調停に代わる審判

調停によって話し合いが行われ、大半の部分で当事者間の合意が得られているのに、僅かな食い違いによって話がまとまらないような場合や、一方が見栄や体裁から反対しているに過ぎないような場合があります。

例1:ごく僅かな金額で合意しない
例えば、離婚調停で離婚には合意しても、給付に関する振込手数料のような大局には影響しない争いの場合。金額の大小が問題ではなく、自己負担になることを譲れないという意地が感じられる。

例2:体裁上で合意をしたくない
調停の内容には合意しているのに、相手方と合意してしまうこと自体が気に入らない場合。家庭裁判所が示す案を承諾すれば、家庭裁判所に従ったことになり、相手と合意したことにはならず体裁は保てる。

例3:未成年の子の不利益
事件を早急に解決しないと、未成年の子に対する健全な成育環境が脅かされ、著しい不利益が生じると考えられる場合。

例4:国籍で調停に馴染まない
諸外国には協議離婚が認められていない国もあり、調停での合意による離婚では、外国籍の当事者が自国の法律に反する可能性がある場合。

こういった時に、調停不成立として終了させてしまうのは、その後、訴訟(事件によっては審判)によって解決するしかない当事者の負担が大きく、多くの合意が得られている調停を無駄にすることにもなってしまいます。

そのため、事件を終了させたほうが良いと家庭裁判所が判断した場合には、適正とみなす解決案を、職権によって審判という形式で示すことができ、これを「調停に代わる審判」と呼びます。

調停に代わる審判は、家事事件手続法第284条に規定されています。

家事事件手続法 第二百八十四条

家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判(以下「調停に代わる審判」という。)をすることができる。ただし、第二百七十七条第一項に規定する事項についての家事調停の手続においては、この限りでない。
2  家事調停の手続が調停委員会で行われている場合において、調停に代わる審判をするときは、家庭裁判所は、その調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴かなければならない。
3  家庭裁判所は、調停に代わる審判において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。

調停に代わる審判の対象

家事事件手続法施行前の家事審判法においては、調停に代わる審判の対象として、一般調停事件に限定されていました(家事審判法第24条第2項)。

しかし、家事事件手続法では「調停が成立しない場合」と調停ができる事件全般を対象にしながら、同法第277条第1項に規定する事項を除外しています。

混乱しやすいので、家事事件全般を一度整理してみます。

家事事件には別表第1事件別表第2事件特殊調停事件、一般調停事件があり、それぞれは利用できる手続きが異なります。

家事事件の種類と利用できる手続き

  • 別表第1事件:調停の対象外で審判を利用する
  • 別表第2事件:調停の対象で審判も利用できる
  • 特殊調停事件:調停の対象で訴訟事項(調停前置)
  • 一般調停事件:調停の対象で訴訟事項(調停前置)

調停に代わる審判は調停を前提にしており、調停の対象外になる別表第1事件は除かれます。また、「家事事件手続法第277条第1項に規定する事項」も除外されますが、これは「合意に相当する審判」がされる、特殊調停事件が該当します。

調停で争われる事件の中には、身分(人事)に関係する事件もあります。身分というのは、かつて存在した人の尊卑を意味するのではなく、夫婦関係や親子関係といった、親族間での立場を意味します。 身分の確...

その結果、従来(家事審判法)から対象であった一般調停事件に加え、別表第2事件も調停に代わる審判の対象になりました。

調停に代わる審判がされる要件

家事事件手続法第284条第1項では、調停に代わる審判の要件として、次を規定しています。

  • 調停が成立しない場合であること(本文)
  • 審判することを家庭裁判所が相当と認めること(本文)
  • 当事者双方のために衡平(バランス)と一切の事情を考慮すること(本文)
  • 特殊調停事件ではないこと(本文ただし書き)

また、第2項では調停が調停委員会で行われている場合(調停は裁判官だけでも行うことができる)に調停委員の意見を聴くことを定め、第3項では子の引渡しや給付を命ずることができると定めています。

第2項の調停委員会への意見聴取は、一切の事情を考慮する点からも、当事者と実際に話している調停委員に聴くのは当然でしょう。

第3項については、別表第2事件のように、給付の争いを解決する目的で審判する場合に、その給付を命じるのは当然ですが、親権や財産分与など争いを包括的に扱う離婚調停で、本案の離婚だけを審判しても解決には至りません。

そこで、第3項による命令で、事件全体を解決できるようにしたものです。

調停に代わる審判の制限

家事事件手続法第285条では、

  • 調停に代わる審判後に調停の取下げが認められないこと(第1項)
  • 調停に代わる審判の告知が公示送達では行えないこと(第2項)
  • 告知ができないときは取り消さなければならないこと(第3項)

を定めています。

調停の取下げが認められないのは、申立人に一部でも取下げを認めてしまうと、審判全体の効力を期待する相手方に不利益を与える可能性があるからです。

申立人と相手方の利益は相反するので、審判を受けてから申立人が気に入らない部分(つまり相手方の利益)だけを取り下げるようなことは許されません。

申立人と相手方のどちらも、審判に納得できなければ、異議申立てによって効力を失わせることができます。

調停に代わる審判の告知が公示送達で行えないのは、審判に対する異議申立ての機会を確実に与えるためです。当事者が審判の内容を知らないままに、効力が生じてしまう状態を回避しています。

また、告知がされなければ、審判を取り消さなければならないのも、同じ理由によるものです。

家事審判法からの制度拡充

家事事件手続法による調停に代わる審判では、前述の別表第2事件が対象になったという大きな違いと、もう1つ、規定する条文が変わったことによる影響があります。

家事審判法では、調停に代わる審判(24条審判と呼ばれていました)の規程に、「当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で」という文言がありました。

家事審判法 第二十四条

家庭裁判所は、調停委員会の調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当該調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き、当事者双方のため衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のため離婚、離縁その他必要な審判をすることができる。この審判においては、金銭の支払その他財産上の給付を命ずることができる。
2  前項の規定は、第九条第一項乙類に規定する審判事件の調停については、これを適用しない。

家事事件手続法からはこの文言が外れ、家庭裁判所の裁量範囲が広くなっています。このことは何を意味するのでしょうか?

当事者双方の申立ての趣旨に反しないというのは、当事者双方が求めていないような、的外れな内容の審判をすることができないだけで、一方の申立ての趣旨に沿えば、当然にもう一方の申立ての趣旨には反するとしても審判は可能です。

しかしながら、「双方の申立ての趣旨」であるがゆえに、一方の申立ての趣旨が全く示されなければ審判を行えないことになり、当事者が意思表明をせずに欠席してしまうと制度が活用できませんでした。

家事事件手続法では、この文言が外れることで、双方の申立ての趣旨が示されなくても審判が行えるようになりました。

実際に調停を欠席する事例は多く、調停を引き延ばすことで、相手の妥協を引き出そうとする戦略的な欠席も行われていたことから、家庭裁判所の裁量で調停に代わる審判を行えるようになったことは、速やかな事件の解決に役立つでしょう。

また、当事者が不測の不利益を受けないように、審判の告知を当事者へ確実に行う配慮も盛り込まれています。

調停に代わる審判に対する異議

調停に代わる審判では、当事者双方のために衡平と一切の事情を考慮し、妥当と家庭裁判所が認めた内容で(結果的に片方の主張に偏っていても)審判されるということになります。

言いかえれば、家庭裁判所から解決案を提示して当事者を納得させようとする意味合いを持ち、家庭裁判所が従わせるようなものではありません。

このような審判である以上、調停に代わる審判には、当事者に異議申立てが認められており、異議申立ての理由も問われない特殊な扱いです。

調停に代わる審判に異議が申し立てられず確定すれば、確定判決(別表第2事件は確定審判)と同じ効力があります。

異議申立てにより効力は失われる

異議申立ての期間は、調停に代わる審判の告知から2週間で、書面によってしなければなりません(家事事件手続規則第137条)。異議申立ての却下に対して即時抗告も認められています(家事事件手続法第286条第4項)。

当事者からの適法な異議申立てによって、調停に代わる審判はその効力を失い、当事者にその旨が通知されます(家事事件手続法第286条第5項)。

調停に代わる審判が効力を失うと、元々が調停を不成立で終了させずに行われる特殊な審判ですから、以降は調停不成立と同様の流れで進みます。

つまり、審判事項である別表第2事件では自動的に審判に移行しますが、訴訟事項である一般調停事件では訴訟によって解決しなければなりません。

異議申立ては事件の当事者に限られる

家事審判法で認められていた(家事審判法では特に異議申立権者の規定がなかった)利害関係者から異議申立ては、当事者という文言が追加されたことで失われました(家事事件手続法第286条第1項)。

これは、事件の当事者に異議がないにもかかわらず、利害関係がある第三者による異議申立てを認めて、審判の効力を失わせるのは適切ではないという判断です。

当事者の異議申立てに理由がなくても、適法であればそれだけで審判の効力が失われてしまうことは、調停に代わる審判の実効性が乏しい印象を与えますが、家事事件手続法になって工夫がされています。

審判に服する共同の申出が可能に

離婚・離縁を除く調停において、調停に代わる審判に服する旨の共同の申出があれば、異議申立てができないと規定されました(家事事件手続法第286条第8項)。

この規定は、当事者が家庭裁判所の判断に委ね、その決定に服するという意思表示と異議申立権の引き換えです。

事件の解決が進みやすくなった代わりに、拘束力が強くなったことは間違いなく、当事者が十分に理解した上で申し出る必要があります。

調停に代わる審判による離婚が審判離婚

離婚の方法には6種類ありますが、調停に代わる審判が確定して、離婚が成立するものを審判離婚と呼びます。

そもそも、離婚調停で完全に決裂しているのに調停に代わる審判がされることはなく、異議申立てだけで効力が失われ、欠席では利用できない制度だったこともあり、家事審判法時代に審判離婚はほとんどありませんでした。

しかし、家事事件手続法の施行によって、調停に代わる審判が利用しやすくなったことで、離婚全体に対する審判離婚の数も増えています。

審判離婚は、離婚調停で話し合いがつかないときに、調停に代わる審判によって成立する特殊な離婚方法です。以前までは少なかったのですが、2013年から家事事件手続法が施行されたことで、急増する結果になりま...

離婚の場合には、離婚調停が不成立になると訴訟を起こすしか方法がなく、離婚調停だけでも長いのに、離婚裁判でも長い戦いが続きます。

その労力を考えたとき、主張の食い違いが僅かであれば、調停に代わる審判を受け入れて離婚したほうが良いと判断する当事者も増えたのでしょう。

まとめ:調停に代わる審判

  • 一般調停事件と別表第2事件が対象
  • 当事者の一方が意思を示さなくても審判できる
  • 家庭裁判所の解決案という意味合い
  • 当事者には異議申立てが認められ理由も必要ない
  • 審判が確定すれば確定判決(別表第2事件は確定審判)と同じ効力
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