親権と監護権を分けるメリット・デメリット

最終更新日:2023/1/4
親権に含まれる権利義務は、身上監護権と財産管理権に分けることができます。本来は、親権者が両方の権利と義務を遂行するのが適切であるのは、子の健全な成長を見守るうえで当然でしょう。

しかし、離婚後においては、共同親権が許されていない都合上、父母の一方が親権を独占することになり、他方は親権者として不適格な理由がなくても、親権の全てを失ってしまうという理不尽な状況を生み出します。

このような状況は、親として子と密接に関係する権利を奪われるに等しく、離婚時の親権争いは主に監護権で熾烈を極めるのですが、親権から監護権を分離し、一方を親権者、他方を監護者と分属することは可能です

ただし、その判断にあたっては十分に注意してください。なぜなら、親権と監護権を分けることが、必ずしも子のためになるとは限らないからです。

離婚による子の監護者の指定は、親権者と異なり父母の一方とは定められておらず(民法第766条第1項)、父母以外(祖父母など)でも可能ですが、父母以外に監護させる特別な事情がなければ、父母の一方が監護者になるでしょう。

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親権の実益は監護権に多く含まれる

実益という言い方は不適切かもしれません。

親権は、子の利益のために行使される権利であり同時に義務なので、この場合の実益とは、親の立場から見た利益(望んだ結果)という意味に捉えてください。

親権と監護権を分ける場合、監護者が持つのは身上監護に関する次の権利です。

  • 監護教育権
  • 居所指定権
  • 懲戒権
  • 職業許可権

参考:親権の権利義務とその詳細

監護権の中に居所指定権が含まれることから、監護者は自らの居所を子の居所として、子と一緒に暮らすことができます。離婚時に親権を望む多くの親は、同時に子と暮らすことを望むので、実質的な親権とは主に監護権を指しています。

監護権によって、子と暮らすことはできますが、法律行為など子にとって重要な権利義務を生じるときは、親権者の判断を必要とします。それでも、一般的に呼ぶところの「保護者」として、日常の多くは監護者が対応できるでしょう。

子と暮らせなくても、離婚後に親権者でありたい要望が男性に多くみられるのに対して、親権がなくても、子と暮らしたい要望が女性に多く見られます。

令和2年度司法統計によると、調停離婚・協議離婚届出の調停成立・審判離婚において、親権者を父とした1,635件中、監護者が母となったのは62件(3.79%)、親権者を母とした16,908件中、監護者が父となったのは39件(0.23%)でした。

親権と監護権を分けるメリット

親の勝手で離婚されてしまう子にとって、親の一方が親権者、他方が監護者になることは、少なからず離れて暮らす親権者を意識する機会が増え、離別感を軽減する一助となります。

加えて、親権者にとっても、子と関わっている安心感や親権者としての自覚から、養育費を分担することへの抵抗が小さくなると想定されます。

親権と監護権を分けることで、分けない場合よりも子の精神・生活を安定させる見込みがあるなら、それは間違いなくメリットです。

妥協の産物として親権と監護権を分けるべきではない

離婚の話し合いを早期に解決するため、親権争いの激しい夫婦は、妥協して親権と監護権を分けることがあり、これをメリットと説明するサイトも散見しますが、当サイトは強く否定します

理由は、親権と監護権を分ける目的が、単なる親の便宜に過ぎないからです。

親権と監護権を分けるメリットに、離婚の話し合いが進みやすい点を挙げるのは、親権が子の利益のために行使され、親の義務である認識が致命的に欠落していると感じます。

つまり、子の利益になる事情がないのに、親の都合で親権と監護権を分離分属させるのは、子の利益を無視していることに他なりません。

親権と監護権の分離分属は、子のためを想い、夫婦が熟慮した結果であるのが本来です。

親権と監護権を分けるデメリット

監護者は、法定代理人の同意が必要な場面で、親権者へ依頼しなければなりません

例えば、スマホを持つ年齢になったとき、契約に同意が必要な場合、アルバイトをする場合の同意、子の生命や身体に重大な影響のある医療行為(手術等)への同意などです。

また、児童扶養手当のように監護者を対象としてる場合は別として、親権者からの申請や届出を必要とする場面では手続きが煩雑になりやすく、余計な負担になるでしょう。

さらに、関係悪化で離婚するケースでは、離婚後に親権者と連絡が取れなくなるリスクを抱えています。連絡が取れなくなると、監護者だけで解決できないときに困ります。

子の身分行為を監護者は代理できない

法定代理人である親権者は、子が幼いなどの理由で一定の身分行為を行えない場合、子を代理することが許されています。

未成年による身分行為は限られていますが、法定代理人ではない監護者は、親権者に代理を依頼しなければなりません

例えば、監護者は15歳未満の子がする養子縁組の代諾ができないので、再婚時に再婚相手と子の養子縁組をしたくても、親権者の代諾が得られないと困ったことになります。

マメ知識:養子縁組の代諾権と同意権

監護者が再婚して、再婚相手と15歳未満の子の養子縁組をするとき、親権者は子に代わって縁組を承諾することができます(民法第797条第1項)。

監護者の再婚+再婚相手と15歳未満の子の養子縁組 ⇒ 親権者の代諾が必要

一方で、親権者が再婚して、再婚相手と15歳未満の子の養子縁組をするとき、親権者が子に代わって縁組を承諾するには、監護者の同意を得なければなりません(民法第797条第2項)。

親権者の再婚+再婚相手と15歳未満の子の養子縁組 ⇒ 親権者の代諾に監護者の同意が必要

結局、親権と監護権を分けると、他方の同意なく15歳未満の子の養子縁組ができないということです。

また、直接の身分行為ではないですが、15歳未満の子がする子の氏の変更許可審判の申立てにおいても、監護者が代理することはできません。

監護者は、自分の氏と子の氏を同じにして、自分の戸籍へ入籍させようと思っても、子の氏の変更許可審判の申立てが許されず、手続きが停滞してしまいます。

親権と監護権を分けるときに優先すべきは子の利益

傾向として、歴史を紐解いても男性は権利欲が強く、親権を(その実質が義務であるとはいえ)失いたくないのに対し、女性は子を守る意識が強く、監護権を優先するように思います。

激化する親権争いが子の精神に悪影響を与えており、早期解決こそが子の精神を安定させる方法だとすれば、親権と監護権を分けることが子の利益に資するのかもしれません。

また、子の監護は任せられても、財産管理・代理・同意を一方的にされるのは子の利益に反する可能性がある場合や、メリットで説明したように、子との結びつきを断ち切らない目的で、親権と監護権を分離分属させることに正当性はあるのでしょう。

いずれにせよ、親権と監護権を分けるのであれば、優先すべきは子の利益です。

デメリットは大きいため、親の都合で安易に親権と監護権を分けないようにしてください。

家庭裁判所は親権と監護権を分けることに消極的

親権者が虐待や育児放棄するなど、明らかに子の利益と反する状況を除き、家庭裁判所は、基本的に親権と監護権を分けることに消極的です。

それ以前に、親権者の親権行使が不適切なときは、親権者と別に監護者を指定するのではなく、親権者を変更するか親権を制限する方向に進んだほうが良いと考えます。

監護権は監護者の権利なのか?

最後に、答えが見つからない監護権論争について紹介しておきます。

監護者が行う子の身上監護は、まぎれもなく親権に含まれる身上監護権に基づくものです。では、監護者は親権の一部として監護権を得ているのでしょうか?

今さら何を……と思うかもしれませんが、①監護者だけが監護権を有しているのか、②親権者と監護者が監護権を有して行使できるのは監護者なのか、③監護者が親権者の監護権を代行しているのかは、学説上の争いがあり結論が出ていません。

親権者は監護権を喪失し、監護者だけが監護権を有しているとする説が有力です。

民法第766条第4項では「監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない」とされており、反対解釈によって、監護の範囲内で権利義務が変更されるとすれば、子の監護者の指定によって、監護者が監護権を有すると考えられます。

監護者が親権の一部として監護権を得ているなら、監護者も親権の一部を行使できるのですから、これは単独親権制度と反してしまいます。

単独親権の原則を貫くと、監護者による子の監護は、子の福祉の観点から例外的に認められた監護権の代行にも思えます。

しかし、監護権の代行に過ぎなければ、監護責任は親権者が負わなければならず、実際には監護者の責任で子を監護しているでしょう。

結局、監護者に監護権があるのかないのか判然としません。

本記事の全体で、監護者を「監護権者」としていないのは、監護者が監護権を得ているのか代行しているのか、当サイト管理人が定見に至っていないからです。

とはいえ、親権と監護権の「分離分属」と書いてしまっているのですが……。

なお、監護権が親権者と監護者のどちらに帰属しても、確定的ではなく不安定です。なぜなら、子の監護が不適切なときは、親権とは無関係に、父母のどちらでも子の監護者の変更調停を申し立てられるからです。

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