離婚原因の有責主義と破綻主義の違いをわかりやすく

最終更新日:2023/3/2

離婚調停は、夫婦の自由な協議で離婚できないときに、協議の延長を家庭裁判所で行う性質から、その申立てにあたって厳密な要件があるわけではありません。

しかし、離婚訴訟は、夫婦の一方が望まなくても判決で強制的に離婚させる手続きである以上、離婚請求に相当の根拠(離婚事由)が必要です。そして、裁判所の判断には、有責主義と破綻主義という大きく2つの考え方があります。

有責主義とは、離婚請求される相手方に有責性がある場合のみ離婚を認める考え方です。相手方に有責性が認められない場合、離婚請求は棄却されます。

破綻主義とは、婚姻関係が客観的にみて破綻していれば離婚を認める考え方です。婚姻関係が破綻まではしていない(婚姻の継続が相当と認められる)場合、離婚請求は棄却されます。

さらに、破綻主義は消極的破綻主義と積極的破綻主義に分かれます。

  • 消極的破綻主義:婚姻関係が破綻していても有責配偶者からの離婚請求は認めない
  • 積極的破綻主義:婚姻関係が破綻していれば有責性を問わず離婚請求を認める

単に、有責主義と破綻主義の違いや意味を知るだけなら、これで終わりの話です。

この記事は、有責主義から破綻主義へと変遷していく流れの解説がメインなので、有責主義と破綻主義をより詳しく知りたければ読み進めてみてください。

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有責主義から破綻主義への変遷

明治民法は有責主義を採用しており、離婚を請求するには、配偶者に責任を問うべき行いがなくてはなりませんでした。明治民法第813条は、10の有責事由を列挙しています。

明治民法 第八百十三条
夫婦ノ一方ハ左ノ場合ニ限リ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得

一 配偶者カ重婚ヲ為シタルトキ

二 妻カ姦通ヲ為シタルトキ

三 夫カ姦淫罪ニ因リテ刑ニ処セラレタルトキ

四 配偶者カ偽造、賄賂、猥褻、窃盗、強盗、詐欺取財、受寄財物費消、贓物ニ関スル罪若クハ刑法第百七十五条第二百六十条ニ掲ケタル罪ニ因リテ軽罪以上ノ刑ニ処セラレ又ハ其他ノ罪ニ因リテ重禁錮三年以上ノ刑ニ処セラレタルトキ

五 配偶者ヨリ同居ニ堪ヘサル虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ

六 配偶者ヨリ悪意ヲ以テ遺棄セラレタルトキ

七 配偶者ノ直系尊属ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ

八 配偶者カ自己ノ直系尊属ニ対シテ虐待ヲ為シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキ

九 配偶者ノ生死カ三年以上分明ナラサルトキ

十 婿養子縁組ノ場合ニ於テ離縁アリタルトキ又ハ養子カ家女ト婚姻ヲ為シタル場合ニ於テ離縁若クハ縁組ノ取消アリタルトキ

口語体ではないので読みにくいですが、現行の民法にもある、不貞な行為(ただし、男女で不平等な規定)、悪意の遺棄、3年以上の生死不明は明治民法でも規定されており、特定の犯罪行為で刑に処された場合、虐待や重大な侮辱を受けた場合などが含まれていました。

中でも、虐待や重大な侮辱は、配偶者から受けた場合、配偶者の直系尊属から受けた場合、自分の直系尊属が配偶者から受けた場合と分かれて規定されており実に具体的です。

直系尊属

父母・祖父母など直系の上の世代のこと。子・孫など直系の下の世代は直系卑属といいます。

このように、具体的な有責事由の規定は絶対的な離婚原因になりますので、ある意味スッキリしているとはいえ、時々不都合が生じるようになりました。

有責主義の問題点と婚姻継続の是非

有責主義は、配偶者の有責性が立証されることで離婚請求を認めるのですから、言い換えると、有責主義は配偶者に有責性がない限り離婚を請求できないということになります。

おおよそ婚姻を継続できるとは思えない夫婦関係でも、法律で規定された有責事由に該当しなければ離婚を訴えられないのです。

一例として、現行の民法で規定されている強度の精神病は、当然に本人には責任がなく、だからといって協議による離婚も、病状から離婚について理解と判断をすることができない(意思能力がない)ので成り立ちません。

強度の精神病を患うことに有責性はないのですから、有責事由に規定されるはずもなく、その相手配偶者は有責主義において離婚請求の根拠を失いますよね。

婚姻が法的な結びつき以外に実体をなくしても、有責主義では離婚できない場合があるということです。

有責主義では、想定される数多くの有責事由を法律で規定しても、規定がないことを理由に離婚できない状況が起きるのを避けられない問題点がありました。

ましてや、婚姻が夫婦の愛情と協力扶助で継続していく前提でありながら、完全に愛情を失った一方が、離婚の訴えを退けられ婚姻の継続を強制されるのも酷でしょう。

そこで、婚姻関係が客観的にみて破綻していれば、離婚を認めてもよいとする破綻主義へと徐々に移行していったのです。

民法第770条と破綻主義

昭和22年に改正され、現行民法に続く第770条の規定では、破綻主義が採用されました。

民法 第七百七十条
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

注目すべきは、第1項第5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」による離婚請求です。

少なくとも、婚姻を継続し難い重大な事由が何であれ、夫婦の一方から婚姻を継続し難い(婚姻関係は破綻している)と主張することで、離婚が認められる可能性を意味します。

民法第770条の解釈には学説上の激しい対立があり、第1項第5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」があるから破綻主義だとする意見もありますが、はたしてそうでしょうか。

確かに、第1項第1号から第4号は具体的な離婚事由の規定です。しかし、第2項において「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる」として、裁判所の裁量が規定されています。

そうすると、第1項第5号の抽象的な離婚事由はもちろん、第1項第1号から第4号に該当する離婚事由があったとしても、明治民法のように絶対的な離婚原因にはなりません

裁判所は、離婚請求が第1項第1号から第4号のいずれを根拠にしていようと、第2項があるがゆえに、一切の事情から婚姻の継続が相当であるか(請求棄却も含めて)審理しなければならず、相対的な離婚原因、つまりは第1項第5号と同様に「婚姻関係の破綻の程度」が考慮されます。

第2項の文言では、離婚の請求を棄却することが「できる」となっていますが、「できる」だから「しなくてもよい」という解釈はできないでしょう。

裁判所が、婚姻の継続を相当だと認めたにもかかわらず、反して離婚請求を認容する(棄却しなくてもよい)のは考えられないからです。

このように、民法第770条は、離婚事由の一事をもって絶対的な離婚原因とはならないよう規定されています。悪くいえば裁判所の裁量に丸投げしたとも読めるのですが、婚姻関係の破綻を主眼においた破綻主義であることは確かです。

破綻主義と有責配偶者からの離婚請求

破綻主義では、婚姻関係が破綻して回復の見込みがないことを判断基準とし、離婚請求する配偶者が有責であるかどうかを問いません。

婚姻を継続し難い重大な事由の規定(民法第770条第1項第5号)も、その適用に有責性を問う条文にはなっておらず、夫婦のどちらからも離婚請求できるように読み取ることができます。

ところが、裁判所は婚姻を継続し難い重大な事由を離婚原因とした有責配偶者からの離婚請求に対し、ノーを突きつけて請求を棄却し続けました。

要するに、離婚の責任を作った側からは、離婚を認めませんという態度です。

有責配偶者からの離婚請求は嫌悪されていた

裁判所が、有責配偶者からの離婚請求を退けていた趣旨は、誠実な配偶者をないがしろにして自ら離婚原因を作っておきながら、婚姻を継続し難いとして離婚請求する身勝手でわがままな行為は、道義的・倫理的に問題が大きく認めるべきではないとするところにあります。

もっとも、民法第770条は「離婚の訴えを提起することができる」と規定しているに過ぎず、「離婚することができる」ではありません。

破綻主義でありながら、有責配偶者からの離婚請求は認めない考え方を消極的破綻主義と呼び、婚姻関係の破綻で有責配偶者からの離婚請求をも認める考え方を積極的破綻主義と呼びます。

昭和前半の時代には、もっぱら消極的破綻主義が採用されており、一般感情としても納得できる点が多いために支持されていましたが、それでも反対意見は残っていました。

消極的破綻主義への批判

消極的破綻主義には、婚姻関係の破綻という破綻主義の離婚要件を満たした離婚請求に対し、有責配偶者だからといって退けるのは不当だとする反対意見があります。

つまり、離婚事由の存在が立証されたのであれば、有責配偶者とはいえ離婚を認めるべきで、婚姻関係を破綻させた有責配偶者は、非難を受けながらその責任を(主に金銭的な)離婚条件で解決すればよいとするスタンスです。

また、既に婚姻の実体がなく、精神的な結びつきも失われた事実上の離婚状態にある夫婦にまで、形式的な婚姻状態を維持させることに意義はないとする意見もあります。

有責でありながら離婚訴訟を起こすほど離婚の意思が固ければ、もはや夫婦関係を修復して円満な家庭を築くことはまず期待できません。

したがって、消極的破綻主義で離婚請求が退けられても、有責配偶者は別居を続け、場合によっては他の人と暮らすでしょう。しかも、離婚するまで婚姻費用の分担が絡んできます。

離婚請求を退けたところで状況は何も変わらず、法律上の夫婦が形骸化するばかりか、重婚的内縁関係を生み出すなど問題点が残ります。

消極的破綻主義から積極的破綻主義へ

その後、有責性の判断は離婚請求をした側だけではなく、夫婦相互の程度によるべきだとする見解が打ち出されます。

離婚請求をした側に責任があっても、相手方にそれ以上の重い責任があれば、相手方を有責配偶者とみなして、婚姻を継続し難いとする離婚請求は可能とする判断が示されました(離婚請求した側の責任は相殺される)。

この時点で、離婚請求の可否は請求者の有責・無責ではなく、夫婦のどちらにより責任が重いかを問うように変わっています。

有責配偶者でも、より相手方の責任が重ければ離婚請求は認められるのですから、必然的に裁判官の心証を得るための非難合戦が起こり、離婚訴訟は泥沼化の様相を呈します。

そして、徐々にではありますが、どちらに責任があるかを問わずとも、婚姻関係の破綻が客観的に認められれば、離婚を認める積極的破綻主義の方向へと進んでいきます。

婚姻関係の破綻を示す具体的な基準(メルクマール)が求められるようになり、その最たるものとして別居期間が取り上げられるようになりました。

20年以上にも及ぶような長期的な別居では、有責性は問われても離婚請求を認める判決が下級審で出されるようになり、ついに昭和62年には、破綻主義の理念に沿って、条件付きながら最高裁でも別居期間35年余りを経た有責配偶者からの離婚請求を認める判決が出されました

裁判所は、形骸化してしまった婚姻状態を継続させることを不自然としたのです。

この最高裁昭和62年9月2日判決で付けられた条件(苛酷条項と呼ばれます)は次のとおりです。

  • 夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいる
  • 未成熟の子が存在しない
  • 相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められない

これらの条件を満たせば、有責配偶者だからという理由だけで、離婚請求が許されないとすることはできないとしました。個々の条件についても異論が残ってはいますが、消極的破綻主義から積極的破綻主義に近くなっています。

積極的破綻主義に残る懸念

既に説明のとおり、現在の裁判所は純粋な積極的破綻主義にはなっていません。

苛酷条項を設けないと、離婚したくない配偶者の意思や離婚後に置かれる状況を軽視して、有責配偶者の主張を取り入れる結果になりかねず、その抵抗感は大きいでしょう。

日本社会は従来から男性優位で、令和を迎えた現在でも社会的な男女格差は大きく、特に家庭を守り続けた女性が、離婚によって社会に放り出されるのは極めて酷です。

その点は社会が保護するとして、それでも積極的破綻主義を取り入れることに反対の意見は多く、それは積極的破綻主義が「自由に離婚できる」状態を作り出すからです。

相手配偶者に何の落ち度がなくても、例えば「飽きたから出ていけ」とする追い出し離婚ですら、婚姻関係の破綻を認める可能性があることは、何を意味するのでしょうか?

他人である男女が婚姻するとき、制約のない自由恋愛とは違い、生涯のパートナーとして真に相手を信頼し、少なくとも婚姻の時点では揺るがない愛情と覚悟を持っているものです。そして、婚姻で生じる様々な責任と義務も負わなくてはなりません。

揺るがないはずの愛情が過信であったとき、それだけで一方的に離婚できるとすれば、婚姻制度は何のためにあるのか。この点を問う声は大きく、積極的破綻主義で離婚が自由恋愛のように扱われるのは、婚姻制度を根底から覆すと懸念されています。

民法の平成8年改正要綱と法定離婚事由

平成8年2月26日に法制審議会で決定された「民法の一部を改正する法律案要綱」では、法定離婚事由について改正案が出ています。

  • 不貞な行為と悪意の遺棄について、婚姻関係が回復の見込みのない破綻に至っているときに限定した
  • 婚姻の本旨に反する別居が5年以上続いている場合を付け加えた
  • 婚姻を継続し難い重大な事由を、婚姻関係が破綻して回復の見込みがないときに変更した
  • 離婚が配偶者や子に著しい生活の困窮または耐え難い苦痛をもたらすときは棄却できるとした
  • 5年以上の別居や婚姻関係の破綻が認められても、配偶者に対する協力扶助を怠り、請求が信義に反するときは棄却できるとした

別居を要件としたり、婚姻関係の破綻という言葉が見られたりと、これまでの判決の流れを受けているのは明らかですが、令和5年3月現在でも改正が実現されていません。当然、政権与党の反対があったわけです。

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