年金分割を戦略的に考えると違って見えてくる

年金分割制度は、制度としての認知度は徐々に上がっていますが、その詳しい仕組みまでは広く知られていません。そこで、離婚における年金分割をうまく使い、自分に都合の良い離婚条件にする戦略が考えられます。

ここで前提とするのは、相手が年金分割制度の存在を知っていても、理解までしていない場合で、年金分割で勘違いされやすいのは概ね次のような点です。

  • 年金分割は財産分与の一部だと思っている
  • 国民年金部分も含めて半分取られる(もらえる)と思っている
  • 年金分割をするとすぐにもらえる(支払う)と思っている
  • 将来相手から現金でもらう(支払う)と思っている
  • 年金分割をしない合意をしても3号分割はできることを知らない
  • 離婚後2年間はいつでも請求できることを知らない

このような勘違いを利用して、特に財産分与を有利な状況で確定させておきます。自分が年金の増える側なら、後から正当な権利として年金分割をすれば良く、年金が減る側なら、相手が年金分割しないで離婚後2年経過するのを待ちます。

しかし、相手の無知を突いて有利な離婚条件にしようとするのですから、場合によっては騙し討ちになってしまいます。関係を悪化させると子供に会えないなど、リスクを伴う場合は総合的に判断する必要があるでしょう。

また、場合によってはすぐに離婚しないことでも、年金で得をするケースが考えられます。後半で説明しているので、気になる人は確認してみてください。

財産分与に年金分割を影響させる

離婚における夫婦の金銭的な問題は、多くの場合に財産分与で解決されます。そのためなのか、年金分割制度の認知度が低いことがあるのか、年金分割が財産分与と同じように考えられているのは否めません。

財産分与にも離婚から2年の時効はありますが、遅くなればなるほど財産は費消または隠蔽されていくかもしれず、請求する側には不利な状況になりかねません。

しかし、年金分割は過去の納付記録を分割する性質から、離婚時に請求しても離婚後に請求しても結果は変わらないのです。この点を考えれば、変動がある財産分与は離婚時に確定させておき、変動がない年金分割は離婚後に請求する戦略が成り立ちます。

年金分割で年金が増える側

通常であれば、財産分与で共有財産の半分をもらい、年金分割で老齢厚生年金の半分をもらうのですが、人によっては年金分割をすると、国民年金部分も含めて全体の半分取られると勘違いしています。

つまり、相手が年金分割を過剰に考えているのなら、離婚時は年金分割をしない合意をして、財産分与の割合を増やすように交渉すれば良いでしょう。交渉では、最低でも年金分割で増える金額以上に、財産分与を多く勝ち取ることが大切です。

ただし、年金分割で増える金額は、受給開始から亡くなるまでの総額で考えるため、増える額を正確に把握するのは無理です。したがって、月額でどのくらい増えるのか把握し、財産分与に換算したときに妥当な金額以上で請求するしかありません。

そして肝心の年金分割ですが、年金分割しない合意に影響されない3号分割を含んでいると、なおさら年金が増える側には好都合です。離婚時は年金分割の請求をしない合意をして、後から3号分割するのでトラブル含みですが、離婚時は3号分割制度を知らなかったと一応の言い逃れはできます。

年金分割で年金が減る側

年金分割をすると年金が減る側は、年金分割を条件に、財産分与の割合を減らせるかもしれません。「年金分割するから財産分与は少し勘弁して」という提案です。

財産分与をどのようにしたところで、年金分割は離婚後に別途請求可能ですから、本来は財産分与の交渉材料にもならないですが、制度を知らない相手には使えます。

その際、後から不足分の財産分与を請求されないように、離婚後は一切の請求をしないと合意書等の書面に残し、可能なら公正証書にしておくほうが確実です。

逆の考えで、財産分与を2分の1よりも少し増やすことを条件に、年金分割をしない合意をして、将来の年金を保護する戦略も考えられます。年金は受給年齢から亡くなるまで貰えるので、月額は僅かでも累積すると結構な額です。

年金分割による減額分を、そのまま財産分与に反映させるのでは意味がなく、年金分割をしないほうが自分の得になる範囲で財産分与を増やしてあげます。

ただし、婚姻期間が3号分割の対象になっていると、年金分割しない合意は意味がないため、それを逆手にとって相手が応じている可能性もあるのですから、相手を侮って交渉し、離婚後に3号分割を請求されると損をするので要注意です。

年金分割はあえてする必要はない

年金分割は、分割すると年金が増える側から請求されるもので、年金の減る側があえてする必要はありませんし、離婚で自動的にはされず法的な義務も全くありません。

もし相手から請求があれば、そのときに応じれば良く(応じなくても調停や審判になるので結局応じるしかない)、離婚時に年金分割の話を切り出さず、離婚後2年の時効を待つのも、将来のお金を減らさないためには有効です。

相手の老後を助けてあげたい気持ちがあるなら、あえて年金分割することも考えられますが、そのような夫婦が離婚に至るとも思えず、自分の年金が減る側の立場では、年金分割制度を知らないフリが常套手段です。

年金分割をしない合意は必ず文書に残す

年金分割をしない合意は、年金分割で年金が減る側にとっては非常に重要な合意です。契約行為は口約束でも成立しますが、お金に関わる口約束が守られない可能性は高く、年金分割をしない合意は文書に残しておくべきです。

そうしないと、言った言わないの争いになって、調停や審判になれば年金分割する方向で決まるでしょう。証拠がない状況で争うと、請求権のある側が断然有利です。

文書に残すことを嫌がる相手なら、そもそも信頼に値しないので、最初から年金分割をしない合意をするのではなく、年金分割をする前提で他の条件を調整するべきです。もっとも、文書に残すのは自分が相手を信頼していないからですが…

関連記事:年金分割をしない合意があるときは?

年金の多い側だけ受給しているときは要注意

夫婦に年齢差があると、年齢の高い側が年金を先に受け取るのは当然です。ここで、年齢の高い側が年金を多く受け取る側であるときは、離婚のタイミングにもちょっとした工夫が必要かもしれないので紹介しておきます。

例として、夫が65歳、妻が62歳の夫婦を考え、夫の老齢厚生年金を100万円(受給額)、妻の老齢厚生年金を0円(見込み額)とします。老齢基礎年金(国民年金)は夫婦共に同じ金額を受給するので考えません。

夫は65歳に達しているので、年間100万円の老齢厚生年金を受給しています。妻は3年後まで年金の受給年齢ではなく、現在は年金の収入が0円です。

ここで、今すぐ離婚して年金分割する場合と、3年後まで待って離婚して年金分割する場合を比較してみましょう。どちらの場合も年金分割の按分割合は50%とします。注目すべきは、妻が3年後まで年金を受給できないことがどのように影響するかです。

今すぐ離婚した場合

元夫の老齢厚生年金は、年金分割によって翌月から半分の50万円に減額されます。

元妻は年金の受給資格がないので0円ですが、年金分割によって見込み額が50万円に増えています。しかし、3年後までの元夫婦の年金合計は、元妻が受給できない影響で、元夫の50万円×3年=150万円にしかなりません。

3年後になると元妻が受給年齢に達するので、元夫が50万円、元妻が50万円となり、以降は年金分割した効果によって、元々100万円の年金を50万円ずつ受給します。

3年後まで待って離婚した場合

夫の老齢厚生年金は、年金分割されておらず100万円で変わりません。妻は年金の受給資格がなく0円なのは同じですが、年金分割していないので見込み額も0円です。

3年後までに夫婦が受給する年金は、夫の100万円×3年=300万円となり、今すぐ離婚した場合と比べて150万円増えていることに気付いたでしょうか。正確には増えているのではなく、元々100万円の年金が離婚を待ったことで減らなかっただけです。

3年後に離婚して以降、年金分割で夫が50万円、妻が50万円となるのは、今すぐ離婚した場合と同じですから、純粋に3年間で150万円の差が付きます。これは、妻が年金の受給年齢ではなかったからで、減った150万円はどうやっても戻ってきません。

年金受給年齢と離婚のタイミングを考えよう

離婚に対しての考え方1つで、数年後の受給年齢まで離婚を待つことができるのなら、あえて離婚を先延ばしにして受給年齢まで待つと、既に受給している側の年金額が、年金分割によって失われるのを防ぐことができます。

その代わり、減らなかった金額を夫婦で折半すれば、夫婦双方が利益を得られます。例で言えば、減らなかった150万円を夫婦の利益として75万円ずつ分けるのです。

金額の大小はさておき、同じケースは熟年離婚に多く見られるはずで、離婚届を出す前に年金分割の効果を確かめて、合理的な判断をしましょう。

年金分割は離婚成立が前提なので、事実上の離婚状態なら尚更のこと都合が良く、離婚届の提出を意図的に遅らせるだけで、年金が減る分を利益に変えられます。

もっとも、その間に相手が年金以上の財産を減らしてしまう危険があれば、財産分与額が減って帳尻が合わなくなるので離婚届を遅らせるべきではありません。

また、逆に年金の少ない側だけが受給年齢に達しているのなら、離婚して年金分割すると即座に反映されて増額になるので、待たずに離婚するべきでしょう。

この場合は、すぐに離婚して年金分割する代わりに、まだ年金を受け取れない側が、離婚で増えた相手の年金分を折半するような交渉もアリですよね(離婚後なので確実に支払うとは限りませんが…)。

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