親権者の指定と変更の違い

親権者指定調停と親権者変更調停は、どちらも親権者を決めるための調停ですが、父母の状況によって、指定になるか変更になるか区別されます。

父母の状況とは、親権者を決めるときの父母の関係を意味します。ひとつには婚姻中の共同親権と離婚後の単独親権の違いがあり、他には離縁や認知といった、親子の身分行為の違いでも指定と変更は分かれます。

指定は共同親権の離婚時、変更は単独親権の離婚後と思いがちですが、単独親権でも指定があるので、少しややこしい面を持っています。

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親権者を指定する状況は決まっている

親権者の指定には、法律上で定めなければならない指定義務のケースと、定めることができる任意指定のケースに分かれます。指定義務のケースでは、父母のどちらも親権者またはどちらも親権者ではない状況から、一方を親権者と定めます。

任意指定のケースとは、既に母が親権者でありながら父を親権者に定めるときで、義務ではないので父に指定しなければ母の親権のままです。父が親権者になると変更のように思えますが、特定の状況下だけに許される指定で変更とは区別されます。

また、指定と変更の違いは手続にも関係しており、親権者の指定では、父母の合意がある親権者指定届(離婚に伴う親権者の指定は離婚届)を役所に提出するだけで足りますが、親権者の変更は、必ず家庭裁判所手続を経由しなければなりません(後述)。

もし、親権者の指定で父母の協議が調わなければ、家庭裁判所に親権者指定調停を申し立てます。調停が不成立の場合は、自動的に審判へ移行します(別法第2事件)。

父母が離婚するとき:指定義務

婚姻中の父母は共同親権で、協議離婚では父母の協議で一方を親権者と定めなくてはなりません(民法第819条第1項)。裁判上の離婚では、家庭裁判所が親権者を定めます(民法第819条第2項)。

ただし、離婚には合意のある夫婦が、協議離婚前に親権者指定調停を行っても、離婚の合意が翻される可能性は残り、その場合、離婚しない(できない)のに親権者指定調停が成立する状況は矛盾があります。

親権者の指定は離婚が前提で、親権者指定調停の成立も離婚が前提です。調停成立で作られる調停調書は確定審判と同じ効力ですから、効力がある調停調書が作られたのに当事者が協議離婚しないと、調停調書が宙に浮いておかしくなってしまうのです。

ですから、離婚調停の付随申立てとして親権者の指定を申し立てるのが手順で、離婚前は原則として親権者指定調停ができない運用になっています。

子の離縁時に実父母が離婚しているとき:指定義務

実父母が婚姻中に子が養子縁組をすると、親権は養父母に移ります。

子が離縁すれば、実父母に親権が戻りますが、このとき実父母が離婚していると、共同親権にはなりませんから、父母の一方に親権者を定めなくてはなりません(民法第811条第3項)。

父母の婚姻が取り消されたとき:指定義務

子の出生後に父母の婚姻が取り消されたとき、民法では親権者を定める規定はありませんが、子の身分が不安定になることから、離婚と同じく父母の一方を親権者と定める扱いにするのが先例です。

子の出生が父母の離婚後のとき:任意指定

子の出生前に父母が離婚していると、出生した子の親権者は母ですが、子の出生後に父母の協議で親権者を父に指定することができます(民法第819条第3項)。

父が認知したとき:任意指定

非嫡出子(婚外子)の親権者は母ですが、父が認知をすると、父母の協議で親権者を父に指定することができます(民法第819条第4項)。なお、認知は懐胎中でもできますが、認知による親権者の協議は、子の出生後とするのが先例です。

例外:親権者の指定がされない離婚届の受理

未成年の子がいる夫婦の離婚届を、親権者の指定がないままに役所が受理してしまう可能性も僅かに考えられます。

受理前に気付けば訂正を求められますが、受理されると離婚は成立し、必ず父母の一方を親権者に定めなければなりません。

例外:親権者の指定が協議されない離婚届の受理

離婚届の記載に不備がなくても、実は離婚届が偽造されていた・書き換えられていた、もしくは無断で離婚届が出されたなど、親権者の指定に協議がないまま離婚届が受理されることもあります。

この場合、離婚届での親権者指定に異議がある当事者は、離婚を無効とする確認の訴えか、親権者の指定協議が無効とする確認の訴えを家庭裁判所に提起し、訴えが認められれば親権者は共同親権に戻るので、(離婚するのであれば)父母の一方を親権者と定めなければなりません。

一度決まった親権者を変えるときは変更

親権者を定めなければならない又は定めることができる状況ではなく、父または母が単独親権者になっているとき、他方の父または母に親権者を変えるのが親権者の変更です。

親権者の変更は、父母の協議だけでは許されず、たとえ父母が変更に合意していたとしても、家庭裁判所の手続を必要とします。また、変更するための理由は必要でも、変更のタイミングに制限はありません。

親権者の変更に争いがあれば、調停を申し立てて解決しないときは審判に移行しますし、争いがなければ調停に意味はなく審判の申立てになるでしょう。親権者変更届を役所に提出するときは、調停調書(審判なら審判書と確定証明書)の添付が必要です。

親権者の変更は子の利益のため

家庭裁判所が親権者の変更を認めるのは、「子の利益のため必要があると認めるとき」と定められており(民法第819条第6項)、父母の都合でむやみに変更が許されず、子のために変更が必要とされる場合に限定されます。

したがって、子の利益を根拠とする理由がなく調停を申し立てても、調停を取り下げる結果になるか、審判へ移行したところで親権者の変更は認められないということです。

なお、親権者の変更に法律上の回数制限はないので、子の親族は、いつでも親権者の変更を家庭裁判所に申し立てることはできます。

しかしながら、親権者の変更は子供の生活環境を大きく変えてしまうので、事情から適切でなければ認められませんし、親権者を変更しなければならない事情が、頻繁に起こるとは考えにくいため、申立てを乱発しても却下されるでしょう。

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