行為を詐害行為と呼び、詐害行為に対しては債権者に取消権を認めていますが(民法第424条)、詐害行為に対する裁判所の判断は、必ずしも債権者を優位には扱っていません。

仮装離婚は判断しにくい

夫婦関係に問題がなくても、法律婚が理由で、いわゆるペーパー離婚をする夫婦も多くいます。典型例では、夫婦別姓を求めて形式上の離婚をするものです。

離婚前と同じように同居し、事実婚の夫婦として生活していくのですが、ペーパー離婚でも離婚は離婚なので当然に財産分与も起こります。

財産関係が全く同じ状況を仮定して、2組の夫婦を考えてみましょう。

一方は何の悪意もなく夫婦別姓のために離婚した夫婦、他方は脱税を目的として離婚した夫婦です。財産分与も全く同じ金額・方法で行われました。

あなたは税務署の人間で、脱税目的の財産分与が行われていないかチェックするとします。前者は離婚後も同居を続けており、後者は離婚後からずっと別居となれば、どちらの財産分与が疑わしいでしょうか。

ほとんどの場合に、悪意のない前者が疑わしいと思うはずです。また、前者を疑わないとしても、脱税を目的として離婚した後者から、もっともらしい離婚理由を聴いたとしたら、後者も疑わないのではないでしょうか。

そのくらい、悪意のある仮装離婚を見抜くのは難しいのです。

脱税目的の財産分与は全て贈与税の対象

財産分与は原則として贈与税の課税対象外ですが、財産分与が過大であるときは、過大な部分に対して贈与税が課されます(相続税基本通達第9条の8)。

したがって、脱税を目的としていなくても、過大と判断される財産分与には一部課税されるのですが、脱税が目的の場合には全てが課税対象です。

しかし、財産分与が脱税を目的としているかどうかは、当事者でなければわかりませんし、財産分与の全てを贈与とみなすためのハードルは高そうです。

脱税を目的としている場合、財産分与の全てが贈与税の課税対象になることには疑問を感じないでしょうか。

というのも、財産分与の対象になる共有財産は、婚姻中なら配偶者が貢献度に応じた潜在的な持分を所有しているのであり、配偶者が正当に受け取るべき、脱税意思のない持分まで課税することは不適当だからです。

これが、特有財産を財産分与(扶養的財産分与を除く)で分与したのであれば、贈与とみなされても納得できるので、全てが課税対象となる前提は特有財産を使った脱税目的の財産分与なのかもしれません。

また、昨今の離婚数を考えれば、全ての離婚に伴う財産分与をチェックしていくほどの機能は税務署になく、その費用対効果も伴わないでしょう。

よって、余程の高額な不動産が財産分与を原因として所有権移転登記されない限り、発覚しないのが実態ではないでしょうか。

財産分与による詐害行為と取消権

詐害行為に対しては、債権者から取消しを請求できます。例えば、債務者が債務超過で債権者へ返済できないと知りながら、唯一所有する不動産が差し押さえられることを危惧して行われた贈与に対し、これを取り消すように裁判所へ請求します。

同じ状況は、財産分与でも十分に起こり得ることですが、財産分与の場合には、不相当に過大で特段の事情がない限り、詐害行為による取消の対象にならないと最高裁が示したことで、概ね浸透しているようです。

これは、財産分与が贈与ではなく、共有財産の潜在的持分が離婚で分与されたとする考え方に一致しています。その結果、贈与税の課税と同じく、財産分与としては過大な部分に対してのみ取消権を認めることになります。

そうすると、配偶者と通謀して離婚することで、少なくとも配偶者が財産分与で受け取るべき相当分は、詐害行為目的の財産保全ができてしまうことになるのです。

離婚して財産分与が起きなければ、債権者は債務者の特有財産、夫婦の共有財産の区別なく、債務者の個人名義財産を差し押さえることができます。

夫婦が強制執行を免れるために離婚すると、共有財産のうち配偶者相当分は、強制執行の対象から外れるということです。

債権者のほうが不利を受けやすい

財産分与と債務の関係は、債務の原因が夫婦生活のためであれば共有財産と相殺、そうでなければ財産分与に影響を与えない扱いです。

しかし、共有財産と相殺されるはずの債務でも、その債権が財産分与請求権に優先するわけでも劣後するわけでもないので、債務が相殺されずに財産分与が行われることを、債権者から止める方法はありません。

また、債権者としても、債務者の資力を判断して融資したはずが、融資後の財産分与で、債務者の個人名義財産が減少することまで予測できないでしょう。

他にも、財産分与なら夫婦間で離婚の意思があれば容易なのに対し、債権者が債務者の財産を差し押さえるためには、債務名義を得て強制執行を申し立てなくてはならず、財産分与と比べてはるかに煩雑で債権者に不利です。

財産分与の問題点で取り上げた、個人的な借金1,000万円を持つ人が、1,000万の共有財産を配偶者に財産分与して無資力になった例では、清算的財産分与が500万円、慰謝料的財産分与が500万円でした。

債権者が詐害行為を主張して取消請求するとしても、清算的財産分与は過大とはいえず、慰謝料的財産分与が争点です。

慰謝料的財産分与が不当もしくは過大であれば、全部または一部の取消請求が認められると考えられますが、不当もしくは過大であることを取消請求する債権者が立証しなければならず、これは非常に困難でしょう。

仮装離婚の財産分与が無効とされたケースもある

平成25年9月2日、仮装離婚による財産分与を虚偽表示として、債権者である原告の請求(債権者代位による所有権移転登記の抹消登記)を認容した判決が、東京地方裁判所で言い渡されました。

このケースは、夫購入の不動産が強制執行を受け、家族の生活基盤が失われることを懸念した夫婦が、仮装離婚と財産分与で不動産を妻名義にしたものです。原告が勝訴したことで、この名義変更は無効(登記抹消)になりました。

仮装離婚による財産分与が、過大な部分を除き保護される従来の判例とは異なる方向の判決で、今後どのような影響を与えていくのか注目されます。

ちなみに、被告は控訴しましたが、控訴審では棄却判決が出て敗れています。

まとめ

財産分与請求権は、財産形成に貢献した配偶者からの正当な権利で、真に離婚意思を持った離婚による財産分与であれば、誰からも非難されるべきではありません。

一方で、財産分与を目的とした仮装離婚までが、真の離婚意思を持つ離婚と同列に扱われてしまうのは、税負担や債権者の立場からは不公平感が残ります。

それでも、仮装離婚が有効な離婚と扱われる以上は、財産分与も配偶者の相当分を有効にしないと話がおかしくなり、仮装離婚を無効とする方向に進まなければ、この問題は根本的に解決しないでしょう。

ただし、紹介した事例のように、仮装離婚での財産分与は、相当分までを有効とする傾向が近年になって崩れ始めています。

他人に迷惑をかけていなければ税負担で済みますが、詐害行為は訴えられる可能性がある(詐害行為の取消請求は裁判所手続しかできない)ので注意が必要です。

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