強度の精神病

強度の精神病を離婚原因とするには、夫婦生活が成り立たないほどに意思の疎通が図られず、実体的にも精神的にも夫婦として破綻している状況を前提とします。さらに「回復の見込みがない」という条件が付くことから、実は強度の精神病による離婚請求は、認められるのが困難な離婚原因です。

夫婦の一方が強度の精神病にかかってしまった場合、もう一方が献身的に看病したとしても回復は約束されず、長期的に療養施設への入所を余儀なくされると、もはや夫婦が協力して生活しているとは言えない状況が訪れます。

配偶者への愛情から望んで看病にあたるなら問題ないですが、看病に疲弊して愛情を失ったときに、既に婚姻関係は破綻しているにもかかわらず、看病を強制することは適切ではありません。そこで、旧民法では規定されていなかった、強度の精神病という規定を現行の民法では加えました。

精神病は本人に責任がなく、責任がないのに離婚原因として規定されたのは、破綻主義への移行を端的に表しています。

成年被後見人と離婚原因の精神病とは違う

自らの意思を表明することで、その結果を正しく認識できる能力を意思能力と呼びます。日常生活において、大よそ意思能力がなければ暮らしていくのは難しく、契約などの法律行為においては、意思能力がないと正しく行われません。

そこで、家庭裁判所に選任された成年後見人が、意思能力を持たない人に代わって法律行為を行う成年後見制度があります。成年後見人の選任は、通常で意思能力に欠けている状態で判断され、回復の見込みがないことを要件としません。

対して離婚原因になる強度の精神病では、夫婦が共同体として協力扶助の上で生活できない状態を要件とし、なおかつ回復の見込みがないことも要件です。通常で意思能力に欠けていなくても、夫婦として協力生活ができない程度なら認められますが、回復の見込みがない判断も必要とするのでより高度です。

強度の精神病で離婚調停はほぼ不可能

強度の精神病と呼べる状態になると、大抵は法律行為による結果を正しく判断できる能力を持っていないので、成年後見人が代理して行います。ところが、離婚のように身分(人事)に関わる行為は、本人に一身専属性(他者に代わることができない性質)があり、成年後見人が代理できません。

意思能力の欠如が常時ではなく、成年後見人が選任されない程度であれば、離婚調停どころか協議離婚も可能です。しかし、一時的に回復をみせたとして、その間に離婚の話し合いや合意を得ることは難しく、事実上で調停を行えるだけの能力を持たないと、調停の相手方にはなり得ません。

その結果、強度の精神病で回復しない配偶者との離婚は、調停を経ずに訴訟を提起するしかなく、調停前置にもならずに進みます。

回復の見込みがないという判断は難しい

強度の精神病に回復の見込みがないかどうかは、医師の所見を要しますが、だからといって精神病に回復の見込みがないことを判断するのは難しいでしょう。なぜなら、精神病には波がありますし、安定と発症を繰り返すことや、回復したと思っても再発することもあって、治療による効果が未知数だからです。

強度の精神病が離婚原因とされるからには、回復の度合いは意思の疎通ができて夫婦が協力扶助できる状態までです。僅かな回復がみられても、夫婦生活が成り立っていかない状態では、回復の見込みとは認められません。

しかし、一定期間の治療で効果がないとしても、いつかは回復するかもしれませんし永遠に回復しないかもしれず、回復の見込みがないと医師に判断させるだけの条件を満たすには、ある程度の治療期間は必要で、発症したから離婚を請求とはいかないのです。

回復の見込みがなくても離婚は難しい

たとえ精神病が強度で回復の見込みがなく、夫婦生活が協力的に続けられないと客観的に判断されても、それだけで離婚請求は認められません。離婚後の療養について、具体的に手立てを講じており、強度の精神病を患った配偶者が、人間として生活していける状況を求められます。

この点について、他の理由で離婚する場合と明確に異なり、離婚後の療養が十分に確保されるには夫婦に経済力を必要とします。財産分与や社会保障制度で不足すれば、離婚請求する配偶者が持ち出しで負担することになるでしょう。

また、強度の精神病配偶者に離婚後の療養を担保するのは、道義的には十分理解できても、離婚請求する配偶者が精神病に有責性を問われるケースは少なく、無責配偶者が離婚後の生活保障をしなくてはならないとすれば、婚姻関係の破綻を理由とする他の離婚原因とは不均衡が生じます。

過去には、強度の精神病配偶者の引受先が、他方配偶者の負担するべき離婚後の療養費を負担できることを条件に、離婚請求を認めたケースがありますので、必ずしも配偶者負担とは限りませんが、離婚後の療養を確保しなくてはならない点は変わりません。

しかしながら、離婚後の療養環境の確保は、あくまでも元配偶者や引受先の善意に頼る部分が大きく、強制的に実現できる手続が確立されていない現状では、問題が大きいとされています。

強度の精神病が離婚原因の場合だけにあるこうした条件は、離婚する精神病配偶者の保護が目的であることは言うまでもないですが、他方配偶者や引受先の資力を勘案しなくても、療養が継続できる社会保障制度の充実があれば緩和されると予測できるとはいえ、その日が来るのは当分先でしょう。

認知症は強度の精神病になるのか?

精神疾患は年齢問わず発症するのに対し、認知症は一般に加齢による病気の一種であることから、認知症と強度の精神病は同列に扱われてはいません。それでも、認知症が意思能力に欠ける病状であることは疑いもなく、夫婦生活が継続できなくなる状況では強度の精神病に近いとも考えられます。

しかし、条文上で強度の精神病としており、準ずる症状を規定しないことからも、認知症を理由として離婚を認めるには、婚姻を継続し難い重大な事由として判断することになるでしょう。

判例においては、婚姻を継続し難い重大な事由で認知症配偶者との離婚を認める場合は、強度の精神病と同様に、離婚後の療養環境の確保が考慮されています。強度の精神病と異なり、婚姻関係の破綻が認められても裁判所の裁量的な棄却(民法第770条第2項)が適用できないことも加わって、慎重に判断されていると言えます。

離婚裁判では当事者になれない

調停と同じように、訴訟においても本人に意思能力が無ければ、当事者になり得ません。ですから、強度の精神病を理由に離婚を訴えるときは、成年後見人を相手に訴えを起こすことになります。

しかし、夫婦の一方が強度の精神病であるとき、もう一方が成年後見人になっているのが通常です。そうなると、自分で自分を訴えることになり、訴える相手がいないように思えるでしょうか。このような場合は、成年後見監督人を選任してもらい、成年後見監督人を相手方として訴えることができます(人事訴訟法第14条第2項)。

なお、強度の精神病で意思能力を欠いているのに、成年後見人が選任されていない場合は、民事訴訟法第35条による特別代理人を選任するよりも、成年後見人を選任して訴えを起こす方が、離婚が代理に馴染まない点でも強度の精神病を患っている当人にとっても、より好ましいと考えられています。

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