離婚で養育費なしの合意は有効か~扶養料との違い

養育費が子のために必要だと認識している父母でも、離婚条件(または認知条件)のひとつとして、養育費をなしにする合意がされることはあります。

多く聞くのは、子を引き取って監護者になる親が「養育費いらないから離婚して」と言い出すか、逆に相手が「養育費なしなら離婚する」という条件付きの離婚を迫るパターンで、いずれでも離婚が成立すれば同じことです。

これらの合意は、慰謝料や面会交流と組み合わせて、「慰謝料なし養育費なし」や「養育費なし面会交流なし」となるケースも多くあります。

一方で、養育費の受取りは子の権利とする主張も見られますが、そうすると親が養育費なしの合意をしても、無効のように思えてしまいますよね。

この点は、養育費と扶養料を区別して考えることで整理できます。

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養育費と扶養料の関係

先に扶養料からですが、扶養料とは子が扶養を受けるために必要な費用で、扶養を受ける権利は子にあり、扶養義務を負っているのは当然に両親です。そのため、子は扶養料の請求を両親に対してすることができます。

ただし、子を監護する親(監護親)は、子に必要な扶養料を生活していく上で負担しているので、普通は子から親に扶養料を請求しません。

そして、扶養義務は両親にありますから、監護親だけが扶養料を全額負担するものではなく、子を監護しない非監護親も分担するべきで、監護親から非監護親に対し分担請求が起こります。これが即ち養育費の請求です。

分担請求された養育費は、子の扶養(養育)に使われるため、結局のところ養育費も扶養料も同じように思えますが、当事者は異なります。

  • 養育費:監護親が請求し非監護親が支払う
  • 扶養料:子が請求し親が支払う(請求がなくても監護親は負担している)

よって、養育費の請求権は監護親にあり、子にあるのは扶養料の請求権です。

子にとってみれば、一方の親が負担しようと両親の協力で分担しようと、合計で扶養に必要な費用が足りていればどちらでも問題ありません。

しかし、親同士にとっては費用の分担が収入に応じていないと、不公平感で養育費の分担請求に繋がります。請求された養育費は、扶養のために使われるとしても、受け取る権利は請求者である監護親にあります。

養育費なしの有効性

養育費は、単に監護親と非監護親との分担請求の問題で、支払わない合意(契約)は妨げられません。つまり、養育費なしの合意は有効に作用します。

しかしながら、養育費について父母間でどのような合意がされても、親が子を扶養する義務と、子が扶養を受ける権利には何の影響も与えませんから、子に必要な扶養料の負担は両親に残ったままです。

ここは勘違いしやすいのですが、非監護親が養育費なしの合意を監護親に取り付けても、子に対する扶養義務を免れる・放棄することなどできないのです。

扶養を受ける権利は処分できないとされ(民法第881条)、たとえ親子間で扶養を受けない・扶養料なしといった合意をしても無効です。

当然ですが、監護親が子を代理して、非監護親と扶養料なしの合意をしても無効になります。

この点を踏まえると、養育費なしの合意は、子の扶養義務者である親同士が、扶養の順位・程度を協議した結果だと考えられます。

前述のとおり、子にとっては父母のどちらが負担しようと(扶養の順位がどうであろうと)、扶養に必要な費用があれば(扶養の程度が足りていれば)問題なく、養育費なしの合意では監護親が全額を負担するでしょう。

したがって、養育費なしの合意に基づき、監護親が扶養に十分な費用負担をしている状況では、子から非監護親に対する扶養料請求に根拠がありません。

しかし、監護親の資力が不足するか、子の扶養に必要な費用が増加するなどで、扶養が不十分になった事情があると、不足する扶養料を子から非監護親へ請求する根拠になり、非監護親は扶養義務から請求に応じる必要があります。

養育費の直接請求と扶養料の代理請求

養育費なしの合意は有効でも、子の法定代理人たる監護親が子を代理して、不足する扶養料を非監護親に請求することは問題なく可能です。

もちろん、子を代理しているとはいえ、幼い子が扶養料の不足を意思表示するとは考えにくく、監護親の判断で請求されるでしょう。

非監護親は、監護親からの養育費分担請求なら、事前にあった養育費なしの合意を主張できますが、子を代理した監護親からの扶養料請求は、親子間の扶養義務から拒めません。

その結果、子(実際は監護親)の請求にしたがい、養育費とほぼ同じ性質の扶養料を、子(実際は監護親)へ支払うことになります。

こうなってくると、養育費なしの合意は、監護親と子の生活水準に左右され、ほとんど無意味になることがわかるのではないでしょうか。

ただし、判例は養育費を請求しない旨の合意を、扶養料算定の有力な斟酌事由になることは認めています。それでも、現に子の扶養料が不足している状況では、子の利益が最優先であり、どれほど斟酌されるか不明です。

この問題が複雑なのは、子から非監護親への扶養料請求により、非監護親が子(実際は監護親)に扶養料を支払っても、親同士における養育費なしの合意が覆されたとして、非監護親から監護親へ償還請求できる余地があることです。

もし、非監護親から監護親への償還請求が可能なら、監護親と生活を共にする(経済的には一体の)子の立場では、非監護親から得られた扶養料が、名目は違えど監護親を通って戻されてしまい、元の扶養料請求に全く意味がありません。

したがって、この点を考えても、子の扶養に不足する事情がないと、子から非監護親への扶養料請求は難しいということです。

まとめ

  • 養育費は父母間の請求
  • 父母間で養育費なしの合意は有効
  • 扶養料は親子間の請求
  • 父母間または親子間で扶養料なしの合意は無効
  • 養育費なしの合意でも扶養の権利義務は失われない
  • 養育費なしの合意でも子は不足する扶養料を請求できる
  • 養育費なしの合意でも監護親は子を代理して不足する扶養料を請求できる

このように、一度養育費なしで合意したからには有効であるため、大きな事情変更でもなければ、父母間の養育費分担再請求は難しいです。

だからといって、養育費なしの合意が実効上も有効かというと、扶養料があるのでそうとは言えないのがややこしいところですね。

重要なのは、子の扶養に不足があるかどうかで、不足がなければ養育費なしの合意は有効、不足があれば扶養料で請求されて事実上無効だということです。

なお、養育費分担請求と扶養料請求は異なる扱いがされており、養育費なしの合意がある状態で、養育費に相当する扶養料を請求するには、養育費請求調停ではなく扶養請求調停を申し立てさせる運用もあります。

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