養育費の相場と計算方法(旧算定表版)

現在のところ、養育費請求調停や離婚調停の養育費請求では、養育費・婚姻費用の簡易算定表に基づいた養育費が使われています。

したがって、現時点では算定表で得られた金額が養育費相場でもあり、まずは算定表を使って計算してみることが養育費の相場を知る第一歩です。算定表は2003年に東京・大阪養育費等研究会が公表したものです。

養育費・婚姻費用算定表 – 東京家庭裁判所
説明文(共通) – 大阪家庭裁判所
養育費表 – 大阪家庭裁判所
婚姻費用表 – 大阪家庭裁判所

この記事は2003年の算定表を基に執筆しており、2019年に提案された新算定表(令和元年版)とは計算方法も金額も異なります。新算定表を使った計算については別記事を予定していますが、新算定表での養育費は高くなる傾向です。

しかし、算定表を使っているのは、家庭裁判所で養育費を決める場合だけで、なおかつ考慮すべき事情によっても調整されます。

協議離婚も含め当事者同士で話し合う際は、お互いの希望を出し合って調整すると思いますが、養育費相場を予め知っておいて、相場から調整していく方法のほうが、はるかに話がまとまりやすいでしょう。

もし、相場での金額で交渉が難航するとしても、調停や審判になれば、結局は相場に近い金額に決められるので、無駄に争う意味がないからです。

その際は、算定表を取り入れて交渉するのも良いですが、他の統計データも養育費相場として参考になるので紹介しておきます。

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養育費の相場~統計データから

まずは、司法統計(平成25年度)による、離婚調停での養育費分布です。

~1万円~2万円~4万円~6万円~8万円~10万円
全体5.7%14.6%38.9%21.2%8.2%5.3%
子が1人5.8%16.6%45.1%19.6%6.1%3.3%
子が2人5.4%12.2%34.9%23.1%11.1%6.0%
子が3人6.1%12.4%24.6%23.1%7.8%12.6%
子が4人6.9%16.5%22.9%17.0%8.5%8.0%
子が5人以上13.8%17.2%10.3%27.6%17.2%6.9%
※母を監護者とした離婚調停による養育費、総数16,210件
※データ:平成25年度司法統計

子が4人と5人以上のケースは、総数が少ない(子が4人:188件、子が5人以上:29件)のでアテになりませんが、3人以下では、2万円~4万円と4万円~6万円に多く分布しています。子の人数が増えても極端に養育費は多くなりません。

これは、婚姻中の一般家庭でも、子が1人から2人に増えたからといって、子の生活費がそのまま倍になることは考えにくいように、養育費を支払う側にとって、子が増える度に倍の養育費では負担が重すぎるからです。

もう1つ、全国母子世帯等調査結果報告での統計です(協議離婚含む)。

子が1人子が2人子が3人子が4人
母子家庭平均:43,482円35,438円50,331円54,357円96,111円
父子家庭平均:32,238円28,125円31,200円46,667円データなし
※養育費の平均月額、母子家庭総数380件、父子家庭総数21件
※データ:平成23年度全国母子世帯等調査結果報告

総数があまりにも少なく、相場として使うのはためらいますが、傾向は明確に出ているのがわかるのではないでしょうか。司法統計も踏まえると、養育費の相場として子が1人~3人なら3万円~6万円くらいが妥当と言えそうです。

ただし、父子家庭では母子家庭よりも低い傾向があり、これは明らかに、父子家庭の世帯収入が母子家庭よりも多いためと推測できます。

これらを全てまとめると、次のようになります。

  • 子が1人~3人なら養育費相場は3万円~6万円くらい
  • 養育費は子の人数×定額ではない
  • 母子家庭は父子家庭よりも養育費相場が高い
  • 養育費相場は収入で上下する

算定表による養育費の計算方法

ほとんどの事例は算定表で対応できますし、ダウンロードできる内容には、使用方法も具体的に説明されているので、算定表については説明しません。

ここからは、なぜ算定表の養育費になるのか、その計算の仕組みを説明します。

たとえ養育費請求調停での養育費に納得できなくても、計算方法を知っておくと、自分でも計算できて納得しやすくなるでしょう。

また、算定表は子が3人までにしか対応していないので、子が4人以上のときは、以下の計算方法で求めることになります。

養育費を計算するにあたり、影響を受けるのは次の要素です。

  • 子と暮らさず養育費を支払う義務者の収入
  • 子と暮らして養育費を受け取る権利者の収入
  • 子の人数
  • 子の年齢

養育費とは、監護教育のために費消される生活費を意味するので、子の人数が増えると増加し、子の年齢が高くなると増加します。この点はわかりやすいですね。

そして、養育費は固定額ではなく親の収入に影響されます。収入に対して、どのくらいの養育費が相当で、義務者はどのくらい分担するのか計算していくことになります。

1.義務者と権利者の基礎収入を求める

最初に求めるのは、義務者と権利者の収入ですが、収入をそのまま養育費の計算に使うのではなく、収入から公租公課(税金)、職業費、特別経費(住居費、医療費、保険料など)を引いて、残りを養育費の対象になる基礎収入として求めます。

職業費というのは、職業上の経費が認められない給与所得者(サラリーマン)において、被服費や交通費、交際費、書籍費などを意味し、収入の2割弱程度とされます。

しかし、税金や経費がどのくらい発生しているかは、個人によって異なりますし、個別に算出していては「簡易」算定表とはなりません。そこで、算定表では基礎収入の割合を次のように仮定しています。

給与所得者の基礎収入=総収入×0.34~0.42
自営業者の基礎収入=総収入×0.47~0.52

ここで、給与所得者と自営業者の割合が違うことに気付くと思います。給与所得者は、源泉徴収票でいうところの支払総額を使いますが、自営業者は、課税される所得総額を使うので、割合で両者を区別しています。

また、割合に範囲があるのは、高収入でも低収入でも同じ割合にしてしまうと不都合が生じるからで、総収入が多いほど割合を小さくします。自分で計算するときは、簡単にするため給与所得者なら0.4、自営業者なら0.5でも大きく違いません。

2.子の生活費はどのくらいか求める

算定表においては、収入が多く子と暮らしていない義務者が、子と暮らしていると仮定して養育費を計算します。これは、収入の少ない母親が子と暮らし、収入の多い父親が養育費を支払う多くの事例を前提としています。

つまり、義務者のほうが権利者よりも高収入である前提ですが、これには理由があります。収入の少ない権利者の水準で養育費を計算してしまうと、どうしても金額は低くなってしまうのですが、これでは生活保持義務の理念に沿いません。

子に親と同程度の生活をさせる義務のこと。

親子間の扶養義務は、親族間の扶養義務よりも重いと解されており、夫婦間にも生活保持義務があると解されています。ただし、明文の規定はありません。

そのため、子と暮らす権利者ではなく、収入の多い義務者が子と暮らしていると仮定して養育費を計算します。

子の生活費の計算は指数を使う

義務者が子と暮らす仮定なので、義務者の基礎収入は、義務者の生活費と子の生活費に振り分けられます。しかし、子の人数や年齢が違うと、使われる生活費が異なって当たり前ですから、金額をベースに考えると上手く計算できません。

そこで、義務者と子が必要とする生活費を指数で表します。

  • 義務者:100
  • 14歳以下の子:55
  • 15歳以上の子:90

14歳以下の子1人なら、義務者100+子55=155となり、全体が155、そのうち子が55なので、子の生活費は次の式で求められます。

子の生活費=義務者の基礎収入×(55÷155)
※55÷155=0.355

15歳以上の子1人なら、義務者100+子90=190となり、全体が190、そのうち子が90なので、次のようになります。

子の生活費=義務者の基礎収入×(90÷190)
※90÷190=0.474

14歳以下の子1人と15歳以上の子1人なら、義務者100+子55+子90=245となり、全体が245、そのうち子が55+90=145なので、次のようになります。

子の生活費=義務者の基礎収入×(145÷245)
※145÷245=0.592

子が増えるほど、そして年齢が上がるほど、子の生活費は増えるのがわかります。まとめると、子の生活費は次の計算式によって求められます。

子の生活費=義務者の基礎収入×(子の指数総数÷(100+子の指数総数))
※100は義務者の指数

3.義務者の負担金額を求める

子の生活費が求められたとして、その金額は父母で分担すべき養育費の合計を意味します。したがって、義務者がいくら負担するべきか別途計算しなくてはなりません。

義務者がいくら負担するべきかは、義務者と権利者の収入に応じなければならないので、両者の収入から負担率を次のように計算します。

義務者の負担率=義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)

子の生活費に義務者の負担率を掛けて12で割れば、月額の養育費が求められます。

義務者の養育費負担額(月額)=子の生活費×義務者の負担率÷12

権利者が義務者より高収入の場合

養育費を支払うのは、子と暮らしていない義務者ですが、子と暮らす権利者のほうが高収入という場合も考えられます。例えば、父親と子が暮らし、母親が養育費を支払う場合や、子は母親と暮らしているが、母親の収入が父親より多い場合です。

算定表の計算方法は、生活保持義務の観点から、収入の多い親と子が暮らす仮定で計算されます。義務者の収入が権利者よりも多ければ、義務者の収入を計算の基礎としても、義務者には支払い能力があり何も問題ありません。

しかし、権利者の収入のほうが多いときに、権利者の収入を基礎として養育費を計算してしまうと、苦しい生活の義務者に、裕福な権利者基準の養育費を求めることになって、義務者の生活が困窮してしまいます。

この状況は、義務者にとってあまりにも酷なので、権利者のほうが義務者よりも収入があるときは、権利者の収入を義務者と同一に仮定して計算する運用です。

子が複数で別れて暮らしている場合

複数の子が別れて暮らしていても、子全員の生活費総額が変わるわけではないので、同様に計算できます。ただし、養育費を負担するのは、自分以外と暮らす子に対してですから、子の指数を使って負担額を按分します。

例えば、14歳以下の子と15歳以上の子で、それぞれが分かれて暮らしている場合、子の指数は55+90=145です。

14歳以下の子の養育費は負担額×(55÷145)、15歳以上の子の養育費は負担額×(90÷145)で求められ、お互いに自分以外と暮らす子に対する養育費を負担すれば良いことになります。

当然ながら、お互いに負担を相殺、つまり差額を養育費にするのですが、その結果、収入の少ない側が支払うことになった場合は、何らかの調整が必要になるでしょう。

上記の例なら、収入の低い側が14歳以下の子と暮らすとき、収入の多い側に支払うことになり、収入格差によっては酷なので、収入の低い側の基礎収入を基に計算するか、協議で分担額を減額する方法が考えられます。

養育費の計算例

義務者が年収500万円のサラリーマン、権利者が年収100万円のパート勤務、14歳以下の子が2人として、算定表を使わず養育費を計算してみます。収入に対する基礎収入の割合を0.4として固定しています。

義務者の基礎収入=500万円×0.4=200万円
権利者の基礎収入=100万円×0.4=40万円

子の生活費=200万円×((55+55)÷(100+55+55))
=200万円×(110÷210)
=1,047,619円

義務者の負担率=200万円÷(200万円+40万円)=0.83
義務者の負担額=1,047,619円×0.83÷12ヶ月=72,460円

算定表で求めると、義務者500万円、権利者100万円、14歳以下2人に相当するのは6万円~8万円ですから、計算結果が正しい範囲にあるとわかります。このように、大体の養育費を求めるだけなら、それほど難しい計算ではありません。

算定表は絶対ではない

算定表による養育費は、あくまでも相場として使われているだけで、頑なに守るべき金額ではありません。養育費は、父母の収入だけで画一的に決定されるのではなく、事情を考慮して個別に決めるべきとされています。

したがって、養育費がどのような金額でも、支払いによって義務者が困窮するなど、問題のない範囲なら柔軟に対応できますし、事実、算定表が公表されるまでは、個別の事情を十分に斟酌して養育費が決められてきました。

しかしながら、今では算定表が定着していて、事情が軽視されつつあるのも残念ながら事実です。家庭裁判所は、その後見的機能から、当事者の事情を十分に把握し、事情を考慮した上で事件の解決に臨まなくてはなりませんが、養育費については算定表ありきで決められすぎると批判があります。

このような背景には、収入以外にも実額を使い、事情を考慮した養育費の算定は極めて時間がかかり、裁判所にとっても当事者にとっても、迅速な事件の解決に繋がらないデメリットが大きい側面があるとされます。

それでも、緊急に養育費が必要なら、審判前の保全処分で仮処分を求める方法も許されますし、機械的に早く決まるより、納得できる養育費にしてもらいたいはずです。養育費に不満があるときは、事情を考慮してくれるように訴えるべきでしょう。

日弁連は算定表に合理性がないと反論している

算定表は確かに便利で、統一の基準を設けることはある意味で公平性にも繋がるため、家庭裁判所だけではなく、自治体にも周知されて活用されています。しかし、日本弁護士連合会(日弁連)は、算定表による養育費・婚姻費用の算定に異を唱え、意見書の提出も行われています。

確かに、算定表では基礎収入を求めるときに、収入に応じて差は付けているとはいえ、一定率で収入から控除した金額を使っています。この時点で、基礎収入は実情から乖離してしまうのは否めません。

例えば、離婚して子連れで実家へ戻ってきた娘から、住居費として民間の賃貸住宅と同じ家賃を要求する親が、少数派であることは間違いないでしょう。算定表では、このような場合でも、住居費の理由で収入から控除します。

父母の収入格差が大きいときの問題

義務者の収入が十分なとき、養育費を支払っても義務者の生活は揺るがないのに対し、権利者が苦しい生活のときは養育費を受け取っても苦しいままです。

具体的には、月収50万円(年収600万円)の義務者と月収10万円(年収120万円)の権利者で、14歳以下の子1人の場合、義務者が支払う養育費は月額4万円~6万円です。

義務者が月収50万円から44万円になっても、普通の生活では困窮するはずがなく、権利者が月収10万円から16万円になっても、決して楽な生活ではありません。この状態が、はたして生活保持義務の点で、妥当な金額であるかということです。

もっとも、養育費は子の生活費であって、子と暮らす親の生活費ではないため、権利者が私欲で使ってしまうほどの養育費に、法的な効力を持たせることには疑問も残ります。

ですから、子の生活費とは別枠で積み立て、理由があるときだけ使えるような工夫をすれば、何とか解決できる問題なのかもしれませんね。

算定表の利用は誰の都合なのか

実際のところ、事情を考慮した養育費の算定には、当事者の協力が不可欠です。ところが、養育費で争っている当事者が、自分の収入や細かい支出を正確に情報提供するとは考えにくく、家庭裁判所の職権による調査にも限界があります。

養育費を真に子のためと考え、子の幸せを願っているのであれば、妥当な養育費はすぐに決まりそうですが、実際には親同士の争いになっているのが現状です。

この問題は根深く、養育費が子の生活費以外に使われることを疑う義務者と、養育費を子の生活費以外にも使おうとする権利者の争いでもあり、容易に解決できません。

そして、算定表の利用は、事件に追われる家庭裁判所が、効率的に処理していきたい事情も多分に大きいでしょう。日弁連は、現在の算定表に代わる算定方法の必要性を強く訴えていますが、家庭裁判所で新たな算定方法が検討されているかどうか不明です。

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