年金分割の注意点~財産分与との調整と熟年離婚

年金分割制度は、制度としての認知度が徐々に上がっている一方で、その詳しい仕組みまでは広く知られていません。

制度を理解しているつもりでも、財産分与と年金分割の関係は、どちらを優先して考えるか悩みどころではないでしょうか。

なぜなら、財産分与と年金分割は全く異なる制度ですが、財産分与は現在の経済力に影響するのに対し、年金分割は将来の経済力に影響するからです。

また、年金受給が近い年齢の熟年離婚では、離婚と年金受給のタイミングによって、年金分割がマイナスに作用することもあるので、気になる人は確認してみてください。

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早く終わらせたいのは財産分与

財産分与では、婚姻から離婚まで(別居が先行してたら別居まで)に現存する共有財産を、夫婦で分け合うことになります。

しかし、離婚時に確定した対象財産と金額が、分与される前に名義人の手で減らされてしまうことも考えられるでしょう。

もちろん、離婚後に対象財産が目減りしたところで、確定した財産分与請求権に影響はないですが、無い袖は振れないということで、請求しても回収が難しくなるリスクを伴うのです。

それに対し、年金分割の対象となる年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)は、婚姻から離婚までの「過去の記録」であることから、当事者が離婚後に操作することはできません。

受給開始年齢に達している場合を除き、年金分割を急がなくても、離婚から2年以内であれば、按分割合が同じなら結果も同じです。

受給開始年齢に達していると、すぐに受給額が変わるので、年金が増える側は離婚したら急いで年金分割するべきです。

この点を考えると、年金分割は手続が面倒な側面もあり、財産分与の優先度を上げて、速やかに終わらせたほうが良いと言えます。

財産分与と年金分割の調整

財産分与と年金分割は、必ずしなければならないものではなく、その割合も当事者の合意によるのが基本です(年金分割は最大50%)。

したがって、分与できる財産と分割できる年金記録の両方がある場合、財産分与と年金分割を両方しても良いですし、年金分割をせずに財産分与で調整する選択もあるでしょう。

ところが、現存する共有財産は、その価額を評価できるのに対し、定期金債権である年金は、月額いくらという確認はできても、死亡までいくらもらえるという算出が推測でしかありません。

つまり、年金分割による年金受給額の増減は、受給開始年齢から何年生きるかによって変わるということです。

年金分割は、分割後の年金記録が自分の年金記録になるため、相手の生死は関係なく、年金が増える側は死亡まで増え、年金が減る側は死亡まで減ります。

ここが難しいところで、財産分与と年金分割のどちらも1/2で分けるなら問題ないですが、年金分割を財産分与で調整するときは、年金分割の効果を良く考えなくてはならないのです。

女性のほうが年金分割の影響は大きい

単純に平均寿命で比べると、男性は約81歳、女性は約87歳ですから、受給開始年齢を65歳とした場合、男性は16年、女性は22年もの間、年金分割により年金額が増減します。

ということは、年金分割で年金が増えるにしても減るにしても、女性のほうが年金分割の影響は大きいということです。

例えば、夫の老齢厚生年金(婚姻期間相当分)が月額10万円、妻は専業主婦(または自営業)で老齢厚生年金が0円だとしましょう。

離婚時に按分割合50%で年金分割を行い、元夫と元妻がそれぞれ老齢厚生年金を5万円ずつの受給です。元夫は10万円から5万円に減額、元妻は0円から5万円に増額されました。

共に65歳から受給を開始、共に平均寿命で死亡したとすると、

元夫:-5万円×12か月×16年=-960万円
元妻:+5万円×12か月×22年=1,320万円

となって、元夫が960万円の減額、元妻が1,320万円の増額です。

この年金分割を、離婚時に960万円と評価するか、1,320万円と評価するかで、財産分与での調整は変わるのではないでしょうか。

もちろん、年金分割の影響が大きいということは、年金が減る場合もトータルで大きく減ることを意味します。女性は、年金が増える場合だけ年金分割したいところですね。

将来のお金よりも現在のお金を優先する考え方

財産分与は現在の財産を、年金分割は将来の年金受給権を分け合うのですから、手元にお金が入るタイミングは異なります。

ここで、同じ1,000万円を、財産分与ですぐ受け取るケースと、年金分割で将来の年金として受け取るケースを想定してみましょう。

前述のとおり、年金額は受給開始年齢から何年生きるかによって変わりますが、ここでは1,000万円と仮定します。

どちらも同じ1,000万円なら、財産分与ですぐ受け取るほうを優先すべきです。なぜなら、一般的に同じ金額であれば、早く手にしたほうがその価値は高くなるからです。

例えば、お金が工面できないとき、利息を承知で借りたり、ローンを組んで物を買ったりしますよね。

それは、今すぐお金を使えるメリットが、同じ金額に利息を加えた返済額と釣り合っているからで、現在の金額=将来の同じ金額+利息になります。

逆の視点では、今すぐお金を使わず預金すると、将来は利息が付いて増えているのも、現在の金額=将来の同じ金額+利息です。

したがって、現在の金額と将来の金額が同じなら、(将来の金額が増えてないので)現在のほうが相対的に価値は高くなります。

このように考えると、財産分与の1,000万円と年金分割が同じ価値になるためには、年金分割が1,000万円よりも多くなければならないとわかります(実際にそのような交渉を持ち出しても了承されにくいと思いますが)。

もっとも、老後の不安に備えておきたい、手元にあると使ってしまうといった性格的な部分で、年金分割を優先するのは仕方がありません。あくまでも、考え方の一例として参考にしてください。

住宅の財産分与には付加価値がある

財産分与の対象に自宅が入っている場合、住宅には固定資産税の負担があるとしても、同地域・類似物件の年額家賃よりはずっと安いのが普通です。

住宅の評価には、固定資産税評価額や想定売却価格を用いますが、自宅がなければ発生する家賃相当額の累積は、潜在的に含まれているだけで表面には出てきません。

即ち、年金分割を諦めてでも財産分与で住宅を取ると、住み続ける限り家賃相当額を毎月受け取っているのと同じということですね。

家屋の資産価値は毎年下がりますし、長く住み続けることで修繕費も発生するのですが、家賃相当額の累積は大きな金額になるので、年金分割の代わりに住宅を取る交渉はメリットが大きいです。

受給開始年齢まで受け取れない年金と、これから恒常的に発生する家賃負担を、一度は比べてみるべきでしょう。

熟年離婚と年金分割のタイミング

夫婦に年齢差があると、年齢の高い側が年金を先に受け取るのは当然です。

ここで、年齢の高い側が老齢厚生年金を多く受け取る側であるときは、離婚のタイミングにちょっとした工夫が必要かもしれないので紹介しておきます。

【モデルケース】

  • 夫65歳、老齢厚生年金は年額100万円受給
  • 妻62歳、年金受給前(受給見込み額0円)
  • 年金分割の按分割合は50%

夫は65歳に達しているので、年間100万円の老齢厚生年金を受給します。妻は3年後まで年金の受給年齢ではなく、現在は年金収入が0円です。

ここで、今すぐ離婚して年金分割する場合と、3年後まで待って離婚して年金分割する場合を比較してみましょう。注目すべきは、妻が3年後まで年金を受給できないことが、どのように影響するかです。

今すぐ離婚した場合

受給開始年齢に達している元夫は、年金分割によって老齢厚生年金が半減します。年額100万円が50万円に減ります。

元妻は、年金の受給資格がないので、年金分割をしても0円ですが、受給見込み額は50万円に増えました。

しかし、離婚から3年後までの元夫婦の合計額は、元妻が3年間受給できない影響で、元夫の50万円×3年=150万円にしかなりません。

離婚から3年間の元夫:50万円×3年=150万円
離婚から3年間の元妻:0円×3年=0円(受給見込み額50万円)

合計:150万円+0円=150万円

離婚から4年後以降の元夫:50万円×3年=150万円
離婚から4年後以降の元妻:50万円×3年=150万円

合計:150万円+150円=300万円

元妻が65歳になる離婚から3年後以降は、元夫が50万円、元妻も50万円を受給します。ここで初めて、年金分割のとおりに受給できます。

3年後まで待って離婚した場合

夫の老齢厚生年金は、年金分割されておらず100万円で変わりません。妻は、年金の受給資格がなく0円なのは同じですが、年金分割していないので見込み額も0円です。

離婚まで3年間の夫:100万円×3年=300万円
離婚まで3年間の妻:0円×3年=0円(受給見込み額0円)

合計:300万円+0円=300万円

離婚後の元夫:50万円×3年=150万円
離婚後の元妻:50万円×3年=150万円

合計:150万円+150円=300万円

3年後までに、夫婦が受給する老齢厚生年金は、夫の100万円×3年=300万円となり、今すぐ離婚した場合と比べて150万円増えています。

正確には増えているのではなく、元から100万円の老齢厚生年金が、離婚(年金分割)を待ったことで減らなかっただけです。

3年後に離婚して以降、年金分割で元夫が50万円、元妻が50万円となるのは、今すぐ離婚した場合と同じですから、純粋に3年間で150万円の差が付きます。

この失われた150万円は、妻が受給開始年齢ではなかったことが要因ですから、どうやっても戻ってきません。

受給開始年齢と離婚のタイミングを考えよう

離婚に対しての考え方ひとつですが、数年後の受給開始年齢まで離婚を待つことができるのなら、既に受給している側の老齢厚生年金が、年金分割によって失われるのを防ぐことができます。

そして、減らなかった金額を夫婦で折半します。前述のモデルケースで言えば、減らなかった150万円を夫婦の利益として75万円ずつ分けるのです。

金額の大小はさておき、同じケースは熟年離婚に多く見られるはずで、夫婦双方が受給開始年齢になるまで離婚を遅らせるだけで、老齢厚生年金を減らさずに済みます。

もっとも、その間に相手が財産を減らしてしまう危険があれば、財産分与が減って帳尻が合わなくなるので、離婚届を遅らせるべきではありません。

逆に、老齢厚生年金の少ない側が受給開始年齢に達しているのなら、離婚して年金分割すると即座に反映されて増額されるので、待たずに離婚するべきでしょう。

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