合意に相当する審判

調停で争われる事件の中には、身分(人事)に関係する事件もあります。身分というのは、かつて存在した人の尊卑を意味するのではなく、夫婦関係や親子関係といった、親族間での立場を意味します。

身分の確定は、社会生活上においても法律上の権利義務においても非常に重要であり、争いが解決されたからといって、当事者の自由な処分が許されていません。

許されているのは離婚と離縁だけで、この2つは夫婦または養親子の協議で合意があれば、役所に離婚や離縁を届け出ることで身分が確定します。

当事者での処分が許されない事件

  • 婚姻と協議離婚の無効、取消し
  • 養子縁組と協議離縁の無効、取消し
  • 認知と認知の無効、取消し
  • 父の確定
  • 嫡出否認
  • 身分関係の存否確認(婚姻、実親子、養親子)

特殊調停事件と呼ばれるこれらの事件は、人事訴訟によって解決されるべき性質を持っていますが、訴訟は負担が大きく、非公開の手続を希望する当事者にとっても利用しにくいものです。

そのため、調停で当事者間に原因や事実に対する争いがなく、審判を受けて事件を解決することに当事者が合意していれば、家庭裁判所は「合意に相当する審判」をすることができると規定されています(家事事件手続法第277条)。

合意に相当する審判は、家事事件手続法施行までの家事審判法では、23条審判と呼ばれていた審判です。

家事事件手続法 第二百七十七条

人事に関する訴え(離婚及び離縁の訴えを除く。)を提起することができる事項についての家事調停の手続において、次の各号に掲げる要件のいずれにも該当する場合には、家庭裁判所は、必要な事実を調査した上、第一号の合意を正当と認めるときは、当該合意に相当する審判(以下「合意に相当する審判」という。)をすることができる。ただし、当該事項に係る身分関係の当事者の一方が死亡した後は、この限りでない。
一  当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立していること。
二  当事者の双方が申立てに係る無効若しくは取消しの原因又は身分関係の形成若しくは存否の原因について争わないこと。
2  前項第一号の合意は、第二百五十八条第一項において準用する第五十四条第一項及び第二百七十条第一項に規定する方法によっては、成立させることができない。
3  第一項の家事調停の手続が調停委員会で行われている場合において、合意に相当する審判をするときは、家庭裁判所は、その調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴かなければならない。
4  第二百七十二条第一項から第三項までの規定は、家庭裁判所が第一項第一号の規定による合意を正当と認めない場合について準用する。

合意に相当する審判がされる事件では、調停前置主義により調停の申立てから始まり、調停で合意があれば合意に相当する審判で終わり、調停で合意がなければ調停不成立になって、続いて争うには人事訴訟に移行して決着を図ります。

合意に相当する審判の位置付け

家事事件では調停が成立すると、確定判決(別表第2事件は確定した審判)と同じ効力を持ちますが、特殊調停事件では、調停で合意したからといって、それだけで人事訴訟の確定判決と同じ効力を持たせることができません。

なぜなら前述の通り、事件が身分関係の形成に関わり、当事者の自由な意思では処分が許されないからです。

調停は、協議が調わないときに利用する裁判所での協議とも言える制度なので、調停での合意は、合意が調停上にあるだけで協議の延長と本質的には同じです。

身分関係の形成において、調停上の合意で処分を許してしまうと、当事者の協議でも許されなければならないことになり、調停での終了に整合性が保てないのです。

そのため、調停では終わらず、調停での合意を経て合意に相当する審判をすることで、人事訴訟に代わる手続として位置付けられています。

このことから、離婚と離縁のように当事者の協議で合意して、届出が可能になっている事件は、合意に相当する審判の対象にはなりません。

合意に相当する審判がされる要件

家事事件手続法第277条では、合意に相当する審判をする要件として、次を規定しています。

  • 人事に関する訴え(離婚と離縁を除く)であること(第1項本文)
  • 家庭裁判所が必要な調査をしていること(第1項本文)
  • 当事者の一方が死亡していないこと(第1項本文ただし書き)
  • 当事者間で審判を受けることの合意があること(第1項第1号)
  • 当事者が調停申立ての原因について争わないこと(第1項第2号)

これらの要件から、合意に相当する審判をする前の段階で、当事者に合意があって争いがなくなった状況を前提としており、当事者には異議があるはずもなく、審判はそのまま確定することが期待されます。

合意に相当する審判が確定することで、形成された身分関係を戸籍に反映することができます。その際、役所へ審判書と確定証明書を提出します。

また、第2項では当事者の合意について、2つの制限を設けています。

1つ目は、家事事件手続法第54条第1項の規定で、電話会議システム等での合意を認めないものです。

2つ目は、家事事件手続法第270条第1項の規定で、欠席した当事者が家庭裁判所から提示された調停条項案の受諾を書面で示し、出席した当事者が調停条項案を受諾した場合の合意を認めないものです。

認められない合意のどちらも、当事者双方の出席以外による合意である点は要チェックでしょう。身分関係の事件では、そのくらい当事者本人の意思確認が重要視されるということです。

その他に、第3項では調停が調停委員会で行われている場合(調停は裁判官だけでも行うことができる)に調停委員の意見を聴くことを定め、第4項では、家庭裁判所が合意が正当と認めない場合に調停を不成立で終わらせる(家事事件手続法第272条)ことを定めています。

ここまでをまとめると、

  1. 離婚と離縁を除く人事(身分)に関する訴えであり、
  2. 必要な調査をした上で、
  3. 存命の当事者双方が合意して争いがなく、
  4. 調停委員が調停をしていればその意見も聴き、
  5. 当事者の合意を正当と認めるときは

合意に相当する審判をするということになります。

合意に相当する審判後の調停取下げ

合意に相当する審判がされない調停は、いつでも申立人によって取り下げることが可能(調停に代わる審判がされた後を除く)になっています。

ところが、合意に相当する審判がされる調停は、審判されてしまうと、相手方の同意なく調停を取り下げることができません(家事事件手続法第278条)。

この制限には理由があり、合意に相当する審判は、そもそもが当事者双方に合意がある(即ち異議がない)ことを前提とした審判です。

そのため、調停を申し立てられた相手方は、合意に相当する審判で解決することを望んでいますが、申立人の取下げを認めてしまうとその期待に反してしまいます。

また、調停には再度の申立てに制限がなく、合意があって審判を受けているのに、気が変わり調停を取り下げて再調停を申し立てられると、最初からやり直しです。

そこで、合意に相当する審判がされた後は、相手方の同意を必要とするように取下げが制限されているのです。

合意に相当する審判への異議申立て

合意に相当する審判は、当事者でも利害関係者でも異議申立ては認められています(家事事件手続法第279条)。異議申立ては、当事者と利害関係者のどちらでも、書面で行うと決められています(家事事件手続規則第135条)。

しかし、利害関係者が審判に不服はあっても、当事者の場合には事前合意が確認された上で審判されている状況の違いがあります。

ですから、合意が不存在もしくは無効であるにも関わらず、合意に相当する審判がされてしまったような状況下を除いて、当事者の異議は認められません。

そして、当事者による異議申立ては、異議の理由と理由を明らかにする資料の添付が必要で、利害関係者による異議申立ては、利害関係と利害関係を明らかにする資料の添付が必要です。

異議申立て期間は、合意に相当する審判から2週間以内で、異議申立てが不適法な場合、または理由がないときは、家庭裁判所は却下しなければなりません。ただし、却下されたとしてもさらに即時抗告は可能です。

当事者の場合、異議申立てが適法なだけではなく、事前合意の経緯から異議申立てに理由がなくてはならないので、その理由が認められると、合意に相当する審判は取り消されて無かったことになります。

利害関係者の場合は、利害という理由があるため、異議申立てが適法であれば認められ、合意に相当する審判は効力を失います。

なお、異議申立てがないか、異議申立てを却下する審判が確定すると、合意に相当する審判は確定判決と同じ効力を持ちます。

まとめ:合意に相当する審判

  • 離婚と離縁以外の人事(身分)に関わる事件が対象
  • 調停から始まり合意に相当する審判で終わる
  • 審判前における当事者の合意が絶対的な条件
  • 異議申立ては認められるが当事者には理由が必要
  • 審判が確定すれば確定判決と同じ効力

ちなみに…当事者一方の死亡が除外される理由

合意に相当する審判では、当事者一方の死亡によって、その要件を満たさなくなりますが、その理由はあくまでも「当事者の合意」にこだわっているからです。

人事に関する訴えは、当事者が提起する場合と、当事者以外から提起される場合があります。

このとき、当事者が原告なら他方当事者は被告ですが、他方当事者が死亡では被告は公益代表としての検察官、当事者以外が原告なら被告は当事者双方ですが、当事者一方が死亡では被告は存命の他方当事者です(人事訴訟法第12条)。

したがって、当事者一方が死亡している状況では、当事者(原告)と検察官(被告)、当事者以外(原告)と当事者(被告)の組み合わせになります。

人事に関する訴えは、調停前置主義の適用を受けるとはいえ、検察官を相手方とする調停が不適当なのは言うまでもなく、当事者以外が参加した調停で合意が得られたとしても、合意に相当する審判が必須です。

しかし、争いの原因事実を十分に知りえない当事者以外による合意は、真の意味での(死亡した当事者の意思を完全に引き継いだ)合意であるか疑いが残ります。

身分という重要な事柄を決めるには、当事者間の確かな合意を慎重に判断しなければならず、当事者一方の死亡は合意に相当する審判に馴染まないということです。

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