慰謝料的財産分与とは

慰謝料的財産分与は、個別に慰謝料として発生する損害賠償を、財産分与によって代えようとする趣旨で行われます。

したがって、慰謝料請求が可能な立場からしか請求できず、必然的に離婚への責任が小さい側に限られ、慰謝料が発生しないような責任を問われない離婚については、慰謝料的財産分与は発生しません。

主に金銭で請求される慰謝料と異なり、慰謝料的財産分与は現金に限らず、対価として財物での分与をすれば足りる点が、より柔軟な離婚協議を可能にします。

判例も財産分与での慰謝料的要素を認めているところですが、最近は慰謝料的財産分与を否定する見解も有力で、その点は後述します。

慰謝料的財産分与とは別に慰謝料は請求可能

慰謝料的財産分与と慰謝料は同じ性質を持ちますが、慰謝料的財産分与をしたからといって、慰謝料の請求を別途行うことに制限はありません。

とはいえ、慰謝料は際限なく請求できるものではないため、慰謝料的財産分与によって慰謝料相当額が分与されていれば、慰謝料の請求はできなくなります。

このような特性から、慰謝料的財産分与を行う際は、慰謝料として分与されたことが明確になるように、書面で残す重要性が増します。

慰謝料的財産分与とは別に慰謝料の請求があった場合、慰謝料的財産分与を既にしていることで、その分与が十分なら慰謝料請求を退けたり、分与が不足していても慰謝料を減額したりする交渉が可能になるからです。

この点、単に財産分与として分与しても、その性質がはっきりしていないと、後日の争いが紛糾してしまうことから、財産分与請求調停の調停調書はもちろん、協議離婚の離婚協議書等においても、明記することが大切です。

慰謝料的財産分与の持つ可能性

どうしても慰謝料の発生が避けられないとき、慰謝料的財産分与を使うことで、支払う側にとっては資産の減少を抑えられるかもしれません。

慰謝料を現金で支払うのと、財産分与で分与する財産の価値が、同等であるとは限らないのがその理由で、財産価値の判定で大きく左右します。

財産価値の判定は個人の主観が入る

現金の価値は万人に共通でも、不動産や物品の価値は変動するので、時価を専門家に鑑定依頼しなければ正しく算出できないでしょう。

ところが、一般的に自分が持っている財産は、思った以上に価値が下がっている事実に気付きにくいだけではなく、付加価値を伴う場合があります。

例えば、木造で築20年を超えるような家は、減価償却がほとんど終わって大半の価値が失われており、売れてもたかが知れた金額です(敷地は別ですが)。

それでも、その家に住む当人にとっては、無くなれば住宅を失うわけですから、時価以上に価値を持っているのは明らかです。

同じように、中古市場で簡単に時価がわかる車ですら、無くなれば日常生活に支障が出ますし、買い換える費用を考えると時価以上の価値を持ちます。

他には、奮発して購入した高価な宝石が、実は二束三文でしか売れないとしたら、多くの女性は売るよりも宝石を持ち続けたいはずです。

このように、現金では交渉できない金額も、財物になると付加価値を伴ってくるので、慰謝料的財産分与の交渉が少し変わってきます。

時価の低い財物の分与で、相手が納得する可能性も多いにあるでしょう。

慰謝料的財産分与と破綻主義

破綻主義とは、婚姻関係の破綻を認定することによって、離婚請求を認める見解で、現在の離婚訴訟では主流となりつつあります。夫婦のどちらが離婚原因を作ったという有責性は軽視され、婚姻が破綻しているか否かをを主軸にします。

破綻主義については別記事を用意しているのでご覧ください。

民法第770条で規定される5つの法定離婚事由(不貞な行為、3年以上の生死不明、強度の精神病、婚姻を継続し難い重大な事由)は、4つの具体的事由(不貞な行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、強度の精神病...

ここで、離婚訴訟における破綻主義の採用が、慰謝料的財産分与とどのような関係にあるかということですが、前述のとおり慰謝料的財産分与は判例でも認めながらも、本来の法的性質は異なるものです。

慰謝料的財産分与と慰謝料の法的性質

慰謝料請求の根拠は、不法行為での精神的苦痛に対する損害賠償で、家庭裁判所の守備範囲ではなく、民事事件として地方裁判所の管轄になります。

それでも、離婚に伴って争われる以上、家庭裁判所と地方裁判所に分けて係属させることは、当事者の負担が大きく解決にも支障をきたすため、離婚訴訟以外にも離婚調停で同時に扱うことが許されています。

離婚訴訟には調停前置主義の適用があり、離婚調停でも慰謝料請求を扱えないと、制度として整合性がなくなるのも理由の1つです。

また、離婚に伴う慰謝料請求調停は、離婚後であっても単独の調停として家庭裁判所に申し立てることが可能になっています。

これらから、離婚に伴う慰謝料を財産分与に含めても、手続の煩雑さが解消されて当事者にも利益はありますが、実は請求時効が異なります。

財産分与請求が離婚から2年で時効を迎えるのに対し、慰謝料請求は損害および加害者を知ったときから3年が時効になっています。

破綻主義が否定する一部の慰謝料的財産分与

慰謝料は不法行為による損害賠償であるはずが、離婚時の慰謝料請求は、必ずしも不法行為に結びついているとは限りません。

  1. 婚姻中に不法行為で精神的苦痛を受けた
  2. 不法行為が離婚に繋がり精神的苦痛を受けた
  3. 不法行為はなく離婚によって精神的苦痛を受けた
  4. 不法行為はなく離婚を承諾する条件として請求

こういった理由で慰謝料は請求され、その全てが慰謝料的財産分与で支払われるとしたら、違和感を感じるのではないでしょうか。

まず、1については不法行為で精神的苦痛を与えた以上、損害賠償責任は免れませんが、だとしても財産分与ではなく慰謝料請求をすれば足りる話です。

問題は2で、不法行為と離婚の因果関係はあっても、破綻主義が有責配偶者からの離婚請求を認めている点で、離婚自体での慰謝料請求は否定されます。

補足すると、不法行為を原因とする離婚自体が不法行為なら、破綻主義を採用すると家庭裁判所が不法行為を認めることになってしまいます。1と同様に、離婚ではなく不法行為を理由として慰謝料請求するべきでしょう。

3は協議離婚で多く、離婚を切り出した側が慰謝料を支払うパターンです。しかし、離婚自体は法律に規定された適法な行為で、離婚により精神的苦痛を受けたとしても、2と同じ理由で請求根拠に疑問が残ります。

例えば、自然に愛情が冷めて離婚を切り出し、愛情を失っていない側が離婚で精神的苦痛を受けたとき、果たして不法行為に該当するのか?という話です。

もちろん、将来を誓って婚姻した仲ですから、離婚に道義的な責任は感じるでしょう。その責任感と不法行為を、同列に扱うとおかしくなります。

また、この夫婦が離婚しなかったとして、愛情が冷めている側は、婚姻の継続を強いられて精神的苦痛を受けるかもしれません。そのとき、慰謝料請求は可能なのでしょうか?

精神的苦痛が離婚なら適法でも慰謝料請求できて、婚姻継続なら慰謝料請求できないとすると、やはり疑問を持ってしまうはずです。

4に至っては、もはや慰謝料ですらなく、解決金や言い方は良くないですが手切金に相当するもので、慰謝料的財産分与にはなりません。

こうして分類すると、慰謝料に該当するのは、1と2における不法行為への損害賠償だけです。それならば、法的性質が異なる慰謝料を財産分与に含めなくても、問題は生じないとする見解が出てきています。

むしろ、慰謝料的財産分与があることで、本来は3年の請求権を持つ当事者に、2年で時効と誤認させるおそれすらあり、慰謝料は慰謝料としてはっきり分けたほうが、理解されやすいのかもしれません。

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